第4回:「医師の働き方改革」に関する、各医療関連団体の動き
現在、2024年の施行を目指して「医師の働き方改革」の検討が進んでいます。
医師の働き方において、何が問題とされ、どう解決しようとしているのか。医師の過重労働に依存した医療提供システムから脱却できるのか。「エピロギ」では、5回にわたり「医師の働き方改革」に関する国や医療関係団体の動きを紹介します。
シリーズ4回目となる今回は、働き方改革に関する各医療関連団体の動きや反応を取り上げます。
【特集】今さら聞けない「医師の働き方改革」
第1回:医師の「働き方改革」とは~残業時間の上限規制と応召義務
第2回:「医師の働き方改革に関する検討会」で話されたこと。その論点とは?
第3回:「医師の働き方改革に関する検討会」中間報告と、「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取り組み」
第4回:「医師の働き方改革」に関する、各医療関連団体の動き
第5回:「医師の働き方」に関わる、2018年度診療報酬の改定ポイント
医師の「働き方改革」については、医療関連団体からさまざまな意見表明がなされている。そこで、日本医師会、全国医師ユニオン、全国自治体病院協議会、四病院団体協議会、全国医学部長病院長会議の動きや見解を、以下に紹介する。
日本医師会の「働き方改革実行計画」に対する見解
医師の雇用を労基法で規定することについての疑義を呈し、勤務時間の規制に抵触しようとも医療者、国民ともに応召義務を優先してほしいという意志を表明。2017年3月29日に開かれた定例記者会見で、下記見解を発表した。
- ・働く環境改善の実現に協力を惜しむものではなく、これまでも勤務医の健康支援等に取り組んできた。
- ・地域医療に混乱をきたさない改革導入を望む。
- ・医師雇用に労働基準法を適用することの妥当性も考えたい。
- ・応招義務について、勤務時間規律に抵触しようとも、目の前の患者を救ってほしいというのが多くの国民の思いであり、医療者の思いと強調。
- ・諸問題に対し日医として検討の場で積極的に議論をリードしたい。
- ・医師増員は診療報酬財源とセットで検討すべき。
- ・引き続きかかりつけ医の育成、産業医の能力向上、相談支援機能を強化する。
参考:日医on-line「『働き方改革実行計画』に対する日医の見解を示す」
全国医師ユニオンの働き方改革に関する声明
全国医師ユニオンと東京過労死を考える家族の会、過労死弁護団全国連絡会議は2017年9月4日、医師の働き方改革に関する声明を発表し、国の働き方改革の問題点として以下の2点を挙げた。
- ・「100時間未満」の上限設定は「過労死ライン」(月80時間の時間外労働)の容認。
- ・残業時間上限規制が医師にだけ5年適用されないのは医師の健康を阻害し、医療事故の原因にもなる。
また、医師の現状について、ストレスの強い職業で健康障害に陥りやすいこと、医師の健康障害は患者へも悪影響があること、当直医は30時間を超える連続労働を行っていること、医師には1日の拘束時間の上限がないこと、医師不足を長時間労働で補っていること、医師法19条応召義務は戦前につくられた前近代的内容で医師の過重労働を助長するものになっていること、などを問題視している。
さらに、改善すべき事柄として下記を強く求めている。
- ①使用者による医師の適正な労働時間管理
- ②労働時間が自己研鑽の時間とされがちな研修医の適正な労働時間管理
- ③月80時間以上の残業など長時間労働の速やかな改善
- ④医師の健康管理を厳格化、月80時間超の時間外労働をした医師に産業医面接を実施
参考:全国医師ユニオン、東京過労死を考える家族の会、過労死弁護団全国連絡会議「医師の働き方改革に関する声明」
全国自治体病院協議会の「医師の働き方改革に関する緊急要望」
2017年9月22日に医師の働き方改革に関する緊急要望として、下記を発表している。これは、2017年9月15日の「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」の答申を受けての要望発表であり、要綱が一定の医師に対して上限時間を引き上げた時間外労働規制の適用を行うことを想定している点を問題視している。なお、要望は会員病院に対するアンケート調査をもとに意見をまとめたものである。
- ①医師の「応召義務」と「労働量規制」との関係について十分な議論と整理が不可欠。
- ②医師は業務時間と自己研鑽時間の明確な区分が困難。
- ③時間外労働規制を一律に適用すれば、地域医療に悪影響が生じる。また、現状医師の増員は不可能。
- ④勤務負担軽減の例としての一人主治医制の見直しには国民の理解が不可欠。教育と国民皆保険の危機的現状の認識の共有が必要。
参考:全国自治体病院協議会「医師の働き方改革に関する緊急要望」
四病院団体協議会での議論と訴え
一般社団法人日本医療法人協会、公益社団法人日本精神科病院協会、一般社団法人日本病院会、公益社団法人全日本病院協会で構成される四病院団体協議会は、9月27日に総合部会を開き、医師の働き方改革についても議論。
「医師の働き方改革検討会」での議論が、医師の特殊性を考慮せず一般の労働者と同列に扱う方向で進んでいることに警戒感を示し、時間外労働規制を医師に適用すれば、地域の医療現場が維持できなくなることを強く訴えるべきという方向性でまとまった。
参考:全日病ニュース「医師の働き方規制による地域医療への影響訴える」(全国日本病院協会)
全国医学部長病院長会議による「医師の働き方改革に関する声明」
2017年11月2日に「医師の働き方改革に関する声明を発表し、下記を求めている。
これは、2017年9月21日の第2回医師の働き方改革に関する検討会で、「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」結果が発表され、「大学病院の勤務時間が突出しており、とりわけ診療外の教育、研究の部分の時間が長い」と指摘されたことに対して出されたものである。声明では、業務の特殊性への配慮を求め、診療と研究と教育はモザイク状に混在し、切り分けが難しいことも示唆している。
- ①診療しながら教育、研究も行う医師業の特性への配慮。
- ②大学病院の医師が希望をもって診療しながら教育、研究できるよう配慮。
- ③医師の負担軽減のため医師事務作業補助者等の活用、多職種へのタスクシフティングの制度的、財政的な支援。
参考:全国医学部長病院長会議「大学病院で働く医師の働き方改革に関する声明」
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ここまで、日本医師会、全国医師ユニオン、全国自治体病院協議会、四病院団体協議会、全国医学部長病院長会議による、医師の働き方改革に関する動きや見解を紹介した。連載最終回となる次回は、医師の働き方改革に関する「2018年度 診療報酬」の改訂ポイントについて紹介する。
(文・奥田由意)
※本記事に掲載の情報は基本的に2018年3月5日時点のものです。
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