【要約版】今さら聞けない「医師の働き方改革」
「エピロギ」で5回にわたりお届けしたシリーズ・今さら聞けない「医師の働き方改革」。
同シリーズの全内容を凝縮し、「医師の働き方改革」に関する国や医療関係団体の動向について、押さえておくべきポイントをご紹介します。
※要約前の記事は、本記事中のリンク、もしくはページ下部の一覧からご覧いただけます。
医師の働き方改革の概要
今、国によって働き方改革が進められている。大企業は労基法の改正が予定される2019年度から、中小企業については2020年度から残業時間の上限規制が適用される予定だ。
当然、医師も残業規制の対象とされているが、労基法改正から5年は適用除外される。これは、応召義務といった医師業務の特殊性を踏まえた措置だ。
厚生労働省は「医師の働き方改革に関する検討会」(以下、検討会)を組織し、2017年8月から、医師の時間外労働規制のあり方や、勤務環境改善策などについて議論を重ねている。
「医師の働き方改革に関する検討会」では何が議論されてきたのか
本記事執筆時点で、検討会は7回の議論と1回の中間報告を行っている。
それでは、検討会ではこれまでに何が議論されてきたのか。
2018年2月に厚生労働省が公表した資料「医師の働き方改革に関する検討会 中間的な論点整理」(以下、中間報告)によれば、同会は下記6項目について議論を重ねてきたという。
■これまでの論点
1.なぜ今医師の働き方改革が必要なのか
2.医師の勤務実態の分析状況と今後の検討に関する論点
3.勤務環境改善に関する取組の現状と今後の方向性に関する論点
4.経営管理の観点に関する論点
5.時間外労働規制の在り方についての今後の検討に関する論点
6.関係者の役割に関する論点
※中間報告の資料では、2以降で検討会構成員の意見が列挙されている。
また中間報告では、上記の論点(構成員の意見の列挙)と同時に、労基法の改正を待たずに実行すべき項目として、下記6点の「緊急的な取り組み」が示された。
■緊急的な取り組み
1.医師の労働時間管理の適正化に向けた取組
2.36協定等の自己点検
3.既存の産業保健の仕組みの活用
4.タスク・シフティング(業務移管)の推進
5.女性医師等に対する支援
6.医療機関の状況に応じた医師の労働時間短縮に向けた取組
検討会による最終報告は2018年度末を目処にまとめられる予定で、医師の時間外労働規制の具体的な在り方や労働時間の短縮策の結論については、労基法改正(2019年4月予定)から2年後を目処に出される見込みだ。
なお、繰り返しになるが、医師に対する残業規制には猶予期間が設けられており、労基法の改正から5年後が目処とされている。
医師の働き方改革に対する医療関連団体の声明
ここでは、厚生労働省が主導して推し進める医師の働き方改革に関して、各医療関連団体が発した声明の中から、問題点を指摘(または示唆)する意見・要望をピックアップして紹介したい。
■日本医師会の声明
政府案に対する表立った反論は述べられていないが、日本医師会は、労働基準法を医師に適用することの妥当性について抜本的に考えていきたいと、間接的に疑問を呈している。
また、医師の応召義務については「『たとえ勤務時間の規制に抵触しようと、目の前の患者を救って欲しい』というのが、多くの国民の思いであり、医療者の思いでもある」と強調した。
参考:日医on-line「『働き方改革実行計画』に対する日医の見解を示す」(2017年4月20日)
■全国医師ユニオンの声明
全国医師ユニオンは、東京過労死を考える家族の会、過労死便宜弾全国連絡会議と共に「政府の進める働き方改革の問題点」として、以下2点の旨を明確に指摘した。
- 1)時間外労働規制の適用まで医師に認められる時間外労働の上限(月100時間未満)は、過労死ラインの時間外労働(月80時間)を容認することになる。
- 2)5年にわたり医師を時間外労働規制の適用除外とする措置は、医師の命と健康に深刻な影響を与え、かつ医療事故の原因になる。
このほか、働き方改革案に対して、深夜の交代制勤務の過重性を踏まえた労働時間の視点が欠落している(当直で30時間を超える連続労働は避けるべき)という旨の声明が出されている。
また政府の働き方改革に対し、「この応召義務を理由として医師の長時間労働を固定化しようとするものであり、本末転倒である。応召義務は廃止ないしは改正すべきである」との意見を述べた。
参考:全国医師ユニオン、東京過労死を考える家族の会、過労死弁護団全国連絡会議「医師の働き方改革に関する声明」(2017年9月4日)
■全国自治体病院協議会の声明
全国自治体病院協議会は「医師の働き方改革に関する緊急要望」としていくつか意見を発表している。
まず、医師の応召義務と労働量規制の関係については、十分な議論と整理が不可欠であるというもの。また、医師の「業務時間」と「使用者の指示によらない自己研鑽時間」の明確な区分は困難であるという意見も提示した。
さらに懸念として、医師の診療科偏在、地域偏在、病院機能の違いなどを考慮せず時間外労働規制を適用すれば、地域医療に大きな負の影響が生じる(労働量だけでなく需給バランスの議論も必要であるが、現状、医師増員の実現は困難である)と意見している。
参考:全国自治体病院協議会「医師の働き方改革に関する緊急要望」(2017年9月22日)
■四病院団体協議会の声明
上述の全国自治体病院協議会が問題視する「医師の需給バランス」に関する意見と同様に、四病院団体協議会も、医師に時間外労働規制を厳格に適用すれば、地域の救急、産科医療などが維持できなくなる可能性があると訴えている。
また、医師の特殊性を考慮せず、一般の労働者と同列の扱いで議論が進むことに対しても警戒感を示した。
参考:「医師の働き方規制による地域医療への影響訴える」(全日病ニュース2017年10月15日号)
■全国医学部長病院長会議の声明
全国医学部長病院長会議は、大学病院で働く勤務医の特性(診療をしながら教育と研究も行うこと)に配慮してほしい旨の意見を発表している。
加えて、医師事務作業補助者の活用や、多職種へのタスクシフティングなどを十分に行える制度的、財政的支援を求める旨の要望も提示した。
参考:全国医学部長病院長会議「大学病院で働く医師の働き方改革に関する声明」(2017年11月2日)
働き方改革と連動した2018診療報酬改定の中身とは
最後に、2018年2月7日に発表された2018年度診療報酬改定案から、医師の働き方改革に関連する改定ポイントを4つ紹介したい。
- 1.総合入院体制加算の要件として、これまで「病院勤務医」の負担軽減・処遇改善の体制整備が定められていたが、対象が看護師など「医療従事者全体」に広がる。
- 2. 医師事務作業補助体制加算の新たな要件として、病院勤務医の負担軽減策として効果がある複数の取り組みを計画に盛り込む案が提示された。また、点数も引き上げられる。
- 3.医療従事者の常勤配置の要件が緩和される。医師は、小児科・産婦人科・その他専門性の高い特定領域、また夜間の緊急対応の必要性が低い項目で、複数の非常勤職員を組み合わせた常勤換算が可能となる。
- 4.情報通信機器を用いた診療について、新たにオンライン診療料とオンライン医学管理料が新設される。
*
医師の働き方改革は、単に「労働時間を短縮すればよい」という話ではないだろう。 応召義務に代表される医師の特殊性は、どこまで配慮されるのか。
地域偏在・診療科偏在の問題と労働時間規制は、どう折り合いがつけられるのか。
エピロギでは、引き続き「医師の働き方改革」の動向を追っていきたい。
(文・エピロギ編集部)
※本記事に掲載の情報は基本的に2018年3月5日時点のものです。
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【特集】今さら聞けない「医師の働き方改革」
第1回:医師の「働き方改革」とは~残業時間の上限規制と応召義務
第2回:「医師の働き方改革に関する検討会」で話されたこと。その論点とは?
第3回:「医師の働き方改革に関する検討会」中間報告と、「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取り組み」
第4回:「医師の働き方改革」に関する、各医療関連団体の動き
第5回:「医師の働き方」に関わる、2018年度診療報酬の改定ポイント
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