GoogleクラウドとAIを駆使した遠隔画像診断システムで、医療を変える

目指すのは、患者が医療情報を管理する「医療の民主化」

北村 直幸氏(放射線科医/㈱エムネス代表取締役)

広島市の中心部にある株式会社エムネスは、放射線科医である北村直幸氏が2000年に設立した画像診断専門の企業だ。同社が開発した遠隔画像診断システム「LOOKREC」は、グーグルのクラウド技術を利用し、CTやMRIなどの画像データをインターネット上で「いつでもどこでも」専門の医師が診断できる仕組みを確立した。東京大学大学院発のITベンチャーと提携し、AIによる画像解析で人間の医師をサポートする研究も同時に進める。「患者が自らの医療データを保有し、自分で管理することで“医療の民主化”を促す」という北村氏が構想する未来の医療は、どのようなメリットを患者にもたらすのか。そのとき医師の働き方にはどんな変革が起こるのか、お話を伺った。

 

見落とされた「がん」 その衝撃が転機に

――まず初めに、北村先生が医師のキャリアを放射線科医として始められた理由についてお聞かせください。

私はもともと学生時代は、小児科か外科での開業を考えていました。「かかりつけ医」として地域の患者をトータルに診断したかったのが理由です。しかし今の医療は細分化されており、外科医になったとしても心臓や肺、肝臓、消化器などの部位別に専門が分かれます。内科医も同様です。私はそれがしっくり来なかったのです。患者さんの身体は一つで、さまざまな部位に病気を抱えている可能性があるのに、一人の医師がトータルに診断することが難しい。そのジレンマを解決したくて、消去法で残ったのが、放射線科医だったんです。放射線科医であれば、画像ではありますが、全部の領域の病気を一人で診断できるのが魅力でした。

――放射線科医として働くなか、2000年にエムネスを創業したのはどんなきっかけがあったのでしょうか。

私が遠隔画像診断の事業化に踏み出したきっかけは、一人の女性患者と出会ったことでした。今から20年ほど前、広島市民病院という、地域最大の中核病院に勤めていたときに、30代後半ぐらいの女性がCTの検査に来られたのです。私が担当につくことになり、その女性を診察したところ、ひどく痩せていることに気づきました。一目で「まずいな」と感じる痩せ方で、CT検査の画像を見ると、お腹の中全体ががんに侵されている状態でした。彼女は、膵臓がんの末期だったのです。衝撃を受けたのは、その方が半年ぐらい前に、別の広島県北部にある病院で撮影した画像を見せてもらったときのことです。そこには、進行がんではまだない状態で、膵臓にある病巣の影が、はっきり写っていたのです。

 

 

――その時点で、熟練した放射線科医が写真を見ていれば、がんが成長する前に手術ができて、助かった可能性があるわけですね。

はい、そのとおりです。ところが写真についていた手書きコメントを見ると「異常なし」という診断でした。その規模の病院には放射線科医は普通いません。コメントをつけていたのは、病院から委託を受けた、東京に本社がある遠隔画像診断サービスを提供する会社でした。
その時私は、30代に入ったばかりで、画像診断のことが少しわかったような気になっていた頃でした。私が勤めていたのは県の中核病院だったので、がんを患った多くの患者さんが毎日のように訪れていました。そこで画像を見て、手術ができるかできないかを判断するのが、我々放射線科医の大きな役割だったのです。私はその写真を見て、「現段階で手術ができるできないを判断するより、もっと早い段階で我々が読影をしていれば、この女性患者さんを助けられたかもしれない」と、強く思いました。

自分のやるべきことは、患者の命を救うために、少しでも早く病気の兆候を見つけてあげることではないか。「遠隔画像診断という技術が世に出てきたならば、少なくとも広島の病院の画像は、広島の放射線科医が見るべきだ」。そう考えたのが、事業に踏み出すきっかけでした。

――その女性患者の画像診断をした人は、医師だったのでしょうか。

はい、医者であることは間違いないと思います。しかし、恐らくアルバイトで画像診断をしていたのでしょう。弊社では常勤の画像診断医を中心に体制を組んでいます。診断の品質管理のためです。日々の病院勤務で忙しく働き、多数の患者を診療する合間に画像を読むのと、本業として画像診断に取り組むのでは、レポートの質はずいぶん違ってきます。我々が遠隔画像診断の「質」を追求し続けてきたのも、この経験が大きな理由です。

 

診断医が圧倒的に足りていない日本

――日本は画像診断のための機器の普及率は諸外国に比べて高いのに、それを見る放射線科医の数は、先進国の中でも非常に少ないと聞きます。いったいその理由は何なのでしょう?

一言では言えませんが、機械を沢山買えるだけの資力が、諸外国に比べて各病院にあるということでしょう。日本の保険制度では、病院は機器を導入すれば、それを用いて検査ができます。専門医が見る、見ないに関わらず、画像を撮れば保険制度によって点数がつけられ、その分の報酬を国からもらうことができるわけです。医師免許を持っていれば、画像診断が専門でなくても「医師が見た」ということで点数がつけられますからね。もう一つの理由として、画像診断医の地位がこれまで医療界の中で、外科医や内科医に比べて軽んじられてきた面があると思います。医学生のなかで、第一希望で放射線科医を志望する人が少ないのは、現在も変わりません。

画像診断に使われる医療機器は、この十数年で急激に進歩しましたが、機器のポテンシャルを十分に活用できる医師の数はまったく足りていません。2000年頃に使われていたCTの多くは、患者さんが一回息を吸って止めるとともに、一枚の輪切り画像を撮るのがやっとの機械でした。だから胸部全体のCTを撮ろうと思えば、何度も息を止めて撮影して15分程度かかっていたのです。胸から骨盤まで内臓全部を撮影しようとすれば30~40分程度必要でした。しかし今は、一回の息止めの数十秒の間に、頭の先から爪先まで、すべての断層画像が撮れてしまいます。

この進歩は、患者側からすればありがたいことですが、医師には大きな負担です。肺の専門医であれば、胸の画像は診断がつけられるでしょうが、膵臓を見ても病気を見つけるのは難しいでしょう。以前ならば各診療科の先生が、自分の専門範囲の画像を見るだけで済ませていたわけですが、機器の進歩に医師がついて行っていないのが現在の状況だと思います。

 

テクノロジーによって加速する遠隔画像診断

エムネスは事業開始当初から、画像診断に最新のデジタル技術をいちはやく取り入れた。
近年は、グーグルのクラウド技術を活用することで、各医院が保有していたカルテや画像診断データ等の医療データを、中央のサーバで一元管理するシステムを開発。「LOOKREC」と名付けられた同システムを利用することで、医師はインターネットにさえ接続できれば、いつどこにいても手元の端末で患者の画像を見て診断することが可能となる。さらに北村氏は、東京大学発のベンチャー企業「エルピクセル」社と提携し、脳動脈瘤をAIで検出する技術の実用化を進めている。

LOOKRECの概要(出典:エムネスHP「LOOKRECとは?」

システム紹介動画「”LOOKREC”のご紹介」(出典:エムネスHP「VIDEOS」

――Googleのクラウドシステムをプラットフォームに活用したり、ITベンチャー企業と組むなど、先進的なテクノロジーを積極的に導入する背景やその意図をお聞かせ下さい。

2000年の創業当時は「AI」という言葉は一般化していませんでしたが、「これからの医療はテクノロジーで大きく変わるに違いない」という思いは漠然と抱いていました。国全体の大きな問題として医師不足が話題となりはじめ、それを何とか解決する手段として、コンピュータの活用が頭に浮かんだのです。

コンピュータを診断に使えるレベルに「教育」するためには、手本となる医師の知見を集約したデータが、絶対に必要となります。そうしたデータはその当時、世界のどこにも存在しませんでした。エムネスが創業当初から、診断画像と医師の診断レポートをデータ化し、すべて記録を残してきたのもそのためです。全国の画像診断センターのほとんどは、個人情報保護や記録コストの観点から、一定期間が経った時点で診断データを破棄していると思いますが、「いずれ必ず、データそのものが重要な資産となる」と考えたのが、当初からデジタル技術に力を入れた大きな理由です。

現在は「第三次AIブーム」と言われていますが、我々が事業で本格的にAIの導入を始めたのは3年前のことです。東京大学大学院から生まれた「エルピクセル」というベンチャー企業の社長、島原佑基さんと出会ったのがきっかけでした。当時、エルピクセルも医療の画像診断に着目しており、そのためのAIを開発しようと考え、いくつかの大学と共同研究を始めていたのですが、診断データを集められないことからプロジェクトが難航していました。弊社では、姉妹施設である「霞クリニック」で診断したデータを、4年前からクラウドで管理していました。クラウド上のデータですので、東京のエルピクセルからも容易にアクセスができ、タイムラグなく仕事を進めることが可能となりました。まさにベストなタイミングでの出会いで、「待ち望んでいた日がついに来た」と感じましたね。

――現在、同社と研究を進める、AIによる脳のMRIの画像診断は、90%ぐらいの正答率になっているとお聞きしました。

AIを使いたい診断領域が多々ある中で、まずチャレンジする領域として3つの候補を考えました。1つ目が肺のCT画像から「結節」と呼ばれる影を見つけ出す診断で、2つ目が脳のMRアンギオグラフィから動脈瘤を見つけ出す診断、そして3つ目が肝臓のMRIの検査です。

いずれも多数の画像データを解析して病変の特徴を見つけ出すための学習をさせる必要があります。肺については世界中の様々な研究機関がトライしており、肝臓に関しては息止めの仕方によって臓器の位置が変わることなどが問題になりました。そんな中で脳動脈瘤は画像診断のニーズも高く、エルピクセルによる画像の解析技術が短期間で完成したこともあって、一気に実用化に近いところまで漕ぎ着けられました。実際の画像解析のスタート後、1年ほどで医師が見た場合の発見率に比べて、85%〜90%ほどの正答率にまで向上しています。

 

LOOKRECで「医療の民主化」を実現する

――北村先生は、「画像診断におけるAIはあくまで医師の補完で、必ず最初に人間の目で見る必要がある。その順番を変えてはいけない」と主張されています。その理由はなんでしょうか?

理由は二つあります。一つ目は端的に、医療機器として承認されていないので、まだ医療現場ではAIを用いた診断ができません。診断するのはあくまで医師であり、その診断結果を確認する用途にAIを使っています。二つ目の理由は「人間がAIに負けてはいけない」という思いです。実は私もAIの利用を推進しながら、決して100%の肯定派ではないのです。「AIという“敵”に勝つためにはまず敵のことを知る必要がある」という感じでしょうか。(笑)

最近よく思うのは、順番が逆になってAIが人よりも先に診るようになった場合、「人間の医師がどんどん衰えるだろう」ということです。コンピュータ任せになれば、自ずと人は努力しなくなります。そして人間が衰えれば、AIも今ある以上の性能には決して成長しません。最近出張が増えて実感していますが、3~4日間、画像を見ないと、診断の精度が落ちるのではないかと不安になります。それぐらい、毎日見ることが大切なんです。「病気を見つけ出す」という意志を人間の医師が持たなくなったら、その時点で、AIに対して白旗を挙げたということを意味すると思います。

 

LOOKRECを使った画像診断のデモンストレーションをする北村氏。

 

――エムネスが独自に開発した画像診断システム「LOOKREC」は、検査画像の診断だけでなく、現在バラバラに存在する医療機関での診療データや、企業や自治体などが実施する健康診断のデータ、薬局で発行するお薬手帳などの服薬データ、さらには今後、個人が身につけるスマートウォッチなどが収集する日々の運動や睡眠、食事等のデータなども統合していくことを想定されているそうですね。その先に、どういう医療を考えておられるのでしょうか。

一言でコンセプトを説明するならば「医療の民主化」です。今まで医療の専門家が保有していたメディカルデータを、患者自身が手元に置き、自分で管理できるようになる世界の実現に、貢献したいと考えています。

「医療の民主化」は、技術的には今でも十分可能なのに、現状そうなっていません。しかし現在富裕層の人々が自分のゲノム情報の解析結果をもとに、予防医療に取り組み始めている姿を見れば、時代の必然として、そちらの方向に医療全体が進んでいくのは確実です。我々が医療の民主化にトライしなければ、他の誰かが実現していくでしょう。我々は様々な種類の医療データの中でも、データ量が重い画像診断からスタートしたことが強みです。さらに重い、病理診断データの診断サービスも始めました。多くの企業が医療データの解析をビジネスにつなげようとしていますが、簡単にはチャレンジできない領域で始めたことの意味は大きいと思います。

 

医療データを患者自らが管理する未来

――自分の医療データを自分で管理する「医療の民主化」 は、患者にとって大きなメリットがもたらされると思いますが、その進展を妨げている課題や制度は何なのでしょうか。

現在の一番の妨げになっているのは、日本の医療の根幹にある保険制度です。個別の病院が、患者さんのカルテをすべて管理するのが前提で、日本の医療制度はシステムができあがっています。国が税金を財源とする医療費を管理し、病院にお金を支払う状況がある以上、その枠組のなかで少しずつ良い方向に変えていくしかありません。国民皆保険の制度によって、国民全員が適切な医療を受けられることは大きなメリットですが、将来にわたって医療費がこのまま増大を続ければ、いずれ必ずどこかで破綻します。来る「そのとき」に向けて、医療現場から少しずつ改革していくことが求められています。

――医師の側には、これまで独占していた医療データを手放し、患者に渡すことへの不安や反発はないでしょうか?

昔ながらの医師には、そういう感覚があるだろうと思います。しかし20年前から比べれば、確実に多くの医師の意識は変わってきていますし、これからさらに加速度的に変化していくでしょう。最近、医療現場で治療にあたった医師が、放射線科医のレポートを読んでないことで医療ミスを起こしたとニュースになりました。その事件も、患者が自分の診断データを持っていれば、ミスは起きなかったかもしれません。近年、国の医療財政がよく問題として取り沙汰されていますが、本当に重要なのは、医療費の財源をどうするかといった問題ではなく「患者さんの病気を見つけて治すこと」です。患者視点に立つこと、それがいちばんあるべき姿で自然なことであることは、医師全員が同意してくれるはずです。

引っ越したり、出張中に見知らぬ街で病院にかかれば、ゼロから診断を受けなければなりませんし、会社の方針で毎年の健康診断を担当するセンターが変われば、それまでのデータがまったく反映されなくなります。放置しても問題ない良性の腫瘍を持っている人が、毎回の健康診断でひっかかり再検査を命じられる、こんなにムダで馬鹿げたことはないですよね。国も「病院同士でデータを連携せよ」と提言していますが、現実問題、病院ごとに導入している機械やシステムも違いますし。メーカーは病院を囲い込んでフォーマットを変えていますので、どれだけ予算をつけようがデータの統合は困難です。制度が急に変わらないのであれば、健康に対する意識の高い人が自分の医療データを貯められる仕組みを普及させることが大切になると考えています。

LOOKRECのシステムはそのような考え方に基づいて「病院が貯めていたデータを、患者に開放する」という方針で設計しています。少なくとも診断画像のデータに関しては、患者に見る権利を与えて当然だと思います。というよりも、患者は3割負担であってもお金を払って画像データを撮影しているのですから、そのデータは患者に保有権があって当然です。現在は患者が数千円〜数万円の診断料を払っても、病変がなければ医師から「大丈夫です」とひとこと言われておしまいです。こんな商売は、世の中にありません。それどころか「自分の画像データをください」と伝えると、追加でお金が取られるのが普通です。この状況に、誰も疑問を感じないところが大きな問題だと思います。

 

過疎地域の小さな医院を「バーチャル総合病院」へ

――LOOKRECは、医療関係者向けに開発されたシステムですが、患者さんにとっても使いやすいユーザーインターフェースですね。

LOOKRECは専門的知識がまったく無くても、スマホやタブレットのフリック操作ひとつで、MRIの断層画像を位置や大きさを自由に変えながら見ることができます。ユーザーインターフェースを直感的に操作できるようにしたのは、患者が自分で簡単に確認できて、医療機関に持っていけるようにしたかったからです。近い将来には、患者自身が生まれてからの血液データ等の推移をすべて保有し、医療機関にかかる度に提示するようになるでしょう。

実際、今でも意識の高い患者さんの中には、10枚ぐらいCD-ROMを持ってきて「過去のデータと比較したい」と言ってくる方がいらっしゃいます。血液の数値の推移を、自分でエクセルに打ち込んで管理している方もいます。そうしたデータがクラウド上に統一のフォーマットで存在するようになれば、どの医療機関にかかったとしても、容易に比較・検証が行えるようになります。「自分の体のデータは自分で管理する」ためのプラットフォームを作り、意識改革を図っていくのが私たちの仕事だと考えています。私が院長を務める「霞クリニック」には、すでに600人ほど自分のアカウントで、好きなときに自分の画像データを見られる患者さんがいます。その中には海外でも活躍するプロスポーツ選手が何人かいて、外国でも好きなときに画像を取り出せることから、重宝いただいています。

――心配な病気があれば、地域や国を超えて、その分野の医師を自分でチョイスして、診療を依頼できる時代がやってくるわけですね。

はい、そうです。かなり先の話になりますが、LOOKRECが目指すのは、山間部だろうが離島だろうが、その地域の開業医に診てもらえば「バーチャル総合病院」にかかるのと同じであるような世界です。

これまで内科の先生しかいない過疎地で、皮膚の病気にかかったら、自動車で遠くの皮膚科まで行かなければならないのが普通でした。しかしLOOKRECが普及すれば、かかりつけ医に皮膚の写真を撮ってもらい、画像を送ることで皮膚科の先生に診断してもらえるようになります。

 

時間と場所を問わずCT検査を行ってもらいたいと、最新のCT技術を搭載した「CT搭載車」のレンタルサービスも行っている。
写真提供:㈱エムネス

 

日本の医療制度には良いところもあって、医師であればどの科の薬でも処方することができます。医師同士のアドバイスが活性化することは、患者さんの利益に直結するのです。他にも例えば眼科で眼底のデータをとれば、それが内科の診療に役立てられるかもしれません。例えて言うならば、昔ながらの小さな村の雑貨屋が、「コンビニエンスストア」になって、食料品を売るだけでなく銀行やさまざまなサービスを提供できるようになるイメージです。

――LOOKRECは、インターネットにさえ繋がっていればOKなクラウドのシステムですから、専用回線を引く必要がありません。地方の小さな医院にとっても、導入に初期投資がいらないことは大きなメリットですね。

そのとおりです。これまで病院が、カルテのデータを自分のところで保有し続けるためには、サーバなどの機材の導入と定期的な更新が不可欠で、その費用は大きな負担でした。しかしLOOKRECならば、月々の利用料だけで済みますし、万が一、地震等が起こったときの災害リスクも万全です。さらにクラウド管理のメリットは、加入する医院が増えることで、感染症など全国規模で広がる病気の動向を捉えることができることです。インフルエンザなどが流行ったらすぐにデータを集約し、グーグルマップ上で感染情報がリアルタイムで動いていく様子が観察できます。医療機関にとってもメリットしかないのです。

 

国境を超えて患者のための医療を提供

――LOOKRECの普及によって、医師にとっても働き方が大きく変わってくることと思います。

一人ひとりの医師が無理をせずに、患者のためにより働きやすくなることに、LOOKRECが貢献できれば嬉しいですね。とくに女性医師はライフサイクルの中で、自身の出産や子育てのために現場を離れなくてはいけない時期があります。そんなときでも医療から完全に離れるのではなく、自分でやれる範囲で仕事ができる、その一つの手段としてLOOKRECによる遠隔診断は、非常に有効だと思います。地域の町医者が「コンビニ化」するためには、遠隔診断をしてくれる在宅医が沢山いることが条件になりますので、現場を一時的に離れた女性医師にはぜひ活用してもらいたいと考えています。

 

エムネスの常勤医12人中7名が女性医師で、そのうちの4名は入社後に出産・職場復帰を果たしたママさんドクターだ。LOOKRECを使った画像診断業務がリモートワーク可能なことも、女性医師の出産や、出産後の職場復帰を後押ししているという。

 

LOOKRECを利用する医師が増えることで、いま我々が想定している使い方とはまったく別の、想像もしていなかったような活用法が生まれてくるだろうとも考えています。患者さんが住んでいる地域や国に関わらず、誰でも好きなときに好きな医師を選んで診てもらえる。そんな社会インフラになれば嬉しいですね。

――最後に、AIやテクノロジーで医療が大きく変わるなか、若い医師たちに向けてアドバイスがあればお願いします。

これまで医療の世界には、医師同士だけでコミュニケーションが完了する閉鎖的な側面があったと思います。しかしこれからの医師は、その世界にとどまらず一歩殻を打ち破って、外の世界に出ていってほしいと思います。

医療技術に関しても、医療を取り巻く制度に関しても、あらゆる面で大きな変化が否応なく始まり、「医師免許さえ持っていれば安泰」という時代は終わりを告げようとしています。日本の医師は保険制度によってこれまで守られてきましたが、本来、医療に国境はありません。日本でもお金持ちを中心に、海外の医療機関で高度な治療を受ける人が出てきていますが、これからは国を超えた医療が当たり前になっていくはずです。そして日本の医療は世界レベルで見れば、まだトップレベルにあり、世界には医者の「い」の字もない地域がたくさんあります。自分たちが学んだ医療を活かす場は、世界中に広がっていますので、LOOKRECのようなシステムやAIを使いこなしながら、グローバルに活躍していってほしいと思いますね。

 

 

(聞き手=大越裕 / 撮影=吉岡早百合)

 

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北村 直幸(きたむら・なおゆき)
1993年広島大学医学部卒業。中国労災病院、広島市民病院勤務を経て、2000年に遠隔画像診断と医療支援システム開発を行う株式会社エムネスを設立し、代表取締役に就任。2015年霞クリニック院長就任。2017年、グーグルのクラウド技術を利用した、クラウドベースの画像診断システム「LOOKREC」をリリース。2016年に東京大学発のベンチャー企業・エルピクセル株式会社と提携し、脳動脈瘤をAIで検出する技術の実用化を進めている。2018年から2年連続でGoogleCloudNextに登壇。
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