第4回:お金を借りるために知っておいたほうが良いこと①
資金調達の方法
杉山 正徳氏(㈱日医リース/医業経営コンサルタント)
前回は、開業にかかるお金について概要をご紹介いたしました。開業形態や診療科目などさまざまな要因で開業費用は大きく変わってきます。おおよその事業計画を立てて必要な開業費用が見えてきたら、その資金を調達しなければなりません。
第4回となる今回は、資金調達について説明したいと思います。皆様のお役に立てれば幸いです。
お金を貸す側にとって開業資金は“担保のない貸出”
皆様が今までお金を借りるといった場合、どのようなことで借入されていますか。
住宅ローンや車のローン、または投資用不動産などで借入されているケースでしょうか。それらの場合の借入はすべてご自身の職業や年収、購入した物件の価値などを判断して金融機関が貸出しているものです。そのため、借り手への与信も然ることながら、「もの」を担保にした貸出といえます。
一方で開業資金はこれから事業をされる方向けの資金です。上記の貸出とは異なります。お金を貸す側にとって、事業をすることで収益を生み、しっかりと貸出した資金を返済いただけるか、ということが一番の貸出の基準になります。このため、途中で運転資金が枯渇するなど計画通りに経営がうまくいかなかった場合に行う追加資金の調達は、リスクに見合った貸出条件を求められるなど大変困難なものになります。
今回は、そんな金融機関の貸し手側の視点も交えてお話をしていきます。
クリニック開業時に主に使われている借入機関とは
現在、クリニックの開業で使われているのは主に上記の機関(福祉医療機構・日本政策金融公庫、医師会・医師信用組合・都道府県・市町村制度融資、銀行・信用金庫、リース会社)になります。
借入は今までプライベートで使っていた銀行に相談したら良いのでは? とお思いの方も多いと思います。しかし「相談に行ったら貸出を断られた」、もしくは「時間ばかりかかった」というケースをよく聞きます。冒頭でもお伝えしましたが、「もの」を担保にした貸出である住宅ローンなどと違って、すべての金融機関が開業資金の貸出に対応している訳ではないからです。
金融機関の現状のスタンスは、医療機関への融資に積極的なところと消極的なところの二極化傾向がみられるように思います。
貸出に積極的なのは地方銀行です。医療は有望業種として取引を推進したいと考え、大都市エリアまで融資先を拡大させています。背景には、地盤のエリアでは人口減少、少子高齢化が進み貸出先が増えないという事情があるようです。
クリニックは長期間にわたり総合的な取引が期待できる、つまり「デフォルト(貸し倒れ)」のリスクが少ない、ということが貸出に積極的な金融機関に共通した考えではないでしょうか。
金融機関から開業資金の貸出を断られる理由
ただし、貸出に積極的な金融機関でも貸出を断られるパターンもあります。主な理由としては、①開業計画自体の理由(事業に対する姿勢)、②個人的な理由(事業主としての資質)の2つが挙げられます。それぞれについて、よくある例を以下に紹介します。
<計画自体の理由>の中の「一般的な事例に比較して設備が過大である」ですが、開業計画の中に高額な検査収入や自費診療収入については丁寧な説明が必要です。金融機関から「過剰な期待をしているだけでは?」と思われてしまうからです。
また前回でも少し触れましたが、<個人的な理由>による高額な借入については、ライフプラン的に重なってしまいがちな住宅ローンは説明可能です。ですが、複数台の高級自動車ローンや多額の投資不動産ローン、ノンバンクからの借入については散財癖があるのではないかとネガティブな判断をされてしまいます。
いずれにしても給与所得者から事業主への意識転換が必要です。
公的機関、行政機関、民間金融機関、それぞれの貸出機関の違い・特徴とは
ここでは、代表的な貸出機関について説明したいと思います。実際に開業準備を進める際には、開業支援をしている方や顧問となる会計事務所の方のアドバイスをいただけることが多いため、予備知識としてご確認ください。
(1)公的機関
①福祉医療機構
医療福祉系の独立行政法人です。病院や有床診療所、介護施設など設備投資がかかる施設で使われていることが多いです。診療所の場合、原則的に当機構が定める診療所不足地域のみ融資対応となります。詳細は福祉医療機構ホームページの「医療貸付事業」をご参照ください。
②日本政策金融公庫
全額政府出資の政府系機関で、昔からよく使われている機関の一つです。業種問わず独立して事業を立ち上げする場合、もっともよく使われる機関ではないでしょうか。開業資金全額を賄うことは難しいですが、固定金利で繰り上げ弁済費用もかかりません。貸付の仕方もいろいろとあります。詳細は日本政策金融公庫ホームページをご参照ください。
(2)行政機関、業界団体など
①都道府県・市町村等の融資制度
医院開業地の都道府県、市町村など各地方自治体よる融資制度です。行政機関により条件や貸出条件などさまざまです。こちらも開業資金全額を賄うことは難しいと思います。受付は商工会議所や商工会の場合があります。地域名と合わせて「創業融資」や「起業支援資金」というワードで検索されてみるのもよいでしょう。
②業界団体など
開業地の医師会や病院協会、医師信用組合の中には、独自に融資制度を持っているところがあります。会員に加入しなければなりませんが、検討をしてみるのも一つです。
(3)民間金融機関
①都市銀行、地方銀行、信用金庫・信用組合など
商品性はおおむね類似(無担保・団体信用生命保険付)しています。相違点は期間、保険有無、違約金有無などです。都市銀行は店舗網に優位性、地方銀行・信用金庫、信用組合は対応エリアに課題があります。まずは開業資金を取り扱っている金融機関かどうかご確認ください。先ほどもお話をしましたが地方銀行の方が融資に積極的です。地方銀行間の違いには審査回答スピードもあります。融資をする際、保険やクレジットカードなどさまざまな売り込みをされるケースもよく聞きますが、一番長いお付き合いとなるところなのでしっかりと検討をされた方が良いと思います。
②リース会社・クレジット会社
リース会社によってはローンを含めさまざまな医院向けファイナンス商品が用意されています。リースは融資と単純に比較できません。長期にわたり使用するインフラであり、それ自身が収益を生むものではないものは公的機関や銀行借入による長期借入、電子カルテや診療に使うメイン医療機器など、耐用年数があり使用頻度・使用期間・償却方法が想定できるものはリースの活用を検討してみると良いでしょう。クレジット会社はご自身の資金調達というよりも電子マネーと同じく患者向け決済機能の一つとしてお付き合いされるケースがほとんどです。
金利は有利な状況が続いていますが……
金利は一番気になるところだと思います。現在(2018年4月時点)も低金利が続いており、借り手からするととても有利な状況だと思います。私見も交えて17~18年前(昔)と比較してみると、おおよそ半分位の金利水準ではないでしょうか。今後も経済状況によって注視していきたいところでありますが、それよりもトピックスとして気にしたいのは消費税の増税です。
毎回の増税前に駆け込み開業が増えますがそれ相応の理由があります。消費税率が高くなればなるほど、開業時に発生する費用負担も当然大きくなるからです。直近で開業をお考えの方はこちらも頭の片隅に置いておいてよいと思います。
先日、近い将来に開業をしようかなと考えている方とお会いしました。最初は漠然としたイメージしかなかったようなのですが、色々お話をしていくなかでご自身の考えが少しづつ整理された様子で、ご自身の事業計画も少しずつ具体的になったようです。開業への想いを人に相談することで自身のお考えがまとまることは良くあることです。
「開業したいがどうすればよいのか?」
「事業計画は何を作ればよいのか?」
「お金はどこに借りればよいのか?」
まずは身近で開業されている方に聞いてみるなどして、情報収集をされることをお勧めいたします。
弊社でも開業セミナーや個別に相談窓口を設けておりますので、よろしければホームページよりご連絡ください。
次回も、引き続き「お金を借りるために知っておいたほうが良いこと」についてお話をしたいと思います。金融機関はどのように与信判断をしているか。また実際に経営がうまくいかなかったパターンなどについても触れたいと思います。
【連載】ファイナンス視点で考える、失敗しない“開業”のススメ
第1回:データからみるクリニックと医師
第2回:開業のリスクとメリット
第3回:開業にかかるお金
第4回:お金を借りるために知っておいたほうが良いこと① 資金調達の方法
第5回:お金を借りるために知っておいたほうが良いこと② 開業資金調達の流れと金融機関側の与信の判断基準
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・「医療経営コンサルタントが語る|2016年度診療報酬改定から見る“こんな医療機関は経営が危ない”」
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- 杉山 正徳(すぎやま・まさのり)
- (株)日医リース 営業推進部 新規開業支援室室長/(公社)日本医業経営コンサルタント協会認定医業経営コンサルタント。医療専門リース会社で培った経験を元に、各種セミナー講演や医師の資金調達の相談やファイナンスプランの提案を行う。
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