【緊急寄稿】東京医大 入試問題に関して~20代女医の視点より

山本 佳奈 氏(ときわ会常磐病院 内科医)

東京医大が女子受験生を一律減点し、恣意的操作を行っていたことが発覚した。裏口入学に続いて、呆れた実態が続々と明らかになっている。

新聞報道によれば、一律に減点し、女子の合格者数を3割前後に抑えていたという。その理由として、女子は結婚や出産で医師を辞めるケースが多いということを挙げていた。系列の病院で勤務する医局員不足を懸念しての必要悪であり、暗黙の了解であったという。

報道の翌日、勤務先の病院の女性医師の医局部屋では、この話でもちきりだった。「女子だからって減点するなんてひどい。子育てしながら働いているのに。女医が辞めざるを得ない環境を改善することが大事なのに。某私大もそうみたいよね」と議論は尽きなかった。医師になりたいと志を持った多くの女子受験生が、女子だからという理由で不合格にされてしまったり、進路変更を余儀無くされてしまったという事実に、私は心が痛んだ。

私自身、医師になりたい一心で受験を経験してきた。高校1年生の夏、医師を夢見て勉強を始めた。同時に、思春期真っ盛りだった私は、体型を気にしてダイエットを始めた。いつの間にか、摂食障害に陥っていた。1年半後のある日、「明日死んでしまうよ」と私は医師から宣告された。摂食障害を克服できたのは、医師になりたいという強い思いがあるからだった。それを支えてくれたのは、高校の担任の先生であり、両親だった。

一浪し、なんとか掴み取った医学部合格だった。医学部入試において女子差別がされているとは夢にも思っていなかった。女子差別の実態があると知っていたら、それでも私は医師を目指していたか、自信はない。

東京医大の言い分が正しいのかというと、当然ながら正しくない。一般に、女性の労働力率は、結婚や出産期に当たる年代に一旦低下し、育児が落ち着いた頃に再び上昇することが知られている。これを「M字カーブ」というが、女性医師も例外ではない。平成18年度厚生労働科学研究「日本の医師需給の実証的調査研究」によると、女子医師の就業率は、医学部卒業後減少傾向を認め、卒後11年目(36歳)で76.0%まで落ち込んだ後、再び回復を認めている。結婚や出産を機に医師を辞める選択をする女性医師がいることも事実だが、ベビーシッターを雇いながら勤務を続ける医師もいれば、出産後すぐに復帰して第一線で働く医師もいる。さらに、多くの女性医師は職場や働き方を変えながら、医師を続けている。東京医大の経営者にとっては「退職」だが、医師は続けている。東京医大の経営者は、自分のところで働く医師にしか関心がないようだ。

実は、この点こそ、今回の問題の本質だ。医学部の入学試験は、単なる大学入試ではない。大学医局への就職試験という側面もある。大学経営者にとっては、卒業後医師として系列病院で働いてくれる人を選ぶ採用試験なのだ。一律減点や裏口入学は、医大の経営者の本音を表している。医学部は教育機関であるにも関わらず、医学部合否の基準に卒後の働き方が入っていることを誰もおかしいと感じない。このことが、問題の異様さを象徴している。

これは入試に限った話ではない。医局の勧誘や専門医制度も、医師や医局員不足対策として囲い込みをしているにすぎないのだ。

大学5年生の時、病院実習として各科をローテーションした。その度に、医局説明会や歓迎会に誘われた。それはまるで部活の歓迎会のようだった。県内に残ることを説得され、「女医は医局に入らないと仕事を続けられないよ」と毎回脅された。

研修医2年目の秋には、母校の産婦人科教授が、はるばる当時私が勤めていた南相馬までやって来た。産婦人科を志望していた私に会うためだ。その後、丁重に断り続けたにもかかわらず、「母校に帰って来なさい。専門医を取得しないと将来の可能性を狭める。母校の産婦人科プログラムは入局を求めているが個人を縛るものではない。あなたのことが心底心配だ」と何通もメールが来た。それほどに医局員を欲しているのかと驚いた。3年目の医師になり、教授からのメールはパタリと来なくなった。

本来、教師は生徒の味方だ。だからこそ、多くの人々が社会に出てからも、何か困ったことがあった時に恩師に相談する。ところが、医学部は違う。教授は医局の「経営者」でもある。一人でも多くの若手を囲い込みたい。色んな理屈をつけて、縛り付ける。

その典型が専門医制度だ。この制度では、若手に「専門医」という肩書きをチラつかせ、医局員として働かせている。「専門医」って何なのだろう。専門性とは一生かけて取得していくものではないのだろか。数年で取得できるはずがない。まして、学会費を支払い、学会に参加し、決まった症例数と決まった年数をクリアすれば取得できるなんて、どう考えてもおかしな話だ。

ただ、これは医学部教授から見れば有り難い。もっとも働く30代前半までの医師を囲い込み、後期研修を終えれば、「雇い止め」することができるからだ。そして、新たな若手を「教育」という名のもとで縛り付ける。普通の職業なら、こんな有期雇用は認められない。

裏口入学は、世間でいうコネ入社と同じだろう。医師になるための切符をくれた大学には一生頭が上がらない。医局員として一生働き続けるのだ。大学の経営者にしてみれば、裏口入学させてあげることで、ずっと働いてくれる医局員を確実に確保することができる。お安いご用なのだろう。

女子受験生を一律減点し、恣意的に減らしていたことは、女子差別であることに間違いはない。だが、根底に隠れている問題は、医学教育という名の下、大学において入試や専門医の名を語った医師の囲い込みや就職活動が行われているという現状があることだ。こうした現状を打破するには、医学部と大学病院を分けるといった対応が必要だろう。今こそ、女子差別という問題だけで終わらせることなく、その裏に隠された医学教育という名の下に隠されている医局員確保のための体制や慣習にメスを入れる時なのではなかろうか。

 

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山本 佳奈(やまもと・かな)
1989年、滋賀県に生まれる。滋賀医科大学卒業後、医師免許取得。2015年4月より福島県の南相馬市立総合病院にて初期研修を開始。2017年3月、初期研修を終了し、4月より神経内科医・内科医として勤務。2018年4月より、福島県いわき市のときわ会常磐病院にて内科医として勤務。ライフワークとしての研究テーマは「貧血」と「性感染症」。中国の研究者との共同研究、新聞や雑誌での問題提起、手作り冊子の自費制作など意欲的に活動している。著書に『貧血大国・日本』(2016、光文社新書)がある。

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