勤務医ならこれだけは押さえておきたい!

2020年度診療報酬改定のポイントと、医師の働き方・キャリアへの影響

2020年度診療報酬改定は、昨年末に本体プラス改定が決まり、「医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進」が重点課題に位置づけられました。

2024年4月から勤務医の時間外労働上限規制が適用され、遵守しない医療機関には罰則が課されます。そのため、医師を中心とした医療従事者の勤務環境は、今後急速に変化していくことが推測されます。加えて、2025年を目途とする地域医療構想の実現に向け、今回の診療報酬改定の基本方針では「医療機能の分化・強化、連携と地域包括ケアシステムの推進」なども求められています。

関連する中央社会医療協議会(以下、中医協)の議論を踏まえ、昨年末に発表された基本方針から2020年度診療報酬改定のポイントと方向性を概観し、医師の働き方やキャリアへの影響を展望します。

※2月7日の改定内容決定を受け、追記しました(2020年2月20日)

 

1.重点課題は「医師の働き方改革」

■改定の基本方針と重点課題

 「診療報酬改定の基本方針」は、「改定にあたっての基本認識」および「改定の基本的視点と具体的方向性」で構成されています。「2020(令和2)年度診療報酬改定の基本方針」(以下、基本方針)では、基本的視点として、

  • 1. 医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進
  • 2. 患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現
  • 3. 医療機能の分化・強化、連携と地域包括ケアシステムの推進
  • 4. 効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上

の4つが示されました(表1)。

 

表1 2020年度診療報酬改定の基本方針(概要)

出典:厚生労働省 「令和2年度診療報酬改定の基本方針(概要)」 令和2年度診療報酬改定の基本方針(2019年12月10日)

 

■前回改定までの流れと、2020年度改定の特徴

 近年の医療政策の流れは、人口減少と少子高齢化に伴う中長期的な医療需給の変化を踏まえたものです。具体的には、2025年に団塊の世代が全て後期高齢者となり、2040年頃にはいわゆる団塊ジュニア世代が高齢者となって高齢者人口がピークを迎えるとともに、現役世代(生産年齢人口)が急激に減少していきます。これは、2040年頃まで医療需要が増加する一方で、制度の担い手が減少し、人手不足が深刻になるということであり、現行の医療制度を維持していくためには、地域ごとに質の高い医療を過不足なく効率的に提供していく仕組みが不可欠です。
 そのため、多少の微調整があるとはいえ、2025年まで、あるいは2040年までというスパンの中で「医療機能の分化・強化」「安心・安全な医療の実現」「効率化・適正化の推進」をどうするかが近年における医療政策の基本的なテーマであり、この方針に沿って医療政策が採られ、その実行手段として診療報酬改定が行われてきました。

 そのようななか、2020年度の診療報酬改定で大きく注目される点は、過去3回の改定の「医療機能の分化・連携の推進」に代わり、「医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進」が『重点課題』として位置づけられたことです(表1)。
 昨年末に2020年度改定の改定率が決まり、医療従事者の人件費などに当たる本体部分は前回同様、0.55%のプラス改定となりましたが、うち0.08%分は「救急病院における勤務医の働き方改革への特例的な対応」にあてられます1)。改定率で特定分野に枠を設けるのは異例です。これは、今回の診療報酬改定において、働き方改革への対応が、何よりも着手していかなければいけない喫緊の課題だからです。

 

2.医師の労働時間短縮への緊急的な取り組み等を評価、救急医療は手厚く加点

■勤務時間短縮に向け医療機関に求められる対応

 昨年3月にまとまった「医師の働き方改革に関する検討会報告書」2)では、2024年度から適用される勤務医の時間外労働の上限時間が示されましたが、その内容は病院経営者にとってかなり厳しいものといえます(図1)。
 なかでも、時間外労働の上限が年間1,860時間以下となる「地域医療確保暫定特例水準(B水準)」と「集中的技能向上水準(C水準)」の対象候補となる医療機関では、上限規制が適用される2024年度までに、勤務環境改善への取り組みタスク・シフティングの推進等に加え、時間短縮計画の策定や新たに設けられる第三者評価「評価機能」の受審が必須となります。

 したがって、年間1,860時間超の勤務医が在籍する医療機関は、残り4年ほどでその状態を解消しなければならず、また上限時間が年間960時間の医療機関(A水準)でも、時間外労働が960時間を超える医師が一人でもいた場合は時短計画に沿って勤務時間短縮を進めていかなければなりません。まさに「待ったなし」の状況ですが、こうした取り組みには時間だけでなく費用もかかることから、2020年度診療報酬改定では重点課題として診療報酬上の評価を検討していく考えです。

 

図1 医師の時間外労働規制について①

出典:厚生労働省 「医師の働き方改革に関する検討会報告書の概要」(2019年3月29日)

 

■新たな評価で搬送件数の多い救急病院の医師の長時間労働短縮へ

 前回改定でも「医療従事者の負担軽減、働き方改革」が基本的視点に挙げられましたが、算定要件に勤務環境改善を加えたり、医師の専従要件や勤務場所の規定を緩和したりするなど、既存点数の見直しが中心でした。
 今回は、先述の特例的に設けられた診療報酬財源を用いて、特に長時間労働が多いとされる救急病院における新たな評価が行われる見込みです。厚生労働省は2019年12月18日の第442回中医協総会で、搬送件数年間1,000件以上の医療機関で地域の救急受入れの大半を担っていることや、年間2,000件以上の医療機関で長時間勤務になっていることを示すデータを提示しました(図2)。年間の搬送件数が「1,000件」あるいは「2,000件」であることを、新点数の算定要件として検討していることが推測されます。

※2月7日の中医協の厚生労働相への答申により、搬送件数年間2,000件以上、かつ勤務時間短縮計画の策定・体制整備を行った医療機関に対し、入院料に5,200円を上乗せすることが決定しました。対象となる医療機関は約900。医療費ベースで年350億円の見込みです。なお、対象に含まれない「地域医療確保暫定特例水準(B水準)」相当の医療機関については、地域医療介護総合確保基金が、労働時間短縮のための体制整備に関する支援を行います。

 

図2 二次救急医療機関における救急搬送受入件数ごとの勤務時間の違い

出典:「個別(その14) (医療従事者の働き⽅④・技術的事項③)」 第442回中央社会保険医療協議会総会 総-3(2019年12月18日)

 

■労働時間管理、タスク・シフティング等も加点対象

 また、「医師の働き方改革に関する検討会」は2018年2月、労働時間管理の適正化や36協定等の自己点検、タスク・シフティングの推進など6項目からなる「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組」をとりまとめています(表2)。先の中医協総会の論点で「緊急的な取り組みを推進することは、医療の質および医療安全の確保の観点からも重要」として、これらの取り組みを一定程度行った場合、診療報酬で評価していく方針を示しています。

 

表2 医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組の概要

出典:厚生労働省 「『医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組』の実施状況について」 第8回医師の働き方改革に関する検討会 資料1(2018年7月9日)

 

3.進む機能分化と、急性期、地域包括ケア、回復リハ病棟、外来の診療体制への影響

■機能分化は前回の大幅改定を踏まえた小幅調整に

 地域医療構想の実現、あるいは地域包括ケアシステムの構築に向けた医療機能の分化・強化等も、引き続き重要なテーマです。

 前回の2018年度改定では、介護報酬との同時改定ということもあり、一般病棟入院基本料をはじめ、療養病棟入院基本料、地域包括ケア病棟入院料、回復期リハビリテーション病棟入院料など入院医療の評価体系で大幅な見直しが図られ、メリハリのある評価が行われました。対して、2020年度改定ではこの2年間の実績を考慮した小幅な調整にとどまる見通しです。

■急性期医療、地域包括ケア病棟、回復リハ病棟への影響

 具体的な調整としては、例えば、急性期医療については、⼀般病棟⽤の「重症度、医療・看護必要度」の評価⽅法や判定基準を⾒直すことにより、急性期医療を評価する指標としての精緻化を図るなどです。判定基準では4つある基準のうち、「認知症やせん妄を有する割合が高い」「要介護度が高い」「自立度が低い」などの患者が該当しやすい「A項目1点以上、B項目3点以上」の廃止が検討されており、その場合、特にそうした重症度や緊急度の低い患者が多くいる中小病院に影響が及ぶとみられています3)。看護必要度の該当患者割合要件の変更も検討されており、その変更次第では、急性期機能を維持できない病院が出てくる可能性もあります。

 また近年、急増している地域包括ケア病棟に関しては、DPC(診断群分類包括評価)対象病院に指定された200床以上の急性期病院に併設された病棟において、DPC点数が包括ケア病棟での入院管理料より下回ったタイミングでの自院の急性期病棟からの転棟が多くみられるといった偏った活用が問題視されてきたことから、自院からの転棟割合に制限を設ける見込みです。一方で、地域包括ケアに関する実績要件を厳格化の方向で見直し、実績を踏まえて、⾃宅等からの⼊棟患者割合および緊急患者の受け⼊れと、在宅患者訪問診療料の算定回数を引き上げます。さらに回復期リハ病棟では入院料1・3・5でも日常生活機能の回復度合いが重視されFIM(Functional Independence Measure:機能的自立度評価法)実績指数が引き上げられる見通しです。

 いずれも小幅とはいえ、本来の病床機能をより一層強化する施策であることから、役割が明確ではない病院において、病床機能の見直しや病床削減、診療体制の見直し等の動きが出る可能性が考えられます。

※急性期医療、地域包括ケア病棟、回復期リハ病棟の入院料1・3に関し見直しが決定しています。

■病院・クリニックの外来機能分化をさらに推進

 そのほかの大きなトピックとしては、外来医療では今回の改定でも大病院と診療所や中小病院で機能分化を明確にしていく方針であることが挙げられます。

 かかりつけ医機能を評価するため前回改定で新設された200床未満の病院と診療所が算定できる「機能強化加算」については、患者説明を算定要件に加えるか否かで、診療側と支払側の攻防が続いています。一方、紹介状なしで大病院を受診した場合の定額負担徴収の対象病院は、「特定機能病院と許可病床400床以上の地域医療⽀援病院」から、地域医療支援病院については「⼀般病床200床以上」に拡大される見通しです。

※「機能強化加算」については、院内にかかりつけ医機能を表示することに加え、同様の内容を書面で作成し患者に提供することに。また、紹介状なしの受診に対する定額負担徴収の対象病院も200床以上に決定。対象医療機関数はこれまでの420施設から670施設になりました。

 

4.「地域医療構想」「働き方改革」「医師偏在解消」の“三位一体”で、地域医療、そして医師の働き方を変える

 地域医療構想の実現に向けては、これまでの診療報酬改定においても機能分化や連携推進を促す点数設定が継続的に行われてきました。
 しかし、医療機関の機能分化は当事者の自主的な判断に委ねられていることから自院の経営に影響が出るようなドラスティックな再編を進めていくことは難しい状況です。また、地域事情で病床の転換やダウンサイジングができないケースも見受けられます。そのため地域医療構想の進捗をみても、現状の病床数や機能を維持する傾向にあります4)

 とはいえ、医療機関の再編統合は医師の働き方改革を進めていくうえでも重要です。高齢化で医療需要がピークを迎え、かつ生産年齢人口が減少する2040年を見据えると、医療資源の分散・偏在は医療の質や安全性への低下を招くだけでなく、医師への過剰な負担をもたらすことが懸念されるからです。

 国が、診療報酬においても「地域医療構想」「働き方改革」「医師偏在解消」の“三位一体”で医療の質向上や医療提供体制の構築に向けた政策誘導を強化したのは、そのような勤務医への過剰な負担を防ぐためであるとみることもできるでしょう(図3)。その意味で、今回の診療報酬改定における「働き方改革」の重点課題化は、三位一体で地域医療から職場、働き方までを変えていくターニングポイントになるかもしれません。

 今後のご自身の職場の「働き方改革」の進捗や、病院再編による職場への影響の有無、キャリア設計の変更可能性など、今のうちから確認、検討することをお勧めします。

 

図3 2040年を展望した医療提供体制の改革について(イメージ)

出典:「地域医療構想の進捗確認」 第9回社会保障制度改革推進会議 資料1-1(2019年5月29日)

(文・エピロギ編集部)

 

<参考文献>
1)厚生労働省 「診療報酬改定について」 第442回中央社会保険医療協議会総会 総-6(2019年12月18日)
2)厚生労働省 「医師の働き方改革に関する検討会報告書」(2019年3月29日)
3)厚生労働省 「⼊院医療(その1)」 第433回中央社会保険医療協議会総会 総-1(2019年11月15日)
4)「地域医療構想の進捗確認」 第9回社会保障制度改革推進会議 資料1-1(2019年5月29日)

<参考>
厚生労働省「令和2年度診療報酬改定の基本方針」(2019年12月10日)
厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会報告書の概要」 第66回社会保障審議会医療部会資料1-4(2019年4月24日)
厚生労働省「個別(その14)(医療従事者の働き⽅④・技術的事項③)」 第442回中央社会保険医療協議会総会 総-3(2019年12月18日)
厚生労働省「『医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組』の実施状況について」 第8回医師の働き方改革に関する検討会 資料1(2018年7月9日)
「地域医療構想の進捗確認」 第9回社会保障制度改革推進会議 資料1-1(2019年5月29日)
厚生労働省「第451回 中央社会保険医療協議会総会 議事次第」【会議資料全体版】第451回総会資料(2020年2月7日)
日経新聞「大病院の入院料5200円加算 4月に診療報酬改定」(2020年2月7日)
朝日新聞「診療報酬、医師の働き方改革配慮」(2020年2月7日)
毎日新聞「救急医療の診療報酬増 医師の働き方改革促進 改定案答申」(2020年2月7日)

 

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