医師が得する"お金"のハナシ

第3回 医療現場での「インセンティブ制度」

個人の出来高に応じて手当てを支給する「インセンティブ制度」。一般企業では主に、売上目標を達成した個人などに報奨金が支払われるという仕組みになっています。
個人の成果に応じて報酬を支払うこのシステムは、日本における医師の新たな報酬制度として注目を集めており、近年導入する病院が増えてきています。

インセンティブ制度とは

インセンティブ制度とは報酬による外的動機付けであり、従業員のモチベーションを上げるなどの目的で行われています。
日本では現在、高齢患者の増加や地域格差による医師不足が問題となっています。大学病院では勤務医が過酷な労働条件に耐えかね、離職や退職に追い込まれるケースも少なくありません。特に外科医においては人手不足が顕著な問題となっていました。医学の進歩により年々高度になる手技への対応、夜中の緊急手術や当直など、外科医の業務は過酷を極めます。
しかし昇進し役職がついても給与は大して上がらないという現状があり、退職者の増加、さらには外科医の志望者数自体が減少しています。この状態は、勤務医として働き続ける医師の仕事を増やし、より過酷な労働を強いるという悪循環を招いていました。

この現状を問題視した佐賀大学医学部附属病院は、職員の意識改革を目的に、2010年から日本の大学病院で初めてインセンティブ制度を導入。「リスクを伴う手技」「時間外緊急診療」などの項目を設け、手術をした医師やそのサポートに当たる医療従事者に対し数千円から数万円の報酬を設定しました。
たとえば、勤務時間外の緊急診療に2時間以上従事した場合、その勤務1回につき1万円の手当てが支給されます。佐賀大学医学部附属病院のインセンティブ制度では、執刀を担当する外科医だけでなく、手術に立ち会う麻酔医や看護師に対してもそれぞれ手当てが設定されています。この試みは「医療従事者の仕事を新たに評価する制度」として話題を呼び、以後、職員の意識改革などを目的に、民間病院も含めさまざまな病院で取り入れられています。

 

アメリカの「ドクターフィー」との違い

アメリカの医療には「ドクターフィー」という制度があります。アメリカでは患者が病院で処置を受けると、病院に対しての報酬(ホスピタルフィー)と、医師の治療技術への報酬(ドクターフィー)を支払う仕組みになっています。医師は自分の治療に値段(ドクターフィー)を設定し、スキルに見合った報酬を得ることができます。
日本でもドクターフィーの導入が検討された時期もありましたが、国民皆保険制度の根幹を揺るがしかねないという指摘もあり、いまだ導入には至っていません。しかし、個人の技量に対し報酬が支払われるという点においては、インセンティブ制度と共通しています。

 

インセンティブ制度のメリット

日本の病院の給与には月給制や年俸制などがあり、施設により報酬の支払い方はさまざまです。しかし個人の成果やスキルを評価する報酬というものはなく、特に大学病院では研修医であろうとベテランであろうと、その給与は大差ないというのが現実でした。つまり、どんなに高いスキルを持っていても、多くの手術をこなしても、その実績が給与にはなかなか反映されないのです。
もちろん、「仕事のやりがいは給与がすべて」というわけではありません。自分の手技により人の命が救われるというやりがいは、金銭にも代えがたいものがあるでしょう。しかし臨床に入ったばかりの研修医と、診察も手術もこなすベテラン医師との給与に大きな差はないという事実を考慮すると、離職や退職、あるいは開業の道を選ぶ医師が増えるのも仕方ないことかもしれません。

しかし、ここでインセンティブ制度を導入し、たとえば手術1回につき5,000円、時間外手術ならば1回2万円などの手当てを支給すれば、手術を行う回数の多いベテラン医師ほど給与が高くなります。
上記の佐賀大学医学部附属病院を始めとして、筑波大学附属病院や千葉大学医学部附属病院などでもインセンティブ制度を導入し、高度な処置や手術を行った医師に対して手当てを与えるなどの取り組みを行っています。
インセンティブ制度を取り入れた結果、職員の意識が向上し、仕事について積極的になったという報告があります。また、時間外手術の補助スタッフなどは看護師から敬遠されがちな分野でしたが、そこに手当てをつけることで、スタッフの人材不足を解消できたケースもあります。「自分が仕事に取り組んだ分だけ、目に見える形で評価される」という報酬制度は、多くの勤務医、そして医療従事者にとってプラスに感じるようです。

 

インセンティブ制度の課題

医療活動にインセンティブ制度を導入することに、反対の声もあります。
インセンティブ制度を導入することで、医師が報酬の設定された業務にばかり目を向けるようになってしまうのではないか、という懸念が大きいようです。その他にも以下のような課題が挙げられます。

  • ・そもそも何をもって「出来高」と評価するのか
  • ・報酬で医療を評価すると、患者を処理する効率性ばかりが求められるのではないか
  • ・複雑な症例は長期間の治療を要するため生産性が低いと判断され、単純な症例の患者ばかりを治療する医師が出てくる可能性がある
  • ・手当てを目的として、医師が患者に対し過剰な手技や検査を勧める可能性がある
  • ・診療ばかりが医師の役割ではないため、研究や教育の分野がおろそかになるおそれがある

導入を検討する病院では、これらの課題について議論が進められています。

医師不足のいま、大学病院側もいかに医師を定着させようかと頭を捻っています。仕事のモチベーションは金銭報酬ばかりではありませんが、やはり自分のスキルが評価されれば嬉しいものですよね。インセンティブ制度の効果的な活用は、医師がより満足して働ける環境を築く手助けとなるでしょう。

(文・エピロギ編集部)

 

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