勤務医の自腹出費を削減できる?「特定支出控除」の基礎知識
そのため、「節税対策は開業医がするもの」と思っている勤務医の方も少なくないでしょう。
たしかに、必要経費を自動で控除してくれる「給与所得控除」は便利な仕組みです。
一方、本来であれば経費に算入できる支出を個人で負担した場合、たとえその金額が大きくなっても、収入に応じた額しか控除されません。つまり、定められた額を超えて個人が負担した分、損をすることになります。
この損を一部取り戻せる仕組みが、勤務医も利用できる「特定支出控除」という制度。
考え方によっては、「利用しない人より得をする」ともいえます。
今回は、「特定支出控除とはどんな制度なのか」「勤務医であればどんな支出が特定支出として認められるのか」といった、特定支出控除に関する基礎的な知識についてご説明します。
※1 年末調整:給与所得者が1~12月までに納めた税金の過不足を雇用者側が調整すること。
※2 給与所得控除:所得税や住民税を算出する際、給与から控除分が差し引かれること。
そもそも特定支出控除とは
特定支出控除は「個人で業務に伴う費用を負担(特定支出)した場合で、それが一定額を超えるとき、超えた金額を給与所得控除額に加算(所得金額から減算)できる制度」のことです。
実は1987年から存在していましたが、給与所得控除額に加算できる特定支出が「給与所得控除額の総額を超えた部分」だったため、利用する人はほぼいませんでした。
しかし、2012年の税制改正で基準が緩和され、「給与所得控除額の半分を超えた部分」が対象と認められるようになったため、以前より格段に利用しやすくなりました。
特定支出控除を受けるための判断基準とは
特定支出控除が受けられるかどうかは、自分の収入額に応じた給与所得控除額から判断します。
下記は「平成28年分」として適用できる、収入額と給与所得控除額の計算式の対応表です。
特定支出が上記の計算式によって算出した給与所得控除額の半分を超えた場合、その超えた分を給与所得控除額に加算できるということです。
たとえば、収入が800万円の人の給与所得控除額は以下のようになります。
200万円の半分は100万円。つまり、特定支出が100万円を超えれば特定支出控除を受けることができ、100万円に届かなければ受けることができません。
仮にこの人の特定支出額の合計が150万円だとすると、給与所得控除額を超えた分(つまり150万円から100万円を差し引いた分)である50万円を、給与所得控除額に加算できることになります。
勤務医はどう得する? 特定支出に含まれる支出とは
では、どのような費用が特定支出として認められ得るのでしょうか。
下記の1~8の費用が特定支出に含まれます。
特定支出控除を受けるためには、これらの合計金額が給与所得控除額の半分を超えなければなりません。
1)通勤費
高速道路料金やガソリン代などが該当。アルバイトでほかの病院やクリニックで勤務している人は、それにかかる通勤費も含まれます(飛行機、グリーン車などは対象外)。
2)転居費
業務命令による転勤であれば、それに伴う引越し費用、高速道路料金、ガソリン代、宿泊代などが該当します。
3)研修費
学会(国際学会を含む)・講演会への参加費、業務上必要とされる知識・技術を習得するための研修費などが該当。また、それらに伴う交通費も含まれます。
4)資格取得費
たとえば、勤務先の病院が介護施設と連携することになり、病院から介護福祉士やケアマネージャーの資格取得を命じられた場合、その取得費用が該当します。
また、認定医や専門医の資格を取得する際にかかる受験料、更新料も対象となります。
5)帰宅旅費
遠方の病院への転勤を命じられた場合、単身赴任を余儀なくされたとして、妻子が暮らす自宅へ帰省する費用が該当します。
6)図書費
医学書のほか、新聞や雑誌、定期刊行物など、職務に関連するものであれば、その購入費が該当します。また、電子書籍や有料メールマガジンなども含まれます。
7)衣服費
白衣や術衣が病院から貸与されず、自ら購入しているのであれば、その費用が該当します。
8)交際費
勤務医の場合は、関係が深い医局の親睦会への参加費、教授・同門の医師との交際・接待費などが該当します。
上記のうち6~8を「勤務必要費用」といい、これらについては3項目の合計が65万円までと限定されています。
なお、1~8の費用はすべて、給与の支払者である病院の証明がなければ特定支出として認められないため、注意しましょう。
特定支出控除を受けるための手続きとは
まず前提として、特定支出控除を受けるには確定申告を行う必要があります。
確定申告書(「確定申告書」「修正申告書」「更正請求書」のいずれか)に「特定支出控除の適用を受ける旨」と「特定支出の合計額」を記載し、「特定支出に関する明細書」と「給与等の支払者(勤務医であれば病院やクリニック)の証明書」を添付します。
また、「搭乗・乗車・乗船に関する証明書」「支出した金額を証明する書類(領収書など)」を添付するか、申告書の提出時に提示しなければならないとされています。
このうち「搭乗・乗車・乗船に関する証明書」に関しては、1つの交通機関の利用料金が15,000円以上のものだけが必要で、それ未満の金額である場合は証明書を交付してもらう必要はありません。
より詳しく知りたい方は、国税庁のホームページ「給与所得者の特定支出控除に関する証明書の様式等の制定について」をご覧ください。
まとめ
特定支出控除を受けるには、確定申告を行ったり、勤務先の病院から証明書をもらわなければならなかったりと、ただでさえ面倒な手続きが多いです。忙しい勤務医ならなおさら負担に感じることもあるでしょう。
ただ、個人で経費を負担することの多い勤務医だからこそ、有意義に利用できる制度であるともいえます。
「所得税や住民税を減らしたい」という節税意識を持っている勤務医の方は、利用を検討してみてはいかがでしょうか。
もっと節税のことを知りたいという方は、「医師が得する"お金"のハナシ 第1回 勤務医にもできる! 節税ノウハウ」もご覧ください。
(文・エピロギ編集部)
<参考>
佐藤修一公認会計士事務所「サラリーマンでも経費が控除できる特定支出控除」
(http://satoscpa.com/tokutei.html)
MFクラウド 公式ブログ「特定支出控除の改正でサラリーマンの自腹出費が削減に!」
(https://biz.moneyforward.com/blog/houjin-kaikei/specific-expenditure-deduction/)
国税庁「平成25年分以後の所得税に適用される給与所得者の特定支出の控除の特例の概要等について(情報)」
(http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/120912/)
国税庁「給与所得者の特定支出控除に関する証明書の様式等の制定について」
(https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kobetsu/shotoku/shinkoku/871222/01.htm)
国税庁「No.1410 給与所得控除」
(https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1410.htm)
税務署「給与所得者の特定支出控除について」
(https://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinkoku/shotoku/tebiki2013/pdf/18.pdf)
税理士法人ブレインパートナー「勤務医先生のための「特定支出控除」の使い方」
(http://www.brain-partner.com/201301kojo.pdf)
岩松正記「確定申告でお金を取り戻す合法的裏技6連発! ソン・トクの本音ぶっちゃけます! 【最終回】今年の確定申告の目玉!「特定支出控除」でこっそりトクする方法」(ダイヤモンド社書籍オンライン)
(http://diamond.jp/articles/-/48423)
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コメント一覧(2件)
2. mediwel_editor さん
ご質問いただき、ありがとうございます。申し訳ございません。専門的な内容になってきますので、編集部での回答は出来かねます。
参考まで、別の記事で協力いただいた「税理士ドットコム」さんが、無料で税理士に相談できる「みんなの税務相談」というサービスを行っています。よろしければそちらのサイトをご利用いただけると、ご希望に沿えるかと思います。引き続き「エピロギ」をよろしくお願いいたします。
▼税理士ドットコムさんご協力記事
「経費にできる?勤務医の節税は? 税金のお悩みに現役税理士がお答え」
1. Uromaster さん
来年度からフリーランスの医師として働く予定です。特定支出控除は受けられるのでしょうか