新型コロナウイルス感染症対応で、オンライン診療はどう変わったか、医師の働き方はどう変わるか
これまで対面診療を重視してきた日本の診療体制は、2020年新型コロナウイルス感染症の拡大により、時限的・特例的ながら規制が緩和され、初診からのオンライン診療を認めるなど、大きな変化が起きています。同感染症の収束はまだ先のため状況は流動的ですが、2020年5月末の時点での、オンライン診療に関する変更点、対応可能になった診療や禁止事項について概説します。また、今回の規制緩和の影響や方向性を含め、国が描くオンライン診療の今後と、オンライン診療の普及による医師の働き方への影響についても展望します。
初診からのオンライン診療が可能に
日本における新型コロナウイルス感染症は、2月から流行が始まり、3月に急激に拡大しました。この感染拡大への対応として厚生労働省は、2020年4月10⽇、事務連絡「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」(以下、事務連絡)1)を発出し、時限的・特例的に「電話や情報通信機器を用いた診療」(以下、オンライン診療)を全面的に解禁しました。
オンライン診療を実施する場合、初診は原則として対面診療とされていますが、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(2018年3月策定、2019年7月一部改訂。以下、指針)2)では例外として、患者がすぐに適切な医療を受けられない状況にある場合などで、速やかにオンライン診療を行う必要性が認められるときは、「初診でもオンライン診療を行うことは許容され得る」と記載しています。
今回の事務連絡では、その例外を受け入れ、感染が収束するまでの間、初診からのオンライン診療による診断や処方を認めました。併せて、生活習慣病などの慢性疾患が中心だった対象疾患についても、「医師の責任の下で医学的に可能であると判断した範囲」と記載し、特に制限を設けていません。ただし、麻薬と向精神薬の処方は、患者のなりすましや虚偽申告による濫用・転売などのリスクを考慮し、対象から除外されています。
こうしたオンライン診療の時限的・特例的な取扱いに伴い、診療報酬上でもオンライン診療による初診を評価し、「電話等を用いた初診料」(214点)が新設されました(図1)。受診歴のある患者はもちろん、受診歴のない患者に対しても「医師が可能と判断した場合」は算定できます。また、オンラインによる再診は「電話等再診料」として対面診療と同じく73点で、受診中の患者に対して新たに別の症状についての診断・処方を行う場合を含みます。なお、医師が診療は不要と判断した場合は「健康相談」、対面診療が必要と判断した場合は「受診勧奨」となり、診療報酬の対象外となります。
図1 新型コロナウイルス感染症患者の増加に際しての電話等を用いた診療に対する
診療報酬上の臨時的な取扱い
出典:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に伴う医療保険制度の対応について」第454回中央社会保険医療協議会総会 総-1-1(2020年4月10日)(本資料は議論資料のため提案型文体となっているが、承認され確定している)
基礎疾患を把握できない場合の7日間の処方日数制限とハイリスク薬の処方禁止
初診からのオンライン診療は、対面診療と比べて情報収集等で限界があるため、事務連絡では、できる限り、過去の診療録や診療情報提供書、地域医療情報連携ネットワークからの情報などから、患者の基礎疾患の情報を把握・確認したうえで診断や処方を行うことと規定しています。基礎疾患情報を把握・確認できない場合は、一定の診察頻度を確保して患者の観察を十分に行う必要があることから処方日数は7日に制限され、麻薬及び向精神薬に加えてハイリスク薬といわれる抗悪性腫瘍剤や免疫抑制剤等の処方はできません。
初診の実施にあたっての留意点も少なくなく、①初診からのオンライン診療を行うことによる不利益や急病急変時の対応方針等についての十分な説明と説明内容の診療録への記載、②対面診療が必要と判断された場合は速やかな対面診療への移行、またはあらかじめ承諾を得た他医療機関への速やかな紹介、③患者のなりすましの防止や虚偽の申告による処方を防止するため、視覚情報を含む情報通信手段を用いて診療を行う場合は被保険者証の提示により、電話の場合は被保険者証の写しをFaxやメールで送付してもらっての受給資格の確認、などが求められています。
オンライン診療による再診については、「初診が対面診療かオンライン診療か」で医療機関の対応は異なります。既に対面診療で診断が行われている場合は、指針で定められている診療計画が作成されていなくとも、これまで処方されていた医薬品を処方できるほか、患者の治療中の疾患により発症が容易に予想される症状の変化に対して、条件付きではあるものの、これまで処方されていない医薬品を処方することも可能です。一方、今回の特例で初診からオンライン診療を行っている場合は、再診においても初診同様、基礎疾患情報の把握・確認に努め、把握できない場合は7日間の処方日数制限およびハイリスク薬の処方禁止が継続されます。
また、新型コロナウイルス感染者については、自宅療養や宿泊施設等で療養する軽症者を対象に、患者の求めに応じてオンライン診療により、必要な薬剤を処方して差し支えないとしています。具体的には同感染症の増悪や感染症以外の疾患が疑われる場合で、同感染症の患者の診断を行った医師、あるいは診断を行った医師から情報提供を受けた医師が「医学的に電話や情報通信機器を用いた診療により診断や処方が可能であると判断」した場合に実施できます。
規制の大幅緩和で、オンライン診療の実施医療機関は大幅増
今回、オンライン診療とともに、薬局での「電話や情報通信機器による情報の提供および指導」(以下、オンライン服薬指導)の時限的・特例的取扱いが定められました。患者が薬局でのオンライン服薬指導を希望した場合に、医師は処方箋の備考欄に「0410対応」と記載のうえ、患者の希望する薬局にFaxやメールで処方箋情報を送付するとともに、診療録に送付先の薬局を記載。処方箋原本は医療機関で保管し、後日、処方箋情報送付先の薬局に原本を郵送するという手順です。
初診からのオンライン診療で、患者の基礎疾患を把握できない場合は、その旨を処方箋の備考欄に明記する必要があります。一方、院内処方の場合は患者と相談のうえ、温度管理など薬剤の品質を保持した上で患者への授与が確実な書留郵便などの方法により、医療機関からの直接配送が認められています。その際、薬剤が確実に患者の手元に届いたかどうかを電話等で確認することとしています。
なお、オンライン診療を実施する医師は厚生労働省が定める研修を受講する必要がありますが、時限的・特例的な取り扱いが継続している間は、当該研修を受講しない医師がオンライン診療を実施しても差し支えありません。
このようにさまざまな制約や留意点はある一方、指針の規定やオンライン診療料の施設基準等と比べると大幅に規制は緩和され、オンライン診療実施へのハードルが一気に引き下げられたのは間違いありません。中央社会保険医療協議会の資料3)によるとオンライン診療料の届出医療機関は2019年の段階で1,281施設にとどまっていましたが、5月29日に開かれた経済財政諮問会議における民間議員の発表4)により、同月25日現在で実施医療機関は1万4,500施設を越え、実施率の全国平均は13.2%に上ることが明らかにされました(図2)。
図2 オンライン診療に対応する医療機関の割合
出典:竹森俊平ほか「骨太方針に向けて~感染症克服と経済活性化の両立~(参考資料)」第8回経済財政諮問会議 資料2-2(2020年5月29日)
また、5月19日の国家戦略特別区域諮問会議5)では、「オンライン診療の時限的・特例的な取扱い」について緊急事態宣言の解除後も引き続き効力を有することを確認するとともに、同取り扱いのうち、医療現場に定着すべき措置について年内を⽬途に検討するとしています。国としては時限的・特例的な取り扱いをできるだけ残し、オンライン診療の普及・定着を進めていく意向のようです。
D to P with Dで広がるオンライン診療の未来
今回の時限的・特例的な取り扱いを含め、現在のところ、オンライン診療は外来での対面診療の代替・補完的な機能として扱われており、その活用の中心にはかかりつけ医が想定されています。指針においてもオンライン診療が適用対象とする“適切な例”として、「生活習慣病等の慢性疾患治療について、定期的な直接の対面診療にオンライン診療を追加し、医学管理の継続性や服薬コンプライアンス等の向上を図る」などが挙げられています。
それに加えて、近年の技術革新を背景に、D to P with D、すなわち「患者が主治医等の医師といる場合に行うオンライン診療」が注目を集めています。2019年3月29日の「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」では、比較的専門性が高く、かつ医療アクセスが不均衡なてんかんの治療において「地域の中核病院とかかりつけ医がネットワークを結び、患者は近隣のかかりつけ医を受診、オンラインで中核病院の専門医から指示やサジェスチョンを受けたかかりつけ医が診察し、症状や所見を踏まえて専門医が診断する」という事例が紹介されました6)。専門的な医療提供を通してかかりつけ医機能の強化にもつながるという、注目すべき取り組みといえます。
同検討会では、このD to P with Dという診療形態と、2020年春に運用が開始された高速・大容量の5G情報通信技術や国内に300台以上配備されている手術ロボット技術を活用することで、例えば東京から北海道の患者をタイムラグなく手術できるオンライン手術(テレサージャリー)のシステムも議論の俎上に上りました(図3)。遠隔から高度な技能を持つ医師が執刀し、主治医である地域の医師は助手を務めたり、役割分担して共同で手術にあたったりすることから、事前のルールづくりや情報共有等によって安全性の向上が図りやすいとのことです。日本の医療の質の均てん化という観点からも普及が望まれる仕組みといえるでしょう。
図3 遠隔手術(テレサージャリー)のイメージの一例
出典:袴田健一「オンライン手術(遠隔手術)について」第3回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会 参考資料4(2019年3月29日)
オンライン診療の普及・進化に伴い、医師の働き方の多様化が加速
時限的・特例的とはいえ、新型コロナウイルス感染症対応を契機としたオンライン診療実施医療機関の爆発的な広がりに加え、D to P with Dのような新たなオンライン診療の価値が社会に認められることにより、医師の働き方やキャリアパスは大きく変化していくことが予想されます。
新型コロナ禍では重症患者の対応にあたった医療者の疲弊が伝えられましたが、他方、一般診療では外来規制や患者の自主的な受診自粛によって外来患者が減少し、医療機関の経営や医師の収入に大きな影響を及ぼしています。しかし、今後はオンライン診療を積極的に行う医師が増加し、平時・有事を問わず安定的な働き方を確保するための有力な選択肢の一つになり得るといえます。
また医師不足や開業医の高齢化および事業承継が課題となっている、ある医療過疎の地域では、基幹病院がクロスアポイントメント制度*を導入して開業医の後継者を受け入れ、承継予定の診療所の両方で働ける仕組みをつくるという取り組みも生まれています7)。このような働き方に加え、D to Pwith Dのオンライン診療が普及すれば、大学病院で専門医としてのキャリアを磨くかたわら診療所を遠隔から支援する、といったことも実現可能です。
オンライン診療の普及・進化は、医師にさまざまな働き方を創造・提供する引き金になりうるのです。
*クロスアポイントメント制度:出向元機関と出向先機関の間で、出向に係る取決め(協定等)の下、当該取決めに基づき労働者が二つ以上の機関と労働契約を締結し、双方の業務について各機関において求められる役割に応じて従事比率に基づき就労することを可能にする制度。(出典:株式会社三菱総合研究所「クロスアポイントメントを実施するための手引」文部科学 産学官連携支援事業委託事業 クロスアポイントメントの推進に向けた調査研究(2018年3月))
(文・エピロギ編集部)
<参考>
1)厚生労働省 「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」 事務連絡(2020年4月10日)
2)厚生労働省 「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(2018年3月、2019年7月一部改訂)
3)厚生労働省 「かかりつけ医機能等の外来医療に係る評価等に関する実施状況調査(その2)報告書(案)<概要>」 第59回中央社会保険医療協議会 診療報酬改定結果検証部会 検-2-1(2019年11月15日)
4)内閣府 「骨太方針に向けて~感染症克服と経済活性化の両立~(参考資料)」第8回経済財政諮問会議 資料2-2(2020年5月29日)
5)内閣府 「北村内閣府特命担当大臣(地方創生、規制改革) 記者会見要旨」「第44回国家戦略特別区域諮問会議(議事要旨)」 第44回国家戦略特別区域諮問会議 資料(2020年5月19日)
6)成澤あゆみほか 「テレビ会議システムによる遠隔てんかん外来」 第3回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会 参考資料5(2020年3月29日)
7)中澤芳夫 「地域医療連携推進法人江津メディカルネットワークの取り組み」 厚生労働省医療勤務環境改善マネジメントシステム普及促進等事業TOPセミナー 取組事例3. (2020年1月26日)
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