弁護士が教える医師のためのトラブル回避術

第1回 クチコミサイトへの投稿から見るクレーム回避術

1. クチコミサイト・ネット上の評判も無視できない

 近年、病院や医療機関に関する情報を交換するクチコミサイトや掲示板がインターネット上に多く開設されています。インターネット上でやり取りされるクチコミには、良いものも多くありますが、中にはクレームのようなクチコミや名誉棄損に当たるようなクチコミものもあります。

 ご自身の名前と信用によって仕事をなさっている医師の方々は、一般の会社員などよりも格段に批評にされやすい立場にあり、加えて、医師と患者という関係上、患者側にも直接不満を伝えることに心理的抵抗があることから、患者のネガティブな体験がインターネット上での悪評につながりやすいという側面もあります。

 他方で集客や転職活動においてはネット上のネガティブな情報が命取りになることもあります。インターネット上での悪い評判や中傷については、軽視せずできる限り回避してゆきたいところです。

 今回は、実際にクチコミサイト等に投稿された悪いクチコミ・評判を題材に、どのような場合にクレームや中傷につながりやすいのかを確認するとともに、悪意ある名誉棄損等にあってしまった場合に取りうる手段について整理してゆきます。何をいまさらという当たり前のことばかりではあるのですが、実際の事例に触れることで、再確認をしていただければと思います。

 

2. どのような中傷やクレームが多いのか

 病院や医療機関に関する悪いクチコミの中で、よくある典型的なケースは以下の4つの類型に分類できます。

① 医師の説明不足に関する不満
② 医師の発言・態度に対する不満
③ 医師のプライベートに関する事項
④ 治療行為自体の問題(医療過誤)

  このうち、④の治療行為の問題については、実際に医療過誤を起こさないということが重要なことは当然ですが、「医療過誤」「医療ミス」なとどいうクチコミがなされていたとしても本当に医療過誤といえるような事象が原因となっているケースはむしろ稀です。適切に治療行為を行っていたものの、その「適切な治療行為」が患者の期待していた治療とは異なっていたというだけのケースが大半であり、実際のところ①の患者に対する説明の問題が原因となっていることが多いようです。

 そこで、①~③について、具体的な事例を取り上げつつ見てゆきたいと思います。なお、以下で取り上げるクチコミは、個人特定ができないように実際にネット上に投稿されたいくつかのクチコミを組み合わせるなどしています。

 

3. 典型的な悪評の事例

① 医師の説明不足に関する不満

 咳が酷く高熱もあったので肺炎かもと心配して受診したが、冷たくあしらわれた。「レントゲンも撮れますけど、心配している肺炎は大丈夫でしょう」と言われ、特段の説明もなく薬だけ出された。こちらから質問をしても、「関係ない質問なんかするな」といった態度。

 心配して金払ってまでわざわざ行ってるんだからもう少し対応の仕方を考えてほしい。

 十分な説明が受けられなかったという趣旨のクチコミは非常に多くあります。他方で、良い評価がなされているクチコミの内容を見ると「先生も丁寧に説明して下さり」「説明も丁寧で質問にもじっくり答えてくれ」などと、医師の説明が丁寧であったことに触れられているものが非常に多くあります。

 医師による詳細かつ丁寧な説明に対する患者のニーズは高く、中傷やクレームに発展しやすい場面であることが見て取れます。

 

② 医師の発言・態度に対する不満

 混んでいるのは仕方がないと思いましたが3時間待ちで、診察室に入るなり「早く椅子に座りなさい」と。症状の説明をしても、こちらが良かれと思って言ったことにも、”そうじゃなくて”と説教っぽくかなり上から物を言う先生です。こちらは専門家ではないので、そんなこと言われても……と。お金儲けのことばかり考えて患者のことを考えてくれていないと思いました。

 看護師さんや受付のスタッフさんは丁寧な対応で好感を持てただけに残念です。

 医師の発言内容や態度に関するネガティブな記述も多くなされる類型です。また、発言・態度を前提に、医師としての資質や倫理感に対する非難がなされることもあります。特に「拝金主義」「金儲け」「上から目線」等といった非難は多く目につきます。このような印象を持たれやすい職業であることを改めて認識しておくことで回避できるトラブルもあるのではないでしょうか。

 

③ 医師のプライベートに関する事項

 院長がスタッフと不倫しており職場の風紀が乱れています。医師としての能力自体は高いのでこの辺を気にしない方にはお勧めします。

 この類型は受診した患者がクチコミを投稿するというよりは、その職場の誰かが匿名掲示板に投稿するようなケースも多いのですが、真実か否かは問わず医師の私生活上の良い印象を与えない事実について投稿されるケースもよく見かけます。

 

4. 無用な中傷やクレームを避けるための対策

 基本的な対策としては、上記のようなネガティブなクチコミに発展しやすい類型と場面を改めて認識することが大切です。誰しも人から悪く思われようとは思いませんので、ポイントを理解しておくだけで与える印象は大きく変わります。

 特に重要なのが患者に対して質問を受け入れる姿勢を見せることのようです。おそらく医師の方々の専門的な立場からすれば基本的には十分な説明がなされているケースが大半だと思われますが、患者側がそのまま同じように十分な説明を受けたとの印象を持つかは別です。医師の方から「なにか確認されたいことはありますか?」といった感じで話を振ってあげることで説明の部分の印象は非常に良くなります。

 そして、対応にメリハリをつけるということも有効なようです。細かな事柄を異常に気にする人などはトラブルに発展しやすいため、通常の場合に比べより注意深い対応が求められます。

 なお、患者とのやり取りだけではなく、看護師等への指示や発言についてもよく見られていますので、こちらも同様の注意が必要です。

 

5. それでも中傷や悪いクチコミを書かれてしまったら?

 以上、ネガティブなクチコミの類型を取り上げましたが、実際にこのような投稿がなされてしまった場合にはどのようにしたらよいのでしょうか。特に③の「医師のプライベートに関する事項」の類型については悪意ある中傷としてなされるケースも多く、回避することが不可能な場合もあり得ます。

 ネガティブなクチコミには、「削除する」「投稿した人物を特定する」といった法的な対応が可能です。ただし、ネガティブであるというだけでは法的な対応を取ることは不可能で、例えば事実に反する内容やプライバシー情報(不倫などもここに含まれます)が記載されていたり、人格攻撃や人格否定的な内容が記載されていることが必要です。

 なお、「削除する」「投稿した人物を特定する」といった法的対応を行う場合、法的手続きを採ったことが相手に伝わってしまうことがあります。そのため、法的手続を行う際の内容や方法によっては、さらに中傷が悪化する危険性もありますので、専門の弁護士に相談をしていただくことをお勧めいたします。

 専門性を有する弁護士が提供するサービスを利用した場合、悪いクチコミを削除するまでの期間は、数日~1か月程度(国内の事業者が運営するクチコミサイト等の場合)、投稿した人物の特定については6か月程度で完了することが一般的です。

 なお、ネット上のクチコミを削除するサービスをIT企業が「風評対策」と称して宣伝・勧誘していることもありますが、削除できる範囲が限られていたり、弁護士法に抵触する違法行為を行っているケースもあるので注意が必要です。

 

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中澤佑一(なかざわ・ゆういち)

弁護士 / 弁護士法人戸田総合法律事務所代表。東京学芸大学環境教育課程文化財科学専攻を卒業後、上智大学大学院法学研究科法曹養成専攻を修了。2011年に戸田総合法律事務所設立する。専門はインターネット・ITに関する法律問題。

著書に 『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル』(中央経済社)ほか。

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