第3回:「医師の働き方改革に関する検討会」中間報告と、「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取り組み」
現在、2024年の施行を目指して「医師の働き方改革」の検討が進んでいます。
医師の働き方において、何が問題とされ、どう解決しようとしているのか。医師の過重労働に依存した医療提供システムから脱却できるのか。「エピロギ」では、5回にわたり「医師の働き方改革」に関する国や医療関係団体の動きを紹介します。
前回、「医師の働き方改革に関する検討会」でどのような議論がされているのか、そのポイントをお伝えしました。第3回では、3月にまとめられた検討会の中間報告と「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取り組み」を取り上げます。
【特集】今さら聞けない「医師の働き方改革」
第1回:医師の「働き方改革」とは~残業時間の上限規制と応召義務
第2回:「医師の働き方改革に関する検討会」で話されたこと。その論点とは?
第3回:「医師の働き方改革に関する検討会」中間報告と、「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取り組み」
第4回:「医師の働き方改革」に関する、各医療関連団体の動き
第5回:「医師の働き方」に関わる、2018年度診療報酬の改定ポイント
「医師の働き方改革に関する検討会」の中間報告で記載された主な論点
第7回検討会後、「検討会での中間的な論点整理」と題して発表された、これまでに議論された意見を論点ごとに紹介する。
■論点
1:なぜ今医師の働き方改革が必要なのか
2:医師の勤務実態の分析状況と今後の検討に関して
3:勤務環境改善に関する取り組みの現状と今後の方向性について
4:経営管理の観点に関して
5:時間外労働規制の在り方について
6:関係者の役割
以下、それぞれの論点における意見を詳しく紹介したい。
論点1:なぜ今医師の働き方改革が必要なのか
- ・社会全体として、ワークライフバランスや少子化、女性医師の割合が増加していることを踏まえ男女の働き方の多様化の観点からも構造的に長時間労働を是正する必要がある。
- ・ところで、現状の「フリーアクセス」かつ、緊急対応などきめ細かく高い質を提供する日本の医療は、「患者のために」「医療向上のために」という医師の崇高な理念と長時間労働に支えられている。大病院への患者集中という地域性に加えて、診療だけでなく、教育や研究、医療技術のキャッチアップなどさまざまな要素が長時間労働の背景となっている。
- ・ゆえに医師のモチベーション維持や負担軽減のためにも医師の長時間労働の是正が必要である。
- ・ただし、医師の働き方改革は国民の医療ニーズと歩調を合わせる必要があり、「働き方の変革」「需給・偏在対策」「医療・介護の連携の深化」「住民・患者の健康や医療に関する意識の向上」を一体的に検討する必要がある。
- ・そのため、国の働き方改革の流れを受けた医師の働き方改革を進めるため、今後も検討を重ね2019年3月末をめどに最終報告をまとめる。別途早急に取り組むべき事項として緊急的な取り組み6項目を公表した。
論点2:医師の勤務実態の分析状況と今後の検討に関して
- ・勤務医約 24 万人のうち、長時間勤務者の多くは病院勤務医。特に 20 代・30 代の男女、40 代までの男性医師が特に長時間である。また、診療科等では産婦人科、外科、救急科等、臨床研修医、医療機関種類別では大学病院での勤務時間が長くなっている。
- ・原因は急変患者等への緊急対応、手術や外来対応等の延長などの診療関連と勉強会等への参加など自己研鑽、患者対応に伴う事務作業などが挙げられる。また診療科や地域による医師の偏在も原因である。
- ・患者の都合による診療時間外の対応や主治医による看取り対応等によっても時間外労働が発生している。
- ・自己研鑽の範囲宿日直などは、どのような場合に労働時間とみなすのか、実態を踏まえた取り扱いをすべき。
- ・診療科ごとや医療機関の種類、個々の医療機関によっても勤務実態や取り組みが異なり、引き続きの実態分析や実態にあった取り組みが必要。
- ・医師行政で医師の出席すべき会議や医師の作成すべき書類についての効率化の検討。
- ・応召義務、その他発令から時間がたった医師の働き方に関連する法令の見直しが必要。
論点3:勤務環境改善に関する取り組みの現状と今後の方向性について
- ・現状、平成26年度に枠組みが整備された医療勤務環境改善マネジメントシステムは十分に機能が発揮できていない。
- ・時間外労働規制の在り方整理だけでなく、生産性向上も含め環境改善策をどう講じていくかが重要。
具体的には、以下のような意見が出された。
- ・健康管理措置の充実として、都道府県医療勤務環境改善支援センターの活用や見直し、産業医や衛生委員会など既存の仕組みの活用事例の共有、長時間労働以外の負荷判断のためのストレスチェックの分析の導入。
- ・タスクシフティング(業務の移管)として、科目や医療機関の特性を踏まえ医師が行うべき業務か明確化した上での、特定行為研修を修了した看護師や「診療看護師」の活用、フィジャン・アシスタントの導入など新たな職種の国家資格化、医師の事務作業の事務職への移管、投薬の説明や服薬指導の薬剤師への分担。
- ・タスクシェアリング(業務の共同化)として、複数主治医制への移行、シフト制の導入、地域での診療時間外の救急対応、在宅医療を含めた外来の在り方、グループ診療や短期間での医師交代派遣。
- ・女性医師等の両立支援として、出産・育児、介護等のライフイベントが臨床に従事することやキャリア形成の継続性の阻害とならないよう、短時間勤務などの柔軟な働き方を推進する。出産・育児期の業務に画一的なルールを適用しない、eラーニング推進、病児保育等保育サービスを充実させる。
- ・ITCの活用として、テレICU(複数の ICU の集中管理)や、タブレット等を用いた予診、診断支援ソフトウェア等のICT を活用した勤務環境改善、多職種連携のためのSNS 活用。
論点4:経営管理の観点に関して
- ・医師の働き方改革に対する理解や認識の差があるため、法人形態の違いに応じた医療機関側の意識改革や労務管理に関するマネジメント改革、財政面を含めた支援が必要。
- ・経営トップや個々の現場の責任者の立場にある医師の意識改革や、使用者側に安全配慮義務を負っているとの認識が必要。
- ・医学教育や卒後教育でも健康や労務管理の基礎知識の教育が必要。
- ・経営上のメリットや労働時間削減の改善効果の事例の普及が必要。
- ・労務管理の徹底には現場の理解と対策浸透に一定の時間が必要。
- ・勤務環境改善策を進めるための財源の確保が必要。
論点5:時間外労働規制の在り方について
- ・時間外労働の上限時間を設定するに当たっての医師の特殊性とは何か、整理する必要性があるのではないか。
- ・医師の業務の特殊性を考え、いわゆる過労死ライン(労災認定基準)の1カ月100 時間・2~6カ月の各月平均で 80 時間を上限にするのは慎重にすべきではないか。また、必要な医療ニーズに対応できる医療提供体制を維持できるような上限時間とすべきではないか。
- ・現状の働き方をそのままに法律や制度を合わせるのではなく、現状を変えていくことや長時間労働をできるだけ短くするべきではないか。
- ・医療機関で診療を中心とする医師に労働時間の裁量性はないのではないか。
- ・時間給でない制度等の新たな労働時間制度の検討も必要ではないか。
以上の基本的な論点に加え、患者に質を保証するための医療安全、医師の健康確保、諸外国制度比較、地域医療提供の体制、医師養成への影響、国民の理解などを併せて検討。
論点6.関係者の役割
- ・勤務医とその雇用者である医療機関を中心に、国や地方自治体、各種関連団体、医療を利用する立場の国民や保険者などの関係者と協力して進める。
- ・都道府県は医療勤務環境改善支援センターのほか、地域ニーズに応じた適切な地域医療提供体制の構築、医師偏在対策と有機的に連携を図り、組織をあげて医療従事者の勤務環境改善に取り組む必要がある。また、上記支援センターの担当者も含め都道府県の人材育成を進めるべき。
- ・まず、関係者による枠組みが構築されてから、各医療機関での時間外労働規制の取り組みが進むという順番が望ましい。
- ・なお、緊急的取り組みは、検討会の結論を待たず、早急に進める。
法の改正を待たず、医療機関が緊急に取り組むべき6項目
あわせて、労働基準法の改正を待たずにできることは自主的に取り組みを進めることが重要であるとの考えから、都道府県や病院団体等を通じて各医療機関に周知、各医療機関で、できるものから速やかに実行することを求めていく「緊急的な取り組み」として、以下の6点が示された。
■医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取り組み
1.医師の労働時間管理の適正化
ICカードや出退勤時間記録の確認など医師の在院時間を的確に把握する。
2.36協定の自己点検
36協定を結んでいるかどうか。また、結んでいても年間360時間を超えて時間外労働をしていないかの確認。長時間労働とならないような業務の必要性を踏まえた時間外労働の見直し。就業規則等書類の確認と36協定の周知。
3.既存の産業保健の仕組みの活用
衛生委員会や産業医等、産業保健を活用し、長時間労働は診療科ごとに対応を議論。その上で、以下の4と6で掲げる事項について検討する。
4.タスクシフティング(業務の移管)の推進
初診時の予診、静脈注射など9項目*について多職種への移管を推進。
5.女性医師等に対する支援
出産、育児、介護などでキャリアが阻害されないよう働き方の多様化を推進。
6.医療機関の状況に応じた医師の労働時間短縮
1から5は全ての医療機関で取り組む。これ以外に下記の取り組みに努める
・勤務時間外に緊急でない患者の病状説明等の対応を行わない
・当直明けの勤務負担の緩和(退勤時刻の設定)
・勤務間インターバルや完全休日の設定
・複数主治医制の導入
*:初療時の予診、検査手順の説明や入院の説明、薬の説明や服薬の指導、静脈採血、静脈注射、静脈ラインの確保、尿道カテーテルの留置(患者の性別を問わない)、診断書等の代行入力、患者の移動
参考:厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」、医師の働き方改革に関する検討会「医師の働き方改革に関する検討会 中間的な論点整理」「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組」
*
前回、今回と、2回にわたり厚労省の検討委員会「医師の働き方改革に関する検討会」の議論についてみてきた。第4回となる次回は、働き方改革に対する各医療関連団体の反応を紹介する。
(文・奥田由意)
※本記事に掲載の情報は基本的に2018年3月5日時点のものです。
【関連記事】
・「【特集】今さら聞けない『医師の働き方改革』第2回|『医師の働き方改革に関する検討会』で話されたこと。その論点とは?」
・「時間外労働100時間の産婦人科で、残業時間の半減を実現!~明日から実践できる10の取り組み」柴田綾子氏(産婦人科医/淀川キリスト教病院 産婦人科 副医長)
・「大塚篤氏司に聞く「バーンアウトしない・させない」医師の働き方~かつてバーンアウトを経験した病棟医長の考える、医師を“楽しむ”ために必要なこと」
「2020年度診療報酬改定のポイントと、医師の働き方・キャリアへの影響」
・「医師が医療に殺されないために【前編】勤務医が“自分自身”のために行うべきメンタルケア」鈴木裕介氏(医師/ハイズ株式会社 事業戦略部長)
・「医師の当直の実態とは?1,649人の医師のアンケート回答結果」
・「QOL重視の医師求人特集」
コメントを投稿する