「患者さんと友達になる医療」を目指す小児科医

~志を共有し、チーム医療で患者さんと患者家族に寄り添う~

田草 雄一 氏(小児科医/ぽよぽよクリニック 院長)

2002年、島根県松江市に小児科・アレルギー科の「ぽよぽよクリニック」を開業した田草雄一医師。「患者さんに寄り添いたい」と、理想の医療を追い求める中で挫折を経験し、周囲の助けを得ながら困難を乗り越えてきたといいます。「患者さんと友達になる医療」の実現を目指すぽよぽよクリニックでの取り組みについて伺いました。

 

「医師と患者」ではなく、「人と人」の関係を

私が「患者さんと友達になる医療」を目指してぽよぽよクリニックを開業してから16年が経ちました。高度医療・先端医療が声高に求められる昨今、ともすると医師は病気と治療に注目しがちで、患者さんと向き合うのがおろそかになってしまうことがあります。そして気が付くと、「人と人」ではなく、「医師から見た患者」という関係になってしまうこともあります。

患者とはその字の通り、「心が串刺し」になり痛みを抱えた人です。「患者さんと友達になる医療」とは、そんな、病気によって「心が痛んでいる」患者さんと、その家族の悩みや苦しみ、悲しみに共感し、安心して治療を受けていただく医療です。

風邪をひいて発熱し、眠れない夜を過ごしたお子さんとお母さんが受診されたら、お子さんはもちろん、不安と心配で心を痛めているお母さんの気持ちも、楽にしてあげたい。「つらかったら泣いてもいいんですよ」と言えるような、「人と人」の信頼関係を築いていける医療を目指しています。

 

「患者さんと近すぎる」、忠告で気付いた自分の目指す医療

医師になったのは、職場に私を背負って出勤(昭和の時代はそういうこともあったんですね)していた臨床検査技師の父の影響です。当時、医師の指示の下で働いていた父は、自分のように指示されて動く立場ではなく、メインの治療に当たれる医師になってほしいと考えていたようでした。病院の空気感や医療を肌で感じて育った私は、3歳のときには「お医者さんになる」と宣言。幸運にも恵まれて医師になれました。

小児科医になったのは、「小児科医になれなかったら保育士になろうか」と考えるほど子ども好きだったからです。医師という職業に一生を捧げるのなら、小児科医として子どものために命を懸けたい。そう思ってこの道を選びました。

 

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「患者さんの話に耳を傾けよう、力になろう」という気持ちは研修医時代から心にありましたが、患者さんやその家族との距離のとり方には随分と迷い、失敗し、悩みました。小児神経について国立精神・神経センター武蔵病院(現:国立精神・神経医療研究センター)で学んでいたとき、先輩医師から「患者と距離を置いたほうがいい」と忠告されたことがあります。難病の子どもを持つお母さんの気持ちが少しでも楽になればと、長い時間をかけて話を聞いていたことに対してでした。勉強の時間も大切にしてほしいという私のことを思っての先輩の言葉でしたが、今思えば、その言葉のおかげで自分のやりたい医療の方向性がはっきりしました。

大学病院に戻り働いていたときのことです。難病の子どもの脳死宣告をしなければならない場面がありました。悩んだ末、フラットになった脳波をお父さんに差し出して伝えようとしたところ、「おまえたちは、なんでそんなものを持ってくるんだ! それよりも、あの子はこれからどうなるんだ!」と強いお叱りを受けました。自分はなんということをしたのだ。患者さんに寄り添う医療を目指すといいながら、研究や先進医療、高度医療に気をとられ、患者さんや家族と真剣に向き合うどころか、追い打ちをかけるように傷つけるなんて。あの深い哀しみのこもったお叱りは、一生忘れられません。

 

「患者さんファースト」が招いた、クリニックの危機

その後、研究ではなく、患者さんの側にいたいと、2002年にぽよぽよクリニックを開業しました。映画にもなった「パッチ・アダムス」のような医療を目指そうと意気込みましたが、目標にした「病気への対応よりも人間的な対応を最も大切にする」医療は自分の想像をはるかに超えるものでした。「実現は難しい」。そう感じていたときにお会いしたのが、「おげんきクリニック」の岡原仁志先生です。今でこそサンタ服での診療は珍しくありませんが、2006年当時、サンタの格好をして診察する岡原先生にたくさんの温かいアドバイスをいただき、自分も「小児科のパッチになろう」「患者さんと友達になる医療を実践しよう」と気持ちを新たにしました。

 

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病院=怖いというイメージを抱かれることなく、少しでも楽しく過ごしてもらうため、ディズニーランドのような外観にこだわりました。

 

写真3

待合室と一体化したプレイルーム。「消毒臭のする白壁」を避け、保育所を参考に内装や壁面を工夫しました。

 

ところが、小児科のパッチを目指して「患者さんファースト」を実践してきたはずの開業4年目。クリニック内でのスタッフ同士の衝突が表面化し、それを収拾できなかった自分とスタッフの関係もうまくいかなくなって、何人かの優秀なスタッフが辞めていってしまったのです。解決の糸口を下さったのが、島根県中小企業家同友会のセミナーでお会いした経営コンサルタントの奥長弘三さんでした。奥長さんは、「院長の気分によって左右するあいまいな指示出しではなく、クリニックの進路となる方針や判断基準である経営理念をつくって提示する」ことを勧めてくれました。そのアドバイスを受け、同友会の経営者のお話を伺いながら私の想いを明確にしたのが「ぽよぽよクリニック6つの理念」です。

ぽよぽよクリニック 6つの理念

使命
子ども達を守ります
目標
患者さんと友達になります
価値
みんなの笑顔を大切にします
共育
一緒にピカピカ磨きをし続けます
連携
薬局や他の医療機関との真の連携を追求します
貢献
地域に開かれた安心基地を提供します

クリニックで「6つの理念」を発表すると、スタッフは目指す進路が示されて安心したのか、次第に結束し、私と行動を共にしてくれるようになりました。

スタッフとともに半年以上かけて作成した「ぽよぽよクレド」は、「プロ意識」「ホスピタリティ」「笑顔」「接遇」「成長」「チームワーク」「ピンチはチャンス」の7つの項目から構成されています。中でも「成長」は教えて育つ「教育」ではなく、院長とスタッフが共に人間的に育っていく「共育」というスタンスで取り組み、スタッフと一緒にコミュニケーション力を高めるセミナーや日本外来小児科学会などにも参加。みんなで理念に掲げた「ピカピカ磨き」を続けています。

 

チームで実現させた「患者さんと友達になる医療」

「共育」が重要なのは、「患者さんと友達になる医療」の実現にスタッフの力が不可欠だからです。パッチ・アダムスも大切なのは「ハグすること」であり、「必要なことは伝えるけれど、たくさんの言葉は必要なく、寄り添う気持ち」だと言っています。ただ、現実には医師の時間は限られており、私の場合は1日80人、一人あたり4~5分の診療となり、一人ひとりの患者さんに深く関わって傾聴することは難しくなります。

そこで発揮されるのが私と同じ想い、同じ志を持つスタッフの力(ちから)です。診療前の不安は笑顔で名前を呼んでもらえる信頼感によって安心に変わり、診療で傾聴の不足を感じたら、看護師がお母さんに寄り添ってていねいに補ってくれます。お会計時に赤ちゃんがぐずってもスタッフが手を差し伸べてくれるという安心感も、スタッフ一人ひとりの相手の気持ちを考えたホスピタリティとコミュニケーション力がなければ成り立たちません。

患者さんの気持ちに寄り添うコミュニケーション力は、6つの理念の中の「貢献」である地域の子どもや家族を巻き込んだイベントを通して少しずつ育っていきました。2012年から毎年実施している「キッザニアぽよぽよ」では、地域の子どもたちに聴診器やスタッフ自作のデモ採血装置を使って診療体験をしてもらいながら交流を深めています。また、スタッフが運営企画する「ぽよカフェ」の離乳食教室も回を重ねるごとに充実してきています。
スタッフが自ら考えて行動していくうちに、「患者さんに安心して質の高い医療を受けてほしい」「ここで患者さんに教えられ、成長したい」という気持ちが自然に生まれ、育っていったのではないかと思っています。

 

写真4

クリニックの理念の下に結束し、院長とともに成長するスタッフ。仲間たちと、患者さんと友達になる場所をつくり上げていきます。

 

一番身近な人を大切にできなければ、患者さんも大切にできない

「患者さんファースト」でやっていたぽよぽよクリニックが危機に陥ったのは、私の「自分が一番」という考えが根底にあったからでした。それに気付くきっかけは、ある人からの「あなたにとって何が大切か」という問い掛けでした。

人は一人では生きていけません。家族や同僚、友人など、周囲に支えられて生活し、日々を生きています。ところが、言葉では分かっているものの、支えられているのが毎日となると当然と思ってしまうのか、当時の私は周囲への感謝を忘れ、いきなり「患者さん」に集中しようとしました。

 

写真5

 

けれど、周囲の人を通り越して「患者さん」に愛を注ごうとしてもうまくはいきません。それどころか自分を含め、誰も幸せにすることができない。一番身近にいる妻、次に家族、そして職場のスタッフの順番で大切にしていくことで初めて患者さんに愛が流れ、想いが伝わっていく。私にはそれが分かっていなかったのです。

身近な人を大切にしないと愛は伝わっていかない。

 

282_図1

人は周囲の人に支えられて生きている。身近な人と愛情ある関係性を築くことで、幸せが円を描くように静かに広がっていく。

 

 

「患者さんと友達になる医療」の作り方

繰り返しになりますが、「患者さんと友達になる医療」とは、医療のプロとして患者さんに寄り添い、良い人間関係を築いていくことで、安心して治療を受けていただく医療です。

患者さんや家族に同調して心を乱し、一緒に落ち込む関係ではありません。同調ではなく共感を大切にし、医療人として気持ちに寄り添うことで心を保ち、「同じ方向を見ている」ことを心と言葉で伝えながら患者さんと良い人間関係を築いていくものです。
気持ちに寄り添うためには、寄り添う側の心の準備も大切です。ぽよぽよクリニックでは、毎日の朝礼で円陣とハイタッチをしています。これも気持ちを1℃高め、プライベートから仕事へと気持ちを切り替える工夫です。

また、この医療を実践するには、こちらが心を開いて、相手の心に伝えなければなりません。まずは自分から心を開いて、笑顔で挨拶をする。そして、患者さんの気持ちに寄り添うために、相手の話をしっかり聞く。「同じ方向を見て寄り添っていますよ」という気持ちは、患者さんに必ず伝わります。そうすると心を開いて悩み事を打ち明けてくれたり、嬉しいことを教えてくれたりするものです。

想いというのは身近な人から伝わっていくものです。「医療者はIQよりもEQが大切だ」というのが私の考えですが、EQは、家族との生活の中で「身近な人ファースト」を実践していくことで鍛えられ、結果的に患者さんに寄り添うことにつながると考えています。「あなたにとって何が大切か」を自身に問い掛け、EQを鍛えるイメージを持って生活してみてください。

 

理想の医療の実現に必要なものは、「自ら変わる」という意識

ぽよぽよクリニックの「患者さんと友達になる医療」に限らず、病院勤務医の皆さんもより良いチーム医療を目指して頑張っていらっしゃると思います。ただ、チームとして横とのつながりが建前で終わり、柔軟性のない考え方をしてしまってポリシーだけで取り組もうとすると、理想のチーム医療は遠く感じるかもしれません。

もし、自分は一生懸命やっているのに相手が変わってくれない、だからうまくいかないと感じているのなら、まず自分が変化してください。他人と過去は変えられませんが、自分と未来は変えることができます。
ダーウィンの言葉に「生き残るものは強いものではない。変化に耐え得るものである」があります。変化を不安に思うのは、「安心の殻」の中にいるからです。殻を破るのは不安かもしれませんが、破ることで本領を発揮しやすくなり、使命を果たしやすくなって、幸せに近づきます。安心の殻を破って心を開き、想いを伝えてください。
そして肝心なのは、伝え方です。伝えるときは心で伝えましょう。頭で伝えると頭に、心で伝えれば心に伝わります。人間は感じて動く動物ですから、心に訴えないと動きません。これは易しいことではありませんが、想いが良ければいつか相手は心を開き、あなたの想いを分かってくれるはずです。

 

写真6

 

また、医師は「お医者さんパラダイム」に陥りがちです。威張るのは嫌いなはずの私も、恥ずかしながら「自分は医師だから偉い」と思っていた時期があり、先輩医師や医師会長にへりくだっていたこともありました。そういうパラダイムが自分にもあることに気が付けば自ら変わりたいと思うはずですし、そこから脱出できれば医者である前に「人」として同じ目線で誰とでも接することができるようになり、患者さんだけでなく、家族や同僚、スタッフ、友人との距離も縮まって、物事がうまく進んでいくようになるでしょう。

 

ぽよぽよのキャストが日本一になるのを見守りたい

ぽよぽよクリニックでは2017年、全キャスト(ぽよぽよクリニックではスタッフのことをキャストと呼んでいます)10人にぽよぽよで実現したい夢を本気でプレゼンしてもらう「夢プレ」を実施しました。ここを自分の居場所として共に考え、成長しながら働いているのは、神様が与えて下さった何らかの縁であり、意味があるはずだから、自分の果たしたい夢を明確にしようというものでした。2018年は「夢を語っているだけではなく、夢に向けて一歩を踏み出し、実現しよう」という目標を掲げています。

 

写真7

 

キャストが夢の実現に向けてスタートさせた「ぽよカフェ」では、離乳食教室「もぐもぐ広場」に続き、私に伴って7回の転居を繰り返した妻が転勤族の「居場所」を作ってあげたいと企画した「にこにこ広場」が開かれています。また、外来小児科学会でのワークショップやぽよぽよクリニックの見学会などの院外活動において、キャストが自信と誇りを持って自身の仕事やぽよぽよの良さを紹介しているのを見るのは、とても幸せなことです。

想いというものは愛だけが伝わるのではなく、夢や志も一緒に伝わっていきます。私の「患者さんと友達になる医療」という夢がキャストへと伝わり、キャストが自分の仕事に志と誇りを持って同じ夢を叶えようとしています。今後は彼らが日本一のキャストになれるよう手助けし、成長を見守りたい。またぽよぽよの見学会やワークショップを通じて私たちの活動を多くの人に理解していただき、共感してくださった方に活用してもらうことで、日本中に「患者さんと友達になる医療」を広げていけたらいいなと思っています。

(聞き手=よしもとよしこ[吉本意匠]/ 撮影=吉本拓也[吉本意匠])

 

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田草 雄一(たくさ・ゆういち)
ぽよぽよクリニック院長。1965年、鳥取県生まれ。島根医科大学(現:島根大学医学部)卒業後、同大学小児科医局入局。小倉記念病院小児科医員、隠岐病院小児科医長、島根医科大学小児科助手、国立精神・神経センター武蔵病院(現:国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター)小児神経科レジデント、島根医科大学小児科助手・外来医長を経て、2002年ぽよぽよクリニック(島根県松江市)を開業。スタッフと共に質の高い「患者さんと友達になる医療」の実現を目指しながら、学校医、園医、講師など地域医療にも貢献している。『学校医は学校へ行こう!』(共著)、講演多数。日本小児科学会認定小児科専門医、地域総合小児医療認定医。
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