多様化するオンライン診療・遠隔医療で進む地域医療支援

 オンライン診療が保険適用となった当初は、厳しい算定要件が課されたことで、同診療に取り組む医療機関はわずかでした。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う規制緩和によって近年、普及が拡大しています。また、デジタル技術の発達に伴い、医師偏在などによる地域医療の格差をなくす取り組みも注目を集めています。


 「遠隔医療」は、インターネットなどの通信技術を利用した医療行為全般のことを指す広い概念で、コロナ禍をきっかけに、より狭義の「オンライン診療」の気運が高まる前から、さまざまな角度で議論されてきました。


 今回は、実際の事例をもとに多様化するオンライン診療あるいは遠隔医療のあり方や将来について、医師の向き合い方を考えます。

 

1.医療資源が不足する地域でのオンライン診療の普及策

 2022年12月5日に開催された社会保障審議会医療部会で、厚生労働省(以下、厚労省)が医療資源の不足しているへき地等において公民館等の身近な場所で「オンライン診療のための医師が常駐しない診療所」を開設可能としてはどうかなど、これまでの同部会の議論を踏まえた遠隔医療をさらに活用していくための具体案の骨子を提示し(下図)、概ね了承されました。

医療部会の議論を踏まえた具体案の骨子

出典:厚生労働省「医療部会の議論を踏まえた具体案の骨子」第94回社会保障審議会医療部会資料4遠隔医療の更なる活用について(2022年12月5日)

 具体例としては、医師がいない地区等でスマートフォン(スマホ)をはじめとした情報通信機器の操作に不慣れ、あるいはIT環境がないなどの理由で、居宅でオンライン診療を受けることが困難な高齢者に対し、「医師が常駐していない診療所」をつくり、介護者や行政スタッフのサポートのもと、オンライン診療を受けてもらうというものです。

 ちなみに、厚労省の調査によると、2019年10月31日現在で、全国の無医地区、準無医地区は合計で1,084地区、人口は23万6,889人となっています。

 同案については、2022年6月に閣議決定された規制改革実施計画の中で、通所介護事業所や公民館等の身近な場所での受診を可能とする必要があるとの指摘があることや、情報通信機器に不慣れな高齢者等の医療の確保の観点から、オンライン診療を受診することが可能な場所や条件について課題を整理・検討して、結論を得ることが政府から厚労省に求められていました。

 そこで、厚労省は2022年12月の部会で、へき地等の公民館等でのオンライン診療の実施等の案を示しました。今年度中に意見の取りまとめを行い、この案を可能にしていく方針です。

2.専門医の偏在を解決する遠隔医療の実例

 上記の取り組みは、オンライン診療の中でも、同診療を行う医師(Doctor)に対して、患者(Patient)側に看護師(Nurse)が同席してサポートする「D to P with N」型診療の発展型と言えるかもしれません。

 ここで「D to P with N」以外のオンライン診療の種類を確認しましょう。一般にオンライン診療として広く行われているのは、医師(D)と患者(P)が対面のビデオ通話など、情報通信機器を介して行う「D to P」型の診療です。それ以外に前述の「D to P with N」型、主治医等の医師といる患者に対して専門医がオンラインで診療する「D to P with D」型があります(下図)。

「D to P with N」と「D to P with D」の考え方

出典:厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針(令和4年1月一部改訂)」(2018年3月)一部改変

 今注目を集めている遠隔医療の事例が、鶴岡市立荘内病院(以下、荘内病院)と国立がん研究センター東病院(以下、東病院)の取り組みです。

 両院は遠隔による手術指導(支援)システムを用いて第1例目となる腹腔鏡下S状結腸切除術を2022年12月上旬に実施。山形県鶴岡市の荘内病院で行われている腹腔鏡下手術の映像を、千葉県柏市にいる東病院の外科医がリアルタイムで確認し、口頭や図示で荘内病院の外科医を支援するという新たな遠隔手術モデルです(下図)。

遠隔アシスト手術の概要

出典:国立がん研究センター「鶴岡市立荘内病院と国立がん研究センター東病院、遠隔支援による腹腔鏡下手術を実施」(2022年12月26日)

 腹腔鏡下手術は低侵襲的であるなどの利点から、消化器・一般外科や産科婦人科など多数の領域の手術に応用されていますが、腹腔鏡下の手術野で特殊な器具を用いて行う手術です。そのため、高度な技術と経験が要求され、腹腔鏡下手術の普及や若手外科医の指導のためには経験豊富な指導医による手術指導・支援が必要不可欠です。

 腹腔鏡下手術の普及のため、これまで指導医が地方の病院を直接訪問して手術指導・支援などを行ってきましたが、昨今の指導医不足や外科医の過重労働によって、訪問時間の確保やコロナ感染拡大に伴う行動制限により、病院訪問自体が難しい状況になっています。

 今回の遠隔支援による腹腔鏡下手術は、平均タイムラグ0.027秒という高速通信・映像技術の進歩に伴い、指導医が現地に出向かなくても安全かつリアルタイムでの遠隔手術支援を実現した画期的な取り組みです。

 また、今回の手術の成功によって、技術の高度化が図られるほか、若手医師の育成や、地域患者の医療選択肢の増加が期待されています。

 厚労省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針(令和4年1月一部改訂)」では、情報通信機器を用いた遠隔からの高度な技術を有する医師による手術等について「具体的な対象疾患や患者の状態などの詳細な適用対象は、今後は、各学会などが別途ガイドラインなどを作成して実施すること」としています。

 それを踏まえて日本外科学会は2022年6月、「D to D」(医師対医師)型と「D to P with D」型との区分、それぞれの実施の仕方などをまとめた「遠隔手術ガイドライン」を策定・公表しています。

3.オンライン診療の進化に医師はどう向き合うか

 これまでに見てきた通り、オンライン診療あるいは遠隔医療は多様化しています。また、東病院からの遠隔支援による荘内病院での腹腔鏡下手術も先駆的事例であり、将来、地域のオンライン診療がどうなっていくかは発展途上とも言えます。こうした現状を医師たちはどう思っているのでしょうか。

 2020年8月に当社が実施した医師1,846名のアンケート調査では、外来診療の代わりとして行われているような「D to P」型のオンライン診療に対して、「平時と変わらないと問題ないが、異なる症状を言われた際に、検査もできず結局再来を促さなければならなくなった(内分泌・糖尿病・代謝内科、担当業務:外来、病棟管理)」「CT検査などで合併症がおきた場合に対応が困難(放射線科、担当業務:読影)」など、懸念の声が寄せられています。

 しかし一口にオンライン診療と言っても、患者の隣に主治医がいて遠隔から専門医が診療や手術を支援してくれる、あるいは在宅で訪問看護師が患者に付き添ってオンライン診療を受けるという形態であれば、「D to P」型のデメリットをカバーできる可能性があります。

 「D to P with D」および「D to P with N」型のオンライン診療は、いわばオンラインとリアルを混在させた形態なので、患者の安心感、医療の質や安全性の向上につながると期待されています。

 また、厚労省は2024年4月を目途に、訪問診療、訪問看護、オンライン診療において、患者の居宅でモバイル端末とマイナンバーカードを用いて、居宅同意取得型のオンライン資格確認、患者の医療情報などの取得・活用ができるようにする準備を進めています。このように居宅に拡大していくオンライン資格確認も、「D to P with N」あるいは「D to P with D」型のオンライン診療を推進する要素となりそうです。

 前述のアンケート調査によると、「遠方の地域医療で活躍している方々との意見交換が出来る様になった(リハビリテーション、担当業務:外来、病棟管理)」など、地域のオンライン診療が奏功しているとの声もあるように、診療技術の均てん化、地域医療の格差解消、働き方の改善・改革など、オンライン診療の発展によってさまざまなメリットが期待できます。

 マイナス面ばかりを気にしすぎず、患者に寄り添って少しずつオンライン診療を取り入れる段階に来ていると言えるでしょう。

 ただし、対面、オンライン診療にかかわらず、現在の医療は多職種チームや周辺施設との連携が前提になっていると言っても過言ではありません。患者の急変時や、多職種の介入が必要になった場合、オンライン診療で得られたデータをどう共有し、活用できるようにしていくかという仕組みづくりも併せて考えていく必要があるでしょう。

 同様に、院内ではインシデントやアクシデントを防止するために日々、さまざまな医療安全対策が講じられています。オンライン診療も医療安全への研鑽は欠かさせないことから、同診療における医療安全上のリスクを精査し、対策を検討・周知させる取り組みも必要です。

(文・エピロギ編集部)

 

<参考文献>

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