医学部生はどう見たのか~東京医大女子受験生減点問題
東京医科大学(以降東医と表記)が入試で女子と多浪の受験生の得点を一律減点していたというニュースは、さまざまなメディア、さまざまな切り口で取り上げられ、未だに波紋を広げている。
本稿では、現在医学部に通っている医学生数7名に対して行ったヒアリングの内容をご紹介する。回答をできるだけそのまま掲載することで、問題提起というよりも、これから医師になる医学生たちが何を考えているのかを感じていただければと思う。
今回協力してくれたのは以下の医学生たちである。回答内容は、個人が特定されることを防ぐ目的で、発言内容を変えない程度の編集を加えている場合もあることはご容赦いただきたい。
※カッコ内は(性別/学年/大学所在地/国公立・私立)
- ・Aさん(男性・6年生・西日本・国公立)
- ・Bさん(女性・3年生・東日本・私立)
- ・Cさん(女性・3年生・東日本・国公立)
- ・Dさん(女性・4年生・海外)
- ・Eさん(男性・3年生・東日本・国公立)
- ・Fさん(女性・3年生・東日本・国公立)
- ・Gさん(男性・5年生・西日本・私立)
実際に医学部に通っている医学生は今回のニュースをどう受け止めているのか
・女性活躍を謳い助成金を貰っている大学で女性差別が行われているのか、と呆れました。(Aさん)
・とても驚きました。女性医師が産休を取りづらい、働く環境があまり芳しくない、ということは知っていましたが、事実として入学試験を操作していたことには絶句でした。(Dさん)
・受験時に、塾や予備校の先生から、女性は不利ですよ、人数調整はあると思いますよっていう話は聞いていたので、「やっぱりね」っていうのが第一印象でした。ただ、小論文の内容や面接の印象云々レベルじゃなくて、女性っていうだけで見事に減点されていたじゃないですか。そういう仕組みが脈々と受け継がれていたっていうのは結構ショックでしたね。(Bさん)
・びっくりしました。けど、最初はありえないとは思えませんでした。例えば海外の有名私立大学とかだと人種とか性別とかで公平になるように調整してるじゃないですか。だから東医にもある程度の自由はあるんじゃないかって思っていたんです。でも、海外の場合はダイバーシティを保つ目的で少数派を増やす調整をかけているわけで、東医の場合はそれに思いっきり逆行しますから、やばいなと思いました。
一方で、医学部ってかなり特殊で、入ったからには医者になるのが前提とされていて、それを計算して日本全体の医学部の数を決めているので、そこが唯一情状酌量の余地があるというか……。ただ、あくまで医学部は大学であって職業専門学校ではないので、やっぱりそこは許されないんじゃないかと思います。(Eさん)
東医だけではない 医学部の女性入学者制限や得点操作
・友人が通っている大学では1浪以上の女性は全員不合格にしているそうです。男性は多浪も再受験もいっぱいいるのに、女性は1浪までしか入っていないんだそうです。女性は再受験や多浪で入ってしまうと、卒業のタイミングが結婚出産の時期にあたり、そうすると医局に入らない人が多いので若い人を取りたい、というのがその理由だと聞きました。(Bさん)
・入試でボーダーラインの人がお金を積んで私立の医学部に入学したケースを知っているので、得点操作くらいじゃ驚きません。面接で「寄付金はいくらになさいますか?」って聞かれる学校があるらしいじゃないですか。でも、そういうお金がないと大学や大学病院が成り立たないんでしょうから、学校側も苦し紛れにやってるんじゃないですかね。(Cさん)
・学内に、積もうと思えばいくらでも積めそうなお金持ちの家の人がいるんですが、多浪なんです。だからある程度実力はあるんじゃないかなって気はしました。一次試験のあとはいろいろ下駄を履かせるみたいなことはあると思いますけど。(Gさん)
2018年現在、入試以外で医学部生が受けている男女差別の実態
・入学してからは女性であることを理由に不当な扱いを受けたりしたことは一度もないです。入ったからには長くいてもらおうっていう先生たちの考え方も見えますし、私もいろんな医局の先生に「うち来なよ」って言われます。先生たちとすれば医局員を集めようと、学生のうちから必死に魅力を伝えている感じはありますね。(Bさん)
・私の大学でも年配の先生で「医師は男性がなるべき」とお考えの先生がいらっしゃいます。口頭試問で女子学生がそういった先生に当たるとわざと意地悪されたり、難しい質問をされたりすることがあります。ただ学生は皆「それはその先生個人の考え」と受け取り、その先生に当たると「アンラッキーだったね」「残念、次回頑張ろう」とお互いを慰めるものの、特に抗議をしたりはしません。インターナショナルコースだからかもしれませんが、「人は人」「そういう人もいる」といった考えを持つ学生が多い気がします。「結局医師は人対人の仕事だからそこもうまくやる必要がある」と考える人が多いようです。ただこれと「一律に女子学生へ減点する」東医は全く違う気がします。(Dさん)
・男性教官で女性を厚遇する人がいて、明らかに女性の方が口頭試験に通りやすいみたいなことがないわけではないです。(Fさん)
・東医の得点操作を悪いことだと思っておらず「それでも入りたいなら点取ればいいじゃん」みたいなことを言う学生も結構います。事実男性社会で、男性より体力のない女性が、その中に入れてもらうと思ったらそれなりの気合いがないと一緒にやっていけないんだろうなっていうのは女性なら当然思うところじゃないでしょうか。(Cさん)
大学が減点に至った背景にある問題も含め、どのような対応が必要か
・キツイ仕事→人手不足→一人の負担が増える→さらにキツイ仕事、という悪循環の結果として比較的体力が少ない女性、妊娠子育てを見据えた女性が外科などに進みたがらないのであって、人手不足を解消しない限り環境は改善しません。そして人手不足を解消するためには現状では医学部の男性の割合を増やすしかないのです。順番が大事です。まずは外科の人手不足を解消する。次に女性が働きやすい環境を整える。最後に女性の人数制限をやめる、という順番が良いと考えています。(Aさん)
・女性の点数を引いたことに問題があるのではなく、そうせざるを得ない状況になってしまっていることに問題があると思っています。そもそも男性にとっても結構ハードな労働環境ですから。瓦解したのが女性差別に見えるところだったっていうだけで、この問題は過労死から表面化したかもしれません。休めるときに休めるシステムを確立しなければいけないと思います。クオーター制とか、シフト制とか、お給料がちょっと減るとしても体への負担が少ない方法で働く方法を提案できる上司が増えるとか、そういったことが必要だと思います。それ以前に根底的な部分では、主治医じゃないと嫌っていう患者さん側の意識の改革ですね。(Cさん)
・医者の人数に対して仕事が多すぎるっていうのが根本にあると思っています。究極的には「責任を取る」っていうのが医者の仕事で、コメディカルやAIへの仕事の移譲を加速させていくことが現実的なのではないでしょうか。あとは、自分で薬を買えば済むところを病院に行って薬を処方してもらう、みたいな医療を極力抑えるっていう患者さん側のリテラシーを高めていくしかないと思います。時間はかかりますけど。(Eさん)
・かかりつけ医を作って大きな病院にはむやみにかからないというような取り組みが私の地元でも進んでいます。なので、それをもっと促進して役割分担をしていくことが必要だと思います。あとは性別にかかわらず、医師自身の人生を尊重できる職場になれるように努力できたらいいと思います。地方で働く女性医師の話を聞いたんですけど、その病院は医師3人のチームでまとまった人数の患者さんを診ていて、チーム全員で患者さんを把握しているから誰かが急に早く帰らなければいけなくなるような状況でも対応しやすいし融通もききやすいということです。それはそれで多くの人数の患者さんを把握しなければいけないから大変な面もあるし、医師の数に余裕も必要ですけど、みんなでその患者さんについて議論することで教育効果もあると思うし、技術も高まると思います。少しずつの改革でも、働きやすい環境は工夫して作れるんじゃないかなと思いました。(Fさん)
・全体の枠が決まっていて、みんなある程度稼げるような業界を作ろうとしているっていう前提に無理があるんじゃないかなって気がしますね。枠をばんと増やして、ある程度自由競争にして、稼げる人は稼ぐけど稼げない人は稼げないみたいな状況にしないと、各科に医師が充足された状態は保たれないと思います。(Eさん)
・女性医師が産休を取るのも子育てをするのも、それは個人の選択です。休みを取った分、件数や症例が少なくなることは覚悟しなければなりません。ただ、だからといって差別、区別されるのではなく、それに当たるだけの評価を受けるべきです。そのためには日本人が持つ潜在的な男性女性の区別から緩和していかないと、表面で女性が働きやすい環境づくりを議論しても仕方ないように感じます。やはり日本は未だに欧州に比べ、女性自身も「私は女子だから」「あの人は女性だから」といった意識が強いように感じます。(Dさん)
・「若手定額使い放題」みたいなことをしないと大学病院の経営が成り立たないっていう、そこに問題の根源がある気がしています。十分に医師に給与が払われない結果こういう問題が起きているのであれば、フリーアクセスや診療報酬や国民の医療費の負担額など、そういうことから考える必要があるのかなって思います。適正に医療費を使うことが医師の働きやすさや公正な入試につながるんじゃないでしょうか。(Gさん)
*
現役医学生7名の声をご紹介した。
最後に、医学部を目指して勉強している受験生に向けてBさんが話してくれたことを紹介したい。「今回の報道で、私って不利なんだと思って打ちひしがれて夢を捨てないでほしいです。必死で受験勉強している方の努力が報われることを願っています」
彼ら彼女ら、そして医学部を目指している受験生たちが近い将来、日本で医師を続けることに限界を感じたりすることがないように、自分らしく医師のキャリアを進んでいけるように、今回明るみに出た問題を風化させてはいけない。
(文・只野まり子)
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