患者さんがLGBTだったとき~医師が知っておきたい「問題」と「対処法」

針間 克己 氏(はりまメンタルクリニック 院長)

現在、日本人のおよそ13人に1人がLGBTであるといわれています。日々患者さんと接する機会のある医師の方々にとって、これは決して看過できる数字ではないでしょう。LGBTの患者さんを診療する際には、LGBTそのものに対する正しい理解も含め、患者個人への配慮が必要になります。

そこで今回は、はりまメンタルクリニックの院長を務め、性同一性障害診療に尽力されている針間克己氏に、LGBT患者への対応で起こりがちな「問題」と、その「対処法」についてご紹介いただきます。

 

1.我が国におけるLGBTの人口割合

 LGBTとは、女性同性愛者(レズビアン、Lesbian)、男性同性愛者(ゲイ、Gay)、両性愛者(バイセクシュアル、Bisexual)、トランスジェンダー(Transgender)をまとめた総称です。電通ダイバーシティ・ラボが行った「LGBT調査2015」によれば、日本人の7.6%がLGBTの方々だと言われています。こういった調査では、LGBT以外に、男女どちらにも恋愛感情を持たない人(アセクシュアル)や、性自認が男女どちらでもない人(Xジェンダー)なども含んでいたり、調査方法がインターネット回答だったりなどの問題があるため、医学的統計としては正確さに欠けますが、一応の目安にはなるでしょう。
 ということは、1日に外来患者さんを50人診るとしたら、3~4人は何らかの性的少数者である可能性が高いということです。LGBTの方々は医師にとって決して遠い存在ではなく、日常の診療においても、その存在に注意を払うべき方々と言えるでしょう。

 

2.患者さんがLGBTだったときに、診療で起こりがちな「問題」と「対処法」

 まずLGBT全体で共通して起こりがちな問題を、場面ごとに例をあげて紹介し、とってしまいがちな誤った対応とその問題点、そして適切な対処法を紹介しましょう。

■よくある問題1:医師がLGBTの人たちがいることを忘れて診療してしまう。

・間違った対応
 一番よくある問題は、日常の診療においてLGBTの存在を無視して診療してしまうことです。たとえば女性患者さんに対して、問診票や診察で「最近セックスはしましたか」「彼氏はいますか」といった質問をするとします。こういった質問は異性愛者を前提としたものです。レズビアンの場合は「腟ペニス性交はしていないが、女性との性行為はしている」「彼氏はいないが女性の恋人がいる」といった場合があります。LGBTの存在を無視して診療をすると、そういった重要な情報を聞き漏らす恐れがあるのです。

・適切な対処法
 質問の仕方を「最近、性行為はしましたか」「恋人や性的なパートナーはいますか」といった内容にすれば、患者さんも答えやすいでしょう。

■よくある問題2:医師がLGBTをひとまとめに考えてしまう。

・間違った対応
 この記事でもそうですが、最近はセクシュアル・マイノリティを「LGBT」とひとまとめで呼ぶことが多いです。しかし実際には「L」「G」「B」「T」は別個のものです。
 L、G、Bの人たちは、「性指向」と呼ばれる恋愛や性愛の対象が同性や両性の人たちです。彼ら(彼女ら)の心の性別(「性自認」と言います)は、レズビアンであれば女性ですし、ゲイであれば男性です。一方で、T(トランスジェンダー)は身体的な性別と反対の性自認がある人たちです。トランスジェンダーのうち、特に苦悩が深く医学的関与を要する人たちが「性同一性障害」または「性別違和」という疾患名で呼ばれます。
 L、G、B、Tはそれぞれ別個のセクシュアリティであるにもかかわらず、すべてをごちゃまぜに捉えてしまうのは間違いです。

・適切な対処法
 正確に把握するには「性指向(恋愛の対象)」と「性自認(心の性別)」を確認するのがよいでしょう。患者さんが「私はレズビアンです」などとカミングアウトしてくれた場合は、その人の具体的なセクシュアリティについて率直に教えてもらうとよいでしょう。

■よくある問題3:【入院時】患者さんに法的な家族ではないパートナーがいる。

・間違った対処法
 LGBの人たちは、夫婦関係ではないが同居しているパートナーがいる場合が多くあります(Tの人もそういう場合があります)。入院時、面会や病状説明を家族だけに限定している場合、そういったLGBTのパートナーが排除される可能性があります。大事に思っているパートナーと会えない状況は、入院患者さんにとって、不安や孤独を増す要因になりかねません。

・適切な対処法
 入院している患者さん本人に確認し、パートナーを家族同様に扱った方がいい場合は、たとえ法的な家族関係になくても、面会の許可や病状説明をしていくべきでしょう。

 次に、外来診療や入院時に固有の問題が見られるトランスジェンダーに対象をしぼって、見ていきます。

■よくある問題4:【外来にて】フルネームで呼んでほしくない患者さんがいる。

・間違った対応
 改名をしていないトランスジェンダーの人は、名前を呼ばれることに苦痛を感じることが多いです。たとえば、身体は男性でも性自認が女性である患者さんがいたとします。女性姿のその人が「太郎」と診察室で呼ばれれば、周りの患者さんは驚きや好奇の目を向けることでしょう。当然、そんな目で見られるのは嫌なのです。

・適切な対処法
 一番適切な方法は番号札で呼ぶことです。番号札がない場合は、顔を見ながら名字で呼ぶ、本人の意向を確認して通称名等で呼ぶ、などの対応がよいでしょう。診察室の中であれば、誕生日などで本人確認をするのもよいでしょう。

■よくある問題5:【入院時】性自認に基づいた扱いをしてほしい患者さんがいる。

・間違った対応
 トランスジェンダーの人たちは入院時に、性自認に基づいた性別での対応を求めることがあります。たとえば、身体的性別が女性で性自認が男性の患者さんが、女性病棟への入院を嫌がり、男性病棟への入院を望むといったケースです。その場合に「それは無理です」と、何の配慮もなく女性病棟に入院させることは本人にとって非常に苦痛となります。

・適切な対処法
 理想的には男女混合病棟の個室を使うのが、一番トラブルのない方法です。しかし、個室使用は別途料金が高くつく場合が多いので、裕福な方以外には金銭的負担が大きいでしょう。個室使用ができない場合は、本人の状況に応じてケースバイケースで考えていくしかありません。ただ、結局は本人の望みがかなわず、身体的性別に基づき病棟を決めることもあります。そうした場合でも、入浴時間の配慮、カーテンによるプライバシー配慮等、病院としてできること、できないことを本人と十分に話し合えば、双方に納得のいく落としどころが見つかると思います。

 

3.LGBTの患者さんと関わる際に、医師が持つべき心構え

 ここまで個々のケースをあげてきましたが、一律的な対処法があるというわけではありません。個々のセクシュアリティの特徴にあわせ、医学的に聞くべき情報があれば質問をし、よりよい対応があればそのように対処していくことが大切です。つまり、様々な特徴を持つ人々が治療に訪れる医療現場で皆さんがいつもしている、当たり前のことをすればよいのです。LGBTを含むすべてのセクシュアリティの人たち一人ひとりの人権を尊重し、健康の増進に寄与できるよう、私もいっそう努めていきたいものです。

 

【関連記事】
「医師のあなたに知ってほしい。医療現場でのLGBT」(遠藤 まめた氏)
「弁護士が教える医師のためのトラブル回避術 第8回|医師・医療機関に求められるLGBT対応」

 

針間 克己(はりま・かつき)
精神保健指定医 医学博士
1990年、東京大学医学部医学科を卒業し東大病院精神神経科に入局。1992年に東京大学医学部大学院に進学、1996年に博士課程修了、医学博士号を取得。2008年にはりまメンタルクリニックを開院。同院の院長を務める傍ら、日本性科学学会理事、GID(性同一性障害)学会会長としても活動中。
著書に『性非行少年の心理療法』(有斐閣、2001)、『一人ひとりの性を大切にして生きる―インターセックス、性同一性障害、同性愛、性暴力への視点』(少年写真新聞社、2003)などがある。
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