第2回 「誹謗中傷」「プライバシー侵害」を見つけたときの対処法
櫻町直樹 氏(弁護士)
前回記事(第1回 「名誉毀損」「プライバシー侵害」とは何か)では、インターネット上のどのような表現が「名誉毀損」や「プラバシー侵害」にあたるのかについて、事例を交えながらご紹介いただきました。
自分の名前をインターネットで検索してみる。好奇心や興味から一度はやってみたことがある人もいるのではないかと思います。
しかし、自分に対する誹謗中傷や自宅住所、メールアドレスなどのプライベートな情報が書かれている文章を見つけてしまったとしたら……。思わず我が目を疑ってしまいますね。
また、自分ではなく友達から「お前のこと、ネットで書かれてたぞ」などと言われて気付くこともあるかもしれません。
今回は、こうしたインターネット上の誹謗中傷、プライバシー侵害にどう対処すべきかについてご紹介いただきます。
1.本当に自分についての文章なのかを考えてみる
読んだ本人が自分のことだと思ったのだから自分のことに決まっている、と思うかもしれません。
しかし、世の中には同姓同名の人もいます。姓名が一致したからといって、自分について書かれたものだとは限りません。例えば、「弁護士の櫻町直樹」と書かれていれば、(現時点で)「櫻町直樹」という名前の弁護士は私しかいないので、私のことについて書かれたものだといえます。
ところが、これが弁護士以外も含む「櫻町直樹」だったら、同姓同名の人かもしれません。もっとも、「櫻町」という姓は珍しいので、同姓同名の人はいないかもしれませんが……。
ある文章の内容がプライバシー侵害である、あるいは、名誉毀損であると主張するには、前提として、その文章が誰のことについてのものなのかが、第三者にとっても分かることが必要です。これを、少し専門的な言葉では「特定可能性(同定可能性)がある」と言います。
「あ、自分のことが書かれている」と思っても、一呼吸おいて、例えばあなたの友人がその文章を読んだとしたら、あなたのことについての文章だと分かるかどうかを考えてみましょう。
住所や勤務先とあわせて姓名が書かれている場合は「特定可能性あり」と考えてよいと思いますが、これが趣味、容貌(身長や体重、髪型など)などになってくると、特定可能性ありというのはちょっと難しくなってきます。
2.文章を保存する
一呼吸おいて考えて、「やっぱりこれは自分のことについて書かれた文章だ」となった場合には、文章を保存しておきましょう。裁判になった場合に、証拠として使います。
保存の方法としては、シンプルに「印刷」しておけば十分です。ただし、その際には文章が掲載されているウェブページのURLも印刷される設定にするのを忘れないようにしておきましょう。
また、「画面キャプチャ」といって、ディスプレイ上に表示されている画面を「キャプチャ」して、データとして保存しておくという方法もあります。
画面をキャプチャするには、そのためのフリーソフトもありますが、(対象となる画面ウインドウを選択して)キーボードの「Alt」ボタンと「Print Screen」ボタンを同時に押下して画像データを取得し、そのデータをマイクロソフトワードなどに貼り付けるという方法でも可能です。
3.文章の削除を請求する/投稿した人物を特定する
(1)削除請求
自分のプライバシーが暴露されていたり、酷い中傷がされていたりといった文章については、一刻も早く削除したいところですね。
文章を削除する方法には、以下のようなものがあります。ただし,削除請求を公開の形でしなければならないサイトや、削除請求については公開する旨をうたっているサイトがあります。このようなサイトでは、削除請求をすることでかえって注目が集まってしまう場合もありますので、注意が必要です。
ア 問い合わせフォームやメールによる削除請求
文章の削除を請求するための問い合わせフォームが設置されている場合、あるいは、削除請求のためのメール宛先が公開されている場合があります。こうした場合には、まずは問い合わせフォームやメールを使って削除を求めることになります。
イ ドメイン(サイト)管理者やサーバー管理者に対する削除請求
問い合わせフォームやメール宛先がない場合でも、文章が投稿されている掲示板などの管理者(ドメイン管理者またはサーバー管理者)を確認して、削除を請求するという方法があります。管理者が誰であるかはインターネット上で提供されている検索サービスで確認することができます。一例として、「aguse.」(※1)というサービスがあります。
なお、管理者が「一般社団法人テレコムサービス協会」(通称:テレサ協)に加入している場合には、テレサ協が作成・公表している「侵害情報の通知書兼送信防止措置依頼書」という書式を用いて請求するのがよいでしょう。
管理者のテレサ協への加入の有無はテレサ協のホームページ(※2)で確認できます。また、「侵害情報の通知書兼送信防止措置依頼書」は「プロバイダ責任制限法名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン」(※3)に掲載されています。
ウ 裁判所への削除仮処分命令申立て
上記アまたはイの方法によって削除を請求した際、管理者がこれに応じて文章を削除してくれればよいですが、場合によって削除してくれないこともあります。
削除が拒否されてしまった場合には、「削除仮処分命令の申立て」といって、裁判所に、管理者への削除命令を出してもらうよう申立てをします。この申立てが認められ、削除命令が出されれば、多くの管理者は命令に従って文章を削除してくれます。
(2)投稿者の特定
せっかく文章を削除しても、イタチごっこのように新たな文章が投稿されるという場合、同一人物が投稿している可能性があります。
このような場合には、投稿している人物を特定し、損害賠償を求めたり、二度と投稿しないことを誓約させたり、という対応が必要になってきます。
投稿者を特定するためには、まず、文章が投稿されている掲示板などの管理者に、文章が投稿されたときに用いられたIPアドレス、タイムスタンプなどの情報を開示するよう請求します。
そして、IPアドレスなどが開示された場合には、次に、そのIPアドレスを管理・付与している経由プロバイダ(インターネット接続サービスを提供している事業者)を相手として、文章投稿の際に用いられたIPアドレスを割り当てられていた人物(インターネット接続サービスの契約者)の氏名、住所などの開示を求めます。
なお、経由プロバイダによっては任意の開示に応じてくれるところもありますが、私の経験では、多くの経由プロバイダは訴訟において開示を認める判決がされないと、開示には応じない傾向にあります。
もしプロバイダに対する開示請求訴訟で敗訴した場合には、プロバイダは開示義務を負わないため、基本的には投稿者の特定は不可能となります。
4.専門家に相談する
以上のとおり、インターネット上でプライバシーが侵害されたり、誹謗中傷が書かれたりした場合には、文章の削除・投稿者の特定という対応をすることになります。しかし、どういった内容であれば削除や開示が認められるのか、どのような請求方法を選択すべきかといった点は、なかなか自分では判断が難しいところだと思います。また、相手の姿が見えないだけに、必要以上に不安を募らせてしまいがちです。なるべく早く専門家である弁護士に相談して、対応方法について助言を受けることをお勧めします。
<参考>
※1 aguse.
http://www.aguse.jp/
※2 一般社団法人テレコムサービス協会
http://www.telesa.or.jp/about/members
※3 プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会「プロバイダ責任制限法名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン」
http://www.telesa.or.jp/wp-content/uploads/consortium/provider/pdf/provider_mguideline_20141226.pdf
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- 櫻町直樹(さくらまち・なおき)
- 弁護士。石川県金沢市生まれ。2008年に一橋大学法科大学院を修了後、2009年より都内中規模法律事務所等において、企業法務から一般民事事件まで幅広い分野・領域の事件を手がけ、2013年6月に「パロス法律事務所」(東京・九段下)開設。力を入れている分野はインターネット上の紛争のほか、ベンチャー企業の法的支援、労働問題など。
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