人間に羊の血を…!? 輸血の歴史に隠れた驚きエピソード

「輸血」と聞いて、皆さんはどんなことを考えますか?
「緊急時の輸血拒否」や「意思確認のできない患者」にどう対応すべきか、ということでしょうか。
これらは医師であれば連想すべき事柄でしょう。ただ、この考えに至るには「輸血が安全な治療法である」という前提が必要になります。

今でこそ安全性の高い治療法として知られる献血ですが、ここに至るまでの歴史は試行錯誤の繰り返しでした。
今回は輸血の歴史の中から、現代では考えられないような驚きのお話をご紹介します。

血の巡りを確かめるために「尿」や「ビール」を注入……!

人間をはじめ、動物の体の中には血が循環しています。これは誰もが知っている現代の常識です。
しかし今から400年前、イングランドの医師で解剖学者のウイリアム・ハーベーが血液循環説を発表するまで、そんな常識はありませんでした。血液の成分が何であるかさえ分かっていなかった時代なので、当然のことかもしれません。

ハーベーの説がきっかけとなって始まったのが、動物を使った実験。血液だけでなく尿やビール、牛乳、ワインといったあらゆる液体を動物の血管に流し込み、血の循環を確かめようとしたのです。
「羊の血を犬に……」と異種動物間で輸血を試みることもあったようで、「犬に羊の毛が生えるぞ!」「犬にひづめが生えるぞ!」「犬の鳴き声が羊になるぞ!」と本気で論じた科学者もいたといいます。

現代の私たちからすれば「そんな馬鹿な」という話ですが、今から400年前の1616年は、ちょうど徳川家康が亡くなった年。家康が「万病に効く」といわれる漢方を飲んでいたことを考えると、やはりヨーロッパの医療はだいぶ先駆的だったことが分かります。

 

世界初の輸血に使われたのは「子羊の血」だった……!

1667年、フランス人医師のジャン=バティスト・ドニが輸血を行いました。これが、記録に残っているものとしては世界で初めての、ヒトに対する輸血です。
ドニは高熱と貧血に悩まされていた青年に225ミリリットルの血液を注入しました。ただ、このとき彼が使った血液は人間のものではありません。

ドニが輸血したのは、なんと「子羊の血」でした。今の血液学では考えられない行為ですが、青年は無事に回復。輸血量が少なかったことがうまくいった要因といわれています。

その後も子羊の血を使って輸血を続けたドニ。ところが3人目の患者が副作用で亡くなってしまい、殺人の罪を着せられることになりました。 それを機にフランスでは輸血が禁止され、その流れはヨーロッパ全土に波及。最終的に輸血という治療法自体が消えてしまいます。

ドニの裁判は長期にわたりましたが、結果は無罪。自身の潔白を証明できたわけですが、彼が再び輸血に携わることはなかったそうです。

 

1カ月で「70回」も自分の血を売った人がいる……!

日本で初めて輸血に成功したのは1919年のことでした。それから約30年後に厚生省が血液事業の着手を決め、保存血液の製造を開始。1952年に日本赤十字社が血液銀行(現在の赤十字血液センター)を開業し、国民に対して血液の無償提供を呼びかけました。
これが日本の献血の始まりです。

これとほぼ同時期に民間の商業血液銀行が日本各地で設立されましたが、日本赤十字社とは大きく異なる性格を持っていました。それは、商業血液銀行は無償ではなく、血液を「買い取る」という違い。
血液を提供する側としては、当然、お金は「もらえない」より「もらえる」ほうがうれしいので、商業血液銀行の利用者が圧倒的に増えます。

特に頻繁に血液を売っていたのが、定職に就けない人たちでした。働くより血を抜いてもらったほうが、確かに楽かもしれません。 しかし、なかには度を超えた頻度で売血する人もいました。その数、月に70回。1人の人間がそんなに売れる血を持っていたということも驚きです。血を抜きすぎたせいで自らの健康を害してしまう人も多かったといいます。

 

現在の「安全な輸血」があるのは試行錯誤の歴史のおかげ

動物からヒトへの輸血が危険であるという事実は、19世紀後半になってからようやく証明されました。1900年にはオーストリアの科学者、カール・ラントシュタイナーが血液型を発見し、輸血の安全性向上に大きく貢献。その後も抗凝固剤の開発、病原体へのスクリーニング法の導入などを経て、やっと信頼できる治療法として認識されるようになりました。

日本で行われていた売血についても 1962年に全国で反対運動が起こり、結果的に血液を買い取っていた商業血液銀行は消滅。現在は日本赤十字社がすべての献血を手がけています。

今では「高い安全性」を誇る輸血は、さまざまな試行錯誤と問題の解決を経て実現されたものだったのです。
もしかすると今の常識は、未来では非常識になっている可能性も考えられます。数十年後の輸血は、もっと別の形で行われているかもしれませんね。

(文・エピロギ編集部)

<参考>
日本赤十字社 大阪府赤十字血液センター「血液事業を知ろう」
http://wanonaka.jp/blood/index.html
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
http://yuketsu.jstmct.or.jp/general/history_of_blood_transfusion/
ヘルスケア大学「輸血の歴史を知りたい!輸血が始まったきっかけと最近の動向」
http://www.skincare-univ.com/article/012681/l
武将ジャパン「人類初の輸血は「羊の血」から しかも350年も前にフランスで成功していた【その日、歴史が動いた】」
http://bushoojapan.com/tomorrow/2015/06/15/52200
市民団体 健やかに生きるために頑張ろう会「輸血の歴史」
https://sukoyakanii.wordpress.com/2015/09/02/%E3%80%90%E8%BC%B8%E8%A1%80%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E3%80%91/
世界史の窓「ハーヴェー」
http://www.y-history.net/appendix/wh1003-010.html
吉田雅幸「エホバの証人と輸血」(日本医師会「日本医師会員のみなさまへ 各論的事項 No.3」)
http://www.med.or.jp/doctor/member/kiso/d3.html

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