卒後10-20年、中堅医師としての道を拓く 若手医師を育てる「Teaching Skill」講習会

【第3回】「研修の目的」を伝えてますか?

浜田 久之 氏(内科医/長崎大学病院 医療教育開発センター センター長・教授)

卒後10年~20年も経つと、臨床経験も豊富になり、中堅どころとして現場の第一線で活躍されている先生も多くいらっしゃることと思います。一方で、若手医師の教育を任され、不安や迷いの中、試行錯誤されている方も少なくないのではないでしょうか。
初期研修が義務化されて10年。この4月にはいよいよ新専門医制度も開始されます。地域の医療を守り、病院が生き残るために、「若手医師を育てられる」ことが重要視される昨今、若手医師への適切な指導やキャリア育成のできる「教育力」を持つ医師のニーズが高まっています。

本シリーズでは、医学博士・教育学博士であり、内科医として毎日現場で若手医師の指導に力を注ぐ浜田久之氏(長崎大学病院 医療教育開発センター長)に、明日から実践できる若手医師の教育ノウハウ=「Teaching Skill」を12回連載で解説していただきます。

第3回は、研修をスムーズに進めるのに重要な「目的を伝えること」について学びましょう。

 

まずは味気ない自己紹介を添削

例えば、外科医のA先生(あなた)とB研修医の会話。

  • B研修医「研修医Bです、よろしくお願いします!」
  • A先生 「よろしく。先生、大学は?」
  • B研修医「関東医科です」
  • A先生 「そう。部活は?」
  • B研修医「4年まで弓道をやってました」
  • A先生 「へ~、弓道ね~。あんまり時間もないから、とりあえず病棟回ろうか」
  • B研修医「お願いします!」

さて、この会話を前回のレクチャーを踏まえて、少し修正してみましょうか。

  • B研修医「研修医Bです、よろしくお願いします!」
  • A先生 「よろしく。元気いいね~! 君が来るのを待ってたよ! 先生、大学は?」
  • B研修医「関東医科です」
  • A先生 「へ~、そうなんだ、あそこの外科も有名だよね。部活は?」
  • B研修医「4年まで弓道をやってました」
  • A先生 「へ~、弓道ね~。それなら集中力がありそうだな。外科は、集中力が大事。君のその力を期待しているよ。1カ月の研修? 志望は内科系?」
  • B研修医「はい」
  • A先生 「外科でどんな研修をしたい?」
  • B研修医「え……、とにかく1カ月頑張ります」
  • A先生 「1カ月でも集中したらいろんなことがやれるよ。(*)手技的にはルート、採血、縫合を、知識的には、手術適応や手術までどのような検査をするか学んでほしい。あとは、外科の人間がどういう態度で患者さんと接しているかも見てほしいね。きっと、君の将来に役立つよ」
  • B研修医「はい、了解しました。頑張ります」
  • A先生 「頼んだよ。僕は10年目になるけど、外科の専門医を取って、今は癌の遺伝子研究も少しやってるんだ。意外と面白いんだよ、これが。研修医の時は、研究なんかには全然興味なかったんだけどね」
  • B研修医「そうなんですか」
  • A先生 「おっと、あんまり時間もないから、急いで病棟回ろうか。今日は、娘の誕生日だからね~、できれば早く帰りたいんだよな」
  • B研修医「へ~、娘さんいらっしゃるんですね」
  • A先生 「可愛いよ(笑)、じゃあ、行こうか!」
  • B研修医「よろしくお願いします!」

ちょっと、やりすぎの自己紹介と思えるかもしれませんが、
実は、この会話の中には、多くの要素が隠されています。

 

オリエンテーションは、最重要事項

前回、人に何かを教える際にまず「自己紹介」をすることの重要性についてお話しさせていただきました。
そしてもうひとつ、人に何かを教えるならば、研修の目的を伝える「オリエンテーション」が、自己紹介と並ぶ最重要項目となります。実は、上記の会話は、自己紹介をしながら、簡単なオリエンテーションを行っています。「外科は集中力が大事」「外科で何をしたい?」
「1カ月の外科研修ならば○○○○(目的)」と、何気ない会話の中で、1カ月の研修でやるべきことを述べているのです。

上記の会話のように、最初に、オリエンテーションにある程度の時間をとった方が、後々楽になりますし、トラブルを防ぐこともできます。実際、学習者(医学生、初期研修医、後期研修医など)の最大の不満は、「研修先で、自分が何をしたらいいかわからない」ということです。ほとんどの指導医は、忙しいので、オリエンテーションをしません。

  • 指導医「前に回った研修医から、引き継ぎを受けておいてね」
  • 研修医「は……、はい」

だいたいこれで、オリエンテーションは終了します。
週間のスケジュール表や注意書きを渡せばいい方ですね。何も言い渡されていない研修医は、何をしていいかわからず、どう動いていいかもわからず、とても強いストレスを抱きます。そして、そんな時に、指導医に怒られるのです。

  • 指導医「そんなことも、わからないのか!」
  • 研修医「すみません……(でも、何も説明受けてないよ、なんて理不尽、これって、パワハラ?)」

5分もあれば、あなたの診療科での研修目的を充分に伝えることができます。
前項で修正した外科医のA先生(あなた)とB研修医の会話では、(*)以降の内容が目標となっています。
5分を惜しむと、後々、数時間も浪費しなければならないトラブルに巻き込まれる可能性があります。

 

研修の目的を必ず伝える

研修の目的を伝えていないと、怒らなければならなくなったり、研修医から陰口をたたかれたりして、結局のところ、先生の評判が落ちることになります。それだけならまだしも、研修医の動きが悪くなり診療科のパフォーマンスが落ちて、患者さんへ迷惑をかけることにもなってしまうでしょう。実際に、そのようなトラブルを私はたくさん見てきました。ほとんどの指導医は、研修医の性格ややる気のなさのせいと考えがちですが、私の目からみると、原因の半分は、指導医側にもあると思います。

じゃあ、どうやって「研修の目的」を伝えればいいのでしょうか?
研修開始時に、
「研修医は、この研修で、A、B、C、Dは必須だから絶対やれるようになること」
などと言っても無意味だと思います。その診療科を研修してない人に、羅列的に目的を並べても理解できない。じゃあ、どうすれば? 簡単です。

 

ニーズアセスメントと3つの目標

ニーズアセスメントとは、研修医が、貴科の研修で何を学びたいかを聞くことです。成人教育では、ニーズに対して答えてやる教育をした方が効率的でありますし、パフォーマンスが上がるといわれます。本人の希望に関係なく取り組まねばならない仕事が多いのは事実です。しかし、若手がやりたいことをやらせることも必要です。

研修医があなたの科を選択した理由があるはずですので、それを聞いてあげることが肝心です。さらに踏み込んで言えば、聞いてあげるという行為そのものが重要で、これが、研修医のモチベーションを上げるのです。

  • A先生 「外科でどんな研修をしたい?」
  • B研修医「え……、とにかく1カ月頑張ります」
  • A先生 「1カ月でも集中したらいろんなことがやれるよ。手技的にはルート、採血、縫合を、知識的には、手術適応や手術までどのような検査をするか学んでほしい。あとは、外科の人間がどういう態度で患者さんと接しているかも見てほしいね。きっと、君の将来に役に立つよ」

ニーズアセスメントができたら、手技、知識、態度の3つの分野で目標を立ててみましょう。これは、非常に簡単です。そして、かなり有効です。

基本的に、研修医はまじめですから、3つくらいの目標ならば達成する力はあると思います。さらに、目標が、具体的でなければならないと思います。
「上部内視鏡を20例」(手技)
「エコーを30例」(手技)
「外来研修の前に『外来必携2』の総論の部分を読破」(知識)
「指導医のインフォームドコンセントに同席5回、患者さんに寄り添った態度でのインフォームドコンセントを自分で1回やる」(態度)
など、いくらでも目標は作れます。

正直なところ、1カ月の外科研修では、何かできるようになるとは思いません。外科での1カ月という短期間の研修に疑問を抱く先生もいらっしゃることでしょう。私もそう感じることもありますが、研修制度上そういう研修も可能なのです。さらに、2020年度から、内科24週以上、救急12週以上、そして外科、小児科、産婦人科、精神科、地域医療をそれぞれ4週以上が必修化される予定となりました。短期間で回っている研修医が確実に増えるでしょう。

それならば、その研修医の先生が戦力になるように、目標を持って取り組んでもらえば、指導医のあなたの仕事も楽になるはずです。指導医が楽になるような研修医の目標も作っていいと思います。
研修医が意欲的・自主的に頑張り、指導が楽になれば、指導医は余裕を持って教えることができます。
「○○の準備と後片付けができるようになること」
「チームの患者全員を毎朝診察して、カルテを書くこと」
これこれをやれ! とか、○○の雑用をやれ! とか、指示を出すだけではダメですが、目標として提示して、それをちゃんと評価して、フィードバックしてやればいいのです。

研修医や医学生が来たら、ぜひ、「ニーズアセスメントと3つの目標」を実践してみてください!

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浜田 久之(はまだ・ひさゆき)
大分医科大卒。内科医、消化器内科専門医、プライマリケア学会指導医。
博士(医学)、博士(教育)。認定医学教育専門家。
予備校講師・学習塾経営を経て、長崎の内科医局に入り地域の中小病院で働く。卒後5年目頃より研修医指導をしながら、野戦病院にて総合診療病棟等の立ち上げ等に関わるが、疲弊し辞表を提出したことも。
10年目、逃げるようにトロント大学へ。帰国後開業するつもりだったが、カナダの医学教育に衝撃を受ける。帰国後、社会人大学院生として名古屋大学大学院教育発達科学研究科で学びながら、カナダで修得した成人教育理論を基礎としたTeaching技法を伝える指導医講習会を主催。現在1000名以上が受講している。
「教うるは学ぶの半ばなり」。日々挫折や葛藤の中で学び続けている。
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