研修医指導に役立つ「3つのReflection」~学びの全ては臨床現場にある~

志水 太郎 氏(獨協医科大学病院総合診療科 総合診療教育センター 診療部長・センター長)

研修医の育成は病院にとって一大ミッションであり、指導医の資格取得を目指す方も少なくないでしょう。しかし、臨床経験を重ねたからといって指導力が上達するとも限らず、後輩の教育に悩む医師も少なくありません。また、指導医として若手の医師とのコミュニケーションに悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、総合診療医として活躍する傍ら、医師の教育指導に力を注ぎ指導医のロールモデルとして国内外で活躍中の志水太郎先生から、研修医の指導に役立つ「3つのReflection」を中心に実践的な指導方法やコミュニケーションのノウハウをご紹介いただきます。

 

人の集まるところに良質な教育あり

日本のいたるところに、若手医師がこぞって集まるチームや病院がある。それらの病院に共通するのは、「人を育てる」という教育マインドが満ちていることにあるように感じる。ではそのマインドに沿ってどのような教育をすれば良いのか? 人を育てるといっても成人教育であり、また現場の時間的な制約もある臨床教育である。自己学習を尊重し、相互の自主性を認め合い、問題解決の手法にフォーカスを当てることが大切だ。

その意味では、「指導者が教育の準備をゼロからすべて行わなければならない」という、マテリアルから何からお膳立てするような、教育に対する現場の指導者の時間的労力は不要ではないかと思う。例えば知識伝達型・スクール形式のスプーンフィーディングは現場教育において補足的な立場にある。それよりは、実際に現場で出会った一つ一つのことからどのように学習課題を見つけ、それを自分の中で言語化してリストアップし、一日一日、一例一例を自らの血肉となるように学んでいくという生涯教育が重要だ。そして学習をサポートするためにフィードバックを行うことが、現場の教育に携わる指導医の主な役割ではないかと考える。

研修医とのコミュニケーションで最も重要なのは、「あなたの成長のことを考えて、指導医としてはこうコメントしたい」という教育的想いがその研修医に伝わるかどうかである。

 

基本はベッドサイド、カンファレンスは思考の鍛錬を中心に

だからこそ、教育を行う場所の選定は重要である。筆者はその教育の場は基本ベッドサイドにあると考える。臨床教育で学ぶことは全て臨床現場から発生する。

筆者が『ハリソン内科学』を優れていると思う理由は、そのPart1の総論部分において、米国内科学の60年をかけて執筆されたベッドサイドでの振舞いや具体的な考え方が、テキストブックであるにもかかわらず現場の臨場感をもってリアルに伝わってくるという点である。

現場で一つ一つの出来事をどう考えてどう動くか、そしてその臨床的思考の背景にどのような総論的な考え方があるかを目の前のリアルケースで教えていく。結果、血の通った臨床力が研修医らに備わっていくのだと思う。

医師にとっては、能動的に自分が五感を使って体験した学びのインパクトは強く、長期に記憶に刻まれる。このことからも、教育の場はベッドサイドが最適であると思う。

一方で、現場を離れたカンファレンス室などに集まって行う教育の機会も有効である。
カンファレンスには知識を伝達するだけではなく、臨床的思考力を鍛えるという大切な役割がある。

前者は、スライドなどを使ったレクチャー形式の知識伝達型のカンファレンスである。こちらは現場の臨場感は少ないものの、総論的な内容、または一斉に共有しなければならないような各論的知識の伝達には向く。

これとは別に後者のカンファレンスでは、臨床医が複数集まるという特徴も生かし、参加者各自が目の前の問題を解決し、その方法に至るまでの思考プロセスを、臨床現場からプロテクトされた時間・空間で共有できる。そのため現場で手を動かしながら行うよりも落ち着いて思考に特化した訓練ができるだろう。

ベッドサイドと2つのカンファレンス――これら3種類の教育の場をバランスよく使い分けながら日々の教育プログラムを組んでいくことが良いだろう。

 

Reflectionがカギ:どうコミュニケーションするか

では、教育的な場や形式を整えるだけで良いだろうか。現場教育の完成は、そのフィードバックにあると思う。具体的には、実際に現場で研修医が行った行為を建設的に振り返るのである。なお、振り返り(Reflection)には3つのフェーズを伴う。

  • ・Reflection in action
    現場での実際の行動を通してどのようにやり切ったかの振り返り
  • ・Reflection on action
    その行動に基づいてどのようなことが得られたかの振り返り
  • ・Reflection for action
    次に活かすにはどのように訓練の課題を日々設定していけるかの振り返り

この3つのフェーズでの振り返りを軸に、建設的なマインドで、「あなたの今日の経験を明日のために具体的にどう役立てるか、その学びをサポートする」という一点からぶれないことが指導医にとって大切である。研修医が経験したことを、自分なりに消化してどのように成長のための栄養とするか、その方法論を指導医の立場からサジェストすることこそ、成人教育の文脈上、最も重要なサポートなのだと思う。これは今後その研修医が補助なしで生涯学習を行っていくためにも大切なことだ。

この指導には、各学習者への各論的理解や指導者による創意工夫が必要となるため、指導者に負担を強いる可能性がある。一方、知識や考え方をポンと与えることは指導医にとって比較的楽で、工夫を特別に要しない。しかしその“与える”だけの教育にとどまってしまうと、自主的に情報を集め、取捨選択し、その上でわずかな何かから自分で学び取っていくという姿勢を涵養する教育には至らない。

この教育については、単に臨床教育の枠にとどまらない。例えば、遅刻をよくする研修医や礼儀に疎い研修医と接するときにも同じことがいえる。遅刻を叱り、ダメな研修医として断罪することは簡単だ。しかし、「あなたの成長を考えて、どのように考えて行動すればよいかをサポートしたい」という本気の想いが指導医にあれば、研修医に「課題の克服が自分自身の成長の糧になる」ことを実感してもらうためのヒントを提供できるだろう。その際にも勿論、先程挙げた3つのReflectionで実際に遅刻を防ぐ方策を考えてもらうのである。

 

現場訓練とフィードバック

現在筆者のいる獨協医科大学病院総合診療科では、現場訓練とフィードバックの中でこの3つのReflectionを応用して、スタッフ・レジデント(後期研修医)・初期研修医の各レベルに応じたフレキシブルな訓練を行っている。

ベッドサイドや通常のカンファレンスはもちろん、「診断戦略(開発)カンファレンス」という名の診断プロセスを開発する中で3つのReflectionを行っている。その過程で、各メンバーと個人のスキルに焦点を当てた教育面でのコミュニケーションが可能になり、業務的・私的なコミュニケーションに加え別の軸でのコミュニケーションを図ることにもつながっている。結果的にはチームワーク形成の上でも、3つのReflectionがより効果的であると日々実感している。また、このような教育的コミュニケーションを行っているという事実が、ひいてはチーム内に流れる教育文化の醸成にもつながると期待する。

 

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志水 太郎(しみず・たろう)
2005年愛媛大学医学部卒業。江東病院、市立堺病院内科チーフレジデント修了。数カ国での総合内科武者修行・教育活動ののち、2014年東京城東病院総合内科チーフを経て、2016年4月より現職。著書『診断戦略』(医学書院)に代表される、診断思考大系の第一人者。また『愛され指導医になろうぜ』(日本医事新報社)の出版、『ドクターG』(NHK)の出演など、国内外で多くの後進のロールモデルとなっている。公衆衛生学修士(米エモリー大学)、経営学修士(豪ボンド大学)。趣味は診断戦略とワインと映画。好きなスイーツは甘栗、ガトーショコラ、タルト・タタン。
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