その「一言」が炎上のもと!? 後悔しない、医師のためのSNS利用法

中山 和弘 氏(聖路加国際大学大学院 看護学研究科 看護情報学分野 教授)

TwitterやFacebook、Instagramなどさまざまなソーシャルメディアが浸透し、プライベートなコミュニケーションから、企業の広報まで欠かせない存在となっています。それは医療の世界でも例外ではなく、親しい友人とのやり取りや、医師ならではの情報発信に活用されている先生も多いのではないでしょうか。

同時に医師という職業柄、発信する情報の選び方を間違えてしまうと患者や病院を巻き込んだ問題に発展してしまい、医療関係者でなければ見過ごされるような気軽な投稿も、「炎上」の火種になる可能性があります。

そんなリスクを回避するために、しっかり身に付けておきたいリテラシーについて、医師・患者の意思決定を支えるヘルスリテラシーの数々の著書を執筆する専門家であり、聖路加国際大学大学院で看護情報学を教える中山和弘教授に伺いました。

 

便利さには、常に責任が伴う

 ソーシャルメディアとは、ブログ、SNS、掲示板、動画共有サイト、クチコミサイト、Q&Aサイトなどの、誰もが参加して情報をやりとりできるメディアのことです。

 これらは、医師や患者が簡単にコミュニケーションや情報共有ができて、多くの人々とつながることを可能にしました。そこに参加すれば、ありのままの自分を表現したり、自分の医師としての専門的な意見や立場を表明することも、同僚意識や仲間意識を育んだり、広く社会に対して健康に関する情報やメッセージを伝えることも可能です。

 しかし、同時に、多くの考慮すべき倫理的責任が生じてきます。

 

誰に向けたメッセージかを考え、読み手への配慮を

 今年、産婦人科医と思われる人のツイートがTwitterで炎上しました。
 産婦人科医が「陣痛っぽい」と言う妊婦に来院を促したところ、「旦那が仕事」「車がない」「タクシーは断られる」との返答があり、それに対して「知らんがな」と発言しました。さらに「救急車呼ぼうと思う」との返答に対して「なんでやねん」と、陣痛時の妊婦の救急車利用は問題だと書き込んだものです。

 その後、産婦人科医のアカウントもブログも削除されたようですが、この投稿はツイートの画像とともにずっとネット上に残り続けるでしょう。救急車の不正利用は問題だと警告したつもりかもしれませんが、感情のはけ口としても使われていると思われます。読んだ人がどう思うかの想像力が問われます。

 この事例にかかわらず、病院内部などで、医療者同士で対応に困った患者さんのことが話題に上ることはあるかもしれません。しかし、そこでの会話をそのまま公開してよいわけではありません。そこから得た回答や教訓があれば、それを誰と共有するのか、患者さんに伝えたいことがあれば、改めて患者さんに向けて情報提供をするにはどうすればよいかを考える必要があるでしょう。

 

適切な発信は、患者や医療関係者の学び合いの促進に役立つ

 私はヘルスリテラシー、すなわち市民や患者が健康や医療の情報を、入手し、理解し、評価し、活用する力についての研究をしています。国際的にもこのヘルスリテラシーは重視されています。その理由は、多くの人にその力がないことがわかってきたからです。

 専門職と市民・患者の間の情報格差は歴然としています。市民や患者が知らないのは、学ぶ機会がないからで、そうである以上学習の機会を提供するのが専門職の役割でしょう。最近では、対象のヘルスリテラシーに合わせて適切なコミュニケーションがとれるかどうかが、医療者のヘルスリテラシーだと捉えられています。

 国際的に著名で評価の高いアメリカのメイヨークリニック(Mayo Clinic)は、コンスタントに健康医療情報を発信していて、Twitter(@MayoClinic)のフォロワーも200万近くになっています。保健医療専門職のためにソーシャルメディアの活用方法の研修プログラムやセンターをつくり、グローバルなネットワークも構築しています。それは、世界中の患者や介護者とともに全ての医療関係者が協力して学ぶコミュニティをつくるためです。

 そこにある考えは、「メイヨーでは、一人ひとりが自分の健康を守る権利と責任を持っていると信じている、そのため我々の責任として、ソーシャルメディアを利用して、ベストな情報を得て医療者やお互いのつながりをつくる手助けをする」というものです。そのため、誰でも登録・参加できる症状・病気についてのオープンなオンラインコミュニティも設置しています。

 メイヨークリニックは医療機関としてTwitter上で発信していますが、医師個人が患者さんに向けて発信する場合もあります。ソーシャルメディアは、学び合い助け合う場であり、相手(患者)の医療知識に合わせた発言をする必要があるとの認識が求められるでしょう。

 

「個人」と「医師」の境界を明確に

 一方で、ソーシャルメディア上で、医師としてではなく個人として発信する際も注意が必要です。

 昨年、SNS上に投稿された写真での炎上がありました。患者さんを手術している医師と、その脇でカメラ目線の医師やピースサインをする看護師が写っている写真を公開したのです。担当した医師の最後の手術ということで、記念に撮影してほしいと本人が指示したものだったそうです。しかし、手術を受ける側の立場から見れば、大事な手術に集中して仕事をしてもらいたいと思うでしょう。

 SNSにおける倫理的な問題として、患者のプライバシーと守秘義務の問題を切り離して語ることはできません。守秘義務に違反することは論外ですが、必ずしも明確に違反していなくても、自分という個人あるいは病院という身内のことと、医師という専門職の境界が問題となります。

 ネット上の人格(とくに匿名の場合)としての自分と、専門職という立場を切り分ける必要があります。個人や身内のこととして発信したつもりであっても、医療を受ける側の立場からは、専門職が発信したことと受け取られます。炎上を防ぐためには「患者はそのような医療者と関わりたいか」が判断材料になるでしょう。

 

すべての発言に、拡散の可能性がある

 先ほど紹介した手術室の写真は、公開範囲を限定していなかったため炎上につながりました。それでは、公開範囲を限定すれば問題は発生しなかったのでしょうか。答えはNOです。

 見られる範囲をどれだけ限定していても、全ての発言はコピーなどによって世界中の人に見られる可能性があります。また、たとえ匿名の発信であっても誰かによって特定され、医師の発言として拡散される可能性があります。かつ、それらは削除してもネット上にずっと残り続けるのです。

 多くの病院や大学では、ソーシャルメディアに関するガイドラインやポリシーが作られています。ご自身の所属のものを確認してみてください。そこでは主に、患者はもちろんのこと、職員個人と当該組織を守るためにすべきことが書かれています。プライバシーの問題をはじめ、人を傷つけたり、誤解を与えないための方法や対処など多くの項目が並べられています。きっと参考になるはずです。

 ソーシャルメディアは、決して特定の人たちのための内輪のツールではなく、広く社会に広がっているメディアであり、仮想でもバーチャルでもなくリアルな世界です。世界中の人がいつでも自分たちの発言を見ているという自覚を持ち、仮に個人的な発信であったとしても医師としての側面が付いてまわることを踏まえ、互いに注意喚起し合うことが大切です。

 

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中山 和弘(なかやま・かずひろ)
聖路加国際大学大学院看護学研究科看護情報学分野教授。
博士(保健学)。東京大学医学部保健学科(現:健康総合科学科)卒業、東京大学大学院医学系研究科博士課程(保健学専攻)修了。日本学術振興会特別研究員(PD)、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所流動研究員、東京都立大学(現:首都大学東京)人文学部社会福祉学科助手、愛知県立看護大学(現:愛知県立大学看護学部)助教授を経て現職。
著書に『市民のための健康情報学入門』(共編著、放送大学教育振興会、2013年)/『ヘルスリテラシー―健康教育の新しいキーワード』(共著、大修館書店、2016年)/『これから始める! シェアード・ディシジョンメイキング―新しい医療のコミュニケーション』(分担執筆、日本医事新報社、2017年)など。Webサイト「健康を決める力」運営。
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