第6回 転職ありき、ではない人材紹介会社の活用法 [完]
「かかりつけコンサルタント」という考え方
転職エージェントガイド/平田 剛士(ひらた・つよし)氏
- 転職エージェントガイド/平田 剛士(ひらた・つよし)
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人材ビジネス(以下、HR*ビジネスと表記)向けクラウドCRM提供企業にてマーケティング&セールスを牽引。国内で最も多くの転職エージェントと接点を持つ。独立後はHRビジネスコンサルタントとして活動し、業界各社にハンズオン型のコンサルティングサービスを提供。転職エージェントガイドとしては、ビジネスパーソン向けに、よりよい転職や転職エージェント活用をレクチャーしている。3,800名以上が参加する人材紹介ビジネス向けとしては国内最大のFacebookグループ『人材紹介コミュニティ』、人材紹介と人事向けの勉強会『これからの人材紹介』、さらにビジネスパーソン向けに『転職エージェントガイド』を運営。
*:Human Resourcesの略
みなさんこんにちは。転職エージェントガイドの平田 剛士です。
前回の記事では、人材紹介会社を利用する際に『知らず知らず「お客様感覚」を持っていませんか?』というテーマでお話をしました。
全6回の連載最後は、中長期的なキャリア形成において人材紹介会社をうまく活用するコツ、「かかりつけコンサルタント」という考え方についてお話ししていきます。
人材紹介会社を利用するタイミングは転職を決意したとき?
景気がよくなると、公共交通機関やウェブで人材紹介会社の広告をよく見るようになりますね。
こうした変化は企業による採用意欲が高まり、結果として求人媒体企業や人材紹介会社にオーダーが増えることによるものです。
人材紹介会社による求職者獲得広告にフォーカスして各社のメッセージを見比べてみると、以下のようなメッセージを頻繁に目にするかもしれません。
「今スグの転職でなくてもお気軽にご相談ください」
「必ずしも転職をオススメしません」
他にも、キャリア相談会や勉強会という名目でイベントを行い、潜在的な求職者との接点を増やそうとする企業もよく見られます。
人材紹介会社のマーケティング戦略の観点から解説すると、これらの動きは中長期視点で見たときに求職者の獲得単価を下げるためのものです。
人材紹介会社としては、転職ニーズがすでに顕在化していて獲得競争率の高い求職者にとどまらず、潜在的に求職者になりうる人とも数多く接触しておきたいわけですね。
一方、求職者としてみなさんが人材紹介会社を検索エンジンで調べ登録するタイミングのほとんどが、実際に転職をしようと思いたってからではないでしょうか。
ここで筆者がお伝えしたいのは、コンサルタントへの相談は必ずしも転職相談でなくてもよいということです。
いろいろな理由が生じて、
「転職しなければならない」
「今すぐ転職したい」
という状態になってから、よーいどん!と、転職活動のスタートラインを飛び出すのではなく、転職うんぬんの前にあるぼんやりとした「このままで大丈夫だろうか」という意識の段階でコンサルタントに相談するというスタンスをもっていると、ご自身のキャリア形成をより長い目線で考えられます。
予防医療的なコンサルタント活用=定期キャリア健診
この記事を読んでいらっしゃる医師のみなさんには釈迦に説法ですが、今、予防医療が注目されているかと思います。
予防医療、特に一次予防は「健康な時期に、栄養・運動・休養など生活習慣の改善、生活環境の改善、健康教育等による健康増進を図り、さらに予防接種による疾病の発生予防と事故防止による傷害の発生防止をすること」とされています※1。
「健康な時から、健康増進や病気の予防に努める」という考え方は、実はキャリアについても同じであると私は考えています。
将来のことはまだ考えなくても良いかと放置していたところ、急に事情が変わったり、今まで無視していた不安や不満などの「ひずみ」が取り返しのつかないほどに大きくなったりして、
「転職しなくてはいけなくなった」
「今すぐ転職したい」
という状態に至る求職者は、医療でいえば病気が進行してしまってから相談にくる患者と似ているといえます。
病気はときに人命にかかわる重大事ですが、キャリアの転機も、ときに人の一生を左右する重大事です。
「あのとき、こうしていれば、こうなれたのに」
と、振り返っても過去は変えられません。であるならば、自分のキャリアについてもできるかぎり平時から意識しておきたいものです。
そこで、予防医療における定期健診のように、「定期的なキャリア健診」という考え方が出てきます。
ここでいう「定期キャリア健診」とは、転職意思の有無に関わらず、自身のキャリアの現状について第三者を通して客観的にチェックすることです。
コンサルタントからのヒアリングを通じたキャリアの現状整理と、転職市場を踏まえた客観的なアドバイスから成り立っています。
※1: 日本学術会議 予防医学研究連絡委員会「次世代の健康問題と予防医学の将来展望」(平成12年5月29日)
定期キャリア健診のメリットとは?
定期キャリア健診のメリットについて、地図に例えて考えてみましょう。
1、目的地(目標)を確認・修正できる
仕事において何を成し遂げたいのか、何のために今働いているのか、この先どこを目指していくのかといった目的地(目標)を、キャリア健診を通して確認することができます。
最初から目標があった場合もそうでない場合も、日常業務に追われていると、「自分は結局どうなりたいのか」について考えることを後回しにしがちです。キャリア健診は、自分がそもそも何を目指していたのか、改めて考えるきっかけをもたらします。
また、「こうなりたい」という目標を描いていたとしても、勤務を通して得た気づきや家庭の都合などにより、別の目標が出てくることがあります。
その場合、以前からの目標と新しい目標を天秤にかけて、どちらを優先するか改めて決め直す必要があります。
定期キャリア健診はこうした目標修正の機会にもなり得ます。
2、現在地を確認できる
キャリア健診を通じてわかる現在地情報としては、これまでの自分の経験やスキルに対する市場価値や自分に向いている仕事や職場の傾向などが挙げられます。
目的地が定まったとしても、今自分がどこにいるのかがわからなければ、道に迷ったり間違った方向に進んでしまう可能性があります。
人は自分の現在地を確認できてはじめて、どの方向に進むべきかが明確になるものではないでしょうか。
また、現在地によっては、目的地が現実的ではない場合も出てくるはずです。その場合は目的地の修正が必要になるでしょう。
3、目的地までの道順を確認できる
目的地と現在地が定まると、今度は、今歩んでいる道が適切かどうか、確認ができるようになります。
「目的地と現在地さえあれば後はどうにでもなる」という方もいるとは思いますが、無事目的地にたどり着く確率を上げたり最短距離で到着するためには、キャリアにおいても事前に適切な道順を計画しておくことが大切です。
例えば将来開業を目指している医師の場合、そのためにすべきことには、「開業資金を貯める」や、「プライマリケアを一通り学ぶ」、「経営知識やスキルを身に付ける」、「地域の医療機関とのコネクションを築く」などがありますが、計画を立てずに漫然と過ごしていると、いつまで経っても開業に進むことができません。
キャリア健診では、現在地や目的地だけでなく、現在進んでいる道順が適切かどうかについてもコンサルタントに確認することができます。
4、天候状況=医師を取り巻く環境の変化を把握できる
医師として何をしたいかは、医師という職業に与えられた働き方の可能性や選択肢に既定されます。
目的地が定まり、現在地からの道順が分かったとして、「天候=医療ニーズや転職市場」によっては、その道順がベストではなくなる、あるいは目的地自体の変更を余儀なくされるという事態が発生するかもしれません。また目的地までの到着時間も状況によって左右されるでしょう。
例えば、専門医制度の改定により医療機関の若手医師数が変動し、中堅どころの医師の負担が変わったり、資格の更新ができる医療機関が変わるかもしれません。
診療報酬の行方によっては、求められる経験や医療機関の経営状況も変わってくるでしょう。医局の影響も地域によって異なります。
開業を目指す場合も、今まで以上に地域の医療機関との関係構築が開業を成功させる条件となってくるはずです。
ときにはキャリア形成=転職という固定観念にとらわれることなく、アルバイトで必要なスキルを磨いたり、大学医局に所属しながら、週1日、地元のクリニックで働くことで地域との結びつきを作ったりするなど、市場の動きを踏まえ柔軟にキャリアを積むことが大切になってきます。
コンサルタントからは、このような医師をとりまく環境の変化や、医師のニーズの変化といった転職市場の動きを教えてもらうことも可能です。
定期キャリア健診には、このように目的地・現在地・道順・天候状況を定期的に再確認できるというメリットがあります。
無料だからこそ気を付けたい、定期キャリア健診でのコンサルタント選び
予防医療の話に戻りますが、予防のための健康チェックを医療機関で受ける場合、当然受けた検査や医師のアドバイスには費用がかかります。
一方、人材紹介会社のコンサルタントへの相談は、みなさんの貴重な時間を割くという以外、基本的に無料です。
無料で、先に挙げたメリットが得られるならば、定期的に相談して損はありません。しかし、この「とりあえず相談してみよう」というのも、ときとして注意が必要です。
なぜなら本連載でお伝えしてきた通り、人材紹介会社やコンサルタントの中には、みなさんをとにかく「転職する」「転職したい」という意志に説得しようとする人達がいるからです。
いかに人材紹介会社が、
「今スグの転職でなくてもお気軽にご相談ください」
「必ずしも転職をオススメしません」
という耳触りのいいメッセージを打ち出していても、世の中には、短期的・単発的な成果を追い求めている人材紹介会社やコンサルタントがいるわけで、そのような相手に相談しても、ときに振り回され、なかなか満足いく結果にはなりません。
このため、信頼できる人材紹介会社やコンサルタントを選ぶことが重要になります。見分け方については過去の連載記事で紹介しています。まだ読まれていない方は是非ご一読下さい。
記事参照:
第2回 信頼できる人材紹介会社の見分け方
第3回 信頼できるコンサルタントの見分け方
第4回 こんなコンサルタントは危ない!~ブラックコンサルタントにご用心
信頼できるコンサルタントには、自分から声をかけてみよう
本連載では、しばしばコンサルタントに対して受け身ではなく自発的に動いていこうというお話をしてきました。
なぜなら、お客様感覚で自身の転職活動をコンサルタント任せにするのではなく、ビジネスパートナーとしてお互いの力を合わせることで、よりよい目的地(目標)を目指せるからです(「第5回 コンサルタントの能力を最大限活用するコツ」)。
この考え方は、具体的な転職活動を目的とした人材紹介会社への登録に限らず、今回提案した定期キャリア健診という観点においても同じです。
行動量の多いコンサルタントの場合、会社の方針にもよりますが、月に20人の医師と面談し面接に同行しています。
単純計算で年間240人もの求職者と会っているわけです。その他にも電話やメールといった媒体を含めると、コンサルタントは、日々、さらに多くの求職者に接触しています。
そうした状況を考慮せず、常に自分が優先的に対応してもらえると思っていると、後悔することになりかねません。
コンサルタントの多くが、「この人は」と思う求職者には、一定タイミングで会い、メールや電話で定期的に連絡をしています。ですが、「この人は」と思われていない場合も、もちろんあるでしょうし、「この人は」の中にも優先順位があります。
こういったコンサルタント側の都合を考慮しつつ、求職者であるみなさんも「この人なら」という信頼できるコンサルタントを見つけた後は、自分起点で連絡をしてみるとよいでしょう。
この先2~3年間は転職するつもりがないとしても、みなさんが相手を信頼し、誠実に「長期的にキャリアの相談に乗って欲しい」と連絡すれば、コンサルタントも決して悪い心象を抱かないはずです。
その際、「具体的に動き始めたタイミングで連絡をくれ」と応対するようなコンサルタントは、目先の売上に追われるコンサルタントの可能性が高く、他のコンサルタントや人材紹介会社に相談をした方がよいという判断指標にもなるはずです。
コンサルタントへの相談は電話やメールやチャットでもよいとは思いますが、機微に触れる内容も多いため、やはりニュアンスも含めて伝え得られる情報量を考えると、やはり実際に会うのがよいと思います。
みなさんのスタンスにもよりますが、特にビジネスの場で会わなくても共通の趣味を頼りにしてコンサルタントとの接点をもつというのもよいかもしれません。
わたしの友人にも医師人材紹介会社のコンサルタントがいますが、釣りが好きで、定期的に医師のみなさんと船釣りにいって交流しているようです。
もちろん、大人数だと話せないこともあると思います。そんな時は、コンサルタントと二人でゆっくりランチやお茶をするのもよいでしょう。
コンサルタントに会ったときは、まずご自身の近況を伝えつつ転職マーケットの現状などを聞いてみましょう。コンサルタントも守秘義務に反しない範囲ではいろいろと教えてくれるはずです。
こうした気軽に話せるコンサルタントとの関係は、定期健診というよりもかかりつけ医のイメージに近いかもしれませんね。
これからの転職、キャリアにおける「かかりつけコンサルタント」という考え方
日本の将来的な仕組みづくりの参考として、必ず出てくるのはアメリカの現況ですね。
これは雇用やキャリアの考え方についても同様で、アメリカが人材派遣という仕組みを進めれば日本も人材派遣を普及させ、フリーランスがアメリカの雇用形態で普及してくれば※2、日本でも国策としてフリーランスを普及させようとしています。
では、転職のあり方についてはどうでしょうか。
これもみなさんご存知かもしれませんが、アメリカはレイオフ(本来の意味ではなく集団解雇)に代表されるように、企業が労働者を解雇しやすい雇用流動性の高い社会と言われています。
この解雇は直属のマネジメントの関係性等を含むため、決してパフォーマンス面だけの問題でもないようですが、一般的に解雇しやすいということは、企業は余剰労働者を社内に維持する必要がないため、結果的に採用にリソースを投下するわけです。
また企業は求職者の転職回数を過度に重視せず、能力がより重要視され、アメリカの労働者は日本と比較すると短期間で転職をする傾向にあります。※3
アメリカの求職者においても転職する際の選択肢は、大きく分けて①企業への直接応募(企業起点でのアクション含む)②知人・友人紹介、③求人メディア経由、④人材紹介会社経由の4つがあり、日本と同じです。
特にエグゼクティブの場合、よりよい待遇を勝ち取るために④の選択肢をとる人も少なくないようです。このときの人材紹介会社はどちらかというと、本連載『第2回 信頼できる人材紹介会社の見分け方』でご紹介したサーチ型人材紹介(ヘッドハンティング)です。
エグゼクティブは信頼するヘッドハンター(コンサルタントと同様の意味ととらえてください)と定期的に連絡をとり、キャリアの現状確認と転職市場の現況をプロであるヘッドハンターからキャッチアップし、いざというときに別のステージに転身するといいます。
エグゼクティブのお抱えヘッドハンター、いわば「かかりつけコンサルタント」を活用するというスタイルです。
日本の話に戻ります。
日本の医師転職市場は、有資格者である母集団の相対的少なさから、求職者、つまり医師の売り手市場です。
一方、本連載『第5回 コンサルタントの能力を最大限活用するコツ』で言及したように、勤務エリアや、よりよい条件を獲得するなどの要素を加味していくと、今後はこれまで以上に求職者が選定されるシーンが増えていくかもしれません。
常に第一線で選ばれ続ける医師でいるためには、転職市場から必要とされるスキルを高め周囲から信頼を得ていくことはもちろん、信頼できる「かかりつけコンサルタント」に定期的な相談をするというのも一つの手かもしれません。
以上で、今回の話を終わりにします。
全6回の連載でしたが、変動する医師の転職市場のなかで一人でも多くのみなさんがこれからのキャリアや人材紹介会社活用を考えるにあたって、何らかのヒントになれば筆者も幸いに思います。
※2:米国の非営利組織Upworkによる調査「Freelancing in America: 2017」では、同国の全労働人口の現在5700万人以上がフリーランスであり、2027年にはフリーランス以外の雇用を超え8600万人以上がフリーランスになるだろうと予測している。
※3:データブック国際労働比較2017、第3-12表、従業員の勤続年数(2015年)性別・年齢階級別勤続年数より。日本12.1年に対してアメリカ4.2年 http://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2017/documents/Databook2017.pdf
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