ロールモデルのない「道なき道」を行く、小児総合診療科医のキャリア【後編】

私が小児総合診療科医の道を歩む理由

利根川 尚也 氏(小児総合診療科医/沖縄県立南部医療センター・こども医療センター、同臨床研修センター長)

沖縄県立南部医療センター・こども医療センターの小児総合診療科に務める利根川尚也医師。後編では、利根川先生が総合診療に興味を持った理由や、小児総合診療科医のキャリアについて寄稿いただきました。

残念ながら、まだ国内では認知が進んでいない小児総合診療科。そこで働く医師のキャリアも、ロールモデルはまだ少ない状況です。そんな中で利根川医師が小児総合診療科医となる道を選んだのは、ご自身の家族からの影響や、研修期間中に経験したある出来事がきっかけだったといいます。

 

一例としての、小児総合診療科主治医制と専科・他職種連携

前編で述べてきた通り、小児総合診療科は、情報を患者家族から引き出す役割(問診診察)、診断をする役割、専科や多職種と協力しながら治療を行う役割、それらのことを節目節目で患者家族に説明する役割、急性期から慢性期にかけて長期間患児に寄り添う役割、そして各患児への視点よりもっと広い視点で医療全体を俯瞰し課題を見つけ改善していく役割、教育をする役割など、あらゆる役割を担います。

実際に沖縄県立南部医療センター・こども医療センターの小児総合診療科の仕事内容は、入院管理(Hospitalist)、小児救急診療、小児一般外来(緊急を要さないもの)、医療安全、教育研修など多岐にわたり、これらを在席する医師7名で対応しています。

新規の患児は基本的に、まず小児総合診療科が診察するシステムを取っています。新生児医療、悪性腫瘍、心疾患などの緊急性の高い重症疾患など、専科の仕事が占める割合が非常に高い患者に関しては、小児総合診療科は入らず専科にお願いすることはありますが、その他の患者は当科が初診から退院まで、必要であればその後の外来診療まで主治医を務めます。

また、小児総合診療科は、こどもの総合病院という単位でのみで必要とされるものではなく、より地域と関わるCommunity Pediatrics(地域小児総合診療科)という分野も含みます。いわゆる、日本の小児科クリニックと、こどもの総合病院を結ぶ存在とも言えるかもしれません。

諸外国では General Pediatrics(小児総合診療科)をHospitalist(入院)とCommunity Pediatrics(外来)に分けていることが多いですが、日本ではそこまでの役割分担をできるほど小児総合診療科という分野が大きくなっていませんので、両者を兼ねています。

今後、医療の選択肢も、患者家族のニーズも、あらゆる面で多様化することが予想されます。その中で、小児総合診療科への期待もますます高まることでしょう。今は、日本における同科のあり方そのものを、先駆者として模索できる時代です。このことも、小児総合診療科の隠れた魅力であるかもしれません。

 

「患者が、症状はなくても相談してくれるような医師になりたい」

私自身の話をしますと、実は医師を志したかなり初期の段階で、総合診療に興味を持っていました。

医師を目指したきっかけは、開業医であった祖父の死です。祖父は、診療所の内科医として、地域に根ざした医療を長くしておりました。葬儀で、祖父の患者様たちが涙される光景を見て、かかりつけ医の素晴らしさを感じました。

医学部を受験する際の面接で、「どのような医者になりたいか?」と質問されて「患者が、特に症状はないけれどふらっと顔を出してくれたり、病気に関係ないことでも相談しにきてくれたりするような医者になりたい」と、自分が祖父の診療所で働く姿を想像しながら答えたのを今でも覚えています。かかりつけ医とは、いわゆる総合診療医ですので、医学部に入る動機となった医師像がそもそも総合診療医でありました。

その後も総合診療医に導かれるような出来事がありました。医学部を卒業し、初期研修は福島県の太田西ノ内病院で行ったのですが、その初期研修の最後の月である2011年3月に東日本大震災を経験しました。患者でごった返す救命救急センターや外来の光景を見て、総合診療の重要性をさらに痛感しました。

そんな経験をしたのち、国立成育医療研究センターでの小児科専攻医時代に親御さんから言われた「主治医が誰かわからない」という言葉が、日本における小児総合診療科の現状や必要性を考える最後の一押しになりました。

 

小児総合診療科医のキャリアは、夢がある「道なき道」

私が小児総合診療科を志した当初は、成人の総合診療科と同様あまり認知されておらず、小児総合診療科医としてキャリアを歩むことは、「道なき道」を進むような印象でした。今でも、私の知る限り、小児総合診療科を専門として働いている小児科医は非常に少なく、「このようなキャリアになる」と提示することはまだまだできない段階です。

現在の小児総合診療科のキャリアは、諸外国によって保証されていると私は考えています。アメリカ、イギリスなどの諸外国では、小児総合診療科はGeneral Pediatricsとして確立しており、参考にすべきモデルであることは間違いありません。

とはいえ、日本では、小児総合診療科をどのような形で自国の小児医療に適応させ根付かせるのか、まだまだ暗中模索の段階にあります。諸外国で確立している理論だけであり方を決めつけることはできないし、やってはならないことだと思っています。

小児総合診療科が日本の環境に適応することで、諸先輩方が作り上げてきた日本の小児医療がさらに良くなることを、証明していかなければならないのです。そのためには、型にとらわれず、日本に合う形を模索し続けなければならないと思いますし、まずは、施設ごとでの小児総合診療科へのニーズや果たすべき役割を検証しなければならないのだと思います。

沖縄県立南部医療センター・こども医療センターでは、元来、小児科医全体に小児総合診療を大事にする雰囲気があったことから、独立した専科として確立することへの理解を得やすく、多くの方々のお力添えをいただいてきました。

前述のように、今ではほとんどの新規患者は小児総合診療科で入院するシステムを取ることができたり、専科の患者のトータルケアを任せていただいたりするなかで、徐々に思い描く小児総合診療科が実効性を帯びてきています。専科の先生方からは、「小児総合診療科の教育で、若い医師が生き生きしている」「自分の専門診療科としての仕事により多くの時間を割けるようになった」「小児総合診療科を中心に医療体制が組めるようにしたい」など、とても心強いコメントをいただいております。

ここに至るまで、そして現在も小児総合診療科が意識してきたことは、「どんな仕事も喜んでやる」ことと「専科を尊重する」ことです。小児総合診療科としてできることが少しずつでも増えれば、より理想的なあり方に近づけると思います。今後さらに、「まずは小児総合診療科に」という流れが強くなってほしいと願っています。

道のないところに道を作る作業は困難ではありますが、その成果が実り始めたときの喜びは格別です。そしていつしか、小児総合診療科が日本の医療でしっかりと認知され、足場を確立したとき、多くの先生方とともに、さらなる日本の小児医療の発展を希求していくことでしょう。

小児総合診療科のキャリアは、そんな夢のあるキャリアだと思います。

 

まだ見ぬ「小児総合診療科のあるべき形」を探して

これまで述べてきた通り、日本における「小児総合診療科」はまだまだ黎明期です。「小児総合診療科を根付かせること」を「日本の小児医療をより良くすること」に繋げるには、各専科や地域のクリニックなどの先生方、こどもに関わる他の職種の方々との連携、ディスカッションを深めていくことが不可欠だと感じています。

また、各地には、まだまだ私の知らない「小児総合診療」の形があると考えています。私自身、今のところこどもの総合病院の小児総合診療科が主な活動の場ではありますが、全国の小児医療の現場を見学に行かせていただいたり、学会などの場で色々と実務的な現状についてお話を伺ったりということをしています。

本稿をお読みの皆様からも、機会がありましたら、ぜひ色々とご意見をいただけましたら嬉しく思います。

同じく、私ども医療センターの小児総合診療科に興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、学生、初期研修医、小児科専攻医の方々、そして志を同じくする先生方など、どなたでもお気軽にご連絡いただきたいと思います。

▼沖縄県立南部医療センター・こども医療センター
卒後臨床研修センター問合せ先 >>
※「医学生・研修医の見学に関するお問い合わせ」よりご連絡下さい

今後、「小児総合診療科」のあるべき形を模索していく道中を、皆様と共に歩んで行けたら、これほど嬉しいことはありません。

 

 

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「『日本とアメリカ』x『医療と法律』——2x2の視点で見る日本の医療」加藤良太朗氏(板橋中央総合病院 副院長 総合診療科主任部長)
※関連記事の肩書きは取材当時のものになります

 

利根川 尚也(とねがわ・なおや)
沖縄県立南部医療センター・こども医療センター 小児総合診療科、同臨床研修センター長。2009年昭和大学医学部卒。太田綜合病院附属大田西ノ内病院で初期研修を、国立成育医療研究センターにて小児科研修を行う。2014年から同センター感染症科臨床研究員。その後、2015年から沖縄海軍病院での勤務を経て2016年より現職。プライベートでは2児の父。
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