「医師偏在対策」の具体的方針と、医師の働き方・キャリアへの影響

医師偏在の解消等を目指して2018年7月に成立した「医療法及び医師法の一部を改正する法律」を受け、厚生労働省(以下、厚労省)の「医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会」はこの3月、医師偏在指標の算出方法、医師少数区域の定め方などを盛り込んだ「第4次中間とりまとめ」を行いました。これをもとに2020年度から都道府県の医師確保計画を通じた医師偏在対策がスタートします。医師偏在是正・解消の目標年は2036年度となることも定められました。

この長期にわたる取り組みは、勤務医の働き方やキャリア設計にどのような影響を与えるのでしょうか。第4次中間とりまとめのポイントを紹介し、その影響を予測します。

概要
  1. 1.「人口10万対医師数」に代わる新たな医師偏在指標を導入
    「医師多数地域」と「医師少数地域」を可視化し、三次医療圏と二次医療圏それぞれで、医師が多い地域から医師の少ない地域へ医師供給する仕組みと流れを作る。
  2. 2.都道府県が行う医師確保計画と短期的施策
    短期施策として医師多数地域から医師少数地域への医師派遣調整等を、長期的施策として大学病院の地域枠・地元出身者枠の増員を行う。
  3. 3.診療科別や外来医療の偏在対策にも着手
    診療科目の偏在解消のため、まずは将来必要な医師数の見通しの明確化を行う(産科と小児科は暫定指標をもとに早期に対策を検討)。無床診療所の都市部集中が問題となっている外来医療については、開業時に地域ニーズとの一致を求め、開業届出様式に該当欄を設ける。方針に従わない場合は都道府県側と協議を行う。
  4. 4.認定制度は少数地域に医師を呼び込むインセンティブになるか
    医師少数地域での勤務経験を厚生労働大臣が認定、特定の病院での管理者資格を与える制度を創設。総合医やプライマリケアに従事する医師が自主的に医師少数地域に移る仕組みを作る。
  5. 5.医師のキャリアパスに対するリスクとベネフィット
    一連の医師偏在対策は、医師のキャリアパスに少なからず影響を及ぼすだろう。医師数を多数地域から少数地域へ“機械的に”均していくような施策に警鐘を鳴らす識者もいる。一方で、プライマリケアの習得を目指す医師には追い風となる可能性が高い。

 

「人口10万対医師数」に代わる新たな医師偏在指標を導入

医師偏在対策は、「医学部定員を増やしても医師偏在を是正していかなければ地方の医師不足は解消されない」との認識が出発点となっています。しかし、都道府県が主体的・実効的に医師確保対策を行える体制になっていないなどの現状から、医師偏在対策の枠組みを定めた「医療法及び医師法の一部を改正する法律」(以下、改正法。2018年7月成立)では都道府県における医師確保対策の実施体制の強化に主眼が置かれています。そしてPDCAサイクルに基づく実効的な医師確保対策を進めるため、医療計画の一部として「医師確保計画」の策定が盛り込まれました。また、附帯決議では、少子高齢化等の影響で医師偏在状況を十分に反映していないと指摘されていた人口10万対医師数に代わる医師偏在指標の算定方法の設定などを求めています。

今回の「医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会(以下、分科会)」が出した第4次中間とりまとめは、改正法を受けて行われた分科会での議論をもとに医師偏在対策の具体的な内容を定めたものです。医師偏在指標の算定方法のほか、同指標に基づく医師多数地域と医師少数地域の定め方や、医師確保計画における検討事項、偏在是正の流れなどを示しました。

まず、医師偏在指標は、三次医療圏・二次医療圏ごとに①医療ニーズと将来の人口・人口構成の変化、②患者の流出入、③へき地等の地理的条件、④医師の性別・年齢分布、⑤医師偏在の単位(区域、診療科、入院/外来)の5要素を踏まえて算出しました。
そのうえで、同指標の値を全国ベースで比較して、二次医療圏の上位3分の1を「医師多数区域」、下位3分の1を「医師少数区域」と区分しました。三次医療圏も、「医師多数三次医療圏」「医師少数三次医療圏」と呼び方は変わるものの、考え方は同様です。1位の東京都(医師偏在指標320.0)から16位の滋賀県(同243.5)が「医師多数三次医療圏」、32位の宮崎県(同210.6)から47位の岩手県(同169.3)が「医師少数三次医療圏」となります(表1)。

表1

出典:厚生労働省 医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会 第4次中間取りまとめ
「別添資料1 医師偏在指標」(2019年3月29日)

 

医師偏在対策の基本的な考え方は、医師偏在指標で医師の多数地域と少数地域を可視化したうえで、三次医療圏と二次医療圏のそれぞれで、医師の多い地域から医師の少ない地域へ医師を供給していく仕組みや流れをつくることと捉えることができます。

 

都道府県が行う医師確保計画と短期的施策

都道府県は、指標で明らかになった偏在状況をもとに医師確保計画を策定します。具体的には、三次医療圏、二次医療圏ごとに「医師の確保の方針」と「確保すべき医師の数の目標(目標医師数)」を策定し、そのうえで目標医師数を達成するための具体的な施策を講じます。

基本的な医師の確保方針は先ほど触れたように、医師少数の二次・三次医療圏は医師多数の二次・三次医療圏から医師確保を行えますが、医師多数の二次・三次医療圏は、医師少数の二次・三次医療圏から医師確保を行うことができません。一方、医師少数でも多数でもない三次医療圏は、都道府県内に医師少数区域が存在する場合、必要に応じて医師多数三次医療圏から医師を確保できます。また、医師少数でも多数でもない二次医療圏は、必要に応じて医師多数区域からの医師確保を可能としています。

加えて、医師確保計画では「今すぐに医師確保が必要」、「今は医師が足りているが、将来的には医師が必要」といった時間軸の差異によって採るべき対策が異なってきます。そこで現時点での医師不足は短期的施策のみの対応、将来時点での医師不足は短期的施策と長期的施策を組み合わせて対応することとしています。

短期的な施策の代表例は、地域枠で入学した医師等のキャリア形成プログラムの策定・運用(原則、9年間のコースのうち4年間は医師少数区域の病院に就業とし、医師の希望する知識習得・技能向上に配慮したプログラムを策定・運用する)、および医師多数区域から医師少数区域への医師派遣調整です。

4月に公表された医師確保計画策定ガイドラインによると、医師派遣調整の対象となる医師は、基本的にはこれまで大学・医師会・主要医療機関等からなる地域医療対策協議会(地対協)で派遣調整を行ってきた「地域枠を中心とした、キャリア形成プログラムの適用を受ける医師」となります。しかし、キャリア形成プログラムの適用医師の派遣のみで医師少数区域での医師確保が十分でない場合は、地対協の協議を踏まえ、医師を派遣している大学病院等の医療機関に対して、医師少数区域等への医師派遣を要請することになります。

医師需給分科会では「大学病院など多くの医師を抱えている大規模病院に一定割合の医師派遣を義務づけられないか」といった意見も挙がりました。しかし、派遣元の医療機関をどこにするか、医師派遣が強制的なものになるかどうか、といった具体的な内容は都道府県での話し合いに委ねられており、また医療法上も地対協で協議が調った事項への協力は「努力義務」にとどまっています。大学や医師会、主要病院等がうまく連携している地対協が少ないと言われているなか、どこまで実効性を伴って医師派遣調整を行えるのか、疑問視する向きも少なくありません。派遣元の医療機関をどうするか、医師の勤務先の希望をどの程度まで汲み上げるかなどは、地対協の機能等に大きく左右されると思われます。なお、長期的施策としては、大学病院の地域枠・地元出身者枠の増員が挙げられています(図1)。

図1

出典:厚生労働省 医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会
「第4次中間とりまとめ(案)参考資料」(2019年3月22日)(4頁)

 

診療科別や外来医療の偏在対策にも着手

第4次中間とりまとめでは、診療科別や外来医療の医師偏在対策についても一定の方針を示しています。診療科別の医師偏在については当面、将来必要な医師数の見通しを明確化していく考えですが、診療科と疾病・診療行為との対応を整理する必要があり、検討には時間を要するとしています。ただし、産科と小児科は、政策医療の観点、医師が長時間労働となる傾向などから、暫定的に医師偏在指標を策定し、地域偏在対策に関する検討を行う方針です(医療圏の見直しや医療圏を越えた地域間の連携、機能の集約化・重点化、医師の時間外労働の短縮に向けた取り組みなど)。

なお、日本専門医機構による新専門制度の創設により専攻医の都市部への集中が懸念されることから、東京都、神奈川県、愛知県、大阪府、福岡県の5都府県では、基本領域ごとに採用上限(シーリング)を設けてきましたが、2020年度採用分からは厚労省推計による「都道府県別・診療科別の必要医師数」をベースにした新たなシーリングが導入されます。2016年の医師実数が「2016年または2024年の必要医師数」を上回っている都道府県・診療科をシーリングの対象とし、2020年度の採用数は「2019年度の採用実績」を上回らないこととするとしています(外科、産婦人科、病理、臨床検査、救急、総合診療はシーリングの対象外)。
また、同機構は2021年度のシーリングの精緻化に向け、関係学会や厚労省、有識者からなる協議会を立ち上げ、厚労省推計を検証していく構えです。改正法では専門研修について、「国から日本専門医機構等に対し、地域医療の観点から必要な措置の実施を意見する仕組みの創設」等を盛り込んでいますが、こうした取り組みはその一環といえるでしょう。

外来医療に関しては、無床診療所の都市部への偏在などが課題となっていることから、「外来医師偏在指標」を策定するなど、外来医療提供体制の情報を可視化・公開し、新規開業の際の行動変容、すなわち「外来医師少数区域」での開業を促していく考えです。また、「外来医師多数区域」で新規開業を希望する医師には、在宅医療、夜間・休日の初期救急、公衆衛生(学校医、産業医、予防接種等)など地域に必要とされる医療機能を担うよう求めます。
その実効性を担保するため、開業届出様式に地域で定める不足医療機能を担う旨の記載欄を設けるほか、合意がないなど新規開業者が地域の方針に従わない場合は、地域医療調整会議など臨時の協議の場に出席要請を行い、その協議結果を公表するとしています。

この仕組みにより、医師多数区域での新規開業のハードルが上がるのは確実と推測されます。もっとも、分科会では明らかに専門性の高い診療機能を有する場合、地域の不足医療機能を担う必要はないのではとの考え方も示されました。また、自由開業制である以上、多数区域とはいえ開業を認めないことは考えにくいため、都道府県としても柔軟に対応せざるを得ない面が出てくると予想されます。

 

認定制度は少数地域に医師を呼び込むインセンティブになるか

医師偏在対策においては、医師も自主的に医師の少ない地域で勤務してもらう仕組みづくりも重要です。改正法では医師少数区域等での勤務経験を厚生労働大臣が評価する認定制度を創設しました(図2)。

認定に必要な最低限の勤務期間は6ヵ月としており、さらに医師免許取得後10年目以降の医師の場合は、断続的な勤務日数の積算で180日に達した場合も認定の対象となります。
認定に必要な医師少数区域等における業務内容としては、▽個々の患者の生活背景を考慮し、幅広い病態に対応する継続的な診療や保健指導 ▽他の医療機関との連携や患者の地域での生活を支援するための介護・福祉事業者等との連携 ▽地域住民に対する健康診査や保健指導等の地域保健活動──などが挙げられており、総合診療医やプライマリケアに従事する医師を想定しているようです。

現状で認定を受けるメリットは、地域医療支援病院等の一定の病院の管理者資格を得られるだけですが、今後の検討課題として、「医師個人に対するインセンティブ」をさらに強化するほか、「認定医師によって質の高いプライマリケア等が提供される医療機関等に対する税制、補助金、融資、診療報酬上の評価等の経済的インセンティブの設定について検討を行う」としており、そのインセンティブの度合いで将来的には医師偏在対策の柱となりうる可能性もあります。

図2

出典:厚生労働省「医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会
「第4次中間とりまとめ(案)参考資料」(2019年3月22日)(48頁)

 

医師のキャリアパスに対するリスクとベネフィット

一連の医師偏在対策が、医師のキャリアパスの在り方に少なからず影響を及ぼすことは間違いないでしょう。例えば、症例数を積みたいという考えから、実績のある病院での勤務を希望しても当該病院が医師多数地域にある場合、勤務できないという可能性も出てくるからです。

こうした観点から、医師数を多数地域から少数地域へ“機械的に”均していくような施策に警鐘を鳴らす識者もいます。むしろ、高度な技術が求められる手術や治療などは医療圏を越えて重点化していくほうが、大学病院も医師を派遣しやすくなり、医師の勤務環境改善にもなるといった指摘も少なくありません。
この点、医師偏在指標上で医師少数区域に区分されたとしても、近隣の医療圏の状況を鑑みて都道府県の裁量で医師少数区域にしないという判断も可能とされています。医師のキャリアパスや働き方改革、地域医療構想における機能分化・重点化の状況等を総合的に判断しながら、都道府県は医師確保計画を策定していく必要があります。

一方、プライマリケアの習得を目指す医師にとっては、実施されるインセンティブの度合い次第によっては、今回の医師偏在対策は大きな追い風になると思われます。分科会では「新規開業する際にも認定制度の取得を義務づけてはどうか」といった意見も出ており、今後のインセンティブ強化が予見されます。また、認定制度のハードルが比較的低く、専門医の参加が容易であることから、プライマリケアのすそ野拡大も期待されます。

(文・エピロギ編集部)

<参考>
厚生労働省 医師需給分科会
衆議院「医療法及び医師法の一部を改正する法律」
精神科七者懇談会「『医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会第4次中間取りまとめ』についての見解」
m3.com「日医会長『まずは都道府県内の医師偏在是正を』」
CB Newsマネジメント「医師偏在、少ない地域に派遣すれば済む問題か 施行直前、改正医療法・医師法を整理(4)」

 

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