医学生だからこそ聞ける“患者の声”がある

荘子 万能 さん(大阪医科大学医学部医学科)

「医師には話せないけれど、医学生になら話せることがある」
こうした患者の声があることを、現役医師の皆さんはご存知でしょうか。

臨床の現場では重視される一方、教育の場では学ぶことの少ない“患者の目線”。そこに課題意識を持ち、自ら患者にインタビュー調査を実施し学びの機会を得た医学生たちがいます。

今回は、活動の中心メンバーである荘子万能(そうし・まの)さんに、インタビューに取り組んだ目的や、実際の患者の声、患者目線を知ることで変わったご自身の意識などについて綴っていただきました。

医学生の立場から患者さんの悩みや不安に向き合う

患者さんには、「医師に言いたくても言いにくいことがあるのではないか」「その中で医学生になら気兼ねなく話せることがあるのではないか」という仮説から、患者さんに病気や生活についてインタビューしました。
それぞれの悩みや不安を学びながら医学生の立場からまとめ、将来的に現役の医師にフィードバックし、診療ガイドラインのより良い充実に繋げられないかという活動に複数の大学の先生方と医学生数名で取り組んでいます。

調査にあたって、治療経過が長い慢性疾患の関節リウマチを対象として選び、リウマチの患者会である「日本リウマチ友の会」の会員様にご協力いただき、インタビューさせていただきました。事前準備として、日本リウマチ学会が『関節リウマチ診療ガイドライン2014』作成時に、2000人以上の患者さんを対象に行ったアンケート調査の結果を参加する医学生で読み込み、そこで出た疑問についてインタビューで詳しく聞くという形式にしました。

 

医学部の勉強だけでは分からない患者さんの気持ち

医学部4年生になり、臨床医学の授業も一段落しようとするころ、ふと思いました。
「病気そのものについては学びつつあるけど、その病気を抱えた患者さんが何に苦しんでいて、どんな思いでいるのか。それについて自分はどれくらい知っているのだろうか」と。

講義室で映されるスライドはたくさんの文字や画像で溢れていて、病気について詳しく説明されています。しかし一方で、患者さんの気持ちや思いを知る機会は少なく、それらを知らないままでよいのだろうか、と少し悶々としていました。

そんなとき、年の瀬に実家に帰ると激しい腹痛に襲われ、たまたま帰宅していた兄(医師)の判断で病院に運ばれました。診断結果は虫垂炎。そのまま入院し、手術を受けました。診察、検査、入院、手術、術後とめまぐるしく状況が変化する中で、その都度これから先どうなるのだろうかと不安でいっぱいになりました。
3回生くらいで虫垂炎を学んだ知識からすると、症状も手術も、正直大したことはないと思っていましたが、病気になってみてはじめて、その病気を抱えることがどれほど不安かを身をもって知ることができました。それをきっかけに、勉強だけではなく、「その疾患を抱えるということについての専門家」である患者さんに直接聞かないと分からないこともたくさんあると気づき、患者さんの目線を学ぶ必要があると思うようになりました。

 

インタビューで寄せられた患者さんの声

特に印象的だった患者さんの声をいくつか紹介させてください。

■患者さんの声①

「診察室に行くまでは痛かったのに、診察室に行くと痛みは引いてしまって、それを言うと医師に『一過性の痛みだから大丈夫ですよ』と言われるんですが、帰るとまた痛みが強くなってしまいます。一過性の痛み、ではなくて一過性に痛みが引いているだけなのに……」

40代・女性

医師が、診察室その場で確認できる「客観的」な痛みに焦点を絞ったのに対して、患者さんは日常生活も含めた「主観的」な体験として痛みを捉えていたため、認識のズレが生じたのではないでしょうか。

■患者さんの声②

「痛みについて相談しようと思っても、(医師に)データ上問題ありませんよと言われたらそれ以上何も言えなくなります」

30代・女性

客観的なデータはときに「暴力的」ではないでしょうか。もちろん客観的なデータを示すことは重要ですが、順番に気を付けないと患者さんの不安や訴えを知る機会を失ってしまうのではないかと思いました。

■患者さんの声③

「医師の『一緒に頑張りましょう』などのちょっとした一言で痛みが少しマシになるような気がします」

50代・女性

インタビューの中では、病気や診療への不安だけではなく、「日頃から医師に感謝している」という声も多く耳にしました。

医学部では、病気を生物医学的な側面から客観的な「疾患」として学ぶ一方で、患者さんは、病気を主観的な「病という体験」として捉える、と言われることがあります。患者さんから上記のような発言が出るのもそういった見え方が異なるからではないでしょうか。

 

インタビューで気づいた患者さんの医療知識の豊富さ

インタビューでは、自分たち医学生よりもリウマチ患者さんの方がより詳細で多彩な医療知識を持っていると感じられる場面が多々あり、様々なことを教わりました。驚きを感じるとともに、それまでの自分は「医療者には知識があり、患者さんには知識がない」といったイメージを勝手に作り上げてしまっていたのではないかと反省しました。

医療情報の専門家でオックスフォード大学教授のMuir Gray先生は、『患者は何でも知っている』という著書の中で、近年のインターネット社会の発達により、患者が医療情報にかつてないほど容易にアクセスできるようになり、「多くの患者は医師よりも高度な教育を受けている」と述べています。
症状や病気の体験だけではなく、疾患そのものについても患者さんがより「知る」時代に移行する中で、「これからの医師はどのように患者さんに関わることができるのだろうか」と考えるようになりました。少なくとも、患者さんから教えてもらう、患者さんから学ばせてもらう姿勢を持った医師になっていけたらと思いました。

 

医療者と患者の「間の存在」、医学生の可能性を探りたい

インタビューの中で、たびたび「学生さんだから知っておいてほしい」「こういう医師になってほしい(なってほしくない)」という文脈でお話しいただき、医学生だからこそ知ることができた部分もあります。医師に対してでもなく、患者さん同士でもなく、これから医師になっていく学生にだからこそ、伝えようとしてくれたことがあったのではないでしょうか。
医学生は、患者さんでも医療者でもない「間の存在」として両者を仲介することはできないだろうか、その可能性を今後も探っていければと思います。
今回のアンケートやインタビューについてはさらに分析を加え、論文化を視野に入れて継続的に情報発信していきます。

 

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荘子 万能(そうし・まの)
1992年京都府生まれ。大阪医科大学医学部医学科に在籍中。
医大に在学しながら「学びながら社会貢献」をキーワードに、医学生だからこそ社会に提供できる価値を模索し、活動中。今まで様々な領域で活躍している名医といわれる100名以上の医師にインタビューを行ってきた。日本医学会総会2015関西学生フォーラム実行委員。第46・47・48回日本医学教育学会医学教育学生シンポジウム担当。Choosing Wisely Japan発起人。「学生と読むTomorrow's Doctors」主宰。総合診療医・徳田安春氏とのポッドキャスト「徳田闘魂道場にようこそ」にてMCを務める。
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