女性医師の「働きやすい」を叶える、ユニークな子育て・復職支援 4選

若い世代を中心に医師の女性割合が3割を超えるなど、職業に「医師」を選ぶ女性が増えています。一方で、出産や育児を理由に退職せざるを得なくなるケースも未だ少なくありません。女性医師が活躍し続けるためには、医療機関が出産・育児周りの支援を充実させ、家庭と仕事の両立をサポートすることも必要です。医師のワーク・ライフ・バランスを支援する病院へのヒアリングを基に、取り組み事例を紹介します。

 

1.女性医師の活躍を阻むもの

厚生労働省が発表した「平成28年(2016年)医師・歯科医師・薬剤師調査」によると、日本の女性医師の割合は若年層ほど高く、20~30代では3人に1人が女性です(20代では34.6%、30代では31.4%が女性)。しかし、すべての年代で見ると、女性医師の割合は21.1%とOECD(経済協力開発機構)加盟国平均の36.0%を下回っており、諸外国に比べて女性医師の社会進出が遅れていると指摘されています。

理由としてよく聞かれるのが、仕事やキャリア形成と、家庭や子育てとの両立の難しさです。例えば「女性医師の勤務環境の現況に関する調査報告書(平成29年)」を見ると、出産経験のある女性医師のうち、育児休業を取得したのは59.1%でした。女性の育児休業取得率(全産業平均)は83.2%(厚生労働省調査)ですから、女性医師は特に育児休業の取得率が低いと言えます。調査には「代わりの医師がいない」「職場で取得しづらい雰囲気がある」などの理由から取得をためらう意見も寄せられました。そもそも「育休制度がなかった」との回答も35%近くに上り、育休制度が整っていない病院が存在することを示しています。

女性医師の活躍を支援するためには、医師含め女性スタッフが働きやすい環境を整えることが必要です。それでは具体的にどのような支援策があるのでしょうか。

 

2.女性医師が抱える問題と病院の取組事例・成果の紹介

「子どもを育てながら、仕事も継続したい」「医師としてのキャリアやスキルアップもしたい」。そう考える女性医師のために、時短勤務を始めとする多様な勤務形態の整備や、院内保育などの子育て支援や復職支援を行う病院も増えています。臨床現場へ復帰する際に、外来のみの勤務から始められる職場も少なくありません。

ここでは、さらに一歩進んだ、臨床の場で働く女性医師の悩みを解決した4つのユニークな制度事例をご紹介します。

※病院は敬称略。
※「現場の声」は厚生労働科学特別研究「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」の自由記述より抜粋。

 

■ Case1. 病児・病後児保育室|浜松医科大学

日本医師会女性支援センター「女性医師の勤務環境の現況に関する調査報告書」によると、女性医師のうち小学生以下の子どもと同居している人の割合は全体の38%を占めました。このような背景もあり、就学前の子どもを預けられる院内保育を併設する病院が増えています。しかし、子どもが体調を崩した場合に、預け先がなかなか見つからず困ってしまうケースが少なくないようです。

病児保育に関する現場の声

  • ・病児保育、保育園が休みの際の一時保育をぜひお願いしたいです。子育てをしながらでも仕事を休まずに勤務を続けられる体制を作っていただきたいです
  • ・今まで病児保育がある病院とない病院で働いたが、ある病院の方が突然休診にせずに済んで精神的には楽だった

浜松医科大学では、女性医師の要望の高まりに応えて、2017年に院内病児・病後児保育室「ふわり」を開設しました。1日3名定員の小規模施設ですが、スタッフは保育士と看護師で構成されており、さらに1日1回の大学小児科医師の回診が行われるといった医療的サポートも充実しており、安心して病気の子どもを預けられる体制になっています。現在は医師を含む129名の職員が利用登録しています。女性職員のみならず男性職員の利用も増加しており、またほとんどの利用者がリピートして利用するということです。

利用職員の声
「とても手厚くみていただけて、娘はとても楽しく過ごせていたようです。日中、顔を見に行けることも、安心感がありました。当日の急なお願いにも対応していただけて、本当に助けられています」
「小学生向けのおもちゃやDVDも充実していて良かったです。楽しかったようで、『また、かぜひきたいな~』と次回の利用を楽しみにしています(笑)」

設営にあたっては自治体の補助金などがなかったため、予算が最大の課題だったといいます。委託運営も検討されましたが、利用者に対して柔軟なサービスを提供するために病院での運営を決定したそうです。浜松医科大学には、他にも「院内保育所きらり」や「女性医師支援センター」が設けられており、女性医師のキャリア支援に力を入れています。

 

■ Case2. 男性職員の育休取得・短時間勤務促進|南東北春日リハビリテーション病院

女性医師の意見には、自身の働き方だけでなく男性医師の働き方やパートナーの育休取得について指摘する声も少なくありません。男性が休みにくい職場では、女性医師も休むことに後ろめたさを感じる場合もあるでしょう。また、男性医師と結婚する女性医師も多く、父親である男性医師が休めなければ、その分の家事・育児のしわ寄せが女性医師に行くことになります。

男性の育休取得に関する現場の声

  • ・女性医師が育児中に働くことは、夫の労働環境が良くないと不可能である。いろいろなサービスよりも、夫の働き方が大事だと思う
  • ・男性(医師も医師以外も)が育児・介護のため休暇や時短などの制度を利用できるようにしないと、女性医師は十分に働けるようにならないと感じています
  • ・夫(男性医師etc.)も育児介護etc.で休みや短時間勤務を取得しやすい環境(後ろめたさなどなく)を作らないと女医の離職は進むと思います

南東北春日リハビリテーション病院では男性職員にも育休取得を勧めています。これは職員アンケートを行った際、男性職員の58%から「育児休業を取得したい」との声が上がったことをきっかけに始まったそうです。実現に向けて個別面談での勧奨を行い、育児休暇中の職員を対象とした「育児休業支援手当」を設けました。さらに、手当の支給要件として感想文の提出を義務付け。育休制度利用者の率直な思いが綴られた感想文を社内報に掲載し、職員への周知を進めたといいます。

これらの取り組みにより男性職員が育児休業を取得しやすい職場風土を醸成し、2012年度には男性の育休取得率50%を達成。2013年にはイクメン企業アワードのグランプリを受賞しています。現在では子どもを持つ男性職員に小冊子「父親のワーク・ライフ・バランス」を配布するなど、引き続き父親の育休取得を支援しています。

 

■ Case3. つわり休暇・妊婦健診の有給保障|医療生協わたり病院

つわりの症状には個人差があり、「このぐらいで欠勤して良いのだろうか」「同僚は出勤していたのに……」と悩む女性も少なくありません。そんなとき「つわり休暇」として休む権利が保障されていれば、心理的な負担も軽減されるのではないでしょうか。

福島県にある医療生協わたり病院では、妊娠している職員を対象としたつわり休暇制度を設けています。妊娠証明があり6週目以降の場合、計5日間の休暇を取得できます。制度の歴史は長く、1980年代には就業規則に記されていたそうです。また、妊婦健診についての有給保障も行っています。

その背景には若い看護師や女性職員が多く、妊娠・出産を経験する人が増えてきた状況がありました。職員が妊娠や育児を理由に仕事を諦めなくても良いように、休暇の保障や院内保育園の創設、時短勤務や当直免除などの制度を整え、女性の妊娠・出産・子育てを職員全体で支え合って、病院の体制を維持してきたといいます。

利用職員の声
「勤続年数が短く有給休暇の付与がまだ少ない職員、本人のさまざまな都合で有給休暇の残日数が少ない職員にとって、妊婦健診やつわりで辛い時の休みが保障されているのはとても助かります」

女性医師が少ないこともあり利用実績は少ないものの、妊娠・出産を理由に退職した医師はおらず、子どもがいる医師でも働きやすい環境が整備されています。

 

■ Case4. マタニティ白衣の貸出し|北海道大学病院

体が締め付けられる服装をしていると、つわりがひどくなる可能性もあります。マタニティ白衣の購入を検討する方もいるかもしれませんが、「妊娠中の一時しか着ないのに何枚も買うのも……」とためらってしまう方もいるのではないでしょうか。

北海道大学病院では、大学病院内の男女共同参画推進室にて妊娠中の女性医師に対してマタニティ白衣のレンタルを行っています。年間5名ほどの利用があり、職員の経済的な負担が軽減されることから好評を得ているそうです。

なお、同院ではこの他にも、病後児保育室の設置や時短勤務が可能となる「すくすく育児支援プラン(医員(育児支援))」を設けるなど、医師が多様な働き方をしうる環境の整備に努めています。特に、病後児保育室の設置は職員の欠勤の減少につながっています。

 

3.男女共に「働きやすい病院」が求められている

今回紹介した事例の半数が、その病院で働く医師や看護師など「職員の声」を原動力とし、病院の制度を変えていったケースでした。また、女性医師の育児支援や復職支援に関する取り組みを中心に紹介しましたが、これからの医療業界に求められるのは、女性医師だけでなく男性医師も働きやすい環境です。ワーク・ライフ・バランスが重視される現代において、事例のように男性職員の育休取得や短時間勤務も可能な労働環境の実現が期待されています。

(文・エピロギ編集部)

 

注)取り組み事例の選定基準について
厚生労働科学特別研究「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」の自由記述のうち、「子育てと仕事の両立支援」に関するコメントを参照し、現場の要望をカテゴライズ。その要望にマッチした取り組みを行う病院の事例をピックアップしました。

 

<参考>
・厚生労働省「平成28年(2016年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況
・日本医師会男女共同参画委員会日本医師会女性医師支援センター「女性医師の勤務環境の現況に関する調査報告書(平成29年)
・厚生労働省「雇用均等基本調査」
・日本医師会「女性医師の勤務環境の現況に関する調査
・厚生労働省「受賞企業における特徴的な取り組み概要
・南東北春日リハビリテーション病院「両立支援の取り組み

 

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