ハンガリーの医大生活~海の向こうの医学生より~

【第9回】ハンガリー人医師に聞いた! お医者さんの働き方

吉田 いづみ さん(ハンガリー国立センメルワイス大学医学部)

皆さま、こんにちは。ハンガリーの首都ブダペストにあるセンメルワイス大学医学部に通う現役医学生、吉田いづみです。
このコラムではハンガリーでの医学生生活や実習の様子、現地で働くドクターやコメディカルの紹介など、私が海の向こうで見て、感じて、体験したことをお届けします。

前回はハンガリーの医療制度や病院事情、医師の一般的な働き方やハンガリーの医師が「過労」で「低収入」なことなどをご紹介させていただきました。今回は、具体的にどのような働き方をしているのか、大学でお世話になっている3名の先生に直接インタビューしてみました。

 

ハンガリーで唯一TEMができるザランド先生

ザランド先生は、ハンガリーでたった一人のTEM(経肛門的内視鏡下マイクロサージェリー)を専門とする医師です。医学部生だったとき、「ガンを唯一手術で治せるのが消化器外科医」という理由で外科医を目指したそう。現在はハンガリー全国から患者さんが来るそうです。

 

文中1

左から2番目がザランド先生。日本の大腸がん外科医の先生方と。

 

そんなザランド先生は今年で医師20年目。消化器外科の専門医を取得した後、他の病院で経験を積まれ、7年前に大学に戻ってきたそうです。現在の勤務時間は週に50時間程度、それに加えて当直を含めた24時間勤務が月に1,2回。お給料はだいたい月に30万円程度(病院からのお給料)だそうです。患者さんからのチップを合わせると1.5-2倍になると思いますが、尋ねてみたら笑ってごまかされてしまいました。

TEMの手術は年間に70件程度こなし、今のお仕事にはとても満足しているとのことでしたが、病院の資金不足から医師や医療機器が足りず、「患者のフォローアップが十分にできない」「データがあっても論文にできない」などといった課題も抱えているようです。今後の目標としては大学に残り、自分の代わりとなるような若手を育成することだそうです。

 

生理学に目覚めてそのまま大学に残ったダニエル先生

現在30歳過ぎのダニエル先生は大学2年生のときに受けた生理学がとても楽しく、成績も良かったため、当時の先生から「一緒に研究をやらないか」とお声がかかったそうです。その後、在学中はチューターと研究を平行し、卒業後はPhD学生として大学に残りました。現在は助教授として授業を受け持ち、週のほとんどを研究に費やしています。

 

文中2

大学6年生のローテンションを日本で行うため、来日したときのダニエル先生。金閣寺をバックに一枚。

 

ダニエル先生が大学に勤め始めた当時のハンガリーでは、基礎医学の分野で働く大学関係者は公務員扱いで安月給だったそうで、大学を離れようか悩んでいたそうです。ところが、2年前に公務員のストライキがあり、医学部に勤務する公務員のお給料が2倍になりました。そんなことから、ハンガリーに残ることを決めたそうです。

ハンガリーの医学部教員の主な仕事内容は、基本的なデスクワーク、ハンガリー人学生への教育、そして研究ですが、それらは基本給でカバーされています。そして外国語(英語またはドイツ語)の授業は別でお給料が発生します。ダニエル先生は英語の授業やプライベートレンッスンも受け持っているため、同期の先生よりも少しお給料が高いそう。ただそれでも、だいたい月30-40万円程度だそうです。

 

二児の母であり解剖学者のビクトリア先生

私が1、2年生のときに解剖学を受け持ってくださったビクトリア先生は、神経内科医の資格を持ち、現在40代半ばで10歳前後のお子さんが2人いるお母さんでもあります。普段はお母さん業をこなしながら、神経系の研究、そして医学部と歯学部の学生に向けた解剖学の授業を行っています。

 

文中3

右から2番目がビクトリア先生。「センメルワイス・カーニバル」にて。

 

ビクトリア先生曰く、ハンガリーには「残業や休日出勤することは考えず、与えられた業務時間で仕事をこなす」といった考えがあるようで、彼女もだいたい定時(17-18時)には帰り、育児に時間を充てているそうです。そのため、仕事と子育ての両立は難しくないと言います。たしかに、ハンガリーの医学部は現在女子学生が6-7割を占めているので、ハンガリーの医療界は女性への理解が大きいように感じます。

ただ、アメリカの大学院で学んだこともあるビクトリア先生は、子どもの教育のことを考え、来年にはこちらの大学(センメルワイス大学)と提携のあるアメリカの大学に移ることを考えているそうです。

 

ハンガリーには「医師も人間」という認識がある

ハンガリーでも医師は過労と言われる職業ですが、日本と比べると患者や社会全体が「医師も人間」という認識を強く持っています。それに加え、医師間の引き継ぎ制度もしっかりしているので、どの医師も最低限の休みは取れるようです。
ハンガリーの医師のお話を伺い、日本もそんな風になっていければいいのにな、と思いました。

次回は医師を取り巻くコメディカルの方々をご紹介させていただこうと思います。ハンガリーでは医師が看護師と良好な関係を保つため、医学部1年生終了時に1ヶ月の看護研修が課せられています。その辺も交えてお話しさせていただこうと思います。

 

海外留学希望の先生応援!高額バイトでサクッと資金調達
現在掲載中の高額アルバイトを見てみる ≫

シリーズ ハンガリーの医大生活~海の向こうの医学生より~

【関連記事】
「ハンガリーの医大生活~海の向こうの医学生より~|【第8回】ハンガリーの医療事情って?」
「Dr.石原藤樹の『映画に医見!』|【第2回】午後8時の訪問者~時間外にクリニックのベルが鳴る。あなたならどうする? 」
「私の決断『18歳で医学部留学』は正解でした。」吉田いづみさん(ハンガリー国立センメルワイス大学医学部)

 

吉田 いづみ(よしだ・いづみ)
1994年福岡県生まれ。生後10カ月で心室中隔欠損症の手術を受け、ものごころついた頃から医師を目指す。高校を卒業後、ハンガリー国立医学大学への留学を決意し、2013年6月に単身でハンガリーへ。現在、ハンガリー国立センメルワイス大学医学部に留学中。
ページの先頭へ