卒後10-20年、中堅医師としての道を拓く 若手医師を育てる「Teaching Skill」講習会

【第10回】あいうえおPNP

浜田 久之 氏(内科医/長崎大学病院 医療教育開発センター センター長・教授)

新専門医制度が開始されることになり、若手医師への適切な指導やキャリア育成が、以前にもまして重要な課題となっています。制度への期待と不安が入り混じるなか、若手医師の育て方で試行錯誤している中堅医師の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

本シリーズでは、医学博士・教育学博士であり、内科医として毎日現場で若手医師の指導に力を注ぐ浜田久之氏(長崎大学病院 医療教育開発センター長)に、明日から実践できるノウハウを12回連載で解説していただきます。

第10回は、前回ご紹介した教育法、PNP(褒める・叱る・褒める)の実践方法を身に付けましょう!

褒められたり、怒られたりしながら人は育っていきます。幼稚園の先生は優しかったなあ~、小学校の先生は怖かった、中学の部活の先生はもっと怖かった、予備校の先生は面白かったなあ、時々切れたけど……。どの先生も、あなたを褒めたり、怒ったりしながら教えてくれたのではないでしょうか。
人それぞれ、先生の思い出があると思いますし、おそらく、ご両親もそうだったでしょう。

 

サンドイッチ法=PNP

前回申し上げたように、フィードバックの基本は、positive negative positive(PNP)です。

褒めて→注意して(叱って)→褒める

「叱る」をサンドイッチのように「褒める」で挟む、PNP。レタスの苦い部分を、ほんのり甘いマヨネーズを塗ったパンで挟むとおいしくなるのと同じです。

では、どれくらいの頻度で、褒めたり怒ったりすればいいのでしょうか?
これについては、さまざまな研究がなされています。

 

1対6

ざっくりというと、「叱る:褒める=1:6」で行うと生産性や効率性が上がるというデータは多いと思います。バティー先生もシーソーのスライドをみせて、1オンス(叱る言葉)と6オンス(褒める言葉)が釣り合うと紹介していました。当時私は、「6回も褒めることができるか!?」と思いました。正直なところ無理でしょう、というのが私の第一印象でした。

しかし、練習すれば、案外簡単だったのです。

それでは、第8回の題材をベースにロールプレイングをやってみましょう。
当直帯で、研修医は、発熱の患者さんを診察しました。研修医は「呼吸器感染症のようなので、採血と胸部レントゲンを撮りたい」とあなたに電話報告をしました。あなたは当直室から救急外来へ降り、確認のために患者さんの問診と診察をしました。

あなたは、こう考えます。
「まあ、採血と胸部レントゲンも悪くないが、全身症状が強いからウイルス感染だろう。採血とレントゲンは、おそらく正常だろう。チェックするなら、まずはインフルエンザの迅速検査だな。この時期でも時々出ているし……」

あなたは、本当はこう言いたい。
まずはインフルチェックじゃないか! 前回の当直の時、教えただろう!
しかし、ここでがまんです。あなたは、良い指導医になりたいので、良い指導医のふりをして、PNPを使います。

 

「あいうえおPNP」

  • 指導医「りがとう(P)いね~(P)、レントゲンと採血ね。考えてるじゃん、れしいね~。感染症を狙ってるわけね。~、でもね(N)感染症なら、熱が39度あって全身倦怠感がある場合、何か忘れてない?」
  • 研修医「インフルエンザ……ですか?」
  • 指導医「ッケー(P)、大正解。じゃあ、迅速検査出しといてね。ありがとう(P)。君、今日は、いいね~(P)。さあ、この調子で次の患者さんね~」

 

「さしすせそPNP」

  • 指導医「すが(P)A君だね、医師になって、まだ3ヵ月だろう? よくアセスメントできたね、んじられないよ(P)ばらしい!(P)っかくだから(N)完璧にしたいね。迅速検査を追加したいけど、何か思いつく? インフルエンザ、この時期でもあるんだよ。うか~(P)気づいてたんだね、さすが(P)A君、すばらしい(P)!」

 

Pを口癖にする

どうでしょうか? 6回、褒めていますよね(笑)。
褒める場合は、相手の行為を具体的に褒めるべきだ(例、君の患者説明の時の微笑みが良かった)ともいわれますが、それは結構難しいです。まずは自分が言いやすい褒め言葉を見つけて、繰り返し使うことから挑戦してみてください。

呪文のように褒め言葉を唱える。私も非常に苦手でしたが、カナダから帰国してから、練習しました。今では臆面もなく、若手を褒めることができます。

「君、最高! グレート! しびれるね~!」

矢沢永吉の熱烈なファンの私は、永ちゃんになったつもりで、言っています(笑)。表面的ではなく、心をこめて、本気で言っています。不思議なものですが、何度も繰り返すうちに、本気でそう思って言えるようになるのです。

 

Nの言い方(合図)

それではNのポイントについても解説します。パターンとしては以下のような例があります。

  • マイルド系N「え~、……」「せっかくだから、」「でもね……」
  • ハード系N 「一点ダメだね」「ダメ出しする点は……」「間違っていることは」
  • ドS級N   「おまえ、ふざけるんじゃないぞ!」「おまえ、患者、殺すのか!」

ドS級N(私の研修医時代は、こればかり)は、今はパワハラで訴えられますので、やめてくださいね。いずれにしろ、Nの出し方のポイントは、「Negativeフィードバックに入りますよ~」という合図を送ることです。いきなり大声をあげて怒っても、相手はびっくりするだけですから、今から大事な注意を送りますよ~というサインを出し、心の準備をさせることが大切です。

例えば、視線を合わせる、指を差す、腕組みするといったボディーランゲージを使用したり、声のトーンを下げたり上げたりして口調を変えたり、近寄ったり、遠ざかったりの身動きもありです。ここで重要なのは、決して拳を握ったり、机をたたいたりしないことです。怒りが倍増し、負の連鎖に入ってしまいます。

Nを出すときに、淡々と指摘し、怒らないようにするための秘策があります。
座って背もたれに体をあずけ、視線を合わせ、手のひらを相手に向けると、強いNでも攻撃的な雰囲気がなくなります。ぜひ、実践してみてください。立っている時にNを出すときは、相手から少し離れて、手のひらを見せるように(あるいは、振ってみせるように)してみましょう。

 

Nの頭出し

また、Pと同様にNについても、先生の口癖を決めておくべきです。私の場合は、上記のマイルド系N、ハード系Nの他に、下記を使います。

「いいか、ここからは、メモを取れ」
「おまえ、今から言う点を改善しないと、とんでもないことになるぞ」

 

NからのPへの転換

叱った後に、褒めるのは、難しいですよね。空々しい感じがしてしまいます。
互いに気まずい雰囲気の時に、どうするか? が一番難しいのです

しかし、実はこれを解決する簡単な方法があります。
それは、握手をすることです。
叱った後に、いきなり手を差し出します。だいたい普通の人は、目の前に差し出された手があると、握手をしてきます。その手をぎゅっと握って、「ちょっと、俺、言い過ぎたかもしれないが、お前に期待している」のような、男気の指導医のふりをします。女性の指導医の場合、「あなたのためを思って言ったのよ、悪く思わないで」などのフォローでしょうか。
これを実践できたら、あなたも一流のカリスマ指導医になれるかもしれませんね。

「笑顔」「手を叩く」「深呼吸をする」などもNからPへの転換の時に、有効です。

 

NのあとのPは、全体をまとめて、元気づける

NのあとのPは、基本的には全体のまとめです。研修医の行為に対する、ポジティブな感想になります。

  • 「注意した点に気を付けてやってね。全体的には、すごく良かったから自信を持って」
  • 「俺、怒ったけどさ、トータルでは、グッド、悪くない。いい感じ。次も頑張ろうぜ」
  • 「結果的には、無事患者さんが帰ったからOK。反省点はあったけど、結果オーライ」
  • 「今は失敗の経験が大切だよ。患者さんへの対応はものすごく良かったよ。大丈夫」
  • 「ミスはミス。でもね、しっかり原因も確かめたし、今度はちゃんとやれるよ」

今まで1000人以上の指導医に「PNP」を伝授してきたのですが、皆さんから色々な反響が届いています。
「これで、旦那を再教育します」「僕の子育て方法を見直します」
「患者さんの教育にも使えます」「上司に使ってほしいです……」
「嫁にPNPしたら、浮気の疑惑をかけられました(笑)」
「褒めると、自分も楽しいですね」「殺伐とした臨床に、ちょっと明るさが加わりました」 などなど。

ぜひ、楽しみながらPNPを使ってみてください!

<参考>
・Maryellen Weimer「Feedback:Negative, Positive, or Both?」(2010、「FACULTY FOCUS」)
・Jack Zenger、 Joseph Folkman「The Ideal Praise-to-Criticism Ratio」(2013、Harvard Business Review)
・Wikipedia「Critical positivity ratio

 

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浜田 久之(はまだ・ひさゆき)
大分医科大卒。内科医、消化器内科専門医、プライマリケア学会指導医。
博士(医学)、博士(教育)。認定医学教育専門家。
予備校講師・学習塾経営を経て、長崎の内科医局に入り地域の中小病院で働く。卒後5年目頃より研修医指導をしながら、野戦病院にて総合診療病棟等の立ち上げ等に関わるが、疲弊し辞表を提出したことも。
10年目、逃げるようにトロント大学へ。帰国後開業するつもりだったが、カナダの医学教育に衝撃を受ける。帰国後、社会人大学院生として名古屋大学大学院教育発達科学研究科で学びながら、カナダで修得した成人教育理論を基礎としたTeaching技法を伝える指導医講習会を主催。現在1000名以上が受講している。
「教うるは学ぶの半ばなり」。日々挫折や葛藤の中で学び続けている。
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