現役医師が選ぶ「好きな医療漫画」ランキング【前編】~1位に輝いたのはあの名作!
医師が好きな理由&作者に聞いてみたいこととは?
数ある漫画のジャンルでも、根強い人気を誇る「医療漫画」。これまで、漫画を原作にしたドラマも数多く生まれてきました。
現役医師は、医療漫画をどのような視点で読んでいるのでしょうか。エピロギ編集部では、株式会社メディウェルの医師会員にアンケートを実施。「医療漫画」について何を思うのか調査しました。アンケート結果から見えてきたのは、実際に医療現場に立つ医師ならではの意見の数々。
前編では、人気の高かった漫画ベスト5をランキング形式で発表。その理由から作者に聞いてみたいことまで、さまざまな“現場の声”をご紹介します。
※アンケート対象:20~70代の男女303名
※アンケート実施日:2019年2月7日~25日
医師は、医療漫画を読むのか
そもそも、医師は医療漫画を読むのでしょうか。「『医療漫画』を読むのは好きですか?」という質問に対し、「はい」と答えた方は63%、「いいえ」が37%でした。
年代別に見ると、「はい」と答えた人の割合が20代100%、30代78%、40代76%、50代72%、60代63%、70代60%という結果。若い医師ほど、医療漫画との親和性が高いことがわかります。また、男女による差異はほとんど見られませんでした。
「『医療漫画』が好き」と回答した理由については、「面白いから」が最も多く、次いで「考えさせられるから」「仕事の役に立つから」「やる気が出るから」が挙げられたほか、「その他」を選んだ回答の中には「どんな情報が提供されているか、患者目線が知れるから」といった意見もありました。
その一方で、「『医療漫画』を読むのは好きではない」理由については、「リアルじゃないから」と「医療漫画に限らず、漫画は読まない」を選んだ方が、それぞれ約30%。次いで「読む時間がないから」(20%)、「プライベートでは仕事を忘れたいから」(17%)の順となりました。また「その他」を選んだ方の中には「なぜかしんどい。ドラマも見ない。」という回答もありました。
「医師が本当に読んでいる漫画」ベスト5
「『医療漫画』が好き」と回答した医師が実際に読んでいる漫画とは? 好きな理由とともに、第5位から順にご紹介します。
5位 『研修医 なな子』(森本梢子/集英社)
大学病院の外科に勤務する女性研修医の成長を、コミカルタッチで描いたホスピタルショート。1990年代、集英社の漫画雑誌『YOU』に掲載され、1997年にはテレビドラマ化もされました。
【好きな理由】
- ・若々しさ、日々新しいことを覚える楽しさを思い出すから(50代女性、麻酔科)
- ・医学部を目指していた時代を思い出して原点に帰れる気がするから(30代女性、麻酔科)
- ・リアル感(30代男性、内分泌・糖尿病・代謝内科)
4位 『ブラックジャックによろしく』(佐藤秀峰/講談社)
超一流の大学附属病院に勤める研修医・斉藤英二郎が、理想とかけ離れた日本の医療に矛盾を感じながらも、懸命に医療に向き合う。2002年から2006年まで、講談社『モーニング』に掲載。2007年には小学館の『ビックコミックスピリッツ』に移籍し、『新ブラックジャックによろしく』として連載を再開しました。2003年にはテレビドラマ化もされました。
【好きな理由】
- ・リアルだから(30代男性、整形外科)
- ・医療問題の風刺(40代男性、一般外科)
- ・研修医を題材にしており、多くの医師に共通したテーマであるから。また医学部に通う息子にも読ませたいと思える漫画だから(50代男性、整形外科)
3位 『コウノドリ』(鈴ノ木ユウ/講談社)
累計700万部発行の、産婦人科を舞台にした人気作。2012年8月の短期集中連載の時に大好評だったため、2013年春、週刊連載となり戻ってきました。2018年には風疹感染者の急増を受けて、講談社のウェブコミックサイト『コミックDAYS』で風疹エピソードを無料公開するなど、社会貢献にも取り組みます。2015年と2017年にはテレビドラマとしてシリーズ化されました。
【好きな理由】
- ・医療の不確実性を描出しているから(30代男性、循環器内科)
- ・一般の方に問題提起している部分もあって、患者に説明するときに引用したりもできるので(50代女性、麻酔科)
- ・医療従事者が読んでもおかしなところがない(40代女性、眼科)
- ・割と産科の現実が描かれているから(40代女性、婦人科)
- ・事実に限りなく近い事例がある(30代女性、産科)
- ・ノンフィクションに近い(40代男性、産科)
- ・深く考えさせられるから(40代男性、美容外科)
- ・キャラクターが立っているから(40代男性、消化器内科)
2位 『医龍-Team Medical Dragon-』(乃木坂太郎/小学館)
永井明原案、吉沼美恵医療監修。天才的な技術を持つ外科医、朝田龍太郎を主人公に、チーム医療に取り組むストーリー。2002年より小学館『ビッグコミックスペリオール』で連載を開始し、2011年に完結しました。2006年よりテレビドラマ化され、2007年、2010年、2014年にそれぞれ続編も描かれました。
【好きな理由】
- ・エンタメとして見れば面白かった(40代男性、整形外科)
- ・急変時対応(50代男性、一般内科)
- ・医局制度への皮肉がしっかり描かれていることと、いわゆる天才医師ではない、普通の医師についての描写が丁寧であること(40代男性、小児科)
- ・医療技術もさることながら、医療を取り巻く問題についていろいろ考えさせられるから(40代男性、精神科)
- ・麻酔科医師の存在感が強い(50代男性、麻酔科)
1位 『ブラック・ジャック』(手塚治虫/秋田書店)
手塚治虫による不朽の名作。無免許の天才外科医、ブラック・ジャックが活躍する物語です。死の危機に直面した患者を奇跡的に助けますが、莫大な代金を請求します。手塚自身が医師免許を持っていたことから、「医者になるならこんな医者がいい」という理想を描いたといわれています。1973年から1983年にかけて、秋田書店『週刊少年チャンピオン』にて連載。映画やテレビドラマなど実写化のほか、アニメ化もされています。
【好きな理由】
- ・子どもの頃、漫画を読んで医師になりたいと思った(50代男性、整形外科)
- ・小学生の頃に出会ってからまったく色あせていない手塚漫画の中の傑作(50代男性、泌尿器科)
- ・冷淡であるが、人情味も兼ね備えている(60代男性、精神科)
- ・ありえない医療が出てくるけど、ヒューマニズムが感じられる話が多いので好き(60代男性、眼科)
- ・思いもつかない発想で医療に立ち向かう姿(50代男性、心臓血管外科)
- ・既存の勢力とは独立して、患者目線で患者を診る(60代男性、消化器内科)
- ・時代に合った医療が面白い(40代男性、小児科)
- ・全体に社会風刺が効いている(50代男性、一般外科)
- ・きれいごとだけでなく、医療や社会の矛盾などを考えさせられるから(40代女性、神経内科)
- ・医療に絶対はない(30代男性、一般内科)
【番外編】テレビドラマ化され好評だった『ラジエーションハウス』(原作:横幕智裕 作画:モリタイシ/集英社)にも注目!
横幕智裕原作、モリタイシ作画による、診療放射線技師を主人公とした医療漫画。病や怪我の根源を見つける放射線のエキスパートたちを描きます。2015年から集英社の『グランドジャンプ』にて連載中。2019年4月スタートのフジテレビ系「月9」枠にてテレビドラマ化され、話題になりました。
【好きな理由】
- ・放射線科の漫画が珍しく、メジャーになれば(30代男性、放射線科)
- ・今までにない視点だから(50代男性、麻酔科)
- ・画像診断の魅力を伝えているところ(50代男性、腎臓内科)
このほかに挙げられた漫画タイトルを、得票の多かった順にご紹介します。
▼6位
・『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』(原作:草水敏 作画:恵三朗/講談社)
・『メスよ輝け!!』(原作:高山路爛 作画:やまだ哲太/集英社)
▼8位
・『Dr.コトー診療所』(山田貴敏/小学館)
・『ゴッドハンド輝』(山本航暉/講談社)
▼10位
・『スーパードクターK』(真船一雄/講談社)
・『麻酔科医ハナ』(なかお白亜/双葉社)
▼12位
・『JIN-仁-』(村上もとか/集英社)
・『K2』(真船一雄/講談社)
・『はたらく細胞』(清水茜/講談社)
・『マンガで分かる心療内科』原作:ゆうきゆう 作画:ソウ/少年画報社)
▼その他
・『がんばれ!猫山先生』(茨木保/日本医事新報社)
・『Dr.クマひげ』(原作:史村翔 作画:ながやす巧/講談社)
・『最上の名医』(原案・取材:入江謙三 作画:橋口たかし/小学館)
・『おたんこナース』(原案・取材:小林光恵 作画:佐々木倫子/小学館)
・『神様のカルテ』(原作:夏川草介 作画:石川サブロウ/小学館)
・『看護助手のナナちゃん』(野村知紗/小学館)
・『腐女医の医者道!』(さーたり/KADOKAWA)
・『記憶の器』(佐藤良和/メディカルコミックプロダクション)
・『デルマな日常』(デルぽん/ライブドアブログ)
医師が漫画の作者に聞いてみたいこと
「もし作者に質問できるとしたら、どんなことを聞きたいですか?」との質問には、以下のような回答が寄せられました。
■ 医療漫画を描く動機や作品のアイデアについて
- ・なぜ興味を持ったのか(30代男性、循環器内科)
- ・どんなときにこの作品の最初のアイデアを思いつきましたか?(50代男性、精神科)
- ・着想のヒント(40代男性、小児科)
- ・継続するモチベーションは?(30代男性、放射線科)
- ・作品に込める思いについて(50代男性、呼吸器内科)
- ・マイナー科漫画を描くならどの科がいい?(40代女性、眼科)
■ 取材の進め方について
- ・疾患の選び方(40代男性、皮膚科)
- ・どういう先生をモデルにされたか(40代男性、精神科)
- ・ネタを提供してもらうのは一人ですか?(50代男性、消化器内科)
- ・どうやって臨場感を出していますか?(40代女性、婦人科)
- ・どのくらい取材に時間を費やしているのか(40代男性、一般外科)
- ・どのように情報収集をして、忖度なしに提示できているのか(40代男性、循環器内科)
- ・どのように取材をしているか、またどのように膨らませてドラマ性を持たせるのか(40代男性、泌尿器科)
■ 漫画や作者自身について
- ・どうやって医学知識を得たか?(50代男性、一般内科)
- ・一番印象的なエピソード(40代男性、その他)
- ・必要悪まで描きたいかどうか(40代男性、産科)
- ・絵を描くときに何に一番心を配っているか(30代女性、放射線科)
- ・ご自身の死生観(40代男性、内分泌・糖尿病・代謝内科)
- ・社会に与える影響をどう考えているか(40代男性、緩和ケア)
■ 医療・医師の在り方について
- ・超高齢社会での医師としての在り方について(30代男性、精神科)
- ・医療は人を幸せにしましたか?(20代男性、泌尿器科)
- ・新生児医療と人工授精について(30代男性、消化器内科)
- ・AIには精神科医ができるでしょうか?(50代男性、病理診断科)
医療漫画の不朽の名作「ブラック・ジャック」が、見事、好きな医療漫画の1位に輝きました。連載開始から約50年を経てなお、手塚治のメッセージは色あせず、医師に届き続けているようです。
また、今回のアンケートでは、約6割の医師が医療漫画を好んで読んでいる実態も明らかになりました。医師を目指すきっかけになったり、患者への説明に活用したり、エンターテインメントとして楽しんだりと、医療漫画との向き合い方は人それぞれ。読み解く視点も、医療の抱える問題や患者を治療することの難しさなど、日々の悩みや医師としての思いを反映したものが目立ちました。
後編では、より踏み込んで、医師ならではの愛あるツッコミや、医療漫画の社会に与える影響についての意見をご紹介します。
なお、エピロギ編集部では、漫画家の鈴ノ木ユウ先生にインタビューを敢行。寄せられた質問をご本人に直接お聞きしました。気になるその答えは後日公開いたします。
(文=プレスラボ)
※アンケートの回答を一部抜粋、編集している場合があります。
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