医師が得する"お金"のハナシ

【2018年版】地域別、医師の年収比較~生涯年収の地域差が縮小

都市部よりも地方が高いといわれる、医師の給与水準。エピロギでは『病院賃金実態資料』(医療経営情報研究所・編)を元に、2015年に「『地方のほうが給与は高い』は本当?」の記事を公開し、大都市圏と地方の医師の収入差を考察しました。この3年間で状況に変化はあったのか、『2018年版 病院賃金実態調査資料』から最新事情を読み解きます。

 

中堅医師の格差が拡大も、25年目以降はほぼ同水準に

2015年版の調査では、医師の平均年収は、政令指定都市および東京23区(以下、「大都市圏」)をその他の地域(以下、「地方」)が上回りました。また格差は若手医師ほど大きく、経験年数が増すにつれ縮小する傾向が見られました。2017年版の調査でも同様の傾向が見られましたが、若手~中堅医師では格差の縮小が見られました。

 

105_医師が得する'お金'のハナシ_2018_図1

 

105_医師が得する'お金'のハナシ_2018_図2

 

下の図表は、大都市圏と地方で、病院勤務医の平均年間賃金を経験年数別に集計したものです。これを見ると、2015年版の調査と同様に、大都市圏よりも地方の年間賃金が概ね高額であることが分かります。

大都市圏における経験年数0年(初期研修1年目)の年間賃金は482万円で、全国平均に対して136万円低くなっています。経験年数が上がると年間賃金も上昇し、経験年数25年で全国平均を上回る1,555万円となります。これ以降の年代では、全国平均との大きな賃金差は見られません。

一方、地方の年間賃金は、経験年数0年から20年まで全国平均をやや上回る値で推移します。経験年数0年の年間賃金は、全国平均を42万円上回る659万円。経験年数が上がると年間賃金も上昇し、経験年数20年で1,569万円に達します。これ以降の年代では、全国平均との大きな賃金差は見られません。

 

105_医師が得する'お金'のハナシ_2018_図3

※画像はクリックで拡大できます

 

2017年版と2018年版の地域差の変化を比較してみると、経験年数10~20年の中堅医師を中心に地域差が拡大していることが分かります。大都市圏と地方の差が最も大きいのは経験年数0年の1.37倍で、2017年の1.21倍から拡大しています。その後も経験年数3年、10年、15年、20年で格差の拡大が見られました。
ただし大都市圏が地方の年間賃金を上回るタイミングは早まっており、2015年版では経験年数35年、2017年版では30年までかかったのに対し、2018年版では25年で年間賃金がほぼ一致しました。ベテラン医師の年収格差が縮小していると見ることもできますが、病院の採用支援に取り組むコンサルタントからは「地域格差が縮小している実感はない」との声もあり、長期的に推移を見守る必要がありそうです。

また大都市圏の若手医師に着目してみると、経験年数0年から20年までの年間賃金に、全国平均を上回る減少傾向が見られます。特に経験年数0年の医師の年間賃金は、2017年版の600万円台から400万円台に大きく減少しました。
この要因の一つとみられるのが、2018年4月に運用が開始された新専門医制度です。新制度の導入にあたり、専攻医(かつての後期研修医)が大都市圏へ集中すると見込まれたため、東京や大阪など都市部の5都府県では採用者数に上限が設けられました。大都市圏における若手医師の賃金の減少は、こうした傾向を見据えて、病院側が賃金を引き下げたためと考えることもできるのではないでしょうか。
また、今回のデータには残業手当や休日出勤手当など所定の労働時間外の労働に対して支払われる賃金が含まれないため傾向は読み解けませんが、働き方改革に伴い初期研修医の残業に配慮をしているという医療機関の方の話もしばしば耳にします。残業手当まで含めると、経験年数0年目、1年目賃金の下げ幅がさらに大きくなっている可能性もあります。
ただし地方でも経験年数10年から20年を除く時期で年間賃金が減少していることを踏まえると、こちらも長期的な視点で推移を見守る必要がありそうです。

 

生涯賃金の格差は約4,900万円に縮小

上記の2018年版のデータを元に、経験年数0~35年の年間賃金の合計値(=生涯賃金)を推計すると、以下のようになります。

 

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※画像はクリックで拡大できます

 

生涯賃金の推計値は、大都市圏の医師は前年から約732万円減の約4億5,141万円、地方の医師は約1,483万円減の約5億31万円となりました。
地域を問わず生涯賃金が減少したものの、大都市圏の下げ幅が少なかったことから地域差は縮小しています。格差は1.11倍となり、2015年版および2017年版の1.12倍から微減。また差額も約4,900万円となり、2015年版の約5,200万円、2017年版の約5,600万円から縮小しました。
平均年間賃金は年度ごとのばらつきもあり、病院の規模や勤続年数、診療科、役職などによっても大きく変わるため、必ずこの傾向に当てはまるわけではありません。

2019年以降の調査で注目しておきたいポイントとしては、新専門医制度の影響が挙げられます。新医師臨床研修制度が始まった2004年以降、初期研修先として大学病院を希望する新人医師の割合は減少を続けてきました。しかし新専門医制度への移行により、医師の転職を支援するキャリアコンサルタントによると、大学病院への初期研修医の回帰傾向が見え始めているようです。
これは、専門医資格の研修基幹施設の要件が変更し大学病院やそれに相当する大規模施設でないと満たせなくなったことや、専門医制度の先行きがいまだ不透明なことの影響と思われます。結果、初期研修先選びの段階から大学病院を選ぶ傾向が見え始めているのではないでしょうか。大学病院の多くが各地域の主要都市や、東京や神奈川などの大都市圏に集中することから、今後、若手医師の都市部への集中がさらに加速するかもしれません。

「エピロギ」では引き続き、医師の給与水準の推移や、医師の働き方の変化を追いかけていきます。

(文・エピロギ編集部)

※生涯賃金推定値の算出方法

引用元のデータに記載のない経験年数
(2,4,6,7,8,9,11,12,13,14,16,17,18,19,21,22,23,24,26,27,28,29,31,32,33,34年目)の年間賃金を、前後の経験年数の賃金より推定した上ですべて合算。
経験年数2年目と4年目は、それぞれ経験年数1,3年目と3,5年目の年間賃金の中間値を採用。
そのほかの経験年数については、5n年目から5(n+1)年目まで(nは自然数)は経験年数と年間賃金が正比例の関係にあると仮定し、以下の計算式により算出。
a=5n+b (nは自然数、b={1,2,3,4})とした場合の、a年目の年間賃金推定値
a年目の年間賃金(推定値)
={5n年目の年間賃金}+[{5(n+1)年目の年間賃金}-{5n年目の年間賃金}]*b/5

<参考>
・医療経営情報研究所編『2018年版 病院賃金実態資料』
・一般社団法人 日本専門医機構 理事長 吉村博邦「新専門医制度の開始にあたって
医師臨床研修マッチング資料「過年度医師臨床研修マッチング統計」

 

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