勤務医とマイナンバー

第2回 マイナンバーでアルバイトがバレるしくみ

第1回では、医師に限らず給与所得を得ている方向けにマイナンバー制度の概要を説明しました。
今回は勤務医にとって、マイナンバー制度の開始でこれまでと何がどう変わるのか、特に“お金”について考えましょう。

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お金が“ガラス張り”に

昨今の不景気でサラリーマンが副業をすることも珍しくなくなりましたが、専門職である勤務医にとって、アルバイトなどの副業は昔から当たり前のように行われてきたことではないでしょうか。

第1回のコラムでは、マイナンバー制度が導入されると収入や所得が国税当局に把握され、いわば私たちのお金が“ガラス張り”になるということをお伝えしました。
今回のマイナンバー制度では12桁の個人番号だけでなく、13桁の法人番号も交付されます。この法人番号を通じて、個人の所得や資産の流れだけでなく、法人のお金の流れも正確に見えるようになります。個人のお金だけでなく、日本に存在する会社や病院といった、法人のお金の流れもガラス張りになるのです。

アルバイトをしていることを勤務先に隠し、そこで課税を逃れたとしても、アルバイトをした病院から給与が支払われたという事実が国税局に把握されることで、税務調査の対象になる可能性がある、ということです。

 

アルバイトがバレるのは住民税のせい?

勤務先の病院に申告せず、アルバイトを行っている医師も多くいらっしゃるのではないでしょうか。 アルバイトがバレる理由は、実はマイナンバーのせいではなく住民税によるものです。
勤務先は本業であれ副業であれ、市区町村に給与支払報告書を提出します。市区町村はその給与支払報告書をもとに住民税額を計算することになります。

私たちが納めている税金は、所得税と住民税の2つに分けられ、所得税については、それぞれの勤務先の給与分だけが源泉徴収されるので、それで副業が本業の勤務先の病院にわかることはありません。ただし、住民税は1年間の”総”所得によって市区町村が決定しますから、本業の勤務先に副業分の住民税も加算された形で知らされることになります。同じような家族構成で同程度の給与額の医師と比べ、極端に住民税が高ければ他の収入源を疑われてしまうでしょう。
これは医師だけでなく、副業をしている方全員に同じことが言えますね。
マイナンバー制度が始まると、副業の勤務先でも個人番号を聞かれることになります。直接的にはマイナンバー制度ではなく、今までも市区町村には把握されていた給与の流れがわかりやすくなることが、副業がバレる理由です。

今まで真面目に確定申告をしていた方には関係ありませんが、申告を失念していたり、本業の勤務先にバレることを恐れ、あえて確定申告を避けていたりする場合、マイナンバー制度導入により税務署から修正を求められる機会が増えてきます。
無申告の場合、バレてしまえば延滞税や加算税を課されることもあり得ます。遅くなっても自ら申告した場合の加算税は5%ですが、無申告加算税は最大で20%。今のうちに速やかに対処しましょう。

医師の皆さんにとって何より怖いのは、本業の勤務先にアルバイトの事実がバレてしまうことではないでしょうか。
マイナンバー制度によって、これまでばらばらだった勤務先や市区町村、税務署、健康保険組合などの情報が結び付けられるため、今まで見えなかった情報が明るみに出ることになります。マイナンバー制度の開始は、今後の副業について見直すいい機会かもしれませんね。

 

家族でも油断は厳禁

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前回の記事でお知らせしましたが、マイナンバー制度は2016年1月の段階では、利用範囲を限ってスタートします。段階的に範囲を広げていくことが決まっていて、いずれは医療分野や年金分野、福祉分野でも利用される予定です。言わずもがなですが、皆さんの個人番号は他人に知られないよう、慎重に管理する必要があります。
ところで、旦那様や奥様、ご両親など、家族なら個人番号を教えても問題ないと思っていませんか?
実は、家族については別の落とし穴があるのです。

マイナンバー制度を監督する「特定個人情報保護委員会」によると、2017年1月から「マイナポータル」が利用できるようになります。
マイナポータルとは、別名を「情報提供等記録開示システム」といい、皆さんのマイナンバーをいつどこで誰が利用したのかを、Web上で確認できるサービスです。いずれは各種社会保険料の支払金額や確定申告などを行う際に、参考となる情報が入手できるようになる予定です。社会保険料の支払金額がWeb上で見られるわけです。

マイナポータルで確認できること

  • ・自分の個人情報をいつ、誰が、なぜ提供したか
  • ・行政機関などが持っている自分の個人情報の内容
  • ・行政機関などから提供される一人ひとりに合った行政サービスなどの情報

社会保険料の支払金額がわかれば、家族にご自身の正確な収入がわかるようになります。もし、ご自身の収入を過小に教えてこっそり「へそくり」をしていた場合……。
もうおわかりですね。

成りすましや悪用を防ぐため、マイナポータルにログインするには個人番号に加え、パスワードを入力する必要があります。誕生日や車のナンバーなど、推測されやすいパスワードを設定することは避けましょう。
こっそりしている「へそくり」がバレたくない場合や、事情があって収入を家族に知られたくない場合、さらにセキュリティの観点からも、家族であっても不用意に個人番号を教えることは避けるべきです。

マイナンバー制度には懸念事項が多く、心配の声がたくさんあるようです。しかし、制度の開始は行政手続きの簡略化など、国民の利便性の向上を目的としたもの。正しい情報を得て活用していきましょう。
次回は、マイナンバーはどのように悪用されるのか、どんな手口があるのかについて解説します。

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合同会社エルコ
2015年設立。WEBサイトのスパイスとなる動画、イラストの制作やWEB上の誹謗中傷対策の支援を行っている。また2016年1月よりスタートするマイナンバー制度のための安全で低価格の管理ソフトウェア販売事業、中小企業の経営者向けマンツーマンセミナーを開催中。
http://www.jimusol.com/
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