「ファイナンス視点で考える、失敗しない“開業”のススメ」

第2回:開業のリスクとメリット

杉山 正徳 氏(㈱日医リース/医業経営コンサルタント)

前回は、診療所のニーズの変化や経営者の高齢化など、診療所に関わるさまざまなトレンドについて、データを基にお話をさせていただきました。2回目となる今回は、「開業のリスクとメリット」についてお話しいたします。

開業することのリスクとメリットは、勤務医からキャリアチェンジをして独立開業を志す先生方が一番最初に考えることではないでしょうか。

先日も、2年後に開業を計画されている先生とお話しをさせていただきました。ご家族の事情や勤務先の状況、大学医局との関係などさまざまな事をお考えになり、開業を決断され準備を進めております。
開業前のキャリアはお一人おひとり違います。開業理由も違います。プライベートの環境も違います。自らが個人事業主として経営を継続していくことは自己実現をしたいというお気持ちだけではできません。あらかじめリスクとメリットを整理され、周りの協力者(理解者)を少しでも多く増やし、開業の準備をすることが肝要かと思います。

ファイナンス視点から申し上げますと、銀行等の金融機関は、開業資金の融資にあたって、この先生は開業された場合どのようなリスクがあるのか? 事業はしっかり継続していけるのか? と言う点をみています。

メリットがリスクを上回らないと開業する意味はありません。同時に、例え計画上メリットが上回ったとしても、リスク対策を可能な限りしっかりしていくことはとても重要なことです。

 

データから見る開業動機と医師の負担

開業のリスクとメリットの説明に入る前に、日本医師会が開業医を対象に行ったアンケート「開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査」をご紹介したいと思います。

まずは開業の動機です。「理想の医療の追求」「将来に限界を感じた」「経営も含めたやり甲斐」など、どの理由も、開業を一度でも考えたことのある先生でしたらみなさん思いあたるところが多いのではないでしょう

 

204_2_文中図01

 

次に、実際に開業してからの業務負担についての回答も見ていきましょう。診療等の実務と管理業務に分けて、開業前後でその負担の増減をみていくと、診療面の負担よりも「スタッフの採用」や「機器等のメンテナンス」「スタッフの教育・育成」など、経営面の負担の増加が顕著にみられます。

 

204_2_文中図02

 

204_3_文中図03

 

これら、開業の理想と現実を踏まえつつ、そのメリットとリスクを見ていきましょう。

 

メリットを考える

1.収入面

開業することでどれくらい収入が増えるのか。見落としがちなのが、診療所開業には「経済的思考」が必要だということです。開業=事業ですから、投資したお金を回収し、かつ継続的に利益を生み出さなければなりません。勤務医と開業医の収入は単純に比較できないことを、まず念頭に置く必要があります。

開業された方の多くは開業前に、設備資金(主な使途は建物と設備投資)と運転資金を金融機関で調達します。所要資金の算出にあたり、開業後に事業に係る税金を支払う必要があることを見逃しがちであり、またスタッフの人件費が大きな割合を占めることに注意が必要です。

これら開業の収入や支出の特徴を踏まえた上で、年収面でのメリットについて見ていきます。
まず、収入について。手取り年収で比較してみましょう。診療をした分がそのまま収入になるので、給与を受けとる勤務医に比べ、工夫次第で手取り年収の増加を狙いやすくなります。また手取り年収増加以外のメリットもあります。交際費や通勤用の車両費等の経費算入や、医療法人化によって税負担も軽減できます。

 

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204_3_文中図05

 

2.診察面

医師としての自己実現を自分の診療所で描くことができます。定年はありません。
当然、転勤もありません。

3.プライベート面

勤務医時代の労働条件から解放され、ご自身の体力の維持や、ご自宅近くで開業された場合は家族の事情(子育てや介護等)への対応もしやすくなると思われます。

 

リスクを考える

診察(医療)は医師にしか出来ません。医院の経営も、人・物・金をマネジメントしないと出来ません。医療と経営、両方の視点を持ち、経営を安定させてこそ、社会の信頼を獲得し続けることができます。したがって、開業前にはさまざまなリスクを考えなければならないのです。

1.本人に関わるリスク

一番の事業リスクは、先生ご自身の「健康」です。持病をお持ちの場合やある程度年齢を重ねたタイミングで開業をお考えの場合は特に注意です。また、働き盛りの40代~50代でも生活習慣病をお持ちの方もいらっしゃいます。ご自身が大丈夫と思っていても不慮の事故や病気によって起きて閉院に至ったケースもあります。日頃の健康維持活動や、リスク対策として生命保険や貯蓄などをしておくとよいでしょう。

また、あってはならないことですが、医療事故や法令違反などにも気を付けなければなりません。クリニックの評判を著しく落とし、閉院に至る場合があります。

2.従業員に起因するリスク

労務問題でトラブルが発生するケースが多いです。また、患者さんとスタッフ間でのトラブルがあった場合は、経営者である先生が対応しなくてはなりません。就業規則や雇用契約を整備し、専門家である社会保険労務士さんのサポートを受けるとよいと思います。

3.お金にまつわるリスク

事業計画通りには経営ができず開業時の投資を回収できない、運転資金が枯渇してしまう、プライベ-トのお金と医院のお金の区別をつけず遣ってしまった、といった事例も散見されます。また、突発的に発生するお子さんの教育費が影を落とす場合もあります。

4.経営体制にまつわるリスク

ご友人や先輩後輩などとの共同経営やスポンサーがいる開業の場合も、リスクを考えなければなりません。過去に担当した事例の中にも、診療の方向性やお金にまつわるいざこざで先生が大きな損害を負ってしまったケースもありました。相談できる弁護士や会計士との関係作りも必須です。

5.災害のリスク

火災や盗難、風水災などにも対応が必要です。損害保険でリスクヘッジすることが有効です。近年の異常気象で都会でも低地にあるクリニックの場合、浸水の危険は免れません。地震のリスクも考える必要があります。

開業のリスクとメリットについては様々な視点で考える必要があります。検討の結果、開業ではなく、医療法人の分院院長になられたり、開業の準備を進めたものの家庭環境の変化から、開業を止め勤務医を継続された先生も少なくありません。
まずは身近で開業をされている方に話を聞くなどして情報収集をされることをお薦めします。弊社でも個別に相談窓口を設けておりますので、よろしければホームページよりご連絡ください。

次回は開業時にかかるお金についてお話をしたいと思います。
見落としがちなのが、開業を検討される医師がもっとも多い30代~40代は、プライベートでもさまざまなお金が必要となる時期であることです。開業に必要となる資金項目と併せて見ていきたいと思います。

<参考>
日本医師会定例記者会見「開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査」(2009年9月30日)
http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20090930_21.pdf
日本医師会総合政策研究機構「診療所開設者の年収に関する調査結果(2006年分)」
http://www.jmari.med.or.jp/download/wp156.pdf

 

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杉山 正徳(すぎやま・まさのり)
(株)日医リース 営業推進部 新規開業支援室室長/(公社)日本医業経営コンサルタント協会認定医業経営コンサルタント。医療専門リース会社で培った経験を元に、各種セミナー講演や医師の資金調達の相談やファイナンスプランの提案を行う。
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