子なし独居時代を迎えるにあたって

家族の有無で医師の治療判断はどう変わるのか?

研究結果から浮かび上がる終末期医療の問題点と今後の医師に求められること

津田 健司 氏(血液内科医・産業医/合同会社ケンワーク代表)

 

子なし独居時代の到来

少子高齢化の進行により、今後は「子なし独居」の方の診療にあたる機会が増えて来るだろうと考えられています。2016年の内閣府調査では60歳以上の高齢世帯のうち4%がすでに子なし独居でした。英国では、2012年に65歳以上の子なし高齢者は120万人でしたが、2030年には1.5倍の200万人になると推計されています。

 

家族の有無で、医師の治療判断は変わるのか?

年齢や合併症、臓器予備能や疾病の重症度など、患者さん自身の状態によって治療判断を変えることは、医師の間ではほぼ異論がないでしょう。では家族の有無で、医師の治療判断は変わるのでしょうか?

変わる場合があることを、多くの医師が感覚的には気付いているのではないか、と思いますが、これまで具体的なデータで検討した研究はほとんどありませんでした。本稿では、私たちの研究をご紹介しながら、家族の有無が医師の治療判断に与える影響について考えてみたいと思います。

 

ランダム化オンラインアンケート研究

2018年の3月、仮想患者を用いたオンラインアンケートによる横断研究を行いました。株式会社メディウェルのサービスを利用している会員医師の方々にアンケート回答のご協力をいただきました。

アンケートでは、仮想患者のシナリオを3つ、それぞれに家族の有無のみが異なる2パターン準備し、それをランダム化する手法を採りました。

研究参加に同意してくださった先生に、家族無し(パターンA)と有り(パターンB)のどちらか一方のパターンを、メールのABテスト機能を用いて、ランダムに割り付けました。そして、3つのシナリオの場面で、点滴や透析、人工呼吸など延べ30の手技・検査を行うかどうか、「はい」か「いいえ」で選んでもらったのです。

シナリオ1はアルコール性肝硬変の65歳男性の意識障害を伴う肺炎、シナリオ2は高度認知症の78歳女性の意識障害を伴う肺炎です。シナリオ1、2では患者・家族の治療に対する希望は特に示されていません。シナリオ3は70歳女性、閉塞性動脈硬化症患者の足壊疽です。本人は足を切りたくない、手術をしないことで死んでもよいし蘇生処置もいらないと言っていますが、家族は、本人がなんと言おうと手術や蘇生処置など何でもやってくれ、と言っています。

 

回答者の平均像は急性期病院に勤務する45歳男性医師

454人(回答率40.8%)の医師から回答を得ました。回答した医師の属性は、パターンA(家族なし)とパターンB(家族あり)で偏りはありませんでした。平均年齢は45歳、8割が男性、6割が急性期病院勤務、患者の家族に対して月1回以上病状説明をする人が7割、診療科は内科4割、一般外科1割でした。

 

家族がいない場合には人工呼吸は行われない

結果は衝撃的でした(下図、シナリオ1~3)。

 

 

 

 

私たちが予想していた以上に多くの医師が、家族のいない場合に治療を控える、と答えたのです。特に人工呼吸を行うと答えた医師は、家族がいる場合、シナリオ1、2、3でそれぞれ55.6%、31%、33.3%でしたが、家族がいない場合は39.1%、21.0%、10.9%まで減少しました。

これは、一度人工呼吸器を装着してしまうと、医師の判断や自己都合で外すことができないため、子なし独居老人がいわゆる「植物状態」になることを恐れて、なされないものと思われます。

また、医師がもし自分が同じ患者さんの立場だったらどうするかという考えを、家族のいない高齢者に適用しているのかもしれません。なぜなら多くの医師は自分自身の終末期には心肺蘇生処置を望んでいないからです。

2018年の政府調査で、末期がん、重症心疾患、高度認知症になった場合に心肺蘇生処置を望むか、という質問に対して一般国民の69.2%、67.4%、71.9%が望まないと答えたのに対し、医師は89.3%、87.6%、90.1%が望まないと答えました。

 

本人が拒否しても家族の希望で足切断や蘇生処置

一方で家族がいる場合に、訴訟リスク回避や家族の納得のために、必要以上の治療がなされている可能性もあります。シナリオ3では、約30%の医師が本人の意思よりも家族の意見を優先して、足の切断や心臓マッサージ、人工呼吸などを行う、と答えました。

日本では伝統的に、患者の自己決定権が家族の意思決定よりも下位におかれることがあります。例えば、米国では本人の意思表明のみで臓器提供が可能ですが、日本では本人による文書での明示的な臓器提供の意思表示があっても、家族が反対した場合には臓器は提供されません。

一方で、本人の意思が尊重される米国においても家族の過干渉はがん診療現場で問題となっており、対応するメディカルチームの整備が進んでいます1)。米国や他の諸外国で今回の研究と同じアンケートをしたら、どのような結果になるのか、非常に興味深いところです。

 

終末期に向けて医師に求められるアドバンス・ケア・プランニングでの役割

家族がいてもいなくてもそれぞれに問題がありそうです。では自分らしい終末期を迎えるにはどうしたらよいのでしょうか? 私はアドバンス・ケア・プランニングが重要だと考えています。

亀田総合病院、疼痛緩和ケア科医師の蔵本浩一医師はアドバンス・ケア・プランニングを「将来の意思決定能力の低下に備えて、患者とその家族でケア全体の目標や具体的な治療・療養について話し合う過程」と定義しています2)

中でも、具体的にどのような医療行為を受けたいか、受けたくないか、自分で判断ができなくなった場合は誰に今後の治療について自分の代わりに判断してもらいたいか、を決めていくことが大切でしょう。このような事を記載した文書を「事前指示書」といいますが、厚生労働省の調査では、66%の国民が事前指示書の作成を支持しているにもかかわらず、実際に準備をしているのはわずか8%でした。

家族の有無にかかわらず患者が望ましい終末期を迎えるために、主治医のイニシアチブが求められています。

<参考>
1) Baker FX, Gallagher CM. Identifying and Managing Undue Influence From Family Members in End-of-Life Decisions for Patients With Advanced Cancer. J Oncol Pract. 2017;13(10):e857-e862.
2) http://www.kameda.com/patient/topic/acp/index.htmlより一部改変

 

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津田 健司(つだ・けんじ)
2010年北海道大学卒業後、亀田総合病院初期研修医、同院血液・腫瘍内科後期研修医。2013年から帝京大学ちば総合医療センター血液・リウマチ内科にて勤務。2018年より合同会社ケンワークを設立し、産業医としても健康増進の実践の場を広げている。医療ガバナンス研究所 客員研究員。
研究活動・論文執筆も精力的に行い、子宮頸がんワクチンの新聞報道調査を米国医学誌に発表した。

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