卒後10-20年、中堅医師としての道を拓く 若手医師を育てる「Teaching Skill」講習会

【第7回】何を教えるのか

浜田 久之 氏(内科医/長崎大学病院 医療教育開発センター センター長・教授)

卒後10年~20年も経つと、臨床経験も豊富になり、中堅どころとして現場の第一線で活躍されている先生も多くいらっしゃることと思います。一方で、若手医師の教育を任され、不安や迷いの中、試行錯誤されている方も少なくないのではないでしょうか。
初期研修が義務化されて10年。4月には新専門医制度も開始されました。地域の医療を守り、病院が生き残るために、「若手医師を育てられる」ことが重要視される昨今、若手医師への適切な指導やキャリア育成のできる「教育力」を持つ医師のニーズが高まっています。

本シリーズでは、医学博士・教育学博士であり、内科医として毎日現場で若手医師の指導に力を注ぐ浜田久之氏(長崎大学病院 医療教育開発センター長)に、明日から実践できる若手医師の教育ノウハウ=「Teaching Skill」を12回連載で解説していただきます。

第7回では、「教え過ぎない」意外なコツを学びましょう。

 

良い指導医の条件には、「何を教えるのか」がない!

あまり人に教えたことがない先生方は、「いったい何を教えていいかわからない」とおっしゃります。一方、よく教える機会のある先生は「教える内容は、これでいいのか?」と悩まれるようです。教える方法も大事ですが、「何を教えるか」を考えることが非常に重要です。前回学んだ良い指導医の条件を振り返ってみましょう。

  • ①学習者が学びやすい雰囲気作りをしている
  • ②医学的な知識と技量を持っている
  • ③指導するための教育的な知識(プログラムや到達目標等)を持っている
  • ④指導するための教育的な技術(フィードバック等)を持っている
  • ⑤ロールモデルとなる態度で振る舞っている

実はここには、「何を教えるか」は示していません。ある意味、これは当然のことです。診療科によって異なりますし、病院の機能や規模や場所においても異なりますから。しかし、どこに勤めていても重要な共通事項もあります。

 

業務的なこと→医学的なこと

我々は医療者ですから、医学的な知識と技術を中心に教えています。さらに、
「オーダーは、15時までに出せよ。師長さんから怒られるからな」
などと、業務的なことも教えています。

教えるときには、医学的な内容と業務的な内容のバランスが非常に重要です。また、順序も重要です。初期研修医であれ後期研修医であれ、若手には、先に業務的なことをしっかり教えることが大切だと思います。まずは、部署のお作法や研修医がどう動くべきかなどをしっかり教えるべきです。

若手の最も大きな不満のひとつに「自分が何をすべきなのか、どう動くべきかわからない」というものがあります。「そんなことは、自分で考えろ!」みたいに先生は思うかもしれませんが、ちゃんと教えた方がいいでしょう。教える一手間を惜しんでしまうと、研修医がミスを起こしたり、そのせいで病棟スタッフからの研修医の評判が下がったりします。そうなると結果的に指導医である先生の怒りが爆発したり、フォローする時間が必要になったりします。無用なトラブルを引き起こさないための業務マニュアルも、作っておくのが得策です。

 

看護師さんにも協力してもらう

私は昔、総合診療病棟の医長をしておりました。そこでは毎月数名の研修医や後期研修医の入れ替わりがあり、把握するのもなかなか大変でした。

そこで簡単な業務マニュアルと週間スケジュールを作り、事前に読ませていました。さらに、必ず病棟師長からのオリエンテーションで、お作法をしっかり解説してもらっていました。医師である自分たちが忙しいため師長さんに頼んでいたのですが、業務的なことに関しては、看護師さんの方がきっちりやってくれるということに気づきました。

それ以降、クラークや薬剤師にも参加してもらい、ミニ・オリエンテーションをやってもらうようになりました。研修医からの評判も上々でした。今でこそ多職種連携、チーム医療などとカッコイイ名前で呼ばれていますが、教育にさまざまな職種の人を引き込むことは昔からやっていることですよね。医師側の負担軽減にもなりますし、他職種のスタッフにとっても「自分たちも若い医師を育てている」というプロ意識の向上になると思います。

教育を先生一人が背負いこむことは避けて、スタッフみんなで楽しくやった方がいいものです。

 

仕事を「さばく」が「考えない」研修医

しかし、業務的なことばかり教えると「仕事はさばく」が、考えない研修医になります。また、医学的なことばかり教えると「仕事のさばけない」研修医になります。大事なのは、両方のバランスを取ることです。
「さばく」研修医はスタッフからの評判も良く、戦力になり、上司である先生も楽になります。しかし、「さばく」だけの医師に育ってしまったら、困難症例に出くわした時に手も足も出ない、または目を背けるような医師になる可能性があります。

先生の部下はどうでしょうか?
「さばける」部下ばかりを育てていないでしょうか。「さばける」部下はしばらくすると仕事に飽きて、どこかに行ってしまうことも多々あります。彼または彼女が幸せになれば、それはそれでいいと思います。しかし、どこに行っても「さばく」だけが仕事と考えるようになった医師は、仕事に喜びを見いだせず長続きしない傾向があるように思います。
今一度、先生方がどのような医師に育てているかを振り返る必要があるのではないでしょうか。

 

教えることを「知識」「技術」「態度」の3つの領域に分けて言語化する

さて、「さばき」ができて「考えられる」医師を育てるためには、どうすればいいでしょうか? それは冒頭の「何を教えるのか?」の回答とも重なります。

先生(指導医)が普段やっていることを、うまく言葉にして教える、ということです。
先生の周りに、医学的なことを教えるネタは沢山あると思います。それを言葉にするだけです。簡単です。言葉にして、文章化すると教育プログラムになります。楽勝です!

言葉にする際には、いくつかのポイントがあります。
一番やりやすいのが、教えるべきことを3つの領域に分けて言葉にすることです。
これをやると、教えやすく、さらに教えた後にフィードバックしやすくなります。
良い指導医は、この技術を身に付けています。(良い指導医の条件③と④に該当します)。無意識に身に付けている人もいますし、意識的に獲得した人もいます。
ちょっと、やってみましょう。

あなたは、研修医になって3カ月目の1年次研修医と共に当直をしています。
発熱の患者さんが来ると看護師から電話が入りました。あなたは、電話で、3つの目標(これは、先生が普段やっていること)を研修医に伝えます。

  • ①「発熱の鑑別マニュアルにざっと目を通して、感染症か、非感染症かを考えて問診してね」(知識)
  • ②「どこの臓器からの熱かを考えながら身体診察してね。特に口腔内と肺の聴診は慎重に」(技術)

研修医は問診と診察をしました。研修医は「呼吸器感染症のようなので、採血と胸部レントゲンを撮りたい」とあなたに電話報告をしました。あなたは、確認のために患者さんの診察をしました。その後、あなたが、患者さんに説明するのではなく、研修医にこう伝えました。

  • ③「患者さんに検査の方針と必要性をわかりやすく説明してください」(態度)

どうでしょうか?
先生は、これに似たようなことは、体験したことがあると思います。先生が日頃やっていること、考えることを言葉にして、伝えるのが教育です。

教育の場面では、医学的な「知識」、「技術」は意外と簡単に見つかりますが、「態度」はなかなか難しいと感じている方がいるのではないでしょうか。例えば、上記の患者さんへの説明も「患者さんの気持ちに寄り添い患者目線で説明する」となると「態度」領域ですが、「患者さんへ、検査の適応とリスクをマニュアルに沿って説明」となると「技術」領域になると思います。しかし、そこまで厳密に区別にこだわることには意味がありません。
ここで重要なのは、教えることを「医学的知識」、「医学的技術」、「医師としての態度」と分けて考える習慣を、先生が身に付けることです。

 

しゃべり過ぎないこと、教え過ぎないこと

熱心な指導医にありがちなこと。
「発熱患者が来た場合は、まずは、鑑別を考えるんだ。大きく感染症系か非感染症系に分けて考える。最初に問診表を見て……(延々説明が続く)」
これは、よくありません。つまり、教える≠講義≠先生の知識や技術の披露

子どもの教育では、先生の知識を講義で授けることが必要です。我々も新しい分野などを学ぶときは講義を受けることは非常に重要です。しかし、臨床教育においては、「教える≒考えさせる≒自分で答えを導かせる」やり方が合っています。相手は成人でありますし、自分で学び、自分で成長していきます。若手とはいえ医師であり、頭脳明晰なわけですから、自然と伸びていくと信じていいと思います。

先生が、声を荒げて「そんなことも知らないのか! つまり、発熱の患者の鑑別には……(さらに、5分説明が続く)」と弁舌を振るっても、ほとんど研修医の頭の中には入っていかないでしょう。

それよりも、同じ5分を使うならば「5分で、この本の『発熱の鑑別』のこのページを読んで」と、指示した方がずっと効果的です。

さあ、教えるネタを、「医学的知識」、「医学的技術」、「医師としての態度」と分けて、しゃべり過ぎないようにしながら、教えてみてください! 楽勝です!

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第8回記事はこちら>>

<参考>
村松理司他監訳『医学教育の教え方ポケットガイド』(2010、西村書店)
http://www.nishimurashoten.co.jp/book/archives/3346
Peter Cantillon、Linda Huchinson、Diana Wood著、吉田一郎監訳、『医学教育ABC 学び方,教え方』(2004、篠原出版新社)
http://www.shinoharashinsha.co.jp/Books2.aspx?PID=156&PNO=1
「新医師臨床研修制度における指導ガイドライン」(2015、accessed 16Sep.)
http://www-user.yokohama-cu.ac.jp/~p_health/kenshu-gl/index.html
西城卓也、菊川誠「総説 医学教育における効果的な教授法と意味のある学習方法①」(2013、「医学教育 Vol. 44 」(3) 133-141)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mededjapan/44/3/44_133/_pdf
西城卓也、菊川誠「総説 医学教育における効果的な教授法と意味のある学習方法②」(2013、「医学教育 Vol. 44 」(4) 243~252)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mededjapan/44/4/44_243/_pdf

 

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浜田 久之(はまだ・ひさゆき)
大分医科大卒。内科医、消化器内科専門医、プライマリケア学会指導医。
博士(医学)、博士(教育)。認定医学教育専門家。
予備校講師・学習塾経営を経て、長崎の内科医局に入り地域の中小病院で働く。卒後5年目頃より研修医指導をしながら、野戦病院にて総合診療病棟等の立ち上げ等に関わるが、疲弊し辞表を提出したことも。
10年目、逃げるようにトロント大学へ。帰国後開業するつもりだったが、カナダの医学教育に衝撃を受ける。帰国後、社会人大学院生として名古屋大学大学院教育発達科学研究科で学びながら、カナダで修得した成人教育理論を基礎としたTeaching技法を伝える指導医講習会を主催。現在1000名以上が受講している。
「教うるは学ぶの半ばなり」。日々挫折や葛藤の中で学び続けている。
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