卒後10-20年、中堅医師としての道を拓く 若手医師を育てる「Teaching Skill」講習会

【第8回】フィードバックとは、何だ?

浜田 久之 氏(内科医/長崎大学病院 医療教育開発センター センター長・教授)

卒後10年~20年も経つと、臨床経験も豊富になり、中堅どころとして現場の第一線で活躍されている先生も多くいらっしゃることと思います。一方で、若手医師の教育を任され、不安や迷いの中、試行錯誤されている方も少なくないのではないでしょうか。
初期研修が義務化されて10年。4月には新専門医制度も開始されました。地域の医療を守り、病院が生き残るために、「若手医師を育てられる」ことが重要視される昨今、若手医師への適切な指導やキャリア育成のできる「教育力」を持つ医師のニーズが高まっています。

本シリーズでは、医学博士・教育学博士であり、内科医として毎日現場で若手医師の指導に力を注ぐ浜田久之氏(長崎大学病院 医療教育開発センター長)に、明日から実践できる若手医師の教育ノウハウ=「Teaching Skill」を12回連載で解説していただきます。

第8回では、フィードバックの重要性について学びましょう。

前回は、「何を教える?」の回答として、日頃先生がやっている仕事を業務的なことと医学的なことに分けて教える。さらに、医学的なことは、先生がやっていることを「医学的知識」「医学的技術」「医師としての態度」と3つの領域に分けて教える習慣を身に付けることについてお伝えしました。

今回のテーマは、先生が教えた→研修医がやってみた→「その後、先生はどうする?」です。
「どうする?」の回答は、「フィードバックをする」となります。では、どうやって行うのがベストなのでしょうか。

 

フィードバックとは「改善のために研修医に伝える」行為

フィードバックとは、もともとは、工学分野の言葉のようです。ネットなどでは、「親鳥が雛鳥に餌を与える」ことが語源になっているとありますが、真偽のほどはわかりません。さまざまな分野で使用されている便利な言葉です。医学教育用語集にもありますが、私が考えるフィードバックとは、以下の通りです。

フィードバックとは、研修医が行った行為の、結果の良し悪しの原因や要因を反映させて、研修医の次の行為を改善するために、「指導医が言語等で研修医に伝える行為」であると考えます。

 

彼らは、フィードバックが欲しいのか?

成人教育理論によると、「成人(研修医)は自分のやった行為に関して他人からの評価を求めたい、役に立つアドバイスをもらいたい、それを次に生かしたいという傾向がある」といいます。しかし本当にそう言い切れるのでしょうか。

例えば、学会に行くと必ずアンケートがありますよね。「今回の学会のテーマはいかがでしたか?」など。ホテルに泊まっても必ずアンケートは置いてありますし、行きつけの居酒屋さんの新しいメニューを頼んだら「どうでしたか?」と、大将が不安げに聞いてきますよね。医師であれば、新しい薬を出して「来週、効果を見たいので来てくれますか?」など言うことがあります。

みんな、自分がやったことを気にしているのです。つまり不安なのです。正直なところ、良い評価が聞きたいといっていいでしょう。だから、若手が何かの行為をした後には、必ずメッセージを与えることが重要だと思います。
「よかったよ~」「いや、ダメだ! もう少し……」「大丈夫、頑張ろう!」
なんでもいいので、言葉をかけてやることが大切です。

最悪の指導というのは、研修医がやったことにノー・レスポンス、気づかない、あるいは気づいているのにスルーしてしまうことです。

 

あなたは、どうやってフィードバックしますか?

それでは、前回の題材を取り上げて、さらに展開してみましょう。

あなたは、研修医になって3カ目の1年次研修医と共に当直をしています。発熱の患者さんが来ると電話が入りました。あなたは、最初は研修医ひとりで診てもらおうと思い、電話で研修医に指示(目標)を伝えました。

  • ①「感染症か、非感染症かを考えて問診してね」(知識)
  • ②「どこの臓器からの熱かを考えながら身体診察してね」(技術)

研修医は問診と診察をし、「呼吸器感染症のようなので、採血と胸部レントゲンを撮りたい」とあなたに電話報告をしました。

あなたは当直室から救急外来へ降り、確認のために患者さんの問診と診察をしました。そこで、こう考えます。
「まあ、採血と胸部レントゲンも悪くないが、全身症状が強いからウイルス感染だろう。おそらく採血とレントゲンは、正常だろう。チェックするなら、インフルエンザの迅速検査だな。この時期でも時々出ているし……」

さて、この研修医への教え方として、あなたはどれを選択するでしょうか?

指導医A「あとは俺がやっとくから、次の人の問診をやっておいて」
第6回で勉強した言語量が少なく強制力の弱い「放置型の指導医」ですね。
これは、やってはいけません。指摘すべきタイミングを逃すと指導の効果は半減してしまいます。しかしながら、時間がないこともありえますので、最悪の指導にならないよう、あとで「さっきの熱発の患者さんだけど」と、フォローすべきでしょう。
フィードバックは、タイミングが大事!

指導医B「あのさ~こういう場合、まずは、インフルチェックだろう! 基本中の基本!!」
→これも、ありがちですね。一方的に「不正解」を言い渡して怒鳴る。
冒頭の「あのさ~こういう場合」という「こういう場合」は、どんな場合なのか研修医にはわかりません。妻(あるいは夫、パートナー)から「あなたのその服、なんとなくイケてないからダメ!」と言われても、わかりませんよね。伝えるためには、しっかり、言語化することが大事です。
フィードバックは、明確な言葉で行うよう心掛ける!

もちろん、臨床では言語化が難しいことも多々ありますが「あのさ~こういう場合」と言う代わりに、「全身症状のある発熱の場合、何の感染を考えるの?」と投げかける方法をとってはいかがでしょうか。

指導医C「何のために採血してレントゲン撮るわけ? 何を狙って? 鑑別は?」
研修医 「肺炎とか…」
指導医C「えっ、肺炎を疑わせる所見があったの? それって何?」
第6回でやった、多弁な熱血型の指導者ですね(大学の教官などに多い気がします)。
指導医が、延々と質問を投げかけて研修医を追いつめて崖から突き落とし、最後は「発熱患者の診方」について、うんちくを語るという手法です。教えているはずなのに、これは意外と研修医の知識として身に付かない。指導医は熱弁を振るい「俺は偉い、教えてやったぞ! 良い指導医だ!」という達成感はありますが、その割に教育効果はありません。研修医は、ふんふんと、聞き流しているだけだからです。
フィードバックは指導医のものではありません。研修医に伝わらなければ「ゼロ」と考えましょう。

これを防ぐ方法としておすすめなのは、熱弁を振るう前後にまとめさせる手法です。
「今、僕が話した内容を、1分でまとめて僕に伝えて」
「今から俺が説明するから、メモを取ってまとめて。そして俺に見せて」
「私の説明した重要ポイントを、3つ挙げて」

まずはこのような一言を付け足してみましょう。

 

フィードバックが効かないこともある

フィードバックが働けば、相手に伝わり、相手の行動が変化します。ほとんどの若手には、先生が適切に教えれば、何らかの変化が起こると思います。
しかし、ゆめゆめ、ご自分のフィードバックが全研修医に効果があるとは思わないでください。
「いくら教えても、いくら注意しても、あいつはダメだな……」
と思う部下や研修医が確実に一人くらいは、先生の周りにいるでしょう。そういう人を引き受けると大変です。その若手が、なぜダメダメかというと、なかなか行動が変わらないからですよね。いくら注意しても変わらない、と先生は嘆きます。

その原因は、下記の2つが考えられます。
①先生のフィードバック力の不足
②研修医の問題(メンタル的な疾患や原因不明)

私の経験上、①は多いと感じています。指導医と研修医の相性がありますから、指導医が代わればうまくいく例は多々あります。一人で抱え込まないで、他の先生に代わってもらう選択をしてもいいと思います。また、独断ですが、研修医全体の1~5%は②に該当するようです。このパターンは、指導が非常に難しくなります。もちろん、専門家に入ってもらうことは必須です。

 

指導は一人で抱え込まない

いずれにしても、フィードバックが効かないときは、誰かにすぐ相談しましょう。迅速な対応が肝心です。相談する相手は、上司、同僚、コメディカル(師長さんなど)、病院の教育センター、臨床心理士、産業医、精神科医……など。個人情報を守りながら相談してみてください。

私が常に頭に入れていることをお教えしましょう。
この研修医にとって、私より良い指導医が必ずいる、だから大丈夫」。
無責任なように思えますが、人間関係である以上、相性があります。あなた以外の人に任せればうまくいくこともあるのです。

決して、一人では抱え込まないでくださいね。

<<前回記事はこちら

第9回記事はこちら>>

<参考>
日本医学教育学会臨床能力教育委員会編『研修指導スキルの学び方・教え方  病棟・外来で使える』(2006、南山堂)
ダグラス・ストーン、シーラ・ヒーン著『ハーバード あなたを成長させるフィードバックの授業』(2016、東京経済新報社)
「相手のためになる効果的なフィードバックの伝え方」
「効果的なフィードバックの流れ、機会がわからない」
・北村聖「『考える研修医』をつくる質問のコツ」(2014、第一三共株式会社「指導医ESSENCE」)
Aagaard E、Teherani A、 Irby DM著「Effectiveness of the one-minute preceptor model for diagnosing the patient and the learner: proof of concept」(2004、Jan;79(1)42-9 Acad Med)
Rogers J、Corboy J、Dains J、Huang W、Holleman W、 Bray J、Monteiro M著「Task-oriented processes in care (TOPIC): a proven model for teaching ambulatory care」(2003、May;35(5):337-42 Fam Med)
Coderre S、Woloschuk W、McLaughlin K著「Twelve tips for blueprinting」(2009、 Apr;31(4):322-4 Med Teach)

 

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浜田 久之(はまだ・ひさゆき)
大分医科大卒。内科医、消化器内科専門医、プライマリケア学会指導医。
博士(医学)、博士(教育)。認定医学教育専門家。
予備校講師・学習塾経営を経て、長崎の内科医局に入り地域の中小病院で働く。卒後5年目頃より研修医指導をしながら、野戦病院にて総合診療病棟等の立ち上げ等に関わるが、疲弊し辞表を提出したことも。
10年目、逃げるようにトロント大学へ。帰国後開業するつもりだったが、カナダの医学教育に衝撃を受ける。帰国後、社会人大学院生として名古屋大学大学院教育発達科学研究科で学びながら、カナダで修得した成人教育理論を基礎としたTeaching技法を伝える指導医講習会を主催。現在1000名以上が受講している。
「教うるは学ぶの半ばなり」。日々挫折や葛藤の中で学び続けている。
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