第10回 「非認知能力は、いつ、どのように身に付ける?」
藤崎 達宏 氏(子育てコンシェルジュ)
前回までで、AI時代の到来とともに、「頭の良さ」の基準が変わり「非認知能力」が重要になるということをお伝えしてきました。
それでは、その「非認知能力」はいつ生まれ、どうやって育まれるのでしょうか?今回はその「源流」に迫ってみましょう。
「非認知能力」には二種類ある。その根底にあるものは?
自制心、自尊心、決断力、根気強さ、注意深さ、立ち直りの早さ、チャレンジ精神、
コミュニケーション能力、協力する力、面倒見が良い、共感力、思いやり、道徳心
これらが、非認知能力の代表格です。あえて色分けをしていますが、その差についてお気付きでしょうか?
そうです! 青の上段は「自分に対する内的な能力」緑の下段は「社会に対する外的な能力」なのです。
それぞれの根底に流れているものは何なのでしょう?
それは、「自己肯定感」と「社会に対する肯定感」です。
「自己肯定感」の源流はどこにある?
昨今「自己肯定感」という言葉をよく聞くようになりました。アドラー心理学においても「自己肯定感を高めるほめ方」などが紹介されていますが、それが「いつごろ、どうやって生まれるか?」については誰も触れていません。
その源流はズバリ幼少期にあるのです。
これは、イタリア初の女性医師マリア・モンテッソーリが考案した、「子どもの成長のサイクル」です。
- ① まず、子どもは与えられた環境の中を興味・関心を持って「散策」します。
- ↓
- ② その中から、現在の自分の成長にマッチした活動を「自己選択」します。
- ↓
- ③ その活動に集中し、何回も「繰り返し」ます。
- ↓
- ④ 繰り返すことにより、活動の精度が上がり「満足感と達成感」を得ます。
- ↓
- ⑤ 活動の精度が上がることで、生きていくために必要な「能力を獲得」します。
- ↓
- ⑥ やりたいことを自己選択して、集中し、繰り返すことで能力を獲得する。
この一連のサイクルを通して「自分でできた! という自己肯定感の芽」が育つのです。
これが、源流です。
自分で選択する力と、自分でやり抜いた肯定感から、「次の課題に挑戦する心」が芽生え、次のサイクルが回り始めるのです。
医師だけでなく、スポーツ選手、起業家も含め、すべて「成功者」とは「何歳になってもこのサイクルが自発的なモチベーションによって回り続けている人」を指すのです。
環境さえ整っていれば、放っておいても子どもは自分でこの成長サイクルに乗って自己肯定感を高め、非認知能力が身に付いていくはずなのです!
成長サイクルが停止している?
しかし、現代社会においては、この成長サイクルが滞り、負のスパイラルに陥ってしまっているケースが増えてきているのです。
- ① 興味・関心を喚起するようなものが存在しない。片づけられてしまっている。
- ↓
- ② 自分で選択できない。与えられたものをさせられる。
- ↓
- ③ 自分で選んでいないので集中できない。代わりに大人がやってしまう。
- ↓
- ④ 当然、満足感、達成感を得られない。
- ↓
- ⑤ 結果、自分で生きていく能力が習得できない。
- ↓
- ⑥ 自分で選択できない。自分でやり抜くことができない。すなわち「自己肯定感」が育たない。よって「新しいものに挑戦できない」「指示待ち」の子どもに育ってしまう。
一番の問題は、その原因が私ども大人・親にあることと、「よかれと思ってやってあげていること」にあるのです。
- ● 危ないから手の届かないところに片づけておいてあげる。
- ● ためになりそうだから、やるべきことを指示してあげる。
- ● 汚いから、遅いから代わりにやってあげる。
- ● もう何回もやったから、別の課題を与えてあげる。
- ● ひとりで取り組んでいるので、一緒に遊んであげる。
どうでしょうか? 身に覚えがありませんか?
ぜひ、皆さまのお子さまとの日頃の関わりを、この成長のサイクルという視点から見直してみてください。見る見るうちに、子どもは輝きを取り戻し、成長のサイクルに乗り、自己肯定感を高めるはずですから。
「社会に対する肯定感」はいつ育つ?
社会に対する肯定感の源流は、お母さんのお腹から出てきた時にまでさかのぼります。赤ちゃんはお母さんのお腹の中という理想的な環境から、寒くて、騒々しく、まぶしいこの世界に産み落とされます。しかし、そこには優しい両親がいて、献身的な保護を受けることで「世の中はなかなかいいところだ。人間というものは信頼に値するものだ」という「社会に対する肯定感」の土台が出来上がります。
その後、家庭の外に出て社会を知ることになります。それが保育園・幼稚園です。自分の家族以外の「他人」との出会いです。
アメリカの小説家のロバート・フルガムはこう言っています。
「人間、どう生きるか、どのようにふるまい、どのような気持ちで日々を送ればいいか、私はすべて幼稚園の砂場で学んだ。」
何でもみんなで分け合うこと。ずるをしないこと。人をぶたないこと。使ったものは必ず片付けをすること。人のものに手をつけないこと。誰かを傷つけたら、ごめんなさいということ。
こうした、許し許される実体験を通して「社会に対する肯定感」が育っていくのです。
しかし、ここでも邪魔をするのが私たち大人です。
昔は、子どもが多かったので、大人の目が届かない子どもだけのコミュニティがありました。その中でいざこざがあっても、子どもたちが自分たちのやり方で折り合いをつけ、人間関係を学ぶ実体験がありました。
しかし、少子化の昨今では、大人の目が行き届きすぎるので、いざこざが起きても、いや、起きる前に大人が察知して介入してしまうのです。そして、喧嘩両成敗。「悪いことしたらごめんなさい! って言うんだよね~!」と、納得もなく、言葉まで奪われてしまうのです。
そうすることで、本質的に人間を信頼していない、人間関係で問題が起きても解決の仕方を知らない、社会に対する肯定感の低い大人に育っていくことになるのです。
何歳からでも遅すぎることはない?
非認知能力の土台となる二つの肯定感「自己肯定感」、「社会に対する肯定感」の源流は確かに幼少期から育まれていきます。しかし、人間の成長サイクルは変わりません。何歳でも遅すぎることはありません。私たち大人はまず、子どもの「自ら成長する力」を信じることから始めましょう。
次回はお子さまの「年齢ごとのアプローチ」についてお話ししましょう。
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- 藤崎 達宏(ふじさき・たつひろ)
- NPO法人 横浜子育て勉強会 理事長。
1962年横浜生まれ。外資系金融機関に20年間の勤務を経て独立。4人の子育て経験とモンテッソーリ教育を融合した個別相談会「お父さんもいっしょに幼稚園選び」のほか、全国の企業や団体などで子育てセミナーを行う。最近では各医師会や医師協同組合での講演を多数実施。取得資格は、日本モンテッソーリ教育綜合研究所認定教師(0~3歳)/国際モンテッソーリ協会認定教師(3~6歳)。最新著書に『モンテッソーリ教育で子どもの本当の力を引き出す!』(10/23発売)。
- 『モンテッソーリ教育で子どもの本当の力を引き出す!』
- 著者:藤崎達宏
発行所:三笠書房
発行日:2017年10月23日 初版第1刷
内容:
「子どもってすごい!」
子どもの潜在能力は無限。
突然の大泣き、イヤイヤ期、なぜなぜ質問期……
子どもには子どもなりの理由があるのです。
大事なのは、子どもがいつどのような力をつけていくかという「成長サイクル」を親があらかじめ「予習」しておくことです!
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