医師アンケート企画

現役医師が選ぶ「好きな医療漫画」ランキング【後編】~医師が考える「医療漫画が社会に与える影響」とは?

数ある漫画のジャンルでも、根強い人気を誇る「医療漫画」。これまで、漫画を原作にしたドラマも数多く生まれてきました。

現役医師は、医療漫画をどのような視点で読んでいるのでしょうか。エピロギ編集部では、株式会社メディウェルの医師会員にアンケートを実施。「医療漫画」について何を思うのか調査しました。アンケート結果から見えてきたのは、実際に医療現場に立つ医師ならではの意見の数々。前編では、医師に人気の高かった漫画をランキング形式でご紹介しました。

後編では、医師ならではの愛あるツッコミや、医療漫画の社会に与える影響についての意見をご紹介します。

※アンケート対象:20~70代の男女303名
※アンケート実施日:2019年2月7日~25日

 

医師が、医療漫画にツッコミたくなることとは?

「好きな漫画に限らず、これまで『医療漫画』を読んでいて、ツッコミを入れたくなったことはありますか」という質問に対して、「はい」が71.5%、「いいえ」が28.5%という結果になりました。

 

 

「どのような場面についてのツッコミですか?」との問いには、「医師の仕事でないことを医師がしている」との回答が最も多く寄せられました。また、「あまりにも現実離れしている」「あまりに古い治療方法でリアルじゃない」などもありましたが、漫画が描かれた時代背景なども関連しているかもしれません。

 

ツッコミを入れたくなる場面

具体的に、ツッコミを入れたくなる場面についての回答もありました。

  • ・病院の屋上は出入りできない(40代男性、精神科)
  • ・医者はそんなに愛想よくしゃべらない(40代男性、リウマチ科)
  • ・主人公がむちゃくちゃ熱意ある設定が多いが、研修医が終われば楽できるところを探す人が多いので、あんな主人公は存在しない(30代女性、精神科)
  • ・聴診器が反対(50代男性、循環器内科)
  • ・モニターが少ない(20代男性、泌尿器科)
  • ・医療者個人がクローズアップされ、日本の医療における政治的・社会的な側面の問題が取り上げられていない(50代男性、精神科)

 

「漫画はあくまでも漫画として楽しめばいい」という意見も

  • ・ほぼすべての漫画に気になる点がありますが、特に人気がある漫画はそれを好んでいる層があるということであり、あれこれ突っ込むのは野暮だと思っています(50代男性、一般内科)
  • ・リアルでないのは医療漫画に限らないので漫画は漫画として楽しめばよい(30代男性、一般内科)
  • ・一般の人の見方をするのはしょうがないので、その上で全く医療的に間違っていなければ、面白くするのはよいのではと思います(50代男性、産科)
  • ・漫画となると一般の方も読みやすくそこから理解することもあるだろうし、正しいことをあまり誇張せずに書いていただければ有益だと思う(60代女性、形成外科)

 

医療漫画が社会へ与える影響について

「医療漫画」が患者や社会に与える影響についてどう感じているかを質問したところ、以下のような回答が得られました。

 

現実とのギャップを感じる点

  • ・無理な展開、医療に過剰な期待を抱かせない方がいい(30代男性、一般内科)
  • ・医師が過度にヒーロー的に描かれているのはどうかと思う(30代男性、精神科)
  • ・そんなに劇的な出来事なんて、ほぼ遭遇しない(50代男性、一般内科)
  • ・一人で何でも出来すぎ(30代男性、一般内科)
  • ・医師を美化しすぎると思う(30代男性、一般内科)
  • ・救急や外科系のスーパーマン的な側面を誇張し過ぎないで欲しいです。医師も人ですから(50代男性、病理診断科)

 

読者である患者への影響を指摘する声も

  • ・時々「医療漫画」の内容を鵜呑みにして、病院や医師について勝手な決め付けをしてくる人がいる(60代女性、麻酔科)
  • ・過剰な期待が怖いです(50代男性、精神科)
  • ・影響は結構あると思います。正確に描かれていれば医療者に対する幻想も減るのではないかと期待します。一方でスーパードクターがいるかもしれないという幻想は生むかもしれません(40代男性、麻酔科)
  • ・読者は現実と漫画の境が分からなくなる。すべてがハッピーエンドではない(60代男性、麻酔科)
  • ・広く浅く、医療知識を啓発するのに役立つ一方、間違うと不安をあおることになりそう(40代男性、緩和ケア)
  • ・奇跡がいつも起こることを期待される(40代男性、循環器内科)
  • ・カリスマスーパードクターがいると誤解を与える(50代男性、麻酔科)
  • ・フィクションとノンフィクションを混同している患者様が増えている(50代男性、産科)
  • ・ヒットしてしまうとその内容が間違っていいても一般の方にはそれが正しいと思い込ませてしまうことがあり、それを正しく導くのが大変なことがある。治療法や考え方は一つではないので、その患者にとってどちらが正解かはケースバイケース。そこを説明すると時間がかかることがあったりして、これは実際の医療とは違うという点を強調したりしてほしい。テレビドラマでもそうですが(50代女性、麻酔科)

 

医療について社会が考えるきっかけになることを望むとの意見

  • ・社会が医学や医療問題を考えるきっかけとして医療漫画自体の存在はよいと思う(50代男性、検診・人間ドック)
  • ・仕事の過酷さを訴えて欲しい(50代男性、循環器内科)
  • ・医療現場の悲哀、矛盾や葛藤を伝える場になるとよい(50代男性、脳神経外科)
  • ・医師の葛藤を描写して一石を投じている(30代男性、消化器内科)
  • ・リアルさがほしい。内科医も主人公にしてほしい(40代男性、老人内科)

 

医療漫画が役立つと感じること

■ 患者への啓蒙

  • ・正しい知識を持ってもらうのに便利(50代女性、小児科)
  • ・正しく描かれている医療漫画は患者への啓蒙に役立つと思う。特に『コウノドリ』は患者さんたちにぜひ知っておいてほしいことばかり(40代女性、眼科)
  • ・『コウノドリ』はあらゆる病院、クリニックに置くべきだと感じる(20代男性、検診・人間ドック)
  • ・医療についてより分かりやすく伝わる一助となっていると思います(40代女性、婦人科)
  • ・漫画はイメージしやすく正しい知識を理解しやすいのでは(50代女性、精神科)
  • ・知識をつけることで医師任せではなく医療が受けられるのであれば、良いのではないかと(40代男性、放射線科)
  • ・マイナーな診療分野の啓蒙になる(50代男性、消化器外科)
  • ・最近は、優れた漫画が増えている。良い影響を与える本が増加している(50代男性、精神科)

■ 医療従事者への啓蒙

  • ・医療従事者になろうという人が増えるし、これまで知られていなかった医療業務(病理など)が知られるようになるのでいいと思う(40代女性、一般内科)
  • ・真剣に医療を志す動機になったり、医療現場の苦しさを理解してもらえたりするきっかけになることはあるようで、その点はありがたい(40代男性、小児科)
  • ・麻酔科・病理・放射線科など、普通の人がイメージできない漫画は、知名度向上になるので良いかもしれません。私から見ても病理医の『フラジャイル』は、病理のことは全く分からなかったのにそれなりに楽しめました(30代男性、放射線科)

■ 医療を考えるきっかけになる

  • ・日常の出来事として捉えられるのでよい(70代以上、男性、婦人科)
  • ・ある程度は世間に現状などを知らせる媒体になっていると思う(60代男性、眼科)
  • ・うまく使えば医療の問題や今後の在り方について一般市民が考える機会となる(40代男性、内分泌・糖尿病・代謝内科)
  • ・タイムリーなテーマを取り上げればとても影響があると思っている(50代男性、整形外科)

 

医療漫画に期待したいこと

■ 社会へ広がってほしいこと

  • ・正しい医療情報が一般へ伝播されると良いと考えます(50代男性、その他)
  • ・障害や弱者に対する思いやりや理解、うわべや外見だけじゃなく人生をもっと深く見つめる入口として、さらに世に広まってほしい(60代男性、検診・人間ドック)
  • ・正しい倫理観を持つ医師を志す子どもたちを増やせるような作品、患者さんたちが、正しい受診の仕方や病気の理解を持てるような作品等を生み出して欲しい(50代女性、人工透析科)
  • ・高齢化社会では、医療は大きな社会問題です。このような問題を、国民が共有する際に、芸術の力は欠かせません。医療漫画というジャンルに興味をもっていただければと考えています(40代男性、麻酔科)

■ 医師の気持ちを代弁してほしい

  • ・医療現場の実情を分かりやすく伝えてほしい(40代男性、小児科)
  • ・医者の心の動きや、治療の限界など、わかりやすく描写している。医療は万能ではなく、不確実なものという認識を、世間に啓発してほしい(40代男性、神経内科)
  • ・子宮頸がんワクチンなど、必要なことをより強調して発表してほしい(30代男性、循環器内科)

■ 医療従事者が増えることを期待

  • ・これを機に医師になりたいと思った人が結構いることは喜ばしい(50代男性、泌尿器科)

医療漫画が社会へ与える影響については、医師への過度な期待を持たれることについて懸念しているという意見が多く見られました。それらの声を見ていくと、医療に対する更なる社会の理解や医療が抱えるさまざまな問題の解決、医療の将来に対する切なる願い、そして医療への思いが浮かび上がってきます。
一方で、漫画だからこそできる表現や、普段は医療に関わりのない読者への啓蒙にもつながるとして、期待を込めて、好意的に見ている意見も印象的でした。

医療漫画が、より良く、医師と患者をつなぐ架け橋になってくれていることを願います。

(文=プレスラボ)

※アンケートの回答を一部抜粋、編集している場合があります。

※2019年9月11日 記事中に一部誤りがあり、修正いたしました。

 

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