弁護士が教える医師のためのトラブル回避術

第18回 患者からの謝礼~法的に問題はあるのか?

診療行為や手術に対して患者の方が「謝礼」といって現金や金券などを渡してくれることがあります。医師が謝礼を受け取ることに法的な問題はないのでしょうか。
今回は、患者やその親族からの謝礼について取り上げたいと思います。

 

1.謝礼の受け取りは「慎むべき」―日本医師会

 近頃、謝礼の受け取りを行わないことを明示する病院も多く存在します。しかしながら、インターネット上に公表されている医師や患者へのアンケート結果などから、依然相当数の患者が医師に謝礼を渡していることが確認できます。

 日本医師会は医療行為に対する報酬や謝礼について、「医師の職業倫理指針[第3版]」で以下の考えを示しています。

 医師は医療行為に対し、定められた以外の報酬を要求してはならない。また、患者から謝礼を受け取ることは、その見返りとして意識的か否かを問わず何らかの医療上の便宜が図られるのではないかという期待を抱かせ、さらにこれが慣習化すれば結果として医療全体に対する国民の信頼を損なうことになるので、医療人として慎むべきである。

 そして同指針にて、謝礼について以下の解説を補足しています。

 「謝礼」とは、現金、贈答品を問わず患者に対する医療行為に関係して患者等から授受するものをいう(医療行為に関係なく地域の慣習による類のものとは本質的に異なる)。ただし、患者から感謝の気持ちで医療施設への寄付や研究費としての寄付などの申し出があったときには、手続きをして、これを受け入れることは許される。

 以上の通り、日本医師会は医師に対して謝礼を要求したり受領したりすることを控えるよう周知しています。

 ただし、以下ではこの指針を離れ、法律的な側面から考察してみます。

 

2.原則、公務員ではない医師なら問題ないが…

 はじめに、医師会の指針にもあるように、謝礼には現金の場合もあれば金券などその他財産の場合もあります。現金以外の物品であれば受け取りやすいかもしれませんが、どのような形であれ財産的価値を有するものであれば、法的にも謝礼に変わりはありません。

 次に謝礼を受け取ることに法律的な問題がないのかということですが、医師が公務員という立場を有しているのかどうかで結論が変わります。

 まず、公務員ではない医師が謝礼を受け取ることは原則として問題ありません。
 但し、職場の就業規則などで謝礼を受け取ることが禁止されているときは、就業規則に定められている懲戒事由に該当する可能性があり、病院との関係において問題が生じる恐れがあります。したがって、就業規則や雇用契約書を確認の上、謝礼の受領が禁止事項とされていないか、懲戒事由への該当性などは確認しておいた方がよいでしょう。

 

3.公務員であれば「収賄罪」に問われる?

 次に、医師が公務員の場合ですが、謝礼の受け取りは、刑法上の収賄罪(刑法197条)成立の可能性が存在します。

 もっとも、過去の裁判例をデータベースで調査してみましたが、著者の調査の範囲内では患者からの謝礼によって刑事事件化したものは見当たりませんでした。
 医師が関係する収賄罪で多く登場するのは「関連病院への医師の派遣」や「医療機器の購入などに便宜を図る」といった目的で、医師が病院関係者や企業から金銭を受領したようなケースがほとんどでした。

 

4. 謝礼にも所得税や贈与税がかかる!?

 最後に、税法上の問題もいくらか存在しますので、これについてご紹介します。

 職務との対価性の有無によりますが、謝礼は「事業所得」又は「雑所得」になると考えられます。そうすると、原則的にはこれら所得についても申告が必要とされ、申告を行っていない場合には追徴課税等がなされる可能性が存在します。

 但し、社交上の必要によるもので社会通念上相当と認められるものについては事業所得ではなく贈与を受けたものとして扱った上で、一定の範囲内では贈与税を課税しないという取扱いも存在します。社会通念上相当と認められるか否かについては社会的地位などにも影響されることから明確な基準はありません。私見ですが、5万円くらいが限度になるのではないでしょうか。この点、ご心配な方は顧問税理士などにご相談されてみるのがよいでしょう。

 税理士とお付き合いがない勤務医の方も、税理士にご相談いただくことで、この問題に関する課税リスクを低下させることができます。また、贈与税とは別件にはなりますが、特定支出控除など節税を行うことができる可能性もありますので、これを機会にご相談されることをおすすめします。

 

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松本 紘明(まつもと・ひろあき)
弁護士 / 弁護士法人戸田総合法律事務所、第二東京弁護士会所属。
事務所は数十社のクライアントと顧問契約を締結し、医療関係も含む。注力分野はインターネット法務、労務、離婚や男女トラブルなど。

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