医師にとって使いやすい電子カルテとは?富士通Japanの担当者に聞く、これからの電子カルテ

田中 宏明 氏、金川 賢一 氏(富士通Japan株式会社)

医師が診療を行う際に利用する頻度が最も高い機器・設備がカルテです※1 。そのため、「カルテの記載やカルテの情報の利用をいかにしやすくするか」というのは医師にとって働きやすい環境作りにも有用といえます。

最近では病院でもクリニックでも電子カルテが広く普及していますが、その中でも多くの病院やクリニックで利用されている電子カルテメーカーが富士通Japan ※2です。

以前に株式会社メディウェルで実施した医師のアンケートからは、「富士通の電子カルテが使いやすい」といった意見も多かった※3のですが、富士通Japanでは医師にとっての使いやすさ向上のためにどのような取り組みをしているのでしょうか?富士通Japan株式会社の電子カルテ担当者の方にお話を伺いました。

今回お話を伺った富士通Japan電子カルテ担当の方

  • 田中 宏明 氏(ソリューションビジネス本部 ヘルスケアソリューションビジネス統括部 ヘルスケア第一ソリューションビジネス部 部長)
  • 金川 賢一 氏(ヘルスケアソリューション開発本部 電子カルテソリューション事業部 シニアマネージャー)

「これまでのデータをこれからのために」―富士通Japanが目指すヘルスケア

――Q. 富士通Japanの電子カルテの特徴についてお聞かせください。

[金川]
それではまず電子カルテを含むヘルスケア事業全体について富士通Japanが目指していることについてお話しします。

前提条件として、高齢化が進んで超高齢社会を迎えている日本では、医療費の問題や医療提供体制の維持などが社会的な課題となっています。一方、最近では新型コロナの影響もあり、オンライン診療など臨床現場で新たな診療スタイルへの変化が起きてきている中で、それに対応する技術面でのニーズも増えてきています。

そのような中、厚生労働省は「データヘルス改革」として

  1. 1. ゲノム医療・AI活用
  2. 2. 医療・介護現場の情報利活用
  3. 3. 自身のデータを日常生活改善等につなげるPHR
  4. 4. データベースの効果的な利活用

の4つの実現を推進しています。この実現のためには、電子カルテなどのデータを自由に活用でき、様々なシステムに繋げられるようにしていく必要があります。

そこで富士通では、電子カルテのデータを患者自身が確認できる仕組みを整えたり、データを先端医療、個別化医療、地域医療連携などの場でより利用しやすくなるように、Web-APIの提供などの取り組みを実施しています。

電子カルテを中心として、「これまでのデータをこれからのために」活かすことで、人々の健康に寄り添った医療を実現する仕組みの構築を目指しています。

富士通Japanが目指すヘルスケア

現在大規模病院向けに提供している電子カルテシステムHOPE LifeMark-HXも、病院だけでなく社会全体でデータを循環させて価値を生み出す基盤となり、Healthcare Transformation (HX) の実現に貢献しています。

スタンダードな電子カルテとなることを目指して

――Q. 社会全体での情報の活用についてお話しされましたが、医師からのアンケートでは、異なる会社間の電子カルテの互換性に難を感じている場合が多く見受けられます。これに対してはどのような取り組みをしているのでしょうか?

[田中]
互換性にはデータと操作性の2つがあると思います。このうち、先ほど話の出たWeb-APIの提供はデータの互換性に関する話です。

一方で操作性については、特に医師の方々は非常勤などで様々な病院で働く機会も多く、病院間で異なる会社の電子カルテの見方や入力方法などの操作性に不便を感じているのだと思います。

富士通Japanは電子カルテシステムを、大規模病院・中小規模病院・診療所のそれぞれに提供しており、システムとしての規模感は異なりますがベースとしては共通のものを提供しています。

異なる規模の多くの医療機関に導入いただき、操作性に関する要望を吸い上げ、提供する電子カルテパッケージに反映させることで、多くの利用者にとってスタンダードな電子カルテになることを目指して日々取り組んでいます。

最新の電子カルテと従来の電子カルテとの違いは?

――Q. 富士通Japanの従来の電子カルテであるHOPE EGMAIN-GXと、最新のHOPE LifeMark-HXとの間にはどのような違いがあるのでしょうか?

[金川]
これまで院内のデータは個別の部署や用途に応じてそれぞれ管理されていました。そのため、例えば手術記録と退院サマリに「年齢」「体重」という共通の項目があってもそれぞれ入力するという手間が発生していました。

最新のLifeMark-HXでは、様々なデータの形式を揃えて統合して利用できるようにしたことで、そうした二重入力の手間を徹底的に排除しています。またデータの活用もしやすくなり、カルテ内のデータを横断的にキーワード検索できるようにするなど、過去の症例を調べるといったことも簡単にできるようになりました。

二重入力の手間を排除した電子カルテ

画面の見やすさや入力のしやすさなど操作性の面でも、利用者や利用シーンに合わせてカルテの初期画面を自由にカスタマイズできるようにしています。外来・入院それぞれで最も使う項目を初期画面として設定することで閲覧や操作の手間を最小限にすることができます。

利用シーン・利用者に合わせてカスタマイズできる電子カルテ

また、最新の電子カルテシステムでは業務の継続性を担保する変更も実施しています。これまでは点検やレベルアップの作業中はシステムを停止していたので、その間に救急対応などがあった際にカルテの入力や閲覧ができないといった状況となっていました。

HOPE LifeMark-HXでは仮想サーバを二重化したことで、点検やレベルアップ作業中も業務を停止することなく電子カルテを使うことができるようになっています。

クライアント側のPCに保持するマスタやアプリを減らしているので、ソフトウェア配布に要する時間が短縮され、診療前に発生する端末の使用までの待ち時間を解消します。

――Q. こうした新機能を実装するにあたり、どのように医師の意見を参考にしているのでしょうか?

[金川]
富士通Japanでは定期的に実際のユーザーに使ってもらいフィードバックを得るというユーザー会を実施しています。そこから出た意見を参考にしながら改善や新規開発を行っていくことで、利用者にとってより使いやすいシステムを提供できるよう日々取り組んでいます。

病院独自の電子カルテの難しさ

――Q. 電子カルテの機能改善のお話を伺うと、様々な積み重ねの上に今の富士通Japan製の電子カルテができているのだということを改めて感じるのですが、病院によっては導入費用を抑えようと独自の電子カルテを作って使っている場合もあります。
 以前実施した医師のアンケートでは「独自のカルテが使いにくい」といったコメントもあったのですが、富士通Japanの電子カルテ担当者から見て、独自開発の電子カルテにはどのような難しさがあるのでしょうか?

[田中]
電子カルテのシステムは、大規模病院になればなるほど複雑になってきます。それを独自ということは、長期的な目で見るとシステム開発のコストや維持管理費がかなり大きくなるのではないでしょうか。

また、医療は診療報酬の改定をはじめ、法改正による変更も多い領域です。そのため独自のシステムでその変更に個々に対応をしていくのは大変な作業になります。その点、パッケージ化された製品であれば変化にも対応しやすいです。

富士通Japan電子カルテのクラウド化に向けた課題

――Q. HOPE LifeMark HXはサーバを院内に置くオンプレミスのサービスとのことですが、最近は電子カルテに限らずクラウド化の流れが強くなっていると思います。富士通Japanでは電子カルテのクラウド化についてはどのように考えていますか?

[田中]
そうですね、利用者からの声としてもクラウド化の要望はやはり多いです。

実際に当社でも200床以下の規模の病院向けにはクラウドの電子カルテも提供しています。

中小規模病院向けの富士通Japanのクラウド型電子カルテサービス「HOPE Cloud Chart Ⅱ 中小規模病院向けの富士通Japanのクラウド型電子カルテサービス「HOPE Cloud Chart Ⅱ」

ただ、大規模病院になってくると扱うデータ量も多く、十分な通信回線の確保など、クリアしないと行けない課題が多くなってきます。また、検査機器などによってはどうしてもオンプレでないといけないものもあり、なかなか完全なクラウド化には移行できていません。

しかし、クラウド化については要望が多いところでもあるので、実現に向けて進めております。

医師が感じる不満や要望についての富士通Japan電子カルテ担当者の回答

――Q. 電子カルテについて様々なお話をいただきありがとうございます。最後に、医師のアンケートから出てきた、電子カルテについての不満や要望についてまとめましたので、そちらについてお答えいただいてもよろしいでしょうか?

[田中]
はい、大丈夫です。

1.各社で電子カルテの仕様が異なりすぎる

[田中]
そうですね、電子カルテの仕様の違いについては先程もお話が出たところですが、これまでベンダー間の競合の中で、各社の機能差別化が重視されてきた面は確かにあります。

ただ、医療安全やデータ後利用を考慮したデータの互換性など標準化するべき部分に関しては、積極的に標準化に対応していきたいと考えています。また操作性については、直感的に誰でもわかる、簡単だと思えるものを目指して日々取り組んでいます。

2.辞書登録が適切でなく変換がうまくできない

[金川]
医療用語の変換を効率的に行うには、医療用辞書サービスを別途導入する必要があります。そのため、富士通Japanから医療機関に新しい電子カルテの導入を提案する際には、医療辞書も合わせて提案するようにしています。

3.同時閲覧ができない

[田中]
これに関しては、富士通Japanの電子カルテは同時閲覧・同時入力ができるというのが強みとなっております。

4.院外からも確認したい

[田中]
もともと電子カルテはセキュリティをとにかく強固に、堅牢にするという考え方でした。そのため、院外への持ち出しというのは従来は想定されていませんでした。

ただ、最近増えてきている在宅医療や地域連携など様々なニーズに対応する必要もあり、現在はオプションサービスという形で、院外で電子カルテの利用にも対応できるようになっています。

5.音声入力できるようにしてほしい

[田中]
電子カルテの外付け用のツールとして音声入力用のマイクとの接続にも対応しています。ただ、コストが追加になることもあって広くは普及していない現状です。

最近は家庭や職場でスマートスピーカーも広く普及してきていますが、医療の現場でも記録だけでなく指示に対して適切な回答を返してくれるようなニーズもありますので、対応できるよう取り組んでいきたいと思っています。

電子カルテについてはまだまだ課題がありつつも、富士通Japanの担当者からは、医師を含め利用者にとって使いやすいものにしていくために日々改善を重ねていることを伺うことができました。医師の業務においては事務作業の負担も少なくないため、こうした改善により医師にとって働きやすい環境が整備されていくことを期待したいですね。

(聞き手・文=エピロギ編集部)

 

【関連記事】

<注>

  1. ※1 職場の機器・設備に関する医師1,730名のアンケート結果より。
  2. ※2 2021年4月より、富士通株式会社の電子カルテ担当部門は富士通Japan株式会社へと移管された。
  3. ※3 同上のアンケートより。「富士通」に関する自由回答としては以下のものがあった。
      ■【任意】業務で利用する機器や設備の中で、特にこだわりたいものなどがあれば教えてください(電子カルテ・内視鏡のメーカーや当直室・医局の環境など)
    • ・富士通(50代男性、その他診療科)
    • ・電カルは富士通の方が使いやすい。(40代男性、放射線科)
    • ・電子カルテは富士通が使いやすい(30代男性、小児科)
    • ・富士通(20代男性、内分泌・糖尿病・代謝内科)
    • ・富士通のでんしかるて、聖路加と同じCD-R 作成機(40代男性、その他診療科)
    • ・電子カルテは、色々な病院のものを使用しましたが、富士通が使いやすいです(30代女性、小児科)
    • ・電子カルテは富士通しか勝たん(20代男性、泌尿器科)
    • ・メドトロニクス(デバイス)、富士通(電子カルテ)(40代男性、消化器外科)
    • ・電子カルテは富士通性が良い(50代男性、精神科)
    • ・富士通のカルテ、オリンパスのファイバー、手術室のファイバーは4k希望(20代女性、耳鼻咽喉科)
    • ・FUJITSU(50代男性、循環器内科)
    • ・性能の高い電子カルテが望ましい(FUJITSUとか)(60代女性、神経内科)
    • ・FUJITSUの電子カルテは使いやすい印象を持っています。(50代女性、リウマチ科)
    • ・電子カルテはFUJITSUなので、医局の個人のパソコンはFMVです(30代男性、泌尿器科)

    • ■【任意】職場の機器や設備に関して、これまでに不便や快適でないと感じたことがあれば教えてください
    • ・富士通の電カルが使いにくい(30代男性、消化器内科)
    • ・電子カルテが富士通やNECでないため、非常に不便である(50代男性、消化器外科)
    • ・電子カルテが富士通のEG mainであり、修正ができない。(50代男性、消化器外科)
    • ・電子カルテ(NEC、富士通)(40代男性、心臓血管外科)

    • ■【任意】今後、職場に導入して欲しい機器や設備があれば教えてください
    • ・富士通の電子カルテ(40代男性、消化器外科)
    • ・富士通の電子カルテ(50代男性、整形外科)
    • ・富士通の電子カルテ(30代男性、消化器内科)
    • ・fujitsuの電カル、ロボット、胸腔鏡の新しいセット、手術室のCT(30代男性、呼吸器外科)

    • ■【任意】自身が勤務する上で、どのような機器・設備が整った職場が理想だと思いますか?
    • ・富士通電子カルテ(30代男性、消化器内科)
田中 宏明 氏、金川 賢一 氏(富士通Japan株式会社)
・田中 宏明 氏(ソリューションビジネス本部 ヘルスケアソリューションビジネス統括部 ヘルスケア第一ソリューションビジネス部 部長)
・金川 賢一 氏(ヘルスケアソリューション開発本部 電子カルテソリューション事業部 シニアマネージャー)
https://www.fujitsu.com/jp/group/fjj/
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