今さら聞けない「総合診療医」をめぐる現状まとめ

2018年度の新専門医制度スタートとともに、「総合診療医」の専門医教育が始まります。総合診療医とはどのような医師で、なぜ必要とされているのか? 要点をまとめてご紹介します。

そもそも総合診療医とは?

「デジタル大辞泉」(小学館)では、総合診療医とは「総合的な診療能力を有し、プライマリーケアを専門に行う医師。身体の状態だけでなく、心理的・社会的問題も含めて、患者を継続的に診察し、必要に応じて専門医に紹介する。」と定義されています。
また、日本専門医機構が公開している資料によれば、総合診療専門医は次のような使命を持つものとされています。

■総合診療専門医の使命

日常遭遇する疾病と傷害等に対して適切な初期対応と必要に応じた継続的な診療 を全人的に提供するとともに、地域のニーズを踏まえた疾病の予防、介護、看とり など保健・医療・介護・福祉活動に取り組み、絶えざる自己研鑽を重ねながら人々 の命と健康に関わる幅広い問題について適切に対応する使命を担う。

出典:一般社団法人日本専門医機構「総合診療専門研修指導医マニュアル」(閲覧日:平成27年9月8日)
http://www.japan-senmon-i.jp/document/program/comprehensive_doc11.pdf

欧米では、従来からプライマリ・ケア医(総合医や家庭医)が医療制度の一部として確立されていた一方で、日本では長らくそれを規定する資格や身分はありませんでした。しかし近年、高齢化等による医療需要の変化などを受けて議論が進められ、「総合診療専門医」という専門医資格がスタートすることになりました。

 

総合診療医が必要とされる理由は?

総合診療医が必要とされる理由について、これまでのさまざまな議論の場で挙げられた中から主要なものをいくつかピックアップします。

(1)フリーアクセス医療の弊害

OECD加盟国の多くでは、専門医を受診する前にプライマリ・ケア医の受診が必要な制度になっています(ゲートキーパー制度)。これに対して日本では、どの医療機関にも全額保険適用で自由に受診できる「フリーアクセス」の医療が提供されてきました。こうした中、患者は身近な診療所よりも大病院を積極的に受診しようとする傾向にあり、結果として大病院に患者が集中し「数時間待って数分間の診察」のような弊害が起きていました。
総合診療医の整備により、プライマリ・ケアとセカンダリ・ケアが分化でき、患者が必要な医療を適切な医療機関で受けられるようになることが期待されています。

(2)高齢化による医療需要の変化

2014年時点で日本の高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は25.78%であり、日本は世界一の超高齢化国です。こうした中、特に慢性疾患について、複数の疾患の医学的管理を必要とする高齢者が増加しています。
従来のスタンダードであった「特定の臓器や疾患のスペシャリストとしての医師」のみではこの状況に対応するのが難しく、患者を総合的に診られる医師が必要とされています。

(3)「地域を診られる医師」の必要性

現在、国は医療や介護を地域で一体的に提供する「地域包括ケアシステム」の構築を進めています。地域包括ケアでは多種多様な疾患や健康問題への対処が求められるほか、多職種での連携や、予防医学的なアプローチなど、領域を問わない「総合的な」対応が求められます。この担い手として、総合診療医が注目されています。

 

求められる総合診療医の医師像とは?

2015年4月、日本専門医機構「総合診療専門医に関する委員会」が発表した報告書の中で、総合診療専門医が獲得すべき6つのコアコンピテンシーが提示されました。

【総合診療専門医の6つのコアコンピテンシー】

  1. 1.人間中心の医療・ケア
  2. 2.包括的統合アプローチ
  3. 3.連携重視のマネジメント
  4. 4.地域志向アプローチ
  5. 5.公益に資する職業規範
  6. 6.診療の場の多様性

出典:一般社団法人日本専門医機構「総合診療専門医 専門研修カリキュラム」(閲覧日:2015年9月8日)
http://www.japan-senmon-i.jp/document/program/comprehensive_doc12.pdf

 

今後の課題とされる3つの点

2018年度の後期研修での総合診療医育成カリキュラムのスタートを目指して、現在も制度の検討や調整が進められています。その中で、次のような課題が挙げられています。

(1)具体的な研修内容の整備

現在、日本専門医機構は平成27年8月27日に発表した「総合診療専門研修プログラム整備基準」に基づき、具体的な研修のモデルプログラムの作成を進めています。
なお当然ながら、総合診療専門医制度は、認定された専門医がいない状態で始まります。そのため、新制度の中で認定された専門医が指導医になる2025年までは、総合診療専門医以外の医師が指導医を務める必要があります。現状、総合診療専門研修指導医は下記の候補から選抜されることになっています。

■総合診療専門研修指導医の定義・要件

  1. 1)日本プライマリ・ケア連合学会認定のプライマリ・ケア認定医、及び家庭医療専門医
  2. 2)全国自治体病院協議会(全自病協)・全国国民健康保険診療施設協議会(国診協)認定の地域包括医療・ケア認定医
  3. 3)日本病院総合診療医学会認定医
  4. 4)大学病院または初期臨床研修病院にて総合診療部門に所属し総合診療を行う医師(卒後の臨床経験7年以上)
  5. 5)4)の病院に協力して地域において総合診療を実践している医師(同上)
  6. 6)都道府県医師会ないし郡市区医師会から≪総合診療専門医専門研修カリキュラムに示される「到達目標:総合診療専門医の6つのコアコンピテンシー」について地域で実践してきた医師≫として推薦された医師(同上)

出典:一般社団法人日本専門医機構「総合診療専門研修指導医マニュアル」(閲覧日:平成27年9月8日)
http://www.japan-senmon-i.jp/document/program/comprehensive_doc11.pdf

(2)取得できるサブスペシャルティ領域と取得フロー

新専門医制度では、総合診療科も含めた19の基本領域から専門医を取得した上で、臓器別などより細分化されたサブスペシャルティ領域の専門医を取得できる二段階制になっています。総合診療専門医がどのサブスペシャルティ領域の専門医を取得できるのか、また取得を目指す際にどのようなフローが必要になるのかについては、いまだ議論の途上です。

(3)他科から総合診療医へ、総合診療医から他科への転向方法

2018年度以降に後期研修を受ける医師については総合診療専門医への道筋が示されていますが、他の専門医から総合診療専門医への転向を希望する医師についてはどのように取り組めばよいかが提示されていません。総合診療専門医から他科への転向についても同様です。

先頃、日本医師会総合政策研究機構が発表したアンケート結果(※)によれば、医学生のうち「将来専門にしたい診療科・分野」で総合診療科を選んだ人の割合は14.6%にのぼり、内科、小児科に続いて第3位。キャリアの選択肢として非常に期待感が高いことが伺えます。
2016年には初期研修医(2年目)の総合診療医専攻登録がスタート。今後の動きが注目されます

 

※ 日医総研「医学生のキャリア意識に関する調査」(閲覧日:平成27年9月8日)
http://www.jmari.med.or.jp/download/WP337.pdf

(文・エピロギ編集部)

 

 ※新専門医制度スタート延期に伴い、内容を一部変更しました(2017年12月1日)  

 

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