【第3回】臨床実習が始まりました。
吉田 いづみ さん(ハンガリー国立センメルワイス大学医学部)
皆さま、こんにちは。ハンガリーの首都ブダペストにあるセンメルワイス大学医学部に通う現役医学生、吉田いづみです。
このコラムではハンガリーでの医学生生活や実習の様子、現地で働くドクターやコメディカルの紹介など、私が海の向こうで見て、感じて、体験したことを、1年にわたってお届けします。
前回は共に学んでいる海外の友人を紹介させていただきましたが、今回はハンガリーでの臨床医学の授業や病院実習についてご紹介します。
3年生から始まる臨床医学
私の在籍するセンメルワイス大学では、1,2年でみっちりと基礎医学を勉強した後、3年生からは臨床医学を学びます。具体的には病理学、病理生態学、微生物学、免疫学、そして内科がメインの科目となってきます。
今まで「健康な体」について学んできた私たちですが、いよいよ「病気」や「正常ではない体」についての勉強、ベッドサイドでの授業が始まりました。よりお医者さんらしいことを学び始め、心持ちにも変化が出てきました。
微生物学実習での1枚。
とにかく多い病理解剖
ハンガリーでは病理解剖に回されるご検体がとても多く、病院で亡くなった方の約4割が病理解剖に回ってきます。そのため、20人前後の学生が参加する週1回の病理学の授業では、2-3体のご検体を剖検させていただきます。
ハンガリーではとても貴重な症例の場合、制度上、ご遺族の反対があっても剖検することになっています。ご遺族の気持ちを考えると申し訳ない気持ちでいっぱいですが、その分しっかりと学ばせていただいています。
ハンガリー語で問診する内科実習
内科実習を行うセンメルワイス大学病院第二内科の入口。
内科実習では学生2,3人で入院患者さん1人を診させていただきます。ハンガリー語で問診をしたあと、血圧や脈を測り、触診・聴診をします。ここで難しいのが問診です。ハンガリー語で質問できても、年をとった患者さんのハンガリー語は訛りが強く、加えておしゃべりな方が多いため、聞き取るのが大変です。
実は、ハンガリー人の年間飲酒量は日本人の倍近くで、喫煙者も少なくありません。心血管疾患、がんに次いで呼吸器疾患で亡くなる方が多く、飲酒や喫煙の多さが影響していると考えられています。内科で診る患者さんも糖尿病や高血圧で受診される方が多いですが、入院中にいろいろな検査をして他の病気が見つかるということも少なくありません。
先日も糖尿病だと思って受診した男性が、ソマトスタチノーマ(神経内分泌腫瘍:ハンガリーでは年に1,2名の発生率)というとても珍しい病気であることがわかりました。EU圏内では国や地方ごとに珍しい症例の患者さんを集めて治療するというシステムがあり、今回の患者さんはスイスの病院へ送られました。
医学生だけでなく先生も評価対象
私の在籍するセンメルワイス大学では、学期末や毎回の講義後、教科ごとに先生の教え方や話し方、スライドの充実度に関するアンケートを取り、生徒から高く評価された先生にはボーナスが与えられる仕組みになっています。その評価は生徒にも公表されるので、私たち学生は「どの先生がいいのか」「何を重視した先生なのか」などを知ることができ、授業を選択するときの参考にすることができます。先生方が「いかに面白い授業をして理解してもらうか」を工夫してくださるため、長い講義でもとても面白く学べます。
また、ベッドサイドの授業でも、先生が患者さんと良好な関係を築いていないと患者さんには協力してもらえません。言い換えれば、患者さんに医学生の不慣れな問診に付き合ってもらえなければ、私たちは何も学ぶことができないということです。そのため、先生たちは授業に工夫を凝らすだけでなく、私たち医学生のために患者さんと良好な関係を保つことにも苦心してくださっているのです。
ベッドサイドから学べること
実際に患者さんを診ること、亡くなった方を目の前にすることで、医師の心得や責任の重さについて改めて考えさせられます。「自分には無理かもしれない」と弱気になることもありますが、治療がうまくいって退院される方の笑顔を見ると、やはり医師という職業の素晴らしさを実感します。
今後もいろいろな悩みにぶつかると思いますが、患者さんの笑顔に励まされながら頑張っていこうと思います。
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ハンガリーの医療事情については第8回で詳しくお話しさせていただきます。
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- 吉田 いづみ(よしだ・いづみ)
- 1994年福岡県生まれ。生後10カ月で心室中隔欠損症の手術を受け、ものごころついた頃から医師を目指す。高校を卒業後、ハンガリー国立医学大学への留学を決意し、2013年6月に単身でハンガリーへ。現在、ハンガリー国立センメルワイス大学医学部に留学中。
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