【第10回】患者視点で見たハンガリー人医師の印象
吉田 いづみ さん(ハンガリー国立センメルワイス大学医学部)
皆さま、こんにちは。ハンガリーの首都ブダペストにあるセンメルワイス大学医学部に通う現役医学生、吉田いづみです。
少し間が空いてしまいましたが、引き続き現地ハンガリーより欧州の医療、ハンガリーの様子などをお届けしていきます。
さて、今回は私がハンガリーで病院にかかったときの経験に触れつつ、ハンガリーでの病院のかかり方と、患者目線で見たハンガリーの医師の印象についてお話しします。
ハンガリーには「公立病院」と「私立病院」がある
「【第8回】ハンガリーの医療事情って?」でもお話ししたように、ハンガリーには公立と私立の病院があります。想像がつくかと思いますが、公立病院は無料で受診できること、私立病院は待ち時間なく診療が受けられることがそれぞれのメリットです。
ただ、最近では公立病院の待ち時間の長さ、それに対する診療時間の短さ、そして医師の対応の悪さなどから、私立病院を利用する人も増えてきています。
Daily News Hungaryが実施した国民保険に関する調査によれば、国民の47%が「国民保険を取りやめて個人保険に切り替えてほしい」、32%が「今まで通り国民保険は納めるものの私立病院に通う」、21%が「国民保険のまま公立病院に通う」と回答したそうです。
とはいえ、実際には私立病院に通いつつも国民保険は納めなければいけないため、結局は第8回の記事でもご紹介したように、私立病院に行くのはハンガリーに駐在している外国人か一握りのお金持ち。国民の多くは、無料で診療が受けられる公立病院に通っているそうです。
ハンガリーでは公立病院の前に家庭医にかかる
公立病院は国民のほとんどが利用する医療機関ですが、緊急でない場合は、まず地区ごとに割り振られているGP(家庭医)のところへ行きます。家庭医にもよりますが、基本的には「電話予約をして行く」か「直接行って順番待ちをする」のどちらかです。
電話予約の場合は、空いていればその日や次の日に、長くても一週間以内には診てもらえることが多いです。一方、直接行って待つ場合は、運が良ければ予約と予約の間に診てもらえますが、ほとんどの場合は朝から待ってもその日は診てもらえず、診療時間が過ぎてしまって追い出される、ということが多いようです。
ハンガリーに来て驚いたことの一つが、営業時間外は絶対に仕事をしないこと。今お話しした家庭医もそうですが、美容室やスーパーですら、閉店時間の30分前には入り口を閉めてしまうところも多いです。
家庭医の診療所の玄関。
詳しい検査が必要なときは2、3カ月待たされることがある
家庭医は、問診や触診、血圧や体温の測定といった基本的な診察を行い、「薬を処方して様子を見る」「詳しい検査に進める」「専門医に診せる」などの割り振りを行います。
血液検査や尿検査といった簡単な検査は、電話予約をすれば大学病院の一角にある「検査室(家庭医からの患者のみを対象とするところ)」で受けられます。一週間以内に郵送かメールで送られてくる検査結果を持って、再度家庭医の診療を受ける、という流れです。
専門医に診てもらわなければならない場合や、CTやMRIなどの詳しい検査が必要な場合には、家庭医から専門医の予約を取ってもらいます。もちろん緊急の場合は順番が考慮されますが、2、3カ月待つことも少なくありません。
実際、私も待たされそうになった経験があります。3年前、腹痛がひどくて血便が出ていたときに大腸内視鏡検査を受けるのに2カ月も待たなければいけないと言われ、痛みを抱えながら日本に一時帰国したことをよく覚えています。
診察待ちする患者さんたち。
患者もイライラ、医師もイライラ
専門医がいる病院(大学病院など)では、患者さんが長時間待たされた上に、あまり時間をとって診てもらえないことがあります。診療後に文句を言いながら、不満そうに診察室を出て行く患者さんも多いです。
また、現場が忙しいからかもしれませんが、ハンガリーの専門医は基本的にイライラしている人が多く、あまり患者に優しくありません。それに対して家庭医は、患者一人ひとりを診る時間をきちんと確保し、しっかりと話を聞いてくれるイメージがあります。
※ハンガリーでの医師の働き方や医師養成制度については、「【第8回】ハンガリーの医療事情って?」や「【第9回】ハンガリー人医師に聞いた! お医者さんの働き方」をお読みください。
専門医にかかるためには必ず家庭医を経由するため、患者さんの薬の飲みあわせから症状の関連まで、すべて家庭医が把握していなければいけません。そのため家庭医の力量はとても重視されており、良い家庭医がいる地区を引っ越し先の候補に入れる人もいると聞きます。
ただ、日本でもハンガリーでも「医学生です」と言うと、先生方が優しくいろいろ教えてくださるように感じます。
*
今回はハンガリーの病院のかかり方、患者視点で感じた医師の印象についてお話しさせていただきました。そんな私もハンガリーでの病院実習にだいぶ慣れ、9月から5年生に進級しました。そろそろ卒業後の進路について考えるようになり、この夏ドイツでの病院実習を行いました。
そこで次回は、ドイツでの研修を行うことになったきっかけや、ドイツの病院の様子などについてお話しさせていただこうと思います。
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- 吉田 いづみ(よしだ・いづみ)
- 1994年福岡県生まれ。生後10カ月で心室中隔欠損症の手術を受け、ものごころついた頃から医師を目指す。高校を卒業後、ハンガリー国立医学大学への留学を決意し、2013年6月に単身でハンガリーへ。現在、ハンガリー国立センメルワイス大学医学部に留学中。
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