手術動画が手間なく優れた教育コンテンツへ―いつでもどこでも「手術見学に匹敵」する経験を

「臨床と事業の両輪で患者を幸せにしていく」OPExPARK代表・本田医師インタビュー

「OPExPARK」代表取締役社長/消化器内科医 本田泰教氏

外科や内視鏡治療などを専門にする医師は、日々手技の鍛錬が必要です。
手技を学ぶには、できるだけ多くの症例を経験して知識や情報を得ることが重要ですが、現状として多忙な医師が働き方改革の制限を受ける中で、技術を磨くために割ける時間と労力は限られています。

手技をもっとわかりやすく、効率的に学ぶ場はないか?そんな医師の声にこたえるため、「手術見学に匹敵する環境を提供している」と語るのは、「OPExPARK」代表取締役社長で消化器内科医の本田泰教氏。医師教育の問題を解決するため、戦略コンサルティング会社での経験を経て起業しました。

同社では、デジタル教科書プラットフォーム「opeXpark(オペパーク)」上でエキスパート医師の手技を収めた動画を会員医師向けに公開しているほか、各医療機関での手術映像の記録・編集、症例学習を可能にしたスマートレコーダー「OPeDrive(オペドライブ)」も取り扱っています。

内視鏡医として臨床現場に立ち続けながら、事業を通じたグローバルな医療の質向上にも情熱を注ぐ本田社長に、同社のサービスや製品を通じて目指す世界とご自身のキャリアについてインタビューしました。

手術動画作成の手間を減らし、より学びに役立つコンテンツへ

——OPExPARK社のサービスについて教えてください。

術野映像に加えて、手術室の俯瞰映像や医療機器のデータを時間同期して記録・リアルタイム配信できる「OpeLiNK(オペリンク)」と、そのライトバージョンである「OpeDrive(オペドライブ)」というシステムの開発・販売をしています。また、医師向けのデジタル教科書プラットフォーム「opeXpark(オペパーク)」も運営しており、当社システムで記録した動画や、提供元の先生からいただいた動画を手技教育用にWeb上で公開しています。

現在、システム開発・販売の主軸はOPeDriveです。各医療機関にある既存のシステムをすべて切り替えなくてもいいように、OPeDriveを後付けして、撮影した動画を効率良く活用できるという仕組みにしています。

OPeDriveの操作画面

今、世間では動画の有用性が広く認められていますが、手術動画をわかりやすくコンテンツ化するのは作る側の負担が大きくなります。OPeLiNKやOPeDriveの特徴は、効率的に手術記録をコンテンツ化できる点。当社では「コンテンツが半自動的にできる」という言い方をしています。

手術の状況を現場で見ている感覚になるように多画面で記録できますし、執刀医が手術中に話した言葉が自動で文字起こしされ、判断の根拠などが明確になります。学びに役立つ動画コンテンツを短時間で、医師の負担も少なく作れるのが当社システムの強みです。

——現状、手間がかかっても動画を作りたいと考える医師は多いのでしょうか。

基本的に、皆さん記録としては残していらっしゃると思います。病院としては訴訟時に備えて少なくとも数年分残しておかなきゃいけない。個人としても発表用や自身の記録として必要になるケースは多いですが、それをいろいろ活用したいということになると大変なのではないでしょうか。

例えば、医療機器メーカーなどに「こういうコンテンツをください」と言われて、医師が自分で編集して渡すようなケースがあります。これが結構大変な作業で、半年くらい時間がかかったりする場合があると聞きます。そういった場合に当社システムを実際に活用していただいた医師の話を聞くと、「短期間でちゃんとしたものを作ることができる」と高評価をいただいています。

「もっといい教材がないかな」自身の苦労が原体験

——デジタル教科書プラットフォーム「opeXpark」について、詳しく教えてください。

opeXparkでは、会員登録した医師に向けて約250件(2024年8月1日時点)の動画を公開しています。脳神経外科からはじまり、現在は消化器内科/外科に注力し専門医クラスに熱中してもらえるサイトになっています。

当社システムのOPeLiNKやOPeDriveで撮影された動画では、術野映像だけでなく、機器情報や手術中の執刀医の立ち位置なども確認できます。「手術見学に匹敵するものが、実際に現場に立たなくても経験できる」というコンセプトのサービスです。

「opeXpark」で見られる手術動画の画面一例

実際、術野映像だけ見て「同じようにやってください」と言われても難しいと思います。手術においては機器の配置方法などの細かい部分にも答えはなく、病院ごとに違っています。例えば脳の手術で顕微鏡を見て執刀する場合、顕微鏡をどこに置いてどんな体勢をとりながら臨むかというのは、医師によってそれぞれ違う。そこまでシンクロしないと技術を本当に学ぶことは難しいのです。

医師の教育に関しては、私自身も教育を受ける側としていろいろ思うところがあったので、「こういうのがあったらいいな」というものを形にしていくやり方で始めていきました。​

——手技教育に関して、本田社長ご自身はどんなところに不便を感じていらっしゃいましたか。​

まず医師は自分の施設のやり方をコピーして学ぶことが基本になります。それは当たり前のこととして、追加で他施設のやり方が気になって「見に行きたいな」と思っても安易に行くことはできません。病棟を担当していると、諸用で少し外出することさえ難しい環境で、他の病院に見学しに行く時間を確保することは基本的に無理です。

そのような環境で、例えば自分が行った処置の悪かった点やより良いやり方を学ぼうとしても、教科書や雑誌記事のような文字情報だけではわからないし、細かい所作は実際に見ないとわかりません。

一回お手本を見るだけで全部理解できるようなすごい方もいると思いますが、私は器用じゃなくて理解しきれなくて。努力してレベルを上げていこうにも、学ぶために見返せるものが不足していました。

術者でない時に記録用で撮っておくこともできなくはありませんでしたが、他先生の処置中は様々な対応(病棟、外来含む)もあるので、自身の学習のためだけに集中した時間が取れないのです。そうした状況下で「もっと効率的な場がないかな」と感じていたのが原体験です。​

——opeXparkは、学ぶ環境を求めていた当時のご自身のような、若手医師をメインターゲットに展開していらっしゃいますか。

若手、中堅向けと謳っているのですが、思っていた以上に幅広い層に視聴していただいています。視聴者層は20代〜60代と幅があって、一番ホットなところは40代というのが現状です。ちょうど自分でいろいろ任されて1人でやるようになったくらいの方が見ているケースが多いのかな、という印象を持っています。

ただ、意外にも教授クラスの方にも視聴いただいています。おそらく、その年代の医師は技術を学ぶためというよりも、「あの施設はどういう感じでやっているのだろう」と他施設を知る目的の人が多いのだと思います。

十人十色の手技を見比べ、自分に合った学びを得られる

——動画の内容や提供いただく先生はどのように決めていらっしゃいますか。

視聴されている医師の方々から「どの施設のどの手技を学びたい」という声を聞いて、その領域の動画を公開するというやり方で進めています。医師が見学したいと感じる施設や先生に絞るのが大事だと思っています。会社設立時は、医師30人くらいに「どの領域だったらどの先生の動画が見たいか」をヒアリングし、どの先生の動画を何件撮るという企画を作っていきました。

動画、つまり症例を増やしていくうえで難しく感じることは、エキスパートの医師にしかできないような難易度の高すぎる症例だと、視聴者層が限られてしまうという点です。動画を見て学びたいと考えている医師は、どちらかというと、「すごい先生は基本的なことをどのようにやるのか」というところが見たいと思うのです。料理で例えるなら、プロの料理人がカレーという一般的な料理をつくったらどうなるか、というイメージです。

一方で、視聴されている医師がめったに出会わない症例や、執刀できる医師が限られる症例の動画だけを多く取り扱うと、これも料理に例えるなら、普段家では作らないウナギ料理(裂き8年、串3年、焼き一生の世界)の調理場面を見ているような、単に見て楽しむだけのものになってしまいますから。

——手技の動画を提供してくださる先生との関係づくりはどのように進めていかれたのですか。

最初はすべてドアノックでした。私と社員の計2人で、日本全国の約80大学の先生方に対して、学会などで声をかけていきました。一人一人に「こういう世界を作りたいのです」と目指す理念を話して切り開いてきたのは、今となってはいい思い出です。途中から開拓に強い社員も入社してくれて、私の出番はだんだん減っていきましたが、当時は頑張りました。

手術映像の提供に協力してくれる医師との関係づくりについて語る本田泰教社長

活動をしていると、「人の技術で儲けようとしている会社なんてけしからん」というお叱りを受けることもありました。ただ、私は100人に声をかけたら99人から叱られるのかなと思っていたのですが、実際には約7割の方には「面白い。その世界、良いね」と言ってもらえて、とても歓迎されていると感じました。

歓迎された要因として、最初に脳神経外科向けにサービスを始めたところがあると思っています。当社のシステムが脳外科の領域から始まったという理由で、そこからopeXparkとしての取り組みも始めました。手術の中でも100人やれば100通りあるのが脳外科領域で、集合知化が一番必要な診療科だったのだと感じています。

——同じ手法でも、執刀する先生によって違いがありますか。

ひとつの同じ部位を手術するにしても、どうアプローチするか、体位はどうかなど、先生によって全然違っていて面白いですね。私自身も同一の症例に対して、これほどのバリエーションがあるとは思っていなかったです。

opeXparkでは、いろんなやり方を見比べて「これは違うな」と思ったものは参考にしなければいいし、別の動画を見て「これは取り入れよう」というようなことができます。自分の実力よりも上のものを参考にしすぎるとそれはそれで問題ですが、ステップアップしていくための教材としては使えると思っています。

患者から得た気づき「事業でも人を幸せにできる」

——ご自身のキャリアについてもおうかがいしていきます。本田社長はなぜ医師を志されたのでしょうか。

そもそも祖父から続く医者家系だったのです。父親の専門は消化器内科で、実家がある兵庫県で開業しています。父の背中を見て育ち、小学生のころから純粋に医者になりたいなと思っていました。

医師以外にも面白そうだと感じる職業がないわけではなかったのですが、苦しんでいる人の命を救う仕事は純粋にやりがいがあると思っていて。これまで全くぶれることがありませんでした。

また、父と同じ消化器内科を選んだのは、消化器内視鏡領域は日本が世界を牽引していた点、かついわゆる低侵襲治療という点で、内視鏡治療に興味があったからです。

——学生・若手医師時代はどんなキャリアを目指していらっしゃいましたか。​

専門を大学4年生で決めて、ある分野で日本のトップになり、将来はアメリカで臨床をやりたいというモチベーションを持っていました。大学時代に3回、1か月ずつ北米や欧州に海外留学もしました。

実際働き始めると、想定とは違ったいろいろな刺激も受けて、医師4年目ごろには「臨床だけじゃなく事業でも患者を幸せにできるな」というマインドに変わっていきました。

——事業を起こすことを早い段階から意識していらっしゃったんですね。​

医師5年目までは目の前の人、自分の担当患者を幸せにするのが仕事。6年目以降は臨床研究や基礎研究などを通じて新しいエビデンスを作り、目の前にいない患者を幸せにするというのが、当時ご指導いただいた私のメンターの基本的な考え方でした。

目の前にいない患者に貢献する方法として、大学院に進んで研究して、というルートが医者の王道だと思います。そちらでなく事業に目が向いたのは、患者さんから触発されたところもありました。

事業に興味を持ったきっかけについて語る本田泰教社長

当時、勤務していた病院の立地もあり、患者さんの中には経営者や会社役員など事業を動かす立場の方が多かったのです。「なんや偉い人らしいぞ」といった感じで、経営や事業に対して何の知識もなかったのですが、人と喋るのが好きなので、治療が終わった後によく「どんなことをやっているのですか?」とたずねていました。社会をよくするためにこんな事業をやっている、という話を聞いては「そういう切り口があるのだな」と刺激を受けていました。

統計データをいじったり研究したりするよりも人と話すほうが好きなので、「自分もそういうことをやってみたいな」と思って飛び出した感じです。

ゼロから事業を学び、医療の「全体感」が見えるように

——現在の会社を起業されるまでに、ローランド・ベルガー社で戦略コンサルティングのお仕事もご経験されています。起業の準備という位置づけでキャリアを選ばれたのでしょうか。

事業をやりたいとなった時に、どんな視点や考え方で取り組めばいいのか、何も理解できていない状態でした。どうやって学んだら良いかと考えた時に、いきなり起業してみるというパターンももちろんあると思うのですが、どこかで事業のことをよく知ってから起業しようと思いました。

ローランド・ベルガー社を選んだのは、当時1か月で1年分の経験ができると聞いたからです。時間軸短く経験を積める企業を希望していたので「そこに飛び込んでみよう」と決めて、医師4年目の時に隙間時間で就職活動を始めました。

——あえて厳しい環境の企業を選ばれたんですね。​

本当は同種の大手企業も検討していたのですが、結果的に大規模な企業では得られない経験ができたと思います。大手の場合、過去のプロジェクトからグローバルな知見を活用する手法がメインになりますが、私がいたところは最大手ではなかったので、過去の知見にとらわれずゼロから提案内容を作るのが基本でした。

頼りになるものがない状態で、顧客の希望に応じたプランを立てなくてはならず、「お客様と約束したので、じゃあ作らなきゃ」と。私は全体感を見て采配するのはそれなりに得意な方ですが、細かい部分は苦手で提案内容を作るのに苦労しました。ただ、毎日がすごく充実していました。

入って2か月くらいで役員プレゼンを経験するなど、刺激的な日々でした。1秒も無駄にできないほど​激しく働くということは、その時に学びました。

事業について学んだ戦略コンサルタント時代を振り返る本田泰教社長

——戦略コンサルティング時代は、具体的にどんな仕事をしていらっしゃいましたか。​

私の強みはヘルスケアなので医療関係が多かったのですが、医療機器メーカーや製薬会社などの顧客企業から、「この製品の売り上げを2倍にしたい。どうしたらいいか」とか「何を開発したらいいか」というような相談を受けるコンサルティング業務を担当していました。

現場の状況を調査して、顧客企業に「現場ではこういうニーズが満たせていない。貴社のこの技術があれば、この需要に合う製品が作れるのではないですか?」と提案する。種作りからアドバイスをするような仕事でした。

医療業界の現場感覚はもちろんありますし、たとえ私が直接知らない分野でも、専門の先生から話を聞いたらある程度イメージできる。自分の知らないところはそのように補っていたので、現場勘が一番の強みでした。​

医療以外でも、ある施設に出店するとして、出店場所や業態、店舗運営をどう効率化していくかを考えるようなコンサルティングも経験しました。医療に関係しない分野も面白かったです。

——直接患者と接する医師の仕事とは違う立場から医療を見て、気づいたことはありましたか。

現場にいた時は、目の前の人を良くすることに注力できていました。一方で反省するところもありました。例えば若い時、「1,000万円の薬を使ったら治る可能性がある」という状況なら「どんどん使えば良い」と思っていました。でも今思えば、全体感が見えていなかったな、と感じます。

当時は、もしそのような治療をした場合、国の予算などコストを踏まえるとどういう状況になるか、というようなことまでは見えていなかったのです。一般社会での経験を通じて、医師と患者だけでなく、社会全体のバランスを考える必要性を理解しました。

結局、医療にかかわる皆がWin-Winとなる世界を作らないと成り立たないんだということがわかるようになった気がします。それを踏まえて、「じゃあ本当に良い医療ってなんだっけ?」というところまで考えを巡らせるようになりました。

ただ現場にいる時間が少なくなり、「臨床医メインだったころにどんな課題を感じていたか」という部分が薄れていく感覚があって、自分でも困っています。やっぱり5年たつとだいぶ変わってしまう。現場の苦労や悩みを本当に100%理解できているのだろうか、というのは、最近悩んでいるところかもしれないですね。​

今も週1回は内視鏡医としてカメラを握っているのですが、入院患者を受け持っていないので、薬を使ったがんの治療などはやっていません。自分が携わっていない部分は、最近この5年で変わったトレンドなども聞いたベースでしか理解できない。そのあたりは「これで良いのかな」という葛藤もあります。

カーブアウトから始動…理想を共有する現在のチームへ

——どのような経緯でOPExPARK社を設立されたのでしょうか。

私はコンサルティング業務をしながら事業の構想を練っていて、何か活用できるものがないかと考えていました。そんな時に、アクセラレータープログラムで株式会社デンソーさんと知り合いました。

デンソーさんはOPeLiNKというシステムを世の中に広げたいと考えて動いていたものの、具体的な方向性が決まっていなかった。撮影した動画を教育資材にして、専門医の人たちが見に来るプラットフォームを作ってマーケティングビジネスができるのではないか、というストーリーにすることでベンチャーキャピタル(VC)からの出資が決まり、私に打診がありました。

当時まだ30歳くらいで、「この歳でなかなかそんな経験できないな」と思ったので、「じゃあ一回やってみようかな」と軽い感じで始まったのが最初の流れですね。​

仕事で縁があったというわけでもなく、VCがいろんなところで声をかけていた時にたまたま私に白羽の矢が立って、「面白そうですね」という形で参画させていただきました。それがなかったら、今ここにはいなかったと思います。

——起業時や会社設立後、壁にぶつかった経験はありますか。

当社はデンソーさんのカーブアウトというところから始まっているので、組織作りは大変でした。最初は私とデンソーさんからの出向社員の方々で組織を作っていくという形でスタートしたので、大企業のカルチャーをベンチャーマインドに変えるという点が特に難しかったです。

また、出向社員が帰任するタイミングあたりも正直大変でした。今の社員みんなの頑張りがあって今のチームになっていると思うので、メンバーには素直に、本当に感謝しています。

一緒に働くメンバーへの感謝を口にする本田泰教社長

今の社員は、もともと医療機器メーカーにいた者とか、医療現場で働いていた者が多いです。もちろん医療に関係ない仕事をしていた人もいます。ただ、どこにいても医師が世界各地の手技を学ぶことができて、グローバルな医療の質向上を目指せる世界を作るという理念に共感いただいている社員が多いですね。

私が「起業を考えている」という人と話す時には、事前にチームの方向性と何をやりたいかをすり合わせるよう勧めています。最初が本当に大事ということは、私自身やってみて気づいたところでしたから。最初のメンバーが途中で抜けることももちろんありますが、起業前の段階でひとつでもしがらみがあったら、後々チームは崩壊してしまう。一緒にやるかどうか決める前に、事前に喋り尽くすのが重要だと伝えています。

臨床と事業の両輪で患者を幸せにし続けたい

——今後、御社で新しく提供していきたいサービスはありますか。

さまざまな機能追加を検討していますが、特にフォーカスしているところは、OPeDriveを導入することで病院の利益につながる仕組みを作るという部分です。国公立の病院は基本的に全部赤字経営と聞いています。それを改善するために、いろんな仕掛けをしていきたいと考えています。

今やっているのは、国内の医療機関に教育用の動画コンテンツ作成業務を効率化するシステム「OPeDrive」を開発・販売するというところです。近い将来、このシステムを海外にも展開して、最終的にはインバウンド患者を増やす仕組みを作って広げることを目指しています。

——インバウンド患者を増やす仕組みとは、例えばどのようなものですか。

海外の患者さんに向けて日本の医療機関の本当に必要な情報を伝えたり、受診後のアフターフォローをサポートしたりする仕組みです。

日本はインバウンド患者を引き込みたいけど、引き込めていない。なぜかというと、多言語で見られるWebサイトを運営している医療機関はまだ少なくて、海外の患者さんは自分にとって必要な情報を収集できないのです。また、診療後も「もしこんな症状が出た場合はどうすればいいのか」といったことがよくわからない、つまりアフターフォローも十分でないケースがあります。当社が構想しているシステムなら、そういった課題をカバーできると考えています。

今後実現したい新たなサービスについて語る本田泰教社長

このシステムを導入すると、各施設の現状がいろいろと見えるようになってきます。受診後のフォローも当社が構築しようとしているデジタルのコミュニティを使えば可能だと考えています。「OPeDriveを導入して、当社が作ろうとしているコミュニティとのパイプをつなぎながらインバウンドの患者を増やす取り組みを進めれば、向こう何年でこんなことができますよ」と提案し、導入した病院の利益向上につなげる仕組みを作りたいと思っています。

日本は「この診療科のこの手術だったらこの先生」という強みが、海外向けには見えにくくなっていると思うのです。実力のある先生の元に世界から手術を受けに来てくれる患者さんがいらっしゃれば、医療機関にとってはうれしいじゃないですか。日本の医師の強みを可視化して、海外の患者さんに対して情報を発信し、診療後のアフターフォローもサポートする。OPeDriveを導入している医療機関ならそういう連携がしやすくなる、という世界を作りたいですね。

——現状、起業のハードルが高いというお話がありました。そんな中で「こういう時に起業すべき」というロールモデルはありますか。

自分にしかできないことを見つけた人が起業できるチャンスを作る、ということが大事だと思っています。何でもかんでも起業じゃなくて、たとえば自分の教室・研究でしかやっていないことがあった時に、「じゃあ起業してみよう」と考える医師がスムーズに事業を進めていける世の中にすべきだと感じています。
たとえば今、教授が起業するような流れが結構あると思うのですが、すごく良いですよね。何かしら、自分が一番知っていると自負する分野で起業するのが良いと思います。

ただ、起業の時期に関して言うと、私自身は、今振り返ってみると臨床を離れるのが少し早かったかなと感じています。今、若い子の中には研修が終わった時期、もしくは大学在学中に起業している子もいて、何かあった時に何もつぶしがきかなくなるのでは?と思っています。「もしうまくいかなかったら、あなたは何になれるのですか?」という話です。多分、何者にもなれないと思うのです。

最近「若くして起業しろ」というような雰囲気はありますが、それは少し微妙かなと。専門医資格を取ってから、というくらいのイメージですかね。臨床現場に10年以上身を置いてからがいいのではないか、と思っています。

医師が簡単に起業しても、現状悩みの種は多いと感じています。私自身は、臨床と事業を並行できるシステムを作りたいなという考えはあります。

——本田社長自身が今後目指していきたいキャリアビジョンはありますか。

私自身起業はしましたが、ずっと社長業だけをやりたいという気持ちはみじんもないのです。
患者を幸せにするために、医師として直接治療するやり方と、事業などを通じた間接的なやり方、両方をずっと続けていきたい。どちらか片方に偏ってしまうと、どちらも成り立たなくなってしまうと思っているので。

ローランド・ベルガー社在籍時も、当時は本業に貢献する副業可能であったので、スキルを継続するために三次救急の当直だけはやっていました。

今の会社を立ち上げる時、大半の投資家からは「社長業に集中しろ」と言われたのです。でも、私は「嫌です」と答えました。臨床と事業の両輪で患者を幸せにしていくことは、私の中で一つ大事な部分、自分のパーソナリティであると考えているからです。今の株主はそのあたりに理解があるので本当に感謝しています。

今後の自身のキャリアについて語る本田泰教社長

ただ、医師としてのキャリアに関しては、事業と両立していきたいということ以外はまだ決めていません。自身の夢を引き続き追及していきたいと思います。

本田 泰教(ほんだ・やすのり)
1988年生まれ。
株式会社OPExPARK代表取締役社長、CEO。
消化器内科医、内視鏡医。

信州大学医学部卒。日本赤十字社医療センターなどを経て、医療事業の経験を積むためローランド・ベルガー社に入社。製薬企業や医療機器メーカーの戦略立案など、戦略コンサルティング業務に携わる。2019年より現職。
臨床業務と事業による医療への貢献をキャリアの両輪と位置づけ、現在も週1回の内視鏡医勤務を続けている。
手術デジタル教科書プラットフォーム「opeXpark」
医師向けの手技教育動画を視聴できる会員制サービス。
「手術見学に匹敵するものが、実際に現場に立たなくても経験できる」をコンセプトに、手技を学びたい医師へ無料で教育動画を公開している。

「opeXpark」の特長4点
●執刀医のコメントを見られる
動画に執刀医のコメントが反映されており、手術中の判断の根拠など、その場にいなければ知ることが難しかった部分を学べる。

●一画面に多彩な情報を集約
術野映像に加え、手術室の俯瞰映像や機器情報などを一つの画面内で視聴できる。見たい情報や好みに合わせたカスタマイズも。

●術前・術後の状況を見える化
症例ごとに術前・術後の患者の情報を画像資料等で確認でき、症例理解にも役立つ。

●使いやすい検索機能
キーワード、執刀医名、経験年数など検索カテゴリも豊富。疾患名、アプローチ方法などのタグをたどる直感的な探索も可能。

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