【第2回】自己紹介をしてますか?
浜田 久之 氏(内科医/長崎大学病院 医療教育開発センター センター長・教授)
卒後10年~20年も経つと、臨床経験も豊富になり、中堅どころとして現場の第一線で活躍されている先生も多くいらっしゃることと思います。一方で、若手医師の教育を任され、不安や迷いの中、試行錯誤されている方も少なくないのではないでしょうか。
初期研修が義務化されて10年。この4月にはいよいよ新専門医制度も開始されます。地域の医療を守り、病院が生き残るために、「若手医師を育てられる」ことが重要視される昨今、若手医師への適切な指導やキャリア育成のできる「教育力」を持つ医師のニーズが高まっています。
本シリーズでは、医学博士・教育学博士であり、内科医として毎日現場で若手医師の指導に力を注ぐ浜田久之氏(長崎大学病院 医療教育開発センター長)に、明日から実践できる若手医師の教育ノウハウ=「Teaching Skill」を12回連載で解説していただきます。
第2回は、指導の第一歩となる「自己紹介」について学びましょう。
- 目次
1.よくある会話
最近は、医学生や研修医が、短期間のローテイトで研修に来ますよね。
昔みたいに、入局してストレート研修ではなくなりましたから、ローテイターは、いつの間にか来ていつの間にか去ってしまいます。なかなか大変ですよね。
A先生(あなた)と初めて貴科をローテイトするB研修医の会話
- B研修医「研修医Bです、よろしくお願いします!」
- A先生 「よろしく。先生、大学は?」
- B研修医「関東医科です」
- A先生 「そう。部活は?」
- B研修医「4年まで弓道をやっていました」
- A先生 「へ~、弓道ね~。あんまり時間もないから、とりあえず病棟回ろうか」
- B研修医「お願いします!」
どうでしょうか?
よくある何気ない会話ですね。
全然悪くないです。ただ、A先生(あなた)は、B研修医に対して、自己紹介をしていません。でも、日本では、上の人が下の人に自己紹介することは少ないから仕方がないですよね。
2.合コンでの自己紹介
ちょっと、話は変わります。
私は、いわゆるバブル世代で、若い頃はよく「合コン」をやりました(笑)。もちろん携帯電話のない時代でしたので、セッティングにはかなり労力が要りました。フットワークが軽くネットワークを持っていた私はその苦労を厭わなかったので、いつも幹事役でした。その時いくつかの重要な法則に気づきました。
Point1:自己紹介で、ほぼほぼ決まる
合コンの定番は、乾杯の前後で「せっかくだから、自己紹介やりましょう!」と幹事が言って、1~2分の自己紹介をしますよね。カップルになるかならないかは、ほぼほぼ、そこで決まるような気がしました。自己紹介の後ダラダラと飲んでいる途中で、トイレで
「おまえ、誰を狙っている?」
「右から2番目」
「え~、マジ。かぶっとるやないか~」
みたいなことをやりますが、最終的には男も女も、大抵の場合第一印象が良かった相手を求める。
『自己紹介=第一印象=重要』ということです。
逆に、最初の印象を覆すことは、かなりの時間的、精神的労力がいる作業になります。自己紹介は、ある意味最初で最後のチャンスかもしれません。
Point2:自己紹介は、何を話すかでなく、どう話すか
合コンの目的はカップル成立ですから、それぞれが、戦略的に話をするわけです。
若いなりに、その時持っている知力を振り絞り、女子力や男子力をさりげなくアピールしながら駆け引きをしていくのは、今も昔もそう変わらないと思います。
自己紹介あるある話。
「西海医科大学の山口です。最近、マジで、俺、困ってるんだけど」
話はこういうふうに始まります。
出だしとしては、<困っている>という言葉を出して、惹きつけるのはいい感じです。しかし、困っている内容が結局のところ自慢話に終始するものだったり、聞く側の興味を度外視したオタク的な話が続けば、誰も聞かなくなります。女性同士で目を合わせて「こいつダメだ」という顔をしたり、スマホをいじり始めたりします。しかし、同じ話題でも山口君が身振り手振りを交え楽しそうに生き生きと話したりすると、思わず皆がその話に突っ込んだりします。飲み会ですから、その場が面白ければOKなのです。結局は、人は話の内容でなく、話し方や人柄を観察しているのです。
あなたの話し方によって相手が抱くあなたの印象は変わりますし、周りの雰囲気も変わります。
3.指導者の仕事=雰囲気づくり=自己紹介
話の舞台を病院に戻します。
9.11から数年経って私はカナダに留学しました。
当時はアメリカの入国規制が厳しく、同じ北米のカナダに多くの国々から留学生が集まっていました。私は、午前は臨床現場、午後は大学院、夜は語学学校とぐるぐる目が回るような日々を送っていたのですが、どこに行っても自己紹介のオンパレードでした。
ここでもいくつか気づいた点がありました。
病棟では、指導医のDr.アブラムスが毎週入れ替わりで来る医学生へ自己紹介をしていました。これが、実に面白かったのです。自分の経歴とその時々の医学ネタを入れていました。
「私は、General Internal Medicineとしてストレスのある現場で働いてきたから、最近ちょっと髪の毛が薄くなったけど、心配はしていない。こないだの科学雑誌『サイエンス』に、再生医療の特集があった。読みましたか? あれは、スゴイよ。私の未来は明るい……」
雰囲気は一変しました。医学生は笑っていいものかどうか戸惑っていましたが、研修医たちは大笑いしていました。緊張してやって来た私のように右も左もわからない留学生たちも、ホッとした表情を見せたのを覚えています。
教える人の最も重要な役割は、学べる良い雰囲気をつくることです。
雰囲気づくりの第一歩は、自己紹介なのです。
学ぶ人(若手医師)は、指導者の臨床能力と個人情報が知りたいわけですから、何が得意かという臨床の経歴と、趣味とか家族のことを話すのが指導者としての一般的な自己紹介の型だと思います。もちろん、一番重要なことは、ユーモアでしょう。笑いのネタを作るのではなく、自分で自分自身を楽しくプレゼンできればいいのです。
4.学ぶ人のやる気を引き出す自己紹介
大学院で医学教育を教える女性教授、Dr.バティーは非常に優しいどこにでもいるカナダの“おばちゃん”でしたが、自己紹介の達人でした。1対1の時の自己紹介は、まず、相手に少し話をさせて、相手のネタを膨らませて、自己紹介やポリシーを話すというものです。戦略的なのか天性のものなのかわかりませんが、さまざまな国からやって来た留学生は、最初の1分で彼女の弟子になろうと決意するのです。
「日本から来ました浜田です」
「日本! 素晴らしいわ~、私、前の旦那と日本に行ったことあるのよ」
「そうですか……」
「教育の行き届いた素晴らしい国と人々。私たちは、あなたの国からたくさん学ぶべきことがあるのよ」
「え~ホントですか? ありがとうございます」
「あ~(ため息)、それにしても、人生は、うまくいかないことも多い。今日もちょっとしたトラブルがあったわ。私は女性医師としてたくさんの医学生や医師を教えてきたけど、それなりにたくさんトラブルがあって今に至るのね(ここで、若干、彼女は自分の経歴を述べる)。
ヒサ、あら、Dr.浜田、あなたのことをヒサと呼んでいいかしら?」
「もちろんです」
「ヒサ、あなたは日本人で、まじめだと思うけど、ここはカナダ。せっかく留学したんだからカナダを楽しんで、一番重要なことは、焦らないことね」
この彼女の自己紹介は、その後の私の人生を左右するものとなりました。彼女の一つひとつの言葉に深い意味があったのです。例えば……。
「日本は素晴らしい国」
→2年間の留学で、北米の教育制度を勉強することにより客観的に世界の中の日本を学ぶという目的ができ、私のモチベーションが高まりました。
「うまくいかないことも多い」
→教育は、うまくいかないことも多い。それが当たり前と、大先生も思っているんだ。 それなら、自分が失敗するもの無理はないだろう……と、私は気が楽になりました。
「楽しむ、焦らない」
→私に決定的に欠如していた「教育を楽しむ」というコンセプトと、「焦らない」という教訓を与えてもらいました。
彼女は、自分自身を紹介しながら、学習者へさまざまな「気づき」を与えていたのです。
このバティー先生の自己紹介で、私の人生は大きく変わりました。
ちょうど、私の卒後10年目の出来事です。
先生、医学生や若手医師に対して、自己紹介をしてますか?
私は、留学後から始めました。ぜひ、ポイントを先生のものにしてください。
5.【付録】私の戦略的自己紹介
バティー先生にならい、5つの要素(ゴールデン5)を入れてみるのです。これだけで、ぐっと魅力的な自己紹介になります。
例えば、学生実習に来た5年生への私の自己紹介(1~2分)。
①自分の略歴(得意、不得意)
「浜田です。内科医で、専門は消化器だけど、幅広くいろいろ診るのは好きですね。小児科の当直もやってましたね。でもここだけの話、閉所恐怖症だったから、手術室が超苦手なんだよ。だから、手術のない内科を、とりあえずビールじゃないけどそんな感じで選んだんだ」
②プライベート(家族、趣味など)
「趣味はランニングで、ハーフマラソンで2時間切って調子に乗ったら、膝をやってしまってね~。ドクターストップがかかったよ(笑)。今はもっぱらウォーキングだね」
③聞き手との共通点や聞き手を褒める
「君たちは、医学5年生だよね。いまは勉強が大変だよね。実習も真面目に出て偉いよ。僕らのころは、いい加減だったからなあ~。大きな声では言えないけど、辛くて抜け出したことも覚えているよ」
④自分が、聞き手(医学生や研修医)の頃の失敗談や大変だった話(共感を抱かせる)
「僕は医学生の時は、さっぱり勉強できなかったなあ~。成績も悪かった。でも、研修医になって、患者さんを持つと自然と勉強していたね。全然苦にならないし。勉強すると患者さんの役に立つし、楽しいよ」
⑤自分のポリシー
「実習は、ぜひ、楽しくやってください。一日ひとつでいいから何か覚えてください。教科書からじゃなくて、病棟で、ひとつ。例えば、病棟でのゴミの分別なんかも、重要だったりする。看護師さんから怒られたりするしね。まあ僕は分別できなくて、家でも嫁さんから怒られるんですけどね、ハハハー。さあ、今度は、君たち一人ずつ、自己紹介してみようか!」
こんな調子です。
ぜひ、何パターンかの自分の自己紹介ネタを作ってください!
<参考>
Dr.Helen P Batty
http://www.mh.nagasaki-u.ac.jp/kaihatu/center/staff/pdf/canada6.pdf
立川 光昭『自己紹介が9割 出会いの「30秒」で、なぜ人生が変わるのか? 』(2015、水王舎)
http://www.suiohsha.jp/book/b200869.html
松野 恵介『年収が10倍になる!魔法の自己紹介』(2012、フォレスト出版)
https://www.forestpub.co.jp/author/matsuno/book/B-1524
横川 裕之『すごい自己紹介』 (2016、泰文堂)
http://taibundo.co.jp/info.html?isbn=9784803008906
Knowles,M. Self-Directed Learning: Guide for learners and teachers. Association Press, New York,1975.
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- 浜田 久之(はまだ・ひさゆき)
- 大分医科大卒。内科医、消化器内科専門医、プライマリケア学会指導医。
博士(医学)、博士(教育)。認定医学教育専門家。
予備校講師・学習塾経営を経て、長崎の内科医局に入り地域の中小病院で働く。卒後5年目頃より研修医指導をしながら、野戦病院にて総合診療病棟等の立ち上げ等に関わるが、疲弊し辞表を提出したことも。
10年目、逃げるようにトロント大学へ。帰国後開業するつもりだったが、カナダの医学教育に衝撃を受ける。帰国後、社会人大学院生として名古屋大学大学院教育発達科学研究科で学びながら、カナダで修得した成人教育理論を基礎としたTeaching技法を伝える指導医講習会を主催。現在1000名以上が受講している。
「教うるは学ぶの半ばなり」。日々挫折や葛藤の中で学び続けている。
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コメント一覧(1件)
1. ポテトヘッド さん
医者では無いですが、部下も増えてきて、指導という観点から参考になることが多くありました