弁護士が教える医師のためのトラブル回避術

第19回 医師の不倫に潜むリスク

医療関係者の方からも不倫関係や婚姻関係に関するご相談をよくお受けします。
不倫相手や配偶者が思わぬ行動をとることも少なくありません。医師の方はホームページなどでお名前が出ているケースも多いことから信用問題に発展しないよう他の職業の方以上に注意が必要です。

シリーズ第2回では具体例を用いて「医師の離婚の手続き」について解説しましたが、今回は、配偶者、不倫相手それぞれの関係性から考えられるリスクと対処法について、知っておきたいポイントを解説していきます。

 

1.不倫行為が発覚するパターン

 不倫が発覚する原因で一番多いのは、やはり不倫相手とのメールやSNSが配偶者に見つかってしまうというパターンです。不倫相手へのメールを間違って配偶者に送ってしまい発覚したという方や、下書きに保存されたものが見つかってしまった方からご相談を受けたこともあります。

 クレジットカード、高速道路(ETCカード)、交通系カードの利用履歴から疑いをもたれたり、自動車にGPSをつけられたり,携帯電話に位置情報アプリを無断で入れられたりされる方もいます。これらのことが端緒となり、配偶者本人や探偵に尾行されることにつながっていくという流れです。

 連休前やご自身の誕生日などは不倫相手と行動を共にすると予想されやすく、そのタイミングで尾行される方が多い印象です。また、配偶者に不倫をされた方からお話を聞くことも多いのですが、突然趣味が変わったり、外見を気にし始めたりするなどの行動が疑いのきっかけになることもあるようです。

 仮に医師の方の不倫が発覚し、その事実が職場に知れた場合、勤務医の方は配置換えといった処分を受ける可能性があります。また、開業医の方であればスタッフの離職やクリニックの評判の低下につながる恐れも否定できません。

 

2.医師が不倫した際の慰謝料~所得額との関連性はなし

 不倫関係が発覚してしまった場合、配偶者だけでなく、不倫相手の配偶者から慰謝料請求がなされることがあります。当事者間の話し合いや弁護士からの通知書などで慰謝料請求や関係解消の請求がなされるパターンが一般的です。

 慰謝料の金額は収入や社会的地位とはそれほど関係がないとされておりますので、訴訟提起が医師の方に対するものであっても、裁判所で認められる金額は一般の方と大差なく200万円から300万円程度です。高所得者の多い医師の方からすればそれほど大きな金額ではないかと思います。

 もっとも、上記慰謝料以外の面で大きな経済的負担を負うことになるケースもあります。ここからは「配偶者」および「不倫相手」、それぞれとの関係性において潜むリスクをご紹介します。

 

3.配偶者との関係に潜むリスク

 配偶者がいる方は、配偶者との関係において留意すべき点が大きく2つあります。

 まず、特段の事情がなければ、不倫行為に及んだ方は「有責配偶者」という立場に置かれるという点。有責配偶者の立場について端的に説明しますと、離婚をしたくとも配偶者が離婚に応じてくれなければ、相当期間の別居生活を経ないと離婚できない状況に陥るということです。お子さまのいる方でしたら、10年を超える別居生活を送っても、裁判所が離婚を認めないケースも珍しくありません。

 インターネットなどでは「不倫を行ったとしても、当時婚姻関係がすでに破綻していたのであれば離婚請求が認められる」と説明しているサイトもありますが、現実はそう簡単なお話ではありません。別居を開始して間もないタイミングで不倫行為を行っている方の場合、私の経験上、9割以上が裁判所に離婚請求を持ち込んでも離婚を認められないように感じます。従いまして、多少夫婦関係がうまくいっていなかったとしても、不倫行為はかなりリスクのある判断になることは間違いないでしょう。

 次に、経済面について予期せぬ負担をしなければならない可能性があることも留意すべき点です。先に「慰謝料の相場は高所得者にとっては大きな金額ではない」とご説明しましたが、これとは別の金銭請求がなされる可能性があります。

 法律的には「たとえ婚姻関係の修復見込みがなく別居生活をしていたとしても、婚姻関係にある以上、一方配偶者は他方配偶者の生活を自らと同等程度の水準で維持させる義務がある」とされています。具体的には、夫婦それぞれの収入から婚姻費用と呼ばれる生活費が計算され、所得の多い配偶者から所得の少ない配偶者に生活費を毎月一定額支払わなければならないとされています。

 生活費の計算方法は裁判所のホームページで公開されている「養育費・婚姻費用算定表」から確認できます。こちらの表は夫婦の収入と子どもの人数、年齢により簡単に計算できる仕組みになっています。

 参考までに、病院勤務で年収1,000万円の医師が配偶者と別居を開始したケースでは、仮に配偶者が専業主婦であり、小学生の子どもが2人いたとすれば、毎月20万円の生活費を配偶者に支払わなければならないことになります。そして、この支払義務は離婚が成立するまでの間継続するのです。年額では240万円になりますので、相場の慰謝料くらいの金額を速やかに支払ってしまった方が、長期的な視点では経済合理性があるということになります。

 このような生活費のお話は知らない方も多いのが実情ですが、請求する側が認識していれば、当然この金額も計算に入れて交渉されることになります。そのため、離婚を希望する側が「離婚できず別居生活を3年送るくらいであれば、早期解決のためにこの金額を上乗せして支払ってしまおう」と判断することもあります。

 ちなみに、ここでご紹介した生活費については「現状の計算方法では金額が低額に過ぎる」という理由で、今後見直しが始められることとなっている点も要注意です。

 その他、離婚の際には財産分与の問題も生じます。こちらに関しても「思っている以上に広い範囲で配偶者に財産を分与しなければならない」という点で驚かれる方も多いです。婚姻費用や財産分与についてはシリーズ第2回の「医師の離婚~特徴と対策~」で詳しく解説していますので、気になる方は是非ご一読ください。

 

4.不倫相手との関係に潜むリスク

 ここまで配偶者との関係に潜むリスクをご紹介しましたが、不倫相手の方から矛先を向けられることも珍しくありません。

 例えば、「結婚を約束していたにもかかわらず実は配偶者がいた」という理由で慰謝料を請求されるケースや、「実は自分の知らないところで子どもを出産していた」と知らされるケースです。後者の場合はDNA鑑定などを経て認知を行う必要が出てくることもあります。認知を行えれば当然戸籍にも記載がなされることになりますので、配偶者が戸籍を取り寄せれば、婚外子の存在とともに不倫行為が発覚することになります。

 DNA鑑定の費用については、医師にサンプルを採取してもらうような方法であれば10万円程度、自分でサンプルを採取し郵送するようなものなら1万円程度かかります。誰が費用を負担するかについては一義的に定まっていませんが、認知を求める側が負担するケースが多いと思います。

 また、認知に関連しては養育費の問題も発生します。前述では「別居をしていても配偶者には自らと同等の生活水準を維持させなければならない」とご説明しましたが、これは自らが認知した子どもにも同じく当てはまります。こちらも先程ご紹介した「養育費・婚姻費用算定表」から養育費の金額を計算することになるのですが、婚外子以外に扶養しなければならない家族がいれば、単純に表からのみでは計算を行うことができませんので、こちらの金額に合意される前に弁護士に相談されることをお勧めします。

 

5.行き過ぎた報復に注意~歯科医師が刺されたケースも

 不倫が発覚した場合の慰謝料請求や関係解消請求は、当事者間の話し合いや弁護士からの通知書などによってなされるのが一般的なパターンであることを上述しました。

 しかしながら、このようなケース以外にも、突然職場や自宅に配偶者や不倫相手の配偶者が押し掛けてくることがあります。また、不倫相手との関係がうまく精算できずストーキング行為を受けることもあります。

 2017年には、東京医科歯科大学歯学部附属病院の医学部に通う大学生が、歯科医師の首や腹を刃物で刺し大けがを負わせる事件も報道されました。大学生は歯科医師と交際女性との関係をきっかけにこのような凶行に及んだようです。

 

6.医師としての社会的立場を脅かされないために

 不倫そのものは決して褒められた行いではありませんが、上記のような行き過ぎた行為はプライバシーに関わることですし、職場は無関係ですので、プライバシー侵害や名誉毀損などに該当することもあります。

 また、相手方が「職場に告げる」と告知してくるものの実際の行動には移さないケースであっても、民事上不法行為責任を追及できる場合や、刑事上脅迫罪や強要罪に該当するケースがあります。

 万が一そのような行為を受けたり、告知を受けたりした場合は、早期に弁護士や警察に相談するなどしてストップさせることが重要です。

 

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松本 紘明(まつもと・ひろあき)
弁護士 / 弁護士法人戸田総合法律事務所、第二東京弁護士会所属。
事務所は数十社のクライアントと顧問契約を締結し、医療関係も含む。注力分野はインターネット法務、労務、離婚や男女トラブルなど。
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