2022年度診療報酬改定で医療提供体制はどう変わるか ~勤務医が磨くべきスキル、キャリア形成の方向性

 2022年2月9日に、中央社会保険医療協議会(中医協)が2022年度診療報酬改定の具体的な内容について答申しました。

新型コロナウイルス感染症等の対応を含め、医療機関の機能分化と地域連携の推進がより強く打ち出されました。また医師の働き方改革を進めるため、引き続きタスク・シェアリング/タスク・シフティングなどによって多職種の役割分担が図られています。

少子高齢化で医療需要が高まる反面、医師を始めとする働き手の不足・偏在が進む中、勤務医のあり方や役割がどのように変わるのでしょうか?今回の改定のポイントを紹介しつつ、それを踏まえた今後の医師のキャリア形成の方向性について考えていきます。

 

1. 2022年度診療報酬改定の全体的な傾向

 表1は、社会保障審議会医療保険部会と社会保障審議会医療部会が合同で2021年12月にまとめた「令和4年度診療報酬改定の基本方針」(以下、2022年度改定の基本方針)の概要です。

2022年診療報酬改定の基本方針

出典:厚生労働省「令和4年度診療報酬改定の基本方針」社会保障審議会医療保険部会、社会保障審議会医療部会(2021年12月10日)をもとに作成

この基本方針の背景には、少子高齢化や人口減少を背景とした社会保障費の増大や、医師などの医療資源の不足・偏在、それに伴う都市部と地方の医療格差といった日本の医療における中長期的な課題があります。政府ではこうした課題の解決に向けて地域医療構想の実現や地域包括ケアシステムの構築などを進めています。

過去の診療報酬改定においてもそうした医療政策の推進を後押しするような診療報酬の新設や点数の見直しが行われてきています。2022年度改定の基本方針でも、「効率的・効果的な医療提供体制の構築」や「安心・安全で質の高い医療の実現」、「制度の安定性・持続可能性の向上」など、これまでの流れを踏襲しているといえます。

また、2018年度からは医師など医療従事者の働き方改革の推進が基本方針の1つに加わり、20年度から重点課題に位置づけられています。

2022年度改定の基本方針で特筆すべき点は、新型コロナウイルス感染症への対策も相まって、これまで以上に効率的・効果的な医療提供体制の構築が志向されていることです。わかりやすく言うと、急性期は急性期、回復期は回復期としての機能がより強く求められており、各機能と患者の状態像とのミスマッチにメスが入れられています。

加えて、これまで以上にかかりつけ医やかかりつけ薬剤師・薬局などの地域の医療資源を総動員して地域医療の生産性を高めていくという姿勢が強く感じられます。短期的なコロナ対応と、中長期的な医療提供体制や医療保険制度の持続可能性を追求していく中で、急性期もどき、あるいは外来収入に依存している病院など、地域医療の中で役割が重複したり明確でない医療機関の存続は、これまで以上に厳しくなっているといえます。

2. 各機能に見合った患者の受け入れがより重要に

 2022年度の診療報酬本体の改定率は+0.43%で、うち看護職員の処遇改善と不妊治療の保険適用でそれぞれ+0.2%、リフィル処方箋(反復利用できる処方箋)の導入・活用による効率化および小児の感染防止対策加算措置(医科分)の期限到来で各-0.1%となり、“真水”と言われる実質的な本体部分は0.23%の引き上げとなりました(図1)。

図1 2022年度診療報酬の改定率

診療報酬改定率

出典:財務省ホームページ 令和4年度予算政府案「令和4年度予算のポイント」資料5 令和4年度診療報酬・薬価等改定より一部抜粋

プラス改定を維持したとはいえ、感染症対策関連に多くの予算が取られ、その分、急性期病床から慢性期病床までメリハリを利かせた厳しい見直しが随所で行われています。ポイントは、各機能に応じた患者を受け入れているかどうかです。

例1:重症度、医療・看護必要度の評価項目の見直し

例えば、急性期入院医療においては、一般病棟用の「重症度、医療・看護必要度」(以下、看護必要度)の評価項目が見直され、特にA項目から「心電図モニターの管理」が削除されたことにより、看護必要度の該当患者割合の減少が確実視されています。そのため、該当患者割合の基準も引き下げていますが、急性期一般入院料1の看護必要度Ⅰ(許可病床数200未満を除く)は31%と据え置かれました。

同時に看護必要度の測定にかかる負担軽減や測定の適正化を図る観点から、急性期一般入院料1(許可病床数200床以上)を算定する病棟においては看護必要度Ⅱによる評価を要件化することから(経過措置あり)、看護必要度ⅠからⅡへの迅速な切り替え、または同入院料1から下位の入院料への移行を促す狙いがあると思われます。

いずれにしても「心電図モニターの管理」の削除により5%近く該当患者が減少するといった試算もある中、該当患者割合の基準の引き下げは1~2ポイントにとどまっており、より重症度の高い患者の受け入れを増やしていかなければならないのは明らかです。

例2:地域包括ケア病棟の機能の偏りの是正

また、地域包括ケア病棟は、併設される急性期病棟の平均在院日数を短縮して同病棟を存続させる手法として運用されてきた経緯があり、自院の急性期後の患者の受け入れ(post acute機能)への偏りが指摘されていました。

今回の改定では地域包括ケア病棟入院料2・4の「自院の一般病棟から転棟した患者割合60%未満」要件の対象が拡大されるほか、満たせない場合の減算幅が-10%から-15%に拡大しました。

一方、同じく地域包括ケア病棟に求められる在宅療養患者等の急性増悪時の受け入れ(sub acute機能)、および在宅復帰機能を充実させるため、同入院料1・2の在宅復帰率要件の引き上げなどが行われます(70%以上→72.5%以上)。post acute機能、sub acute機能、在宅復帰機能の3つをバランスよく担っていくことが求められています。

 そのほか、回復期リハビリテーション病棟入院料1・2の重症患者割合が「3割以上」から「4割以上」へと引き上げられ、また療養病棟入院基本料では療養病棟入院料2の看護人員配置数や医療区分2・3の患者割合要件を満たせない場合の経過措置を延長するとともに、同期間の算定について所定点数の「100分の85」から「100分の75」に引き下げられました。

各機能に見合った患者を受け入れていかないと入院料の減算、もしくは他の入院料への移行を余儀なくされていくわけです。

3. 勤務医の役割や働き方に影響を及ぼす主な改定項目

周産期・小児救急に取り組む医療機関でも算定が可能となった地域医療体制確保加算

効率的・効果的で質の高い医療提供体制の構築」と並んで重点課題となっている「医師等の働き方改革等の推進」では、2022年度改定で地域医療体制確保加算が520点から620点に引き上げられるともに、周産期医療・小児救急医療に取り組む医療機関が対象に追加されました(表2)。

医師の働き方改革に関連する主な改定項目

出典:厚生労働省「個別改定項目について」第516回中央社会保険医療協議会総会 総-1(2022年2月9日)より作成

地域医療体制確保加算ではこれまで、勤務医の負担が大きい救急医療に注力している病院を対象に想定し、年間2,000件以上の救急搬送患者の受け入れや、「病院勤務医の負担の軽減及び処遇の改善に資する計画」の作成が要件となっていました。

2022年度改定では、医師の負担が大きいにもかかわらず同加算を算定できなかった周産期医療・小児救急医療に取り組む医療機関 で年間1,000件以上の救急搬送患者を受け入れている病院、および総合周産期母子医療センターや地域周産期母子医療センターでも算定が可能になります。

なお、施設基準であった「病院勤務医の負担の軽減及び処遇の改善に資する計画」作成は、「医師労働時間短縮計画作成ガイドライン」に基づいての「医師労働時間短縮計画」作成に改められます。

医師の当直やオンコールの回数・頻度にも影響する見直し項目

医師の負担軽減に直接関係すると思われるのが、手術および処置の休日加算1、時間外加算1、深夜加算1の要件の見直しです。

各加算の施設基準である「手術前の当直、夜勤及び緊急呼び出し当番を行った日」が診療科全体で年間12日以内から各医師で年間4日以内として特定の医師に負担がかからないようカウント方法を変えています。また「2日以上連続で当直した日」も算定対象に加え、同当直についても各医師で年間4回以内に抑えることが要件に盛り込まれました。

医師のタスク・シェアリングやタスク・シフティング先の職種への配慮も

メディカルクラーク(医師事務作業補助者)による医師の負担軽減を評価する医師事務作業補助体制加算は今回もアップし、また医師業務の最大のタスク・シェアリング/タスク・シフティング先となる看護師の夜間看護配置に関する評価も、一律5点引き上げています。

ポイントを挙げるとすれば、前者は医師事務作業補助者の待遇改善、後者は看護師の負担軽減といえるでしょう。医師事務作業補助体制加算1では施設基準として新たに当該病院で3年以上の経験年数を有する医師事務作業補助者の配置区分ごとでの5割以上の配置が義務づけられ、医師事務作業補助者の職場定着を促すような施策が必須となります。

また、夜間看護体制加算(急性期看護補助体制加算)等の施設基準における「夜間における看護業務の負担軽減に資する業務管理等」について、「11時間以上の勤務間隔の確保」または「連続する夜勤の回数が2回以下」のいずれかを満たしていることを必須化しています。

単に医師業務をタスクシフトするだけでは、看護師など他職種の負担が増すだけです。医療従事者全体の働き方改革によって生産性の高いチーム、組織にしていくことが急務となっています。

4. 病院の外来機能の縮小とかかりつけ医の役割強化

このほか、病院については外来機能のさらなる縮小、絞り込みとともに、新興感染症対策を含め、かかりつけ医やかかりつけ薬剤師・薬局の役割の強化がさらに促進されていくと思われます。

大病院の外来機能については、紹介状なし受診患者からの定額負担の徴収が求められる医療機関の対象範囲を見直し、特定機能病院と一般病床200床以上の地域医療支援病院に加え、2022年度からスタートする外来機能報告制度に基づいて地域の協議の場で協議し、都道府県が公表する「紹介受診重点医療機関(医療資源を重点的に活用する外来を地域で基幹的に担う医療機関)」(一般病床200床以上)への拡大が図られました。

一方で、紹介受診重点医療機関において、入院機能の強化や勤務医の外来負担の軽減等が推進され、入院医療の質が向上することを踏まえ、紹介受診重点医療機関入院診療加算(800点、入院初日)が新設されました。

 一方、かかりつけ医の機能強化については地域包括診療料・加算の対象疾患を拡大し、従来の高血圧症や糖尿病などに加え、慢性腎臓病(CKD)や慢性心不全などへの対応が求められているほか、かかりつけ医機能を持つ医療機関が算定する機能強化加算の要件として専門医師・専門医療機関への紹介や、患者が受診している他医療機関や処方薬の把握・管理などが盛り込まれています。

まさに「かかりつけ医」として機能することが期待されていると同時に、診療所といえども地域医療に深く関与していかなければならない、ということです。

5. キャリア形成でより重要になる勤務医のマネジメントスキル

このように医療全体が大きく変化していく中で、勤務医の役割はどのように変わっていくでしょうか。

2022年度改定では、先の各医療機能の強化に加え、救急医療やICUなど高度急性期に対しても手厚い配分が行われていることから、大学病院や基幹病院における重症患者の受け入れがますます増加していくことが予測され、そうしたところで勤務する医師にとっては高度急性期医療や専門性の高い医療を提供する機会が多くを占めることになるでしょう。

勤務時間の短縮を図りながら、そうしたスキルや専門医としてのキャリアを磨いていくためには、かかりつけ医に逆紹介することによって軽症患者を委ねたり、二人主治医制で診療する、また特定・専門看護師や専門薬剤師、その他のメディカルスタッフとのタスク・シェアリング/タスク・シフティングを進めることによって負担軽減を図り、高度医療に対応する、または専門性を磨く時間に充てるしかありません。

 とはいえ、かかりつけ医や他職種に“丸投げ”するような地域連携やチーム医療では、相手の負担増を招くだけでなく、医療の質低下にもつながります。かかりつけ医や多職種のレベルアップを図るような情報の提供や共有など、勤務医には医療連携や多職種チーム医療をマネジメントしていくスキルが何よりも求められていくと思われます。

(文・エピロギ編集部)

 

<参考文献>

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