働きながら考える「医師のキャリア習慣」 後編

選択肢を広げる「人とのつながり」

高橋俊介 氏(慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特任教授)

キャリアや人材マネジメントの研究をされている慶應義塾大学SFC研究所上席所員の高橋俊介先生へのインタビュー後編。
前編では医師にキャリア自律が求められるようになった背景や、フィードバックの重要性についてご紹介いただきました。
後編では、キャリアの選択肢を広げるための取り組み方や、フェーズ単位で区切るキャリアの組み立て方についてお話を伺います。



キャリア習慣その2:どのように働いていきたいかを常に考える

自分が何をしていきたいかを見極めるのは、実は簡単なことではありません。 どのような仕事が自分に向いていて、仕事の中で何をしていきたいかというのは、実際に現場で働く中で徐々に分かってくるものです。医師の場合、おおよそ30歳から35歳ぐらいになってくると、長期的にどのように働いていきたいかが見えてくるのではないでしょうか。

ただこれは、普段から考えるようにしていないと永久に分かりません。 自分は医師としてどのように働いていきたいのか。どうすれば自分は本当にHappyになれるのか。それを常に考えていくことです。

自分のキャリアを今後どう持っていきたいかを考えていれば、何かしら勉強をしていく上でも一生懸命になります。
勉強が身につく典型的なパターンには2つあり、1つは勉強している中身自体が面白いこと。もう1つは、勉強の内容がこれからの自分にとって本当に重要だと認識していること。 後者の「これからの自分」を漠然とでもイメージできていれば、勉強しようという気持ちにドライブがかかります。

 

キャリア習慣その3:異なる職業・働き方の人と広く交流を持つ

さて、自分が何をできるのか、何をしたいかを考えるのは大事ですが、自分のことばかりになっていると視野が狭くなってしまいます。そこでもう一つ重要になるのが、いろいろな場所でいろいろな働き方をしている人たちから刺激を受けることです。

特に、自分とまったく異なる働き方をしている方から話を聞くのは、非常に刺激になります。他の診療科の人や、自分の意志で大きくキャリアを転換した方を聞くと、考えてもみなかった生き方が見つかり、視野が広がります。「勤務医を一生続けるか、開業するか」の2択ぐらいで考えていたキャリアに、3番目4番目の選択肢が見えてくるものです。

選択肢を広げたら、どこかで「このキャリアを歩む」と結論づけて実行に移す必要がありますが、そこにはある意味「出会い」のような部分があります。無理に自分から動こうとしても、動けないときには動けません。逆に、思いがけないチャンスが向こうからやってくることもあります。
だから、チャンスに出会えるように、習慣的にどれだけきちんと布石を打っておくかが重要になります。好機が訪れるかどうかは、いろいろなことに興味を持っているかどうか、どういう人と付き合っているかによってまったく違ってきます。多様な人たちとのオープンな関係性を広げておくことは、刺激にもなりますし、思いがけないチャンスがやって来るきっかけになります。

特に医師は、医師以外、病院外の人たちとも積極的に付き合ったほうがよいでしょう。 例えばマネジメントをやっていくなら、ビジネスの世界でマネジメントをやっている人たちと友達になる。医師はマネジメントの情報や知識を得られますし、ビジネスマンは健康上のトラブルがあったときのために医師の友達がいるのは心強いです。双方にメリットがあるわけですね。
医師は普段、患者や看護師など、自分より立場の弱い人とばかり接しがちですが、これは非常に危険です。立場の弱い人とばかり付き合っていると、強い立場からしかものを見なくなりがちです。付き合いが狭く、ものの見方が偏っているとなかなかチャンスは見えてきません。ぜひ病院外でもいろいろな人と付き合うようにすることをお勧めします。

 

キャリアはフェーズ単位で組み立てる

キャリアは何年かごとのフェーズで区切って、スイッチしていくものです。 医師としてキャリアを積む中で、仕事漬けの何年かがあってもよいと思います。ただ、毎日16時間働くような生活を生涯続けたら、身体を壊しますし家族もなくします。かといって、初めからずっとプライベートばかり重視した働き方をしていたら、成長もしませんし、やりがいのある仕事はできません。
例えば何年かものすごく働いたら、次はもう少しプライベートの時間をとれる働き方にする。フェーズ単位で働くときは働く、休むときは休むとメリハリをつけるしかないと思います。これまでのキャリアを振り返り、今がどういうフェーズなのか、次はどういうフェーズにしたいかを考えて、自分でマネジメントしていくことが必要です。

フェーズの節目は仕事上の変化だったり、プライベートの変化だったりいろいろです。例えば自分の体力や体調に変化を感じたとき。子どもが産まれて育児が必要になったとき。あるいは親が要介護になったとき。こうした節目には家族と向き合う時期を作るのもよいでしょう。育児や介護を通じて、医師として気づけること、学べることも絶対にあるはずです。どんな経験も決して無駄にはなりません。

節目は自分の意のままにならないタイミングで訪れることも多く、それに気づけるかどうかはとても重要です。自分の身体の不調のサインを見落としていれば、身体を壊して仕事を辞めることになるかもしれない。家族に自分の助けが必要になっていることに気づけなければ、取り返しのつかない大変な状況になってからようやく気づくかもしれない。
だから、常にアンテナを高くして節目を探りましょう。自分のこと、家族のこと、病院のこと。自分自身や周囲に何が起きているかに気づけてこそ、適切なタイミングで、次のキャリアの選択ができます。

(聞き手・エピロギ編集部)

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高橋俊介(たかはし・しゅんすけ)
1954年東京都生まれ。1978年東京大学工学部航空学科を卒業し日本国有鉄道に入社。1984年米国プリンストン大学工学部修士課程を終了し、マッキンゼーアンドカンパニ-東京事務所に入社。1989年に世界有数の人事組織コンサルティング会社である米国のワイアットカンパニーの日本法人ワイアット株式会社(現タワーズワトソン)に入社。1993年に同社代表取締役社長に就任。1997年7月社長を退任、個人事務所ピープル ファクター コンサルティングを通じて、コンサルティング活動や講演活動、人材育成支援などを行う。2000年5月慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授に就任。個人事務所による活動に加えて、藤沢キャンパスのキャリアリソースラボラトリーを拠点とした個人主導のキャリア開発や組織の人材育成についての研究に従事。2011年11月から、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。

主な著書:『人材マネジメント革命』(プレジデント社)/『自由と自己責任のマネジメント』(ダイヤモンド社)/『知的資本のマネジメント』(ダイヤモンド社)/『キャリアショック』(東洋経済新報社)/『組織改革』(東洋経済新報社)/『組織マネジメントのプロフェッショナル』(ダイヤモンド社)/『部下を動かす人事戦略』(共著、PHP新書)/『新版 人材マネジメント論』(東洋経済新報社)/『自分らしいキャリアの作り方』(PHP新書)/『プロフェッショナルの働き方』(PHPビジネス新書)/『21世紀のキャリア論』(東洋経済新報社)/『新版 人が育つ会社をつくる』(日本経済新聞社)/『ホワイト企業 サービス業化する日本の人材育成戦略』(PHP新書)ほか
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