米国・ハワイ大学での内科レジデンシーの現場から

【前編】臨床留学で学んだ、教育が“オプション”ではないアメリカの医学教育システム

浜畑 菜摘 氏(ハワイ大学内科レジデント)

ハワイ大学内科レジデンシーの入職式にて。ハワイのプログラムは様々な国から人が集まる

「アメリカの医学教育を学びたい」と、ハワイ大学にレジデント留学されている浜畑菜摘医師に、文章をお寄せいただきました。標準化された屋根瓦式プログラムで一人前の医師を育てあげるアメリカの教育システムを目の当たりにし、医学教育の面白さと重要性を再認識したという浜畑氏に、実際の研修の様子や、日本とアメリカの医師の働き方の違い、改めて実感した日本の医療現場の魅力についてご紹介いただきます。

 

教育は“オプション”ではなく“当たり前”である

レジデント留学のためにハワイに来て2年半。改めて感じるのは、「アメリカでは、上級医が下級医や医学生を指導する“屋根瓦式”教育がカルチャーとして当たり前に浸透している」ということです。

研修プログラムも、レジデントや医学生が学べる環境を整えることを最優先に考えられていて、レクチャーや回診など“教育”に多くの時間が費やされます。教育的ではない症例はなるべくレジデントチームに担当させない配慮までされており、教育者として適切ではない指導医はレジデントチームの指導から外されることすらあります。そして、私たちレジデントには、“とにかく3年間で学べる限り学んで卒業する頃には一人前になる”ことが求められます。これは、日本と違い、アメリカでは研修を終えると医師は皆対等な立場になるためです。レジデント研修を卒業するということは一人前として認められることであり、そこからの卒後年数というのは関係なくなるのです。

指導医もこのような米国のカルチャーの中でトレーニングを受けてきているので、レジデントが一人前になるために教育をすることを惜しみません。レジデントや医学生を教えることは彼らにとって仕事上の“オプション”ではなく“当たり前”なのです。

 

ハワイ大学のプログラムを卒業した日本人医師なら誰しもが尊敬する呼吸器内科のDr.Sollとの呼吸器外来にて

 

「ムラのない教育システム」と「世界」を見てみたい

個人的に、医学部や初期研修時というのは、実際に教科書で学んだことを目の前の患者さんに当てはめることで医学の面白さを改めて実感できる、非常に貴重な期間だと思っています。

その貴重な時期に教育熱心な病院で学べれば幸せですが、そうでなかった場合、医学の面白さや、他の科の興味深さなどに気がつくことなく進路を決定しなければなりません。このような日本の医学教育のムラは非常に勿体無いと感じました。

そんな時に、アメリカの医学教育には、学ぶ大学による格差が出ないように全米のプログラムを統括するACGMEという組織によって標準化された教育システムがあり、医学部や臨床研修のゴールも明確であることを知りました。そして、実際にアメリカ留学から帰国した先輩医師の方々から指導していただく機会を得て、医学の面白さに加え、後輩を指導する教育の素晴らしさに触れたのです。

以前から医学教育に興味があった私は、カルチャーとして医学教育が浸透している米国のシステムの中に身を置いて研鑽を積みたい、ゆくゆくはこのカルチャーを日本の教育システムに還元したいと思いました。そして同時に、日本を出て世界を見てみたい、医局やなんの後ろ盾もない状況で自分がどこまでできるのかやってみたいという、今となっては怖いもの知らずといえるような気持ちもあり、米国での臨床留学を志すことにしました。

そんな淡い気持ちで、ひとまず米国医師免許を取得しようと、日本での初期研修後、後期研修と並行してマッチングを受け、外国医学部卒業生の受け入れでよく知られるハワイ大学の内科プログラムに参加。今年7月に3年目を迎えました。

 

研修先の病院The Queen's Medical Centerのエントランス

 

「RIMEモデル」に基づくゴール設定と、内科教育プログラム

こちらに来て、特にアメリカ式の“屋根瓦式教育”を実感したのが「病棟ローテート」です。病棟ローテート(ホスピタリストローテート)はチーム制で、メンバーは指導医(アテンディング)とシニアレジデント、初期研修医(インターン)、そして医学生で構成されています。

指導医以外は、毎朝5−6時台に出勤して皆それぞれが担当する患者の回診をします。医学生も数は少ないですが患者を割り当てられ、誰よりも早く来て受け持ちの患者に関して詳しくなることが期待されています。個々人の回診が終了すると、レジデント、インターンと医学生が集まり、その日の患者一人ひとりに対する治療方針を決定しますが、それぞれに求められるレベルは違います。

 

インターンや医学生の仲間たち

 

医師の育成に関して話す時、研修医の発達段階を表す「RIMEモデル」というものがしばしば使われますが、これは育成の過程において、R→I→M→Eの順に、その能力が構築されているという考え方です。

すでにご存じの方も多いかと思いますが、まずはReporter:起きた事実を報告することができるようになり、次にInterpreter:起きた事実を医学的に解釈することができるようになる。ここから大きな一歩としてManager:全体像を見て治療方針をマネジメントするようになり、最終的にEducator:教育する立場になる、と考えられています。アメリカの医学教育も、この発達段階モデルを基にプログラムが作られています。

 

育成段階の異なるメンバー同士、チームで学び合う

病棟ローテートのチームメンバー全員がこのRIMEモデルにおいてそれぞれ違った段階にいます。医学生はとにかく医学的・非医学的なこと全てにおいて、誰よりも受け持ちの患者さんに関して詳しいことが求められています。いつ何時に何が投与されたのか、夜中眠れたのか、ご飯を食べているのか、家では普段何をしているのか、など全てです。医学生のレベルでは、集められた情報を医学的に解釈するのがまだ難しいので、起きた事実を報告する良いReporterである能力が求められるのです。

次にインターンは、Reporterであることはもちろんですが、そこで集められた情報を医学的に解釈するInterpreterとしての能力が求められます。この患者はこのタイプの心不全だからこの薬を飲んでいるのだな、この患者は耐性菌のリスクがあるからこの抗生剤の選択なのだな、などと見分ける能力です。

そして最後にシニアレジデントは、全体図を見て治療方針が間違った方向に行かないように管理するManagerとしての能力が問われます。

指導医を抜きにして、まずは各々の学年の能力でもってディスカッションし、その日の患者さんの治療方針をレジデントとインターン、医学生だけで立てるのです。担当患者全員の治療方針が立ったら、いよいよ指導医の前でプレゼンして、自分たちの治療方針で良いか、何か他のアドバイスがないかなどを問います。この思考と対話のプロセスが毎日繰り返し行われる中で、チーム全体および個々人の医学的な知識やスキルが上がっていくのです。

 

研修先の病院The Queen's Medical Center

 

治療方針は、レジデントが提示する

日本では、指導医の提示した治療方針を下級医がオーダーするという構図をよく目にしますが、こちらでは逆です。指導医を納得させられるような理論に沿った治療方針をいかにレジデントが提示できるかということが問われます。そして3年間の研修が終わる頃には、指導医にほとんど修正されないくらいに、皆見違えるほどの医学的知識、そしてチームリーダーとしてチームをマネジメントする能力が備わるのです。

チームでの指導医へのプレゼンと回診が終了すると、それぞれのやるべき仕事に戻りますが、この間にも新しい入院患者が来たり、病棟患者の容体が急変したりするので、あっという間に夕方になり、夜勤帯のレジデントに申し送りをする時間がくるのです。シニアレジデントは卒後3年目にしてこういった予測不能の事態にも冷静に対応しつつ、後輩指導もするというManagerとしてのリーダーシップスキルも求められるため、医学的側面だけでなくリーダーとしての成長も期待されています。

私自身シニアレジデントとなって1年半経ちましたが、日本にいた頃よりも下級医や医学生の教育・成長に対する責任を感じています。それぞれ違う発達段階にいるチームメンバーを取りまとめて皆で成長していくのは、医学的知識はもちろんですが相手を尊重する姿勢と忍耐力も必要とします。病棟ローテート中は、正直ヘトヘトになることがほとんどですが、経験豊富な指導医から学ぶことは多く、インターンや医学生たちがみるみるうちに力をつけていく様子を間近で見るのは、大きな楽しみの一つであります。そして様々な下級医を指導していく中で私自身も医師として、そして一人の人間として成長させてもらっています。

 

ICUのローテータ全員で記念写真。医学生、インターン、レジデント、指導医、薬剤師、皆で治療方針を決定する

 

コメディカルの充実が生む、学びに没頭できる環境

こちらにきて驚いたことは、コメディカルと呼ばれる職種の人たちが多数いて、仕事がかなり細分化されていることです。特に検査技師や診療看護師の数が多く、簡単な手技や検査は医師が行わなくても、電子カルテの中でワンクリックするだけで、1時間後には手技が完了していることすらあります。ソーシャルワーカーやケースマネージャーも多数いるため、幾つもの書類作業に多大な時間をかけるということもありません。

日本にいた頃と比較して放射線科が対応する手技が幅広く、PICC挿入や様々な穿刺を必ずしも自分たちで行う必要がないため、手技のスキルを磨く機会が減ったことは否めませんが、医学を学ぶことに一日中没頭できるのは非常に恵まれた環境です。

こうして、夢に見ていたアメリカの医学教育の中に身を置いて2年半、レジデンシーも最終学年に突入しました。全米を通して系統だった医学教育の強みを感じるとともに、医師の働き方に関しても日本との違いを感じることが日々ありました。次回は、そんなアメリカの医師たちの働き方について触れていきたいと思います。

 

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浜畑 菜摘 氏(はまはた・なつみ)
1988年生まれ、東京都出身。2013年に東京慈恵会医科大学を卒業し、母校の附属病院にて初期研修中に米国医師免許取得。2015年より東京ベイ・浦安市川医療センターにて1年間の総合内科と集中治療科(現在の救急集中治療科)のローテートを行い、2016年より兵庫県の明石医療センターにて1年間の総合内科後期研修中に、米国内科レジデンシーマッチングに参加。2017年7月よりハワイ大学内科レジデンシー研修を開始。現在レジデント最終学年であり、2020年7月より同プログラムのチーフレジデントとして教育などに従事予定。 
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