第14回 もし犯罪を犯してしまったら~犯罪・行政処分と報道、その対処法
医師が犯した不正や犯罪に関する報道をよく耳にするようになりました。つい先日も、医師が飲食店で女性に軽傷を負わせた疑いで現行犯逮捕されたという報道がありました。また、インターネットでも「医師」,「逮捕」などのキーワードで検索を行うと医師の犯罪や不正に関する記事が多くヒットします。場合によっては医師の氏名を検索すると関連ワードとしてネガティブな表現が表示されるケースすらあります。
そこで今回は、医師が犯罪や不正を行ってしまった場合、どのように対処すべきか、報道のされ方をメインにご紹介したいと思います。
なお、クチコミサイトへの投稿やクレームに対する対処方法については、第1回「クチコミサイトへの投稿から見るクレーム回避術」、名誉毀損やプライバシー侵害については櫻町直樹弁護士による「ネットで中傷されたときの対処法」第1回から第3回において取り上げられていますのでこれらをご参考ください。
1.犯罪や不正に関する事実はどのようにして報道されるのか~その流れ
医師法や薬事法の違反行為のみならず、医療過誤や交通事故を起こしてしまった場合でも刑事手続が開始することがあります。
身体拘束を伴う事件の場合には、逮捕された時点でマスコミから氏名や被疑事実が報道されることもあります。
捜査の結果、不起訴になることもあれば、公判請求といって裁判所の法廷で裁判を行う手続きや略式請求といって法廷では裁判を行わず簡易な手続きのみで罰金刑となる手続きになることもあります。
しかしながら、刑事手続において氏名等を報道されなかった場合でも、法務省は厚生労働省に情報提供を行っており、提供された情報を元に刑事手続とは別に医師に対して行政処分を行うかどうかが検討されることになります。
厚生労働省が法務省から情報提供を受ける対象や内容は、厚生労働省のホームページにおいて公表されています(http://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/02/h0224-1.html)。
情報提供の対象となる事件としては、「罰金以上の刑が含まれる事件」で公判請求した事件、又は略式請求を請求した事件(ただし、軽微な事件については、公判請求事件に限る)とされています。
したがって、行政処分を回避するためには、まずは刑事手続において、公判請求及び略式請求を回避すべきということになります。
次に、行政処分に関する手続きですが、厚生労働省の審議会の一つである医道審議会において、行政処分を行うかどうかが審議されることになります。医道審議会の議事要旨については厚生労働省のホームページで確認することが可能です(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-idou.html?tid=127786)。
医道審議会において、行政処分相当ということになれば、その答申を受け厚生労働省が行政処分を行うことになります。
行政処分には、免許の取消し、医業停止、戒告がありますが、これ以外にも行政指導として厳重注意がなされることがあります。
行政処分を受けた医師は氏名、所属機関、処分内容が厚生労働省から公表されますので、それを報道機関が報道することにより、インターネット等においても誰もが自由に閲覧することが可能になってしまいます。
2.法的に、報道された情報を削除することは困難です
医師の方が逮捕されると新聞社などがインターネット上のニュースサイトなどに逮捕報道を行います。逮捕報道では、いつ、どこで、だれが、どのような犯罪で逮捕されたかといった事実が報じられます。このような情報の削除についてご相談をお受けすることがあります。逮捕されたことは事実であるものの、捜査の結果犯罪行為に該当する事実はなかった場合や、行政処分から長期間が経過しておりもはや情報を公表する必要性が限りなく低いなどの事情がなければ、基本的には公共の利害に関する事実でもあり法的に削除請求が認められることは困難なのが実情です。
3.犯罪を犯してしまったら~その後の流れとすべき対処法
次に、万が一犯罪や不正を起こしてしまった場合、何が起こり、どのように対応すればよいのでしょうか。
まず、身体拘束の可能性がある場合には、捜査機関から連絡を受けた時点で弁護士に相談し、身体拘束を回避する弁護活動を依頼すべきです。
これと並行して、被害者の存在する犯罪については、被害者との示談交渉など被害回復に向けた対応や再発防止のための体制づくりなどを行います。
犯罪類型によって示談金額の相場感などがないわけではありませんが、前述の通り、公判請求及び略式請求を回避することが極めて重要ですので、これとの比較衡量で最終的な判断を行うべきでしょう。
4.医師免許取り消しや医業停止等、行政処分の流れと対処法
次に、行政処分に関しては、医道審議会から「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」と題する指針が公表されています。
こちらの資料では、行政処分を行うに際しての基本的な考え方が明示されたうえで、
①医師法、歯科医師法違反②保健師助産師看護師等その他の身分法違反③薬事法違反④麻薬及び向精神薬取締法違反、覚せい剤取締法違反、大麻取締法違反⑤殺人及び傷害⑥業務上過失致死(致傷)⑦猥せつ行為⑧贈収賄⑨詐欺・窃盗⑩文書偽造⑪税法違反⑫診療報酬の不正請求等⑬各指定医の指定取消等の処分理由となった行為に事案が区分されており、事案ごとに斟酌される事情などが列挙され処分の軽重の目安も明らかにされています。
免許取消か医業停止の行政処分が下される場合には、意見・弁明の聴取が行われることになります。この手続においては処分にあたって検討してもらうべき有利な事項を主張するとともに、事実関係で異なる点等があれば指摘することが重要です。
注意が必要なのは、国民の医療に対する信頼確保のため、刑事事件とならなかった医療過誤についても、医療を提供する体制や行為時点における医療の水準などに照らして、明白な注意義務違反が認められる場合などについては、処分の対象として取り扱うものとすることが明記されている点です。
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以上の通り、医師の不正や犯罪は国民の保健福祉にも重大な影響があるものとして考えられており、行政処分が下されてしまうと医師としての活動への影響も計り知れません。行政処分に関する報道は削除することも極めて困難です。刑事手続段階でも後続する行政処分も見据えて行動することが重要です。
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- 松本紘明(まつもと・ひろあき)
弁護士 / 弁護士法人戸田総合法律事務所、第二東京弁護士会所属。
事務所は数十社のクライアントと顧問契約を締結し、医療関係も含む。注力分野はインターネット法務、労務、離婚や男女トラブルなど。
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