ハンガリーの医大生活~海の向こうの医学生より~

【第2回】ハンガリーの医学部で学ぶ医大生って?~外国人編

吉田 いづみ さん(ハンガリー国立センメルワイス大学医学部)

皆さま、こんにちは。ハンガリーの首都ブダペストにあるセンメルワイス大学医学部に通う現役医学生、吉田いづみです。
このコラムではハンガリーでの医学生生活や実習の様子、現地で働くドクターやコメディカルの紹介など、私が海の向こうで見て、感じて、体験したことを、1年にわたってお届けします。

前回はハンガリーでの生活や私の在籍するセンメルワイス大学について紹介させていただきました。「異国の地で医学を学ぶこと」は容易いことではありませんが、そんな中でも毎日を楽しく、勉強も遊びも一生懸命できるのは大切な友人がいるおかげです。

第2回では、共に医学を学んでいる海外の友人を紹介させていただきます。

 

インターナショナルコースで学ぶこと

前回もお話しさせていただきましたが、私が学ぶ英語コースには世界中から学生が集まってきます。様々な国籍、宗教、文化の学生と大学生活を共にすると、医学だけではなく、多くのことが学べます。
1,2年生のうちは固定のクラスでしたが、3年生に入ってからは日本の一般的な学部のように自分たちで時間割を作るので、より多くの学生と関わることができます。
たくさんの友達ができましたが、その中でも特に仲のいい3人を紹介したいと思います。

 

「ハンガリーの母」であるエチオピア人

 

文中1

 

1,2年生のクラスが同じだったHalleluya(ハレルヤ)。センメルワイス大学には、アフリカ出身の学生は1学年に10人もいません。その理由は、多くの学生が「一握りの学生しかもらえない」国費留学でハンガリーに学びに来ているからです。アフリカの教育レベルはあまり高くないため、優秀な学生の多くが海外の大学に国費留学の制度を利用して進学します。なかでも人気の医学部留学は「将来自国の医療に貢献すること」が条件なのだそうです。一方、彼女は自費による留学組。将来エチオピアで働く予定はないため、自費留学を選んだと言います。

そんな彼女は中学までをエチオピアで過ごし、高校、大学とドイツのインターナショナルスクールで細胞生物学を学んだ後、ハンガリーへ来ました。エチオピアには小さい村がたくさんあり、村々によって言語が違うため、医師として働くには多くの言語を学ぶか、小さい村の村医者になるかの二択しかありません。ハレルヤの場合、妹がアメリカ国籍を持っているので、アメリカで医師になることを目指しています。
目下、USMLE(アメリカ医師国家試験)に向けて猛勉強中の彼女ですが、いつも私のことを気にかけてくれて、「ハンガリーの母」のような存在です。

 

おにぎりが大好きなパキスタン人

 

文中2

左がファティマ。真ん中にいるのは、見た目通りとても優しくて人気がある解剖学の先生です。

 

彼女の名前はFatima(ファティマ)、パキスタン人です。ハレルヤと同様に、1,2年生のクラスが同じでした。ご両親が厳格なイスラム教徒であり、彼女自身も豚肉を食べることや飲酒が禁じられるなど、様々な戒律を守りながら暮らしています。
そんな彼女のお父さんは世界各国を転々としてきた国連の職員。新潟に住んでいたこともあり、日本とおにぎりが大好きだそうです。現在お父さんは国連本部のあるジュネーヴに単身赴任中で、家族はブダペストで暮らしています。

彼女曰く、パキスタンは内戦がひどく、医師として働くには「国境なき医師団」のような心持ちが必要だと言います。最近では戦争中に病院が狙われるケースも増えているそうです。そのため彼女はアメリカで働くことを希望していますが、ハレルヤのように家族がアメリカ国籍を有する、外国籍だがアメリカで育ったなど、アメリカと何らかの関係性がないと医師としての長期的な仕事やビザを取得するのは難しいのが現状です。ファティマはお父さんの影響でフランス語が堪能なので、スイスで働くことも視野に入れているそうです。

 

約束に必ず1時間遅刻するスペイン人

 

文中3

 

大学に入る前の1年間、プレメディカルコース(医学部に入学するための準備コース)で同じクラスだったAlejandro(アレハンドロ)は、スペインのバルセロナ出身です。陽気な性格はいつも周りの人を笑顔にしますが、約束の時間には必ず1時間遅刻します。そんな彼がハンガリーを選んだ理由は、スペインの医学部は日本のように入学が難しいため、そして私大医学部は学費が高いからだそうです。

スペインはEU圏内ではありますが、大学を卒業した後、専門医になるため、2~3月に行われるスペイン医師国家試験を受けなければなりません。この試験は、その年に卒業したスペインで働くことを希望する医学生全員が受験し、専門分野を選びます。もちろん、専門分野を選ばずGeneralistとして働くことも可能ですが、スペインではほとんど仕事がないらしく、みんな統一試験を受験して専門医になるそうです。ただ、点数の高い人順に専門分野を選んでいくため、必ずしも自分の希望していた科の専門医になれるとは限りません。
スイス系列のバルセロナにある高校に通っていたアレハンドロはドイツ語が堪能なので、統一試験で希望の科を選べなかった場合はドイツで働く予定だそうです。

 

改めて気づく、置かれた環境のありがたさ

ハンガリーに来て、様々な国籍の友人と生活を共にすると、いろんなことに気づかされます。国の情勢や宗教の縛り、経済的な面において、やりたいことや夢を諦めざるを得ない人が多くいます。
そんな中で、ずっと憧れていた医師になるべくハンガリーで勉強できていること、そして、自分の努力次第ではありますが、将来働く場所や仕事を自由に選べる環境で学ばせてもらっていることには、感謝しかありません。

第3回は、そんな友人たちと共に3年生になり、今年から始まった臨床実習について紹介させていただきます。

 

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吉田 いづみ(よしだ・いづみ)
1994年福岡県生まれ。生後10カ月で心室中隔欠損症の手術を受け、ものごころついた頃から医師を目指す。高校を卒業後、ハンガリー国立医学大学への留学を決意し、2013年6月に単身でハンガリーへ。現在、ハンガリー国立センメルワイス大学医学部に留学中。2017年9月より3年生に。

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コメント
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コメント一覧(1件)

  • 1. 牛坂博則 さん

    大変興味深く読ませていただきました。我々のころは、こんな制度はなかったとおもいますけど。きっと楽しいでしょうね。海外でいろんなことにチャレンジできて。

    今度生まれかわったら医者でも目指そうかな。それもハンガリーで。
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