いまどき男性医師の育休事情
育休中の給付金引き上げの検討や大臣の育休取得が世間を賑わすなど、男性の育休取得が話題です。休日に出かける親子連れで、お父さんと子どもの組み合わせを目にすることも増えてきたのではないでしょうか。「イクメン」が推奨され、ライフネット生命の意識調査では6割超の男性が育児休業(以下、育休)取得を希望するなど、子育てへの意識はゆっくり、しかし確実に変化しているようにみえます。
一方、同僚男性の育休取得を「不快に思う」人が20%に達するという同調査の回答結果もあり、職場の理解不足が懸念されます。厚生労働省が発表した平成30年度の雇用均等基本調査によると、男性の育休取得率は6%台で、前回調査から取得率は向上したものの一ケタ台と低迷したままです。
では、医師の場合はどうか。今回は、実際に育休を取得している男性医師、そして取りたいと考える男性医師の割合など、男性医師の育休事情についてご紹介します。
1.医師もそうでない男性も、育休取得率の低さは変わらない
厚労省の平成30年度雇用均等基本調査によると、男性の育休取得率は6.16%。これに対し女性は82.2%です。出産を理由とした退職者もいることを踏まえると、育児の主体は依然として女性であることがわかります。男性の取得期間は「5日未満」が36.3%、次いで「5日~2週間未満」が35.1%となっており、2週間未満が7割を超えました。10カ月~18カ月未満に61.1%が集中する女性と比べ、その短さは顕著です。
平成27年の同調査では、男性の育休取得率は2.65%とこの3年で3.51ポイントの上昇、取得期間も3年前は5日未満が56.9%だったことを思えば前進しているものの、まだまだ男性の育児参加が進んでいないのが現状です。
医師の場合も、傾向は同様です。日本医師会が発表した「男女共同参画についての男性医師の意識調査報告書」(平成26年2月)によれば、男性医師の育休取得率は2.6%。そのうち、取得期間が1カ月未満の割合は71.8%となっています。
2.男性医師の「仕事と家庭」の現状
なぜ男性医師の育休取得率は低いのでしょう。ここからは「男女共同参画についての男性医師の意識調査報告書」から、男性医師の育休に関する状況を見ていきます。
※以降、報告書表記に従い、「育児休暇」の表記を使用
育休を“取れない”背景
日本医師会男女共同参画委員会・勤務医委員会は、平成26年2月、20~60代の男性医師6,946人から回答を得た同報告書を公開しました。先に行われた女性医師を対象とした調査で「男性中心の医療界の意識改革の必要性」が訴えられたことを受けたものです。
※設問ごとに有効回答数は異なります。
■男性医師の労働時間
上記のグラフでは、家を出てから帰宅するまでの時間を労働時間としています。12~18時間の人は78%。男性医師の労働時間は、やはり長いようです。
例えば労働時間15時間、睡眠が5~6時間とすると、食事などを除いて子どもの世話をする時間はほとんどないでしょう。
この状況は、ワークライフバランスの実感にも影響しています。
■男性医師のワークバランスについて
男性医師の約半数は「バランスがとれていない」と感じており、そのうち「仕事の比重が重く、家事や育児には関われない」とする人が3,104人に上りました。
「仕事の比重が重い」状況で、やはり頼りたいのは家事・育児の担い手としての配偶者です。
■男性医師の配偶者の職業
医師と同居している配偶者の6割以上が専業主婦で、次に多いのが医師以外の仕事、同業の医師は僅差ながら最も少ない割合となりました。
配偶者と別居している場合(283人)でも専業主婦が53%、医師が21.6%などで、全体としても専業主婦が半数以上を占めています。
また、仕事をしている配偶者(またはパートナー)の労働時間は、回答のあった1,717人のうち77%が12時間未満。夫婦が共働きだとしても、女性のほうが家事や育児などに時間を使うことが多くなりそうです。
「育児は女性がするもの」という潜在的な意識?
未就学児を持つ男性医師の保育状況については以下の通りです。
■未就学児を持つ男性医師の保育状況
既婚者のうち配偶者が専業主婦である医師の割合は約62%。その多くが、上記グラフの「自宅で配偶者・パートナーがみている」に該当すると考えられます。共働きの場合、保育園の利用は必然性を帯びてきます。
■育児休暇の取得に関する男性医師の認識
■育児休暇を取得した男性医師の取得期間
100日以上の取得者を含むため平均日数は高めですが、人数にすると1カ月未満の取得者が約7割です。調査期間の近い厚労省の平成27年度の雇用均等基本調査では、1カ月未満が約83%(5日未満が56.9%)。1カ月以上の育休取得者の割合は男性医師が多くなりますが、傾向としては他の職種を含む場合と大きな差はないようです。
育児の分担については、約8割の男性医師が「足りない・していない」と答えています。残りの約2割は「充分」と考えていますが、育休を取得した人は2.6%(110人)です。
また、取得を「考えたことがなかった」割合は8割を超え、配偶者が仕事をしている場合でも医師自身の育休取得を検討しないケースも含まれていることがわかります。同報告書から仕事をしている配偶者の育休取得状況はわかりませんが、多くの男性医師は自分が育休を取得するイメージを描いていないようです。
「育休ではなく帰宅後や休日の育児で充分」「配偶者が働いている場合でも育休を取得する考えはない」という感覚には、潜在的な「子育ては女性がするもの」という意識が影響しているとも考えられます。
3.男性医師の育休取得に対する職場の理解不足の問題も
育休を取得する男性医師は、まだまだ少数派なのが実情です。一方で、「育児休暇の取得について」のグラフを見ると、取得者の5倍近い医師が「希望はあったが言い出せなかった」と回答しています。
また、同報告書の考察では、厚労省の「平成24年 臨床研修に関するアンケート調査」で男性研修医の育休取得希望が48.4%となったことを挙げ、「若い年代の育児に対する意識が大きく変わってきているにもかかわらず、その実現にはまだ壁があることを示す結果となった」と分析しています。
4.男性の育児休業も法的に認められた権利である
育児休業は、育児・介護休業法に基づき労働者が取得できます。同法には「原則として1歳に満たない子を養育する男女労働者」が対象として明記されています。夫婦ともに取得することも可能です。職場で規定がなくても取得することができ、勤務先は請求を拒否できません。「事業の繁忙や経営上の理由等」による拒否もできず、「人手が足りない」「周囲に迷惑がかかる」といった根拠は同法違反にあたります。
また、育児休業以外にも、「子の看護休暇」「所定外労働を制限する制度」など、子どもの保育を支えるための権利があります。看護休暇は口頭でも申請が認められ、業務の繁忙等を理由に拒否することはできない休暇制度です。所定外労働の制限は、3歳に満たない子を持つ労働者が対象になっています。
このように、育児休業の取得をはじめ、男性医師が子どもの保育を支える権利は法的に認められた権利です。
5.最後に
育児を支える法律や制度は、とても心強い存在です。一方で、男性の育休取得への抵抗感は、多忙な医療現場では周囲への負い目とあいまって、乗り越えるのが難しいこともあるでしょう。
それでも、以前「エピロギ」でご紹介した南東北春日リハビリテーション病院*のように、医師を含む男性職員の育休取得の促進に取り組む医療機関もあります。また、淀川キリスト教病院産婦人科**のように、育児中の医師に限らず、勤務医の残業時間の削減や有給取得率向上を実現させた病院も出てきています。
第3章で触れた若手医師の意識の変化や、厚労省が進める医師の働き方改革により、この先、男性医師の育休をとりまく環境も、徐々に変わっていくかもしれません。今一度、勤務先の姿勢を確かめてみてはいかがでしょうか。
*:「女性医師の『働きやすい』を叶える、ユニークな子育て・復職支援 4選」
**:「『医師の働き方改革』取り組み事例紹介|時間外労働100時間の産婦人科で、残業時間の半減を実現!」柴田綾子氏(産婦人科医/淀川キリスト教病院 産婦人科 副医長)
(文・エピロギ編集部)
<参考>
・ライフネット生命「育児休業に関する意識調査」
・厚生労働省「平成27年度雇用均等基本調査」結果の概要(事業所調査)
・厚生労働省「平成30年度雇用均等基本調査」の結果概要
・日本医師会男女共同参画委員会日本医師会勤務医委員会「男女共同参画についての男性医師の意識調査報告書」
・日本医師会男女共同参画委員会日本医師会医師再就業支援事業「女性医師の勤務環境の現況に関する調査報告書」
・厚生労働省「平成 24 年 臨床研修に関するアンケート調査」
・ハローワークインターネットサービス
・厚生労働省「イクメンプロジェクト」
・厚生労働省群馬労働局「従業員の子育てサポート企業(くるみん)取組事例集~医療・福祉業編~」
・毎日新聞「育休中の給付金引き上げ検討 企業に従業員への取得周知義務も 厚労省」
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